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虚弱体質巫女ですが 異世界を生き抜いてみせます  作者: 緖篠 みよ


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暴走の始まり

春先の王都は人と馬車の出入りが激しい。雪が溶けた街道を王宮や貴族街に向かう馬の蹄と、車軸が軋む音に車輪が石畳を削る音が響く。


いつもより早い時期なのは、今年の定例会議が王太子ダニエル様主催であることが要因である。

カーディナル王国を40年以上纏めてきた現シアン国王陛下と四大側近大公爵閣下、公爵閣下、侯爵閣下と陛下を支える側近貴族。


別に国土を東西南北と大きく4つに分けた、侯爵閣下と辺境伯卿とが集結し一大事社交界の開催だ。


定例会議となる議題は、例年と変わりはないが王太子ダニエル様の采配に期間を長く持った故の、早めの集結依頼があったのだ。


貴族のご子息ご令嬢のアカデミーも、卒業試験を残すのみと成っているが、選択制の高学年部ではまだ学習期間が残っている。

ダーニーズウッド家の次男三男も選択試験を受け結果待ちである。


カーディナル王国のアカデミーは、10歳から入学して14歳までの四年間を基礎学習としている。ここで卒業となって貴族の成人として社交界に出ていけるのだ。

14歳からは選択制で進級課程が違うが、同じ敷地内に経済科、法律科、騎士科、淑女科、教育科、医師科等に何種類科に分かれて習得する教室がある。


それぞれ習得年数と就職期間が決められているが、習得年数に関しては、年二回ある卒業試験を合格するまでとして飛び級も落第もある。

この選択制の学びは、貴族に限らず優秀な国民も受講出来、王都に住まいのない子息令嬢と、生活出来る学生寮も設備されている。



先日王都に父ロビンと母カリーナが、別邸に到着した。半年ぶりの両親との会合で嬉しいのだが、お異母兄様が父ロビンの代わりに領主代行で帰領したのだ。いつもなら祖父カールが領地内を統治してくれるのだが、祖母メリアーナの体調不良と、シアン陛下の来領に伴い、父と母が到着する前に別邸を発ったのだ。


王都ターニーズウッド家別邸では、メアリーが頭を抱えていた。

アカデミーで淑女科で知り合って仲良くしていただいているオリゾーラル公爵令嬢セリーヌ様と、明日は本邸でお茶会の予定なのだが、セリーヌ嬢はお異母兄様ミカエルに会いたくて来邸されるのだ。


セリーヌ嬢が社交界に登城された舞踏会で、お異母兄様に恋をしたと打ち明けられたのは、同じ淑女科で仲良くなってからだが。わたしに打ち明けられる前に父親のアニール閣下から父ロビンに婚約の打診があったそうだ。

お異母兄様は、過去にも多くの婚姻の打診を受け流し、恋人と呼ばれる方を作らなかった。


王都で開催される舞踏会だけでなく、地方辺境の有力貴族からの開催披露会、晩餐会にも義務参加のみで、令嬢達の熱い視線を受け流す姿勢に、他の子息から嫌みを言われていると後で聞いたのだ。


お異母兄様は、私達異母妹弟を可愛がってくれているし、ダーニーズウッド家の事業を領地外で担っている優秀な次期領主で自慢のお異母兄様。


しかし、セリーヌ嬢もよく挫けることなく頑張っている姿勢に私も絆され協力体制で来ているが、お異母兄様の脈がないことに困っている。

同じ女性としても魅力的なセリーヌ嬢の何が足らないのだろう?

目を引くきれいな緑の瞳に、悪戯っ子みたいに微笑む薄い唇。腰まである長い銀髪が際立て光っている。性格も明るく前向きな態度は好感がもてるのだが、お異母兄様でなくとも、王太子ダニエル様の婚約者候補とも言われているのに、勿体ないと思う。


明日のお茶会の準備を侍女長メグに頼めば、事情を知っている他の侍女達と困り顔で、


「メアリー様、セリーヌお嬢様がおいでになられても、ミカエル様は当分お留守ですよ。メアリー様がお茶会を秘密にされていたのを、知らず侍従がミカエル様に報告してしまったのです。メアリー様のお気持ちは分からなくはないのですが、私共ダーニーズウッド家の使用人は、ミカエル様のお気持ちの方に添いたいと思っているのですよ」

と、侍女長メグが言う。


「私もお異母兄様に幸せになって頂きたいと思っているわ。けしてお異母兄様の気持ちを無視する気はないのよ。でもあんなに健気にお異母兄様を思ってくださっている、セリーヌ様なら気持ちが動くこともあるでしょう?」

と、メアリーが言う。


「仕方がないから、ダニーやケビンを巻き込んで作戦会議に今回はなるでしょう。メグ用意をお願いね」

と、侍女長に言ってメアリーは、明日の段取りを考える。


「お招きありがとう存じます、メアリー様」

と、お約束の時間にセリーヌ様が、来邸された。


「お待ちしておりました、セリーヌ様」

と、メアリーと、ダニー、ケビンも揃ってお迎えしたが、セリーヌ様は、キョロキョロと周りを見回す。


「あの、ミカエル様はおいでにならないのですか?」

と、少しガッカリの気持ちが出た顔をされた。


「申し訳ございません。何時もなら王都に居りますのに、今回は定例会議が早く開催されて、父ロビンの代わりに領土に戻っております。私も正直計画外な事で困っているのですが、今日は作戦会議にいたしませんか?」

と、メアリーがセリーヌ様に提案する。


「作戦会議ですか?」

と、セリーヌ様も返事をすれば、侍女長のメグに促され談話室に行くことになった。


談話室には、お茶会の用意がされており丸テーブルを囲って作戦会議のはじまりだ。

弟と二人は姉メアリーに頼まれて、今まで異母兄に懸相していたと思われるご令嬢をどのように受け流してきたと実例を上げながら、検討することにした。


その結果セリーヌ様を今までのご令嬢よりは、丁寧に扱っていること、邪険に接してないこと、舞踏会のダンスを一回は踊られること等、上げていくが、


「ミカエル様が次期領主であるなら、同然な行動なのでは?」

と、セリーヌ様が仰る。


「それは同然なのですが、異母兄は当然じゃなかったのです」

と、ダニーが言う。


「異母弟の私が言うのもなんですが、異母兄は最低限の礼しかとりません。期待させるのを良しとしないのです」

と、異母兄の行動を告る。


「僕たちにはとても優しい異母兄ですよ。姉上の我が儘でも黙って付き合ってくれますし」

と、ケビンも言う。


「メアリー様、ミカエル様のお好みの色は何色ですか?」

と、セリーヌ様が聞いてくる。


「そうですね。執事のルクールなら知っているかも知れないわね。ダニーかケビン聞いていてくれない?」

と、弟二人に聞けば、ケビンが


「僕が聞いてくるよ。追加のお菓子も頼んでくるね」

と、ケビンが談話室から出ていく。


「ダニーは教育科でしたね。卒業試験はどうでしたか?」

と、セリーヌ嬢がダニーに聞いてくる。


「私は、伯父と同じように王宮の研究所に行きたいのです」

と、ダニーは父ロビンの兄が行っている研究所に興味が有ることを打ち明ける。


「あら、ダートル伯父様と同じ所がいいの?

てっきり文官の職に行くと思っていたわ」

と、姉メアリーが驚いている。


「うん、文官の仕事も嫌じゃないよ。でもこの前ダートル伯父に相談したら研究所に案内されて、とても楽しかった。あのコツコツする仕事も好きなんだ」

と、ダニーが言う。


「ケビンは、騎士科でしょう?」

と、姉メアリーがダニーに聞けば、丁度ケビンが戻って来た。


「ケビンは、騎士科に進むのでしょう?」

と、帰ってきた弟に声を掛けるが、返事がない?


「ケビン?どうした?」

と、ダニーも声を掛ける。


「姉上、ミカエルお異母兄様は、結婚するかもするかもしれませんよ」

と、ケビンが言い出した。


「………………」「………………」 「………………」



「ど、どちら? どちらの方とでしょう?」

と、セリーヌ嬢がケビンに聞いてきた。


「ケビン! 何を言っているの?」

と、メアリーがケビンに問いかける。


「今、お異母兄様から手紙が父宛に届いたんだけど、執事のルクールが慌てて父上に持っていくのが見えたんだ。僕、おばあ様に何か有ったのかと思って聞きに言ったら、女性を領主邸の二階の客室に住まわす許可を出したと」

と、ケビンが言えば、


「あの客室部屋に女性を住まわす?」

と、ダニーも驚いて聞き返す。


「ケビン! 確かなことですの?」

と、メアリーが聞くと、


「父上が、驚いて手紙を読み直してました。詳細を領主邸のニックに送る様に指示してましたよ」

と、ケビンが言う。


「…………………………」



「あの、今日のお茶会はここまでといたしましょう」

と、セリーヌ様が立ち上がって言うと、そのまま失意のまま退出されました。


「ケビン! お父様は?」

と、弟に聞けば、


「直ぐに出られると言っていたよ。ルクールに聞けばいいじゃないか?」

と、ケビンが答える。


「確かめに帰るわよ!」

と、メアリーが言い出した。


「僕まだアカデミー卒業試験が残ってるよ」

と、ケビンが言えば、


「姉上、私も選択進級手続きが残ってるよ」

と、ダニーも訴える。


「それはいつ終わるの?」

と、姉メアリーが2人の弟に聞く。

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