ダニーとケビン
「ケビン何故?、セリーヌ嬢がいる時にあんなことを言ったんだ!」
と、ダニーは弟を叱る。
「何故って? 僕は聞いたことを伝えただけだよ。あの客室を使うって事がどんな意味が有るか、ダニー兄さんも分かると思うけど」
と、不思議そうに答える。
「異母兄さんの手紙は、ケビンは読んでないんだろう?」
と、確認してくる。
「その内、詳細はいずれ分かるよ。父上が追加の情報を送る指示をルクールにしてたし、領土にはお祖父様もいらっしゃるのに、可笑しいことがあるわけないでしょ」
と、ケビンが言うと、
「それにしてもセリーヌ嬢のお茶会の後でも良かっただろ? ケビンは態とじゃないか?」
と、ダニーが聞く。
「勿論、態とだよ。でも、おばあ様を心配したことや、父上が手紙を読み直していたのは、本当の事だし僕は、嘘は言ってない」
と、ケビンは言う。
「セリーヌ嬢は、異母兄さんが好きなことはケビンだって知ってるじゃないか? 姉上だって異母兄さんのお相手に、セリーヌ嬢がいいと思って協力しているのに」
と、ダニーが言うと、
「ダニー兄さんはいいの? 義姉さんになっても。好きなんでしょ?
僕は、どっちでも義姉さんになるからいいけど」
と、ケビンがダニーを見ながら聞く、
「……それは、セリーヌ嬢が異母兄さんが好きなんだから、仕方ないじゃないか」
と、ケビンに答える。
「本当にセリーヌ嬢は、異母兄さんが好きなの?」
「えっ?」
「異母兄さんに相手にされなかったから、意地になっていると僕は、思ってた」
と、ケビンが言い出した。
「何故そう思うんだ。ケビンは社交界には、今年からだろう?」
と、ダニーは疑問を投げる。
「そうだよ、姉上の話とダニー兄さんの話が主だけど。アカデミーでも噂は聞けるよ。いい噂より悪い噂のほうがみんな面白おかしく教えてくれるもんだよ」
と、アカデミーの噂が元だと言う。
「ケビンが言っているのは、異母兄さんのことか? それともセリーヌ嬢のことか?」
と、心当たりがないのか聞いてくる。
「ダニー兄さんはどちらかと言うと疎いよね。姉上も素直だし正義感強いしさ。
アカデミーには、兄妹弟が10歳から、14歳までが一緒でしょう。上の姉兄って下からどんな風に見られているかと言うのを知らないよね。
選択科の方は僕はこれからだけど、下の子になると噂の話が結構酷いんだ。僕が聞いた異母兄さんの話なんか、今も独身なのは義母を狙っているからだって聞かされたよ」
「はぁー? バカも休み休み言え!」
と、ダニーが本気で怒る。
「初めて聞いたときは僕もそう言ったよ。でも、社交界の若いお兄さん達には、そんな噂になっているんだって」
「それはモテないヤツが勝手に言っているだけだ」
と、ダニーも聞いたことがあるが、
「あり得ないけど、母上が父上に激愛してるのを僕達は見てるけど、それに異母兄さんが協力して父上を落としたと、見てきた人から聞いてるからね」
と、ケビンも認める。
「それがセリーヌ嬢にも悪い噂が有ると言うのか?」
と、ダニーが聞いてくる。
「無いよ、悪い噂はね。でも、姉上を利用しているとか妹を手中に収めるとやり易いから仲良くしてるとかは、聞いたよ」
と、ケビンが言う。
「セリーヌ嬢が姉上を?」
「その点は、僕でもそう認識してるけど、姉上は気づいてないでしょ? ただ頑張っているセリーヌ嬢を助けたい位しか。後は、異母兄さんが悪く言われないように早く身を固めて欲しいとか?」
と、ケビンが言う。
「それでなくても、ダーニーズウッド家はやっかみや妬みを買いやすいのに、他の貴族から良くは思われてないよね」
と、ケビンが兄ダニーに聞いてくる。
「シアン国王陛下のことか?」
と、ダニーが確認してくる。
「そう、それだよ!」
と、ケビンは言う。
「それは、お祖父様とシアン陛下が従兄弟同士で仲が良いからで、シアン陛下は他の従兄妹の家も重用されてるぞ。ダニエル様なんかはそうだし」
と、ダニーが言うが、
「それを僕が言うのもなんだけど、若い世代が知らないんだよ。アカデミーでも教えないし、ダニー兄さんは教育科だから歴史も勉強するでしょ。選択科によっては知らないんだよな。特に騎士科は」
と、自分が選択する科に文句を言っている。
「そういうことか。僕が居る教育科は歴史も国の成り立ちも勉強するから、シアン陛下がされてきた大いなる改革や配慮を理解するが、専門外の科は知らないから勝手な噂が出るのか」
と、納得するダニーだが、
「その無知な噂のほうが広まるんだよ。面白おかしくしてさ」
と、ケビンは言う。
「大人の貴族は知っているはずだよな?」
と、ダニーは疑問を口にする。
「僕もそれが分からなくて、子供の間違った認識を何故? 正してくれないのか不思議でさ」
と、ケビンが言う。前から不服に思って口に出す。
「ケビン、今日は素直だな。何か有ったのか?」
と、ダニーが聞いてきた。
「ダニー兄さんは、セリーヌ嬢の悪い噂は気になるのに、姉上の噂は気にならないの?」
と、ケビンが聞いてきた。
「姉上がそんなに悪く言われているのか?」
と、ダニーが心配に聞いてきた。
「そら、母上にそっくりな容姿をして、感情は直ぐに顔に出すし、父上も母上も唯一の女の子だから、我が儘を許しちゃうし、異母兄さんも可愛がるしで、やりたい放題なとこ有るよね」
と、兄に聞く。
「確かに、それは違うと言えないな。でも、それは家族や親しくしてる者だけだと思うぞ。アカデミーでも淑女科でも、私達に見せるおおらかさは、控えているな流石に」
と、ダニーが答える。
「まぁ。地は上手く隠しているけど、片鱗はたまに出るけどね」
と、ケビンも言う。
「異母兄さんは、ほっといても大丈夫な気がする。姉上こそ人の事より自分のことを考えて欲しいよ」
と、ダニーが言えば
「そうだね」
と、ケビンも同意する。
姉上が大好きな弟ふたりだが、姉の暴走を止めることは出来なかった。
異母兄ミカエルの手紙が届いて、後から詳細が記された手紙を見ることも内容を知ることも出来ず、父からは次期領主であるミカエルに任せていると言われ、メアリーのイライラがつのる。
姉の中では、異母兄ミカエルを誑かして居すわっている女性が館にいると思っているのだ。
弟二人は、祖父のカールがいて館には、執事のニックも居るなかで、異母兄が間違ったことをするとは思えなかった。ふたりで協力してアカデミーの用事を引き延ばしながら、姉が落ち着くのを待つが、落ち着くどころか、直ぐにでも領地に戻れる手配をしている。
弟ふたりが覚悟を決めて、姉に付き添うことを告げ準備をすれば、まさか侍従と侍女を置き去りにして、三人で馬車を飛ばし領地境の第五団隊の問答に、急ぎだからと無理やり通りすぎ、途中で第五団隊の早馬が追い抜いた時には嫌な予感しか最早せず、後の叱責は当たり前だと覚悟をした。
館に着くなり、ダニーとケビンが止めるのを聞かず、メアリーは二階の客室に行ってしまった。
玄関には慌てて奥から出てきたニックが、
「ダニー様、ケビン様お帰りなさいませ」
と、普段には見せない笑顔で言ってくる。
「今帰ったよ。ニック」
と、ダニー兄さんが言えば、
「先程、領地境を警護している第五団隊の隊員が館で大事が有ったのかと、駆けつけてくれましたよ」
と、強制的に執務室に連れていこうとするから、
「ニック、姉上はもう客室に突入していると、思うけどいいの?」
と、ケビンが言う。
「えっ!」
「ニック何事ですか!」
と、執務室からアートムが顔に出す。
「メアリー様がアイの部屋に突入したとケビン様が仰るのです」
と、ニックが言えば
「それは本当か?」
と、異母兄さんとルカが執務室から出てきた。
ルカが挨拶もせずに、駆け出していく。異母兄さんも次いでルカの後を追うがニックが、
「お二人も次いで客室に行ってください!」
と、怒鳴られた。




