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虚弱体質巫女ですが 異世界を生き抜いてみせます  作者: 緖篠 みよ


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ルッツの相談

アイの今日の予定が、メアリー様やダニー様、ケビン様の行動で、台無しになってしまった。

ニックなんかは明らかに怒っているし、あんなに顔に出して怒るニックなんて、久しぶりに見た気がする。


カール様も普段は孫には、甘い方だと思っていたが、何も落ち度もなく辱しめされたアイを見て何か思われたようだ。


シアン国王陛下も三人には、寛容な態度を取られていたのに、今日の態度はアイのことだけじゃないんだろうな。


意外だったのが、ミカエル様だ。異母兄妹弟だといえ、年の離れた三人を私から見ても可愛がられている。メアリー様に至っては唯一女兄妹だ。無理なこと我が儘のことも、本心ではしたくないことでも隠して付き合っておられる。

そのメアリー様より、アイを優先した?

もしかしたら、シアン陛下の身内かも知れないアイだが、昨日の話から可能性は低くなったはずなのに?


内心アイの髪色を見た時は、私でなくともシアン様の関係者かもしれないと、思ったはずだ。

シアン陛下が可愛がられていることも一因では有るが、ミカエル様には、無意識の中に打算が有ったはず。次期領主として当たり前なのかも知れないが。


もう一人意外なのは、父アートムだ。父はシアン陛下第一主義の所がある。勿論カール様、現領主ロビン様、ミカエル様にも忠実に仕えているが、シアン陛下がいらっしゃると差が分かる。

気のせいかと思ったことも有るが、だけどアイに対しては、なんだろう距離が近い?

父は誰に対しても一定の距離感が有ったと思うのだが、虚弱だからか? いつもより一歩近い気がする。




「ねぇ、ルカ。洗濯室と干場に行ってきてもいい?」

と、アイが言ってくる


「何を洗うんだい?」

と、聞いてみた。


「この生地を水通しをして、軽く干すの」

と、数枚の布を見せる。


「水通し?」


「そう、生地を切ったり縫う前に、水に浸けて糸の目を整えるの。

そうすれば、仕上がった時に依れや歪みが少なくなるから」

と、紫色の生地と、先ほどメアリー様を拘束した黄色の生地と他の生地を見せてくれる。


「分かった、案内するよ」

と、言ってみたが、


「私、知ってるわよ。カルマさんに教えてもらったし、前にも使わせてもらったよ」

と、アイが言ってくる。


「前は、カルマが側にいたんだろ」

と、聞けば、


「えぇそうね、説明をしてもらうのに側にいてもらったけど」

と、返事をしてくる。

当たり前だ。どこでも倒れるアイを一人にするわけがないのだから。納得させるのに良い内容がある。


「干場の近くは、ルッツの作業場がある。ルッツにも聞きたいことが有るから、次いでだ」

と、言ったがルッツの方から相談が有ると言われているのだ。


先に洗濯室で、盥に水を入れて生地を浸け、色の薄い物から、押し洗いをしてる。浸けて横に置いた生地を水を切らずに置くアイ。

水を切らないと乾くものも乾かないじゃないか。

置いてある生地を絞るつもりで持つと、慌てて止められる。


どうやらわざと水を切らずに置いといたらしい。


薄い色から順番にしていくと、色の濃い生地は、水に色が移った。水を変えて色が落ちがなくなるまでする。


私が籠を持ち、干場にくれば、言い訳通りにルッツの作業場に行かなくては。


「私も、ルッツに聞きたいこと有るから、後で行ってもいい?」

と、アイが言ってくる。

籠の中の生地を干すだけなら、直ぐに作業場に来るだろう。

アイがルッツの作業場に来るなら、ルッツの相談にも乗りやすい。了承して作業場に向かった。




「ルッツいるか?」

と、声をかける。


「やぁルカ、おはよう。朝から大変だったみたいだな」

と、ルッツが言ってくる。

ルッツは主に外仕事が多い。その代わり外の変化にいち早く気付き、報告してくれる頼もしい兄貴分だ。

昨日の商人達も、殺気がないと気付きにくい視線もルッツの方が先に気付いて、父に報告してくれた。


自分と違う足跡、動物の糞など、経験が物を謂うことが沢山有る。今回も視線と土に残った僅かな足跡で、侵入者を教えてくれのだ。


「メアリー様がアイに言い掛かりをつけて、みんな思わぬ事でな、ニックなんか今日の予定が全部狂ったって怖い笑顔を向けてて、凄かったよ」

と、さっき有ったことを報告する。


「ヘェー、ニックさんがね」

と、意外そうにルッツが言う。


「まぁ、朝から第五団隊の隊員が何事かと心配して駆け付けてくれたのはいいが、それがメアリー様の暴走なら、周りも巻き込まれて大変だったと思うよ」

と、言って本題に入る。


「そう言えば、ルッツから相談が有るって珍しいな」

と、言えば、


「それなんだが、一巡り後位に、クルナが出産予定なんだ」

と、ルッツが頭を掻きながら言う。


「そうだったな。順調そうで良かったな」

と、言えば、


「前は、早い段階で流れてしまったから、今回は出来るだけ側に居てやりたくて、ミカエル様にお願いしようかと思っているんだが」

と、ルッツが言う。


「それは、庭師の仕事を休みたいと言うこと?」

と、聞けば、


「当分手入れをしなくても、良いようにはするが、今回のようなことがあれば、どうしようか悩んでいるんだ。いまは、シアン陛下も逗留されているし、今回の偵察みたいなのもあったが、産婆からはいつ産まれてもおかしくないよって言われてな」

と、打ち明けられた。


一時的なことだが、確かにルッツにすれば、クルナのことは心配事であるしな。


「たしか………に………」


……ぬぅ?

「…………」「……………」


……なんだ?


「どうした?」

と、ルッツが言ってくるが、ルッツも急に黙った。


ピーーーーピッピッピッピーーーーピッピッピッ

ピーーーーピッピッピッピーーーーピッピッピッ

と、鳥の鳴声でないが、


ピーーーーピッピッピッピーーーーピッピッピッ

と、高い笛の様な音がする。どこから?




「ルカ!!」「ルカ!!」「ルッツさん!!」


「アイだ!」

と、作業場の外に出た。


「今の声は、アイか?」

と、ルッツも聞こえたらしい。


「林の中から聞こえたと思ったが」

と、ルッツが言うので、


「行ってみる、何か有ったのかも知れない」

と、林の中に入ると


「ルカ!!」「ルッツさん!!」

と、林の中からアイが喚いている。


「アイ!!」

「アイ!何かあったのか!?」

と、二人で声を掛ける、


『◌◌、◌◌◌。ルカ! ルッツさん!◌◌◌◌!』

と、訳のわからない声でアイが喚いている。

林の入口から二人で走って近付く。


「ルカ!!」「ルッツさん!!」

『◌◌◌◌!◌◌◌◌◌!!』

と、凄く焦っているのがわかる。言葉は分からないが


「アイ!!」「アイ!!」

と、声を掛ける。


『◌◌◌◌◌!!◌◌◌◌◌!!』

と、藍が一生懸命に喚いているのに、わからん!


アイが誰かを抱えているのが、見えた。えっ?


「クルナ!?」「クルナ!?」

と、知っている顔に、ルッツは戸惑いに


『◌◌◌◌!!来るな◌◌◌◌!!◌◌◌◌◌◌!!』

と、何か怒っている


「クルナどうしたんだ?」

と、ルッツが驚いてアイに聞くが、


『◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌!◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌◌!!』

と、喚きながら通じていないと気が付いたようだ。


「早くしないと、危ないのよ」

と、アイが通じる言葉で話すが、慣れていない分気持ちと言葉が合わないで、困っている。


「破水してる。赤ちゃん生まれる。安全な場所。移動したい。危険なの」

と、アイは単語を繋げて話す。重要なことを短く言ってくる。


「分かった。館に戻って応援を連れてくる」

と、行こうとすると、アイが首を振って、


「沢山のお湯、きれいな布、お医者さん直ぐ」

と、単語で話す。


「分かった。知らせて用意する」

と、言って館に猛スピードで駆けていく。

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