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虚弱体質巫女ですが 異世界を生き抜いてみせます  作者: 緖篠 みよ


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同じ立場

本堂の奥に向かって行く要は、最近はここまで入ってくることがなかったと思い当たる。


藍が幼い頃は一緒にオレも瀧野家に来たものだ。


現在の辰巳家は、父 剛と叔父夫婦と従兄妹藍の五人の住まいとなっている。父はこの家の家主であるが仕事上都内の官舎で生活することが多い。


叔父夫婦は、叔父も叔母も結婚するまでは、各々独身用の官舎住まいで、結婚を機に世帯用に引っ越した、別世帯だった。

叔母の朱里が妊娠産休に入るまで何も問題もなく、どちらかとも教えてもらえなかったオレの従兄妹の誕生を心待にしていた。


オレの両親は、オレが生まれてすぐに離婚したので母親のことは殆ど知らないし、父が忙しくても愛情は感じることが出来た、可愛がってくれる叔父の存在も大きかった。


叔父夫婦の娘の藍が虚弱病弱の為主治医である香山家に近く、叔母の朱里の実家も差程離れていない辰巳家で暮らすことになって本当に嬉しかった。


叔母の実家瀧野家には、藍が体調が良いときに連れて行き祖母の千種さん、叔母のお姉さん夫婦と藍の従兄妹 浅葱とも交流していたが、始めは良いのだが時間が過ぎると藍は、いつも側にいるオレを探すのだ。

’にーにー’と、泣く藍が体調を崩して香山医院に行くことになる。

可哀想で心配なはずなのに、オレは本当に嬉しかった。オレの従兄妹。


瀧野家にとっては、娘、実妹の嫁ぎ先で親戚筋ではあるが、個人でいえば赤の他人だ。藍とは血が繋がっているが瀧野家とオレは血の繋がりがない。

それでもオレが頻繁に瀧野家に行くのは、藍の心の安定の為に付添いで行くしかない。


瀧野家にとっても可愛い孫、姪なのだ。


藍の従兄妹浅葱は、瀧野家にとっても珍しい男の子であるが、母親の翠さんが妊娠中は大変だったにも関わらず健康体で、祖母の千種さん、母親の翠さんが鍛えがいのある厳しくも愛情をかけた接しかたをしている。


藍の伯母さん翠さんと旦那さんの修次さんが姪を猫可愛がるのは分かるが、何故かそこに修次さんのお兄さんまで加わって藍を愛でる。


そんな藍が’にーにー’とオレから離れないことに面白くないのは、同じ立場の浅葱だ。


浅葱と藍が並べは、実の兄妹と言える容姿になる。瀧野家のストレートな黒髪で浅葱と藍だけにある朱色の髪に、外見はそのまま瀧野家の浅葱だが、藍は黒髪が軽く波打つ辰巳家の癖毛である。顔立ちは叔父の誠寄りだと思うし、オレと並んでも兄妹に見えるが朱色の髪が目を引いて浅葱程ではないのが現状だ。


それでもオレの優位性に陰りはないが、ある日衝撃的なことが分かった。オレ意外に藍が’にーにー’と懐いているヤツがいることに。


香山医院の樹だ。


オレが’にーにー’と呼ばれることにあまり深く考えなかった。四五才児がそこまで頭が回るわけもなく、辰巳家でもオレは’かなめ’と父、叔父、叔母に家政婦達は’坊っちゃん’って呼ばれているのに、藍は’にーにー’と、誰に教えてもらったんだ?


香山医院で藍は生まれた。叔母の朱里は母子ともに問題もなく自然分娩でいけるというのだ。お産自体は安産で叔母さんの経過も良かったが、生まれた藍は予定日通りに生まれて体重も平均的で問題無さそうに見えた。


直ぐに感染症にかかり、母乳も飲んでも少ししか飲めない、体力のない赤ちゃんだった。

元気な時間が短く、精密検査では免疫値が低く体力的に常に筋肉痛であることが分かった。


大きな声で泣くことが出来ず、小さくフェフェと泣くこんな赤ちゃんでも、少しずつ宗一先生と峯子先生が藍に手をかけて大きくなるよう手を貸してくれたのだ。


この頃、香山医院では、都内の大学病院で働いていた息子さん順一先生が医院を継ぐために、徐々に引き継ぎを病院と医院とを行き来していた。奥さんの加奈おばさん長男 樹、次男 湊は先に香山家で暮らし藍ともガラス越しに会っている。


樹は三歳離れた湊を、ちゃんと世話をするお兄さんをしていたが、湊が樹を呼ぶのが’にーにー’なのだ。


藍は、月の三分の一程度は医院でお世話になっていた。高熱で意識が無い時や、小児の点滴は凄く時間がかかる。

そんな時静かに側にいたのが、樹だ。藍の苦しんで寝込んでいる側にいた。様子を見にくる加奈おばさんと湊。香山医院でのオレの知らない藍の場所だ。


藍が湊の真似をして樹を’にーにー’と呼び出した。誰もそれを可笑しいとも言わないし、樹が受け入れて藍に返事をしている。

オレは二番手だったと朱里叔母さんと香山医院に藍を迎えに行った時に知ったのだ。


でも本当の藍の’にーにー’は、オレなのだから子供なりに共有しても良いと思っていたが、浅葱が拗ねた。三人とも一人っ子だ。同じ立場のオレと対抗意識があって当たり前で、一つ年上の浅葱の方が知恵を持つもの幼い時ほど差が出る。


オレの居ない時に藍には、’にーにー’は僕だよ、と言い聞かせていたらしい。狡いと思うが立場か反対ならオレもしてたと思うから強くは言えない。


戸惑う藍が浅葱とオレが一緒にいる時は、喋らなくなったのを見かねた千種おばあさんが、『どっちも藍の’にーにー’だよ。でも二人がいる時は、’あさぎにーにー’ ’かなめにーにー’と呼べばいいよ』と、慰めてくれたそうだ。

しかしながら小さい藍には難しく、’あーにーにー’ ’かーにーにー’に収まった。

オレ達が一文字づつで我慢しているのに、何故か’いっきにーにー’と樹はフルで呼んでいたのは解せない。


樹は同じ年で小学校も一緒だ。クラスは違うが藍を通して病気に縁遠いいオレが、頻繁に行く家の1つだ。藍が元気になって辰巳家に帰るときは、嬉しそうに見送っていたが、いつからだ、その場所を湊に譲ったのは?

藍が生まれてから関わってきた、浅葱、オレ、樹は、藍から’にーにー’と兄の立場できたが、浅葱とオレは兄以上にも以下にもなれないだろう。


樹は、どうするだろうか?


オレ的には樹が藍の側に居てくれるのを望むが、周りは湊だろうな。あの献身さは認めなくもないが、オレの知らないところで藍は、別の人間関係を築いていた。


それが当たり前であったとしても、何だろう? この喪失感は、さっき会った岡田君は初対面でもいい青年だし、藍を守ってくれる親近感が何故か? あった。




本堂の奥に着く前に思考の沼に嵌まったオレは、壁にもたれて泣きそうなった。項垂れて座り込んでいたら、


「何をしているだ、要」

と、浅葱に声を掛けられる。


「いや。おはよう 浅葱。今頃眠気が来たわ」

と、誤魔化すためにそう言った。


「そうか。…………それはオレの差し入れか?」

と、コンビニ袋を指差す。


「違うわ。オレの朝メシだ」

と、言ったが、


「要、朝から結構食うんだな。朝メシなら母さんが用意してると思うぞ」

と、タマゴサンドを袋から取り出す。


「オイオイ、オレが食うんだよ」

と、言えば、


「レタスサンドが無かったのか? 要はレタスサンドを食ってるイメージなんだが」

と、コンビニ袋の中を探る。


「たまには違うのも食ってるよ。アッ! 豆乳を取るな!」

と、浅葱が豆乳のパックにストローをプシュッと差す。


……もういいや、ここで食うか……


と、袋からは残りのサンドイッチを出す。ミックスサンドとツナサンドが出てきた。

適当にカゴに入れたから仕方ないが、嫌いではない。


藍が少しでもいいから外の食事は、野菜を意識して取ってねといつも言うから……いつも言うからさ……


エナジードリンクが効いていて対して空腹感はない。ツナサンドに手をかけて開けようとすると、目の前に豆乳が出される。


「口つけてないぞ、ほら」

と、浅葱に渡されてツナサンドにかぶりつく。


「後で帰ってからのこと報告するな」

と、言えば、


「何か分かったのか?」

と、タマゴサンドを食べながら聞いてきた。


「オレが藍をちゃんと見れてなかった情けない報告だよ」

と、ブラックコーヒーを浅葱に渡す。

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