ニックの追及
「シアン陛下は、アイが陛下の愛妾、隠し子や、ダニエル様のお妃候補としての扱いになる事を、どうお考えで」
と、カールがシアン陛下に凄む。
「カ、カ、カール! 顔が怖くなっておるぞ!
それは、ここに居っても同じで有ろう。ロビンやミカエルのと同じではないか?」
と、シアン陛下が状況が同じだと訴えるが、
「「「同じではありません!!」」」
と、一斉に詰められた。
「ここの館に居るものは、アイの事情を聞いております。その中で規制できることもありますが、シアン陛下しかいない状態の王宮で、アイが暮らしていけると思いですか?」
と、カールが代表で問う。
「いやいや、アイを晒し者にはせぬぞ。色々させてやりたいし、興味のあることは伸ばしてやりたいと思っているが、それに是認したものしか側に置かぬ」
と、シアン陛下は答える。
「シアン陛下。失礼ですがアイは陛下と縁あるものなのですか?」
と、ニックが聞いてくる。一斉にシアン陛下を見る中カールが思い出したことを言う。
「そう言えば、アイの髪色がどうとか? 私には黒髪にしか見えぬのだが、特徴があるのだったな」
と、言えば、ミカエルとニック、アートムが、
「…………特徴も何も、あれ程目立つことが……」
と、ミカエルが言い、ニックもアートムも頷く。
「嫌、たいしたことではない」
と、カールが言えば、シアン陛下が話のすり替えに、
「昼間アイがメリアーナに会いに、別館に来た時の話でカールが、どうやら赤色が分からないらしいと、判明したのだ」
と、答えた。
「いつからですか?」
と、ニックが狼狽えて聞く。
「アイの話では、生まれつき赤色が認識出来ていないそうだ。アイの知人にも同じ症状の人が要るらしくてな、ディービス、ロッティナやメリアーナと会話中に分かったことなんだが」
と、カールが説明する。
「カールは、私の髪色を灰色だと言ったぞ」
と、シアン陛下が言えば、
「えっーーーー!」
「驚いたのは私もだ。この歳まで気付きもしなかったが、アイがメリアーナに花を届けてくれたから、話の中で分かった。シアン陛下やカリーナ、メアリーも赤髪だと、ダーニーズウッド家では珍しくないと、メリアーナに言われた」
と、少し落ち込むカールだが、
「アイにも、赤髪が入っていると。黒髪でも、珍しいのにな」
と、カールが呟く。
「そうですね、始めにルカが報告にあげた時も、黒髪に赤髪で、黒目だと言って、私はミカエル様にその様に報告にいたしましたし、実際に目にした時は、驚きました。黒髪だけでも珍しいのに赤髪が白い顔を引き立てるように両頬に添えられ、白と赤色の異国のドレスを着ているのですから、刺客だとしたら間抜けだと第一印象ではありましたね」
と、アートムが言う。
「シアン陛下は、アイの国をご存知なのですね」
と、ミカエルが訪ねると、
「あぁ、知っている。だからアイとも会話が出来たのだから」
と、答える。そして、
「アイの国は、外国だ。とても遠い国だが、私はその国に妻と子供がいる」
「………………………………………………………………………………」
時が止まったように、誰も息すらしてないかのように。
「えっーーーー」
と、カールまでも驚く。
「何故? カールまで驚く?」
と、シアン陛下は仰るが、
「何故って、私も初めて聞くことですよ」
と、カールは言い張る。
「約八年間だったか? 私が16から24歳位は、その外国にいたのは」
と、シアン陛下は言うと、
「あぁ、あの八年間の話ですか。外国に行っていたとしか聞いてません。妻子のことは存じませんよ」
と、カールが答える。
「では、アイはシアン陛下の隠し子ではないと」
と、ミカエルが言うと、
「勿論、歳が合わぬ。私の子はロビン位の歳だぞ」
と、シアン陛下は仰る。
「それなら、お孫様ということは?」
と、ニックが聞いてくる。
「分からぬ、私の子は女の子だったのだ。ミカエル位の歳なら分かるが、ミカエルそなた歳はいくつになったのだ」
と、聞かれ、
「私は、33歳です」
と、言い、
「そなた、33歳になっても身を固めないのか?」
と、シアン陛下が言えば、
「私の話はいいので。でも、父ロビンの歳でもメアリーが17歳で、一番下のケビンは、14歳ですよ」
と、ミカエルが言う。
「ざっと計算しても、30歳前後で女性としては遅くないのか?」
と、カールが言えば、
「それこそ、ミリーはルカを28歳で生んでますから、外国ではどうなのでしょう?」
と、アートムが答える。
「アイは23歳、ルカが21歳で、ミリーが生きていれば、49歳で合わなくも無いが」
と、カールがシアン陛下を見る。
「私も初めは、私の縁有るものかと思ったのだが、今日メリアーナが、アイに問うたのだ、その髪色はアイの国で普通なのかと」
と、シアン陛下が言えば、
「確かに問われていましたね」
と、ルカが答える。
「で、アイは何と?」
と、ニックが急かす。
「アイは『私の国では、普通だと。髪色は変えられる』と答えておった。しかしな私の知ってるその国の人達は、黒髪で黒目だ。赤髪の人など見たことがないのだ」
と、シアン陛下が説明する。
「陛下は知りたくはないのですか?」
と、アートムが聞いてくる。
「知りたいな、しかしなアイが目覚めた時に名乗ったのが、『たつみ あい』だ。『たつみ』という家名に心当たりがないのだ」
と、シアン陛下は仰るが、
「陛下のお子さまが女の子であるなら、嫁がれたのでは?」
と、ニックが言う。
「妻は家を継いでいる。その家は女性が家を継ぐのだ。私の子はそのまま家を継いでいるいるはずで、家名は変わらぬ。特殊ではあるがなくもないらしくてな、私が妻と結婚するに至って尽力してくれた家も周りで親しくしていた者も、家名に一致するものはないのだ」
と、シアン陛下は答える。
「お子さまはお一人だったのですか?」
と、ニックが聞く。
この中では、ニックが最年長であり、幼いシアン陛下のこともダーニーズウッド領内では、一番知りうる存在だ。
家柄や相続、親族関係など長年執事として代々領主を支えて来た。
「いや、子は女の子が二人だ」
と、シアン陛下が言えば、
「では、長子のお子さまが家を継がれば、次女様は嫁がれていても、可笑しくないのでは?」
と、ニックが重ねて問う。
「う~ん、そうかもしれぬが。恐ろしくお転婆な娘であったのだが、貰い手があっのか?」
「どういう意味ですか?、失礼ですが器量が悪かったと」
と、ニックが聞いてくる。
「下の子は、四、五歳で別れてしまったので分からぬが、妻も長女も器量良しだ。妻の母上も美しい方であったから、そのままなら可愛らしく育っていると思うが、妻も母上も恐ろしく強くてな、私は勝てたことがないのだ」
と、シアン陛下が言えば、
「シアン陛下が勝てなかったですと?」
と、カールとアートムが驚く。
「そう言えば、陛下は幼い頃から此方で剣や体術を身につけられておりましたね」
と、ニックが言えば、
「そうだ、カールの父セガールや団隊長とかに、鍛えてもらった」
と、シアン陛下が答える。
「幼い頃は、体格差で私が勝ててましたが、父セガール曰く、陛下が同じ歳でなら分からぬぞと、言われたことがあります」
と、カールが明かす。
「私も自惚れがあったかも知れぬが、対して歳の変わらぬ女性に敵わなかった。それが妻で、それより強かったのが母上でな、私の娘は完全にその血を受け継いでおった。上の娘は体術に下の娘は武器に、手に負えぬ。上の娘は普段は大人しいく落ち着いておるが、下の娘は、日頃から活発でお転婆すぎて、大人になっているはずだが、想像できぬ。
ましてや、あの虚弱なアイがあの娘の子でとは、想像できぬ」
と、シアン陛下が項垂れる。
「シアン陛下に勝てる女性ですか?」
と、アートムが言って、
「今でこそ、荒事に手を出されなくなったが、ご自身で身を守ってこられたからな」
と、カールが言う。
「シアン陛下のお話で、全く可能性が無いわけでないのですから、アイに聞いてみても良いのでないですか」
と、ニックが言えば、
「アイが陛下の縁有るものでなくても、アイを可愛く思っておられるのです。陛下の奥方やお子様に関わることがあるかもしれません」
と、ニックが慰めて言うと、
「どちらにしても、アイと話し合う必要があるようです。そのまま外にでる危険性は伝えねばなりませんし」
と、アートムが言って、
「そうだな、明日にでも時間を取ろう」
と、カールが言えば、
「ルカ、いつも通りアイを連れて来てくれるか?」
と、ミカエルがルカに聞く。
「分かりました」




