布の使い方
朝ルカに迎えに来てもらうまでに、着替えてベットを整える。藍の朝の習慣となっているが、この客室を明けるにしてもやはり、私物入れが要る。
カルマさんに聞いてみよう。テーブルの仕分けた生地からセイ様用の紫色の生地と、多めにある黄色系の生地とを別に置いておく。
ノック音がしてルカがドアを開けた。
「おはよう アイ。体調はどうだい?」
と、いつも通りに声を掛けてきた。
「おはよう ルカ。良い方だと思うわ」
と、藍も答えてから、
「あのね、昨日はルカに八つ当たりをしたと思うの。ごめんなさい」
と、頭を下げれば、
「あぁ、八つ当たりか」
「うん、シアン国王陛下とカール様に否定されたような気になって、ルカに八つ当たりしたと反省した。ちゃんともっと考えて言えば良かった。ルカには関係ないのにごめんね」
と、言ったらルカが困った顔をして言う。
「アイは素直すぎるから、でも関係無いこともないと思うけど」
「えっ?」
「兎に角朝食を取りに行こう。いつも通りに執務室に行くよ」
と、ルカが言う。
食堂に着けば、カルマさんが世話しなく動いている。
……どうしょうか? 今聞いて邪魔にならないかしら……
と、考えていたら、ニックさんが先に声を掛けてきた。
「アイ、おはよう。どうかしましたか? 何か困り事でもあったのですか?」
「おはようございます、ニックさん。昨日カルマさんだと思うのですが、部屋に生地を沢山届けてもらいました。お話したように小物入れを作りたいので、裁縫道具をお借りするには、どうすればいいかカルマさんに聞こうかと、ただ今はお忙しいそうなので後にしますね」
と、藍が言えば、
「裁縫道具なら、洗濯室に一式備えて有りますがもしかしたら、アイ用に用意しているかもしれませんね。確認しておきますね」
と、ニックさんが請け合ってくれた。
「はい、お願いします」
と、返事をして朝食にした。
それにしても、なんだか慌ただしい。どうしたのだろうか? 使用人達が目まぐるしく動いている。
ルカに部屋まで送ってもらい、その後の予定を聞けば、
「アイは呼びに来るまで、待機して欲しい」
と、言われた。予定が変わったようだ。
「分かりました。部屋に居ますね」
と、部屋に入り、そのまま食後だが、ストレッチをして体術の型をしておく。
いつ呼ばれても良いように、最近の運動不足を補わないと筋肉が落ちてしまう。
ゆっくり息を整えて、ドレスのよれを直し一呼吸したところで、ドアがバーンと勢いよく開く。
「えっ?」
と、思ったら赤髪でウェーブのかかった髪をハーフアップにして薄いピンクのドレスを着た少女が、ズガズガと近付いてくる。
「ちょっとあなた! どういうつもり!」
と、目くじらを立てて言ってくるが、
「あの、どちら様ですか?」
と、聞いたが、
「私のことはどうでもいいのよ。あなた! お異母兄様を誑かしてどういうつもりなのかと聞いてるのよ!」
と、喚かれる。
……おにいさま? とは、ミカエル様のことだろうか? と、いうことは王都にいらっしゃる異母妹さんかしら?……
と、考えていたところ、
「はっきり答えなさいよ! お異母兄様のみならずルカまで側に置いて、私が追い出してやるわ!」
と、掴みかかってくる。
……あら、どうしましょう……
と、テーブルの生地を掴んだ。
「アイ、大丈夫か?」
と、ミカエル様とルカがドアから入ってきた。
入口で二人が立ち尽くしているが、その後から
「姉上、ちゃんとお話を聞いてからに致しましょう」
「姉上、手加減をした方が良いですよ」
と、二人の少年が続けて来た。
「………………」
入口に男性が四人、突っ立ったまま中の様子を見ているが、
「何をしたのよ! ほどきなさいよ」
と、少女が喚いている。
四人が見ているのは、メアリーが両腕を後ろ手に拘束されて、床に膝をついて藍に向かって喚いている姿だ。
その側で藍が男性陣に、
「あの、どうしましょうか? 向かって来られたので反撃はしていませんが、出された手を動けないように致しました」
と、藍が言ってため息をつく。
……良かった。ストレッチ後で、少しは体も動くようで助かったわね……
廊下の方からニックさんの声で、
「メアリー様が、アイの部屋に突入したらしいです」
と、誰かに報告している。
「アイ、大丈夫か?」
と、後ろの方から声がすれば、入口の男性陣が脇に寄る。
シアン国王陛下と、カール様だ、その後にニックさんとアートムさんもいる。
「アイ、大丈夫なのか?」
と、シアン国王陛下が言えば、その隣からカール様も、
「アイ、怪我はないか?」
と、聞いてくる。そのお二人を見たメアリーは、
「何故?、私を心配して下さらないの。どう見ても私が被害を被っておりますのに!」
と、信じられないと言う顔をして言う。
「あら! シアン国王陛下、カール様、おはようございます」
と、藍が挨拶をすれば、
「あぁ、おはよう」
「おはよう、アイ」
と、シアン国王陛下とカール様が挨拶を返す。藍は入口の方を見て、
「ミカエル様、アートムさんもおはようございます」
と、挨拶をしてから、周りに聞く。
「あの、私はどうすれば良いですか?」
と、メアリーを指差す。
そうすれば二人の少年が、
「姉上に、何をした!」
「姉上、大丈夫ですか?」
と、駆け寄って来るが、カール様が止める。
「ダニー、ケビン、それ以上アイに近付くな」
半分まで前に出た二人の少年は、
「お祖父様?」
「どうしてですか?」
と、戸惑っているが、その場に止まる。
「怪我はないようだな」
と、シアン国王陛下は、仰り。
「見事なものだな、どうなっておるのだ?」
と、カール様とお二人で、ベソをかいているメアリーの側に行き、まじまじと見ている。
「すみません。咄嗟に手を拘束してしまいました」
と、藍が謝る。
「手を拘束と言うことは、メアリーが先に手を出したと、言うことだな」
と、カール様は、孫娘をを見て言う。
「アイ、この後ろ手にした、布はどうなっておるのだ?」
と、シアン国王陛下が聞いてこられれば、いつの間にか側に、ミカエル様、アートムさん、ルカが同じようにまじまじとメアリーを覗き込む。
「えっ? それですか? アートムさんそのお嬢さんの両腕の間にある、垂らした布を引っ張って下さい」
と、藍が言えば、アートムさんがメアリーの後ろで、垂れた布を引っ張る。
スルリと布がほどけて、メアリーの両腕は自由になった。
「おぉ! 簡単に布がほどけたぞ!」
と、カール様が驚いて仰るが、周りも同じ反応を示した。
「あのー、両腕は圧迫してないので、痕は残らないと思いますが、両ひざ裏を突いたので、膝は強打されていると思います。後で手当てをお願いできますか?」
と、二人の少年の側に居るニックさんを見て言う。
「わかりました。手配しときましょう」
と、ニックさんが返事をする。
「でだな、これは、どう言うことなのか説明出来るか?」
と、カール様が問うと、ミカエル様が、
「メアリー、ダニー、ケビン」
と、三人の名前を呼ぶ。モスグリーンの髪色をした少年が、
「姉上を止めたのですが、止めきれなかったのです」
と、答えた。
「王都から、三人が帰領すると連絡は有ったが、本日の夕刻の予定であったはずだ。何故に馬車を急がせた、危ないであろうが。急ぎの用なら今すぐ申してみよ」
と、カール様が三人に問う。
少年二人が顔を見合せて、姉のメアリーを見る。そして、今度は赤茶髪色をした、モスグリーン髪の少年と体格が変わらない少年が、
「すみません。お祖父様、姉上に付いてきただけで、ダニー兄も僕も急ぎではないのです」
と、答えれば、
「ダニー、ケビン!」
と、メアリーが喚く。
「メアリー、そなた弟二人を連れてどういう用件だ?」
と、カール様が静に聞く。




