館の騒動
「ニック、姉上はもう客室に突入していると、思うけどいいの?」
と、笑顔が怖いニックに言う。
「えっ!」
「ニック何事ですか!」
と、執務室からアートムが顔に出す。
「メアリー様がアイの部屋に突入したとケビン様が仰るのです」
と、ニックが言えば
「それは本当か?」
と、異母兄さんとルカが執務室から出てきた。
ルカが挨拶もせずに、駆け出していく。異母兄さんも次いでルカの後を追うがニックが、
「お二人も次いで客室に行ってください!」
と、怒鳴られた。
客室に追い付いたら、異母兄さんとルカが客室の入口で立ち尽くしている。
「姉上、ちゃんとお話を聞いてからに致しましょう」
と、ダニー兄さんが異母兄さんの後ろから言って
「姉上、手加減をした方が良いですよ」
と、暴れていないといいなと思いながら声をかけた。
「………………」
部屋を覗いたら、姉上が、
「何をしたのよ!ほどきなさいよ」
と、喚いている。
姉上が両腕を後ろ手に拘束されて、床に膝をついて少し息が上がっている女性に向かって喚いているのだ。
その女性が、入口の側で立ち尽くしている異母兄さん達に向かって、
「あの、どうしましょうか? 向かって来られたので反撃はしていませんが、出された手を動けないように致しました」
と、言ってため息をつく。廊下の方からニックの声で、
「メアリー様が、アイの部屋に突入したらしいです」
と、誰かに報告している。見えてきたのはシアン国王陛下と、お祖父様だ、その後にアートムもいる。
「アイ、大丈夫なのか?」
と、シアン国王陛下が言えば、その隣からお祖父様も、
「アイ、怪我はないか?」
と、聞いてくる。そのお二人を見た姉上は、
「何故?、私を心配して下さらないの。どう見ても私が被害を被っておりますのに!」
と、信じられないと言う顔をして言う。
「あら! シアン国王陛下、カール様、おはようございます」
と、女性が挨拶をすれば、
「あぁ、おはよう」
「おはよう、アイ」
と、シアン国王陛下とお祖父様が挨拶を返す。女性は入口の方を見て、
「ミカエル様、アートムさんもおはようございます」
と、挨拶をしてから、周りに聞く。
「あの、私はどうすれば良いですか?」
と、姉上を指差す。
「姉上に、何をした!」
「姉上、大丈夫ですか?」
と、入口から駆け寄って行くが、お祖父様が止める。
「ダニー、ケビン、それ以上アイに近付くな」
「お祖父様?」
「どうしてですか?」
と、何故? 近付くのがいけないのか分からないが、その場に止まる。
「怪我はないようだな」
と、シアン国王陛下は、仰り。
「見事なものだな、どうなっておるのだ?」
と、お祖父様とお二人で、ベソをかいている姉上の側に行き、まじまじと見ている。
「すみません。咄嗟に手を拘束してしまいました」
と、女性が謝る。
「手を拘束と言うことは、メアリーが先に手を出したと、言うことだな」
と、お祖父様は、姉上を見て言う。
「アイ、この後ろ手にした、布はどうなっておるのだ?」
と、シアン国王陛下が女性に聞けば、いつの間にか側に、異母兄さん、アートム、ルカが同じようにまじまじと姉上を覗き込む。
「えっ? それですか? アートムさんそのお嬢さんの両腕の間にある、垂らした布を引っ張って下さい」
と、女性が言えば、アートムが姉上の後ろで、垂れた布を引っ張る。
スルリと布がほどけて、姉上の両腕は自由になった。
「おぉ! 簡単に布がほどけたぞ!」
と、お祖父様が驚いて仰るが、周りも同じ反応を示した。
「あのー、両腕は圧迫してないので、痕は残らないと思いますが、両ひざ裏を突いたので、膝は強打されていると思います。後で手当てをお願いできますか?」
と、僕の側に居るニックを見て言う。
「わかりました。手配しときましょう」
と、ニックが返事をする。
「でだな、これは、どう言うことなのか説明出来るか?」
と、お祖父様が問うと、異母兄さんが、
「メアリー、ダニー、ケビン」
と、三人の名前を呼ぶ。ダニー兄さんが、
「姉上を止めたのですが、止めきれなかったのです」
と、答えた。
「王都から、三人が帰領すると連絡は有ったが、本日の夕刻の予定であったはずだ。何故に馬車を急がせた、危ないであろうが。急ぎの用なら今すぐ申してみよ」
と、お祖父様が問うてきた。
ダニー兄さんと顔を見合せて、姉上を見る。そして、
「すみません。お祖父様、姉上に付いてきただけで、ダニー兄さんも僕も急ぎではないのです」
と、正直に答えれば、
「ダニー、ケビン!」
と、姉上が喚く。
「メアリー、そなた弟二人を連れてどういう用件だ?」
と、お祖父様が静に聞く。
「では話を聞こうか?」
と、異母兄さんが促す。
「あのーミカエル様、この時間に馬車を飛ばして帰領されたのであれば、朝食を召しがっていらっしゃるのですか?」
と、女性が聞いてきた。
異母兄さんがこちらに顔を向けたので顔を横にふる。ニックが、
「では朝食を召し上がって頂いて、お部屋を整えてからお話をすればよろしいのではないですか?
どのみち予定は全部ひっくり返しされたのです。使用人達にも指示しなくてはなりませんし」
と、怖い笑顔で言う。
「アイ、驚いただろう体調は大丈夫なのか?」
と、シアン国王陛下が聞けば、改めてシアン国王陛下の存在に気付いた姉上と僕達が、慌てて礼を取る。
「おはようございます。シアン国王陛下。ご挨拶が後になり申し訳ございません。お見苦しいところをおみせいたしました」
と、姉上が三人を代表して謝罪する。僕達も姉上に習い沿って礼を取る。
「あぁ おはよう三人とも。先にミカエルの指示に従え。そなたら異母兄のミカエルを蔑ろにしていること分かっておるのか?」
と、異母兄さんを見て言う。
「アイ、悪かったな、これからの予定を狂わせてしまったようだ」
と、お祖父様も仰る。
「すまないな。アイ、昨日に引き続き話を聞けそうにない。後の事は知らせるから」
と、異母兄さんが言えば、
「それより、体は大丈夫なんですか?」
と、女性が異母兄さんに聞く、
「それもすまなかったな。昼食後から大変だったよ、全身軋むんだ。ニックに薬を頼んでも「ございません」って言われて躱されるし。
ほら、まだ顔が強ばるよ。もう、笑わせないでおくれよ」
と、異母兄さんが項垂れる。それを見て女性が、
「シアン国王陛下、カール様、ミカエル様、この通り今のところ私は、大丈夫です」
と、笑顔で答える。
「アイ、この孫達の話を聞かねばならぬ。その後体調が良ければこやつらを紹介するが、今はせぬぞ」
と、お祖父様が言って、僕達を部屋から追い出す。
ニックが指示した通りに、朝食の用意がされ各々の部屋は掃除と物が用意されているが、侍従と侍女と荷物は夕方しか館に着かない。
朝食後に、部屋にある荷物の中から着替えて、お祖父様、異母兄さんが待つ執務室に向かう。
執務室には、シアン国王陛下とお祖父様が並んでソファーに腰をかけていた。アートムがシアン陛下の後ろに付き、異母兄さんがサイドソファーに座っている。
姉上を筆頭に三人で入室すれば、誰からも座る指示もでないまま、お祖父様が聞いてきた。
「誰が、ダーニーズウッド家の事情を他所に漏らしたのだ?」
と、聞かれた。
……お祖父様は、何を言っているんだろう?……
「お祖父様、それはどんな事情でしょうか?」
と、ダニー兄さんが聞いた。
「ダニーどんな事情であれ、領内でのことが外に漏れることが可笑しいのだ」
と、お祖父様が言えば、
「お祖父様、王都の別館に居りますもの達は、他所に情報を漏らしたりいたしませんわ」
と、姉上が答えた。
「では、そなたらは心当たりがないと言うのだな」
と、お祖父様が確認してくる。




