夜の報告会議
カール様のお館からルカに送ってもらい、借りている客室の前に来た。
「ルカ、ありがとう、何か私のわがままに付き合わせてしまって、ごめんね。見張りが必要ならわたしが出歩かないように鍵を付けてもいいし。アートムさんと相談してくれたらいいよ」
と、一言も話さなかったルカから、何やら物言いたげな雰囲気が漂って来たが、返事が怖くて聞かずに部屋に入った。
……何てことをルカに言っているだろう。肯定も否定もただルカに八つ当たりした自覚はある。
此方で一番近くに居たのはルカだ。シアン国王陛下を始めより側にいた時間で言うなら、ルカだ。
年下の親身に接してくれる弟のようなルカに、もうわたしは甘えているじゃないか。情けなさすぎるよ。
夜に会うときは、謝らなければ…………
シアン国王陛下と、カール、ミカエル、ニック、アートムにルカが、領主邸の執務室に夜集合したのは、その日のことだった。
「ミカエル! 何て様なんだ?」
と、孫のミカエルにカールが問う。
ミカエルはぎこちなくギシギシと動く様で、皆の注目を浴びているが、
「すみません。身体中が痛くてお昼から辛いのです」
と、ミカエルが答える。
その現状原因を知っているニックと、アートム親子は苦笑し、ニックに至っては
「あれ程笑い転げるからですよ。アイにも失礼でしたよ」
と、ため息混じりに言う。アートム親子も頷くが、
「まぁ良い。今夜集まって貰ったのは、今朝の件とアイのことを報告と相談するためだ」
と、カールが言い、アートムを見る。
「今朝の件ですが、庭師のルッツから昨日シアン陛下とアイが庭で散策中に人影らしいものを見たと、ルカが気付いてないということは気のせいかと、思ったらしいのですが、今朝も人影を見たとそれで、私に報告が上がりました」
と、アートムがルッツの報告を説明する。
「今までも有ったことですね。でもルカが気付いてないということは、偵察もしくは探りの範囲でしょ」
と、ニックが言う。
「私が、ルッツの話を手掛かりに調べましたことろ、複数の足跡がありました。後を追うためにルカを呼んで調べました。林の奥に馬と人の痕跡がありました。その後を追うと街に入り混んで居るようなのでルカに街で探らすと王都からの商人だとわかりました」
と、アートムが報告する。
「で、その商人たちは、商いをこっちでしているのか?」
と、ミカエルが問うと、
「いえ、商いをするのでなくて、ダーニーズウッド邸の噂を聞き回っているようです」
と、ルカが答える。
「どうやら、王都の別邸からアイのことが、漏れたようです」
と、アートムが答える。
「あの、アイのことは父 ロビンには報告が行っています。お祖父様、シアン陛下の支持のもと館で保護していると。しかし父から漏れるとは思えませんが」
と、ミカエルが言う。
「ミカエルの言う通りだ。ロビンに報告するのは次期領主として館を預かっているミカエルの判断は正しい。
当たり前だが、ロビンから情報が漏れるとはあり得ないな。ロビン以外の誰かがということになる」
と、カールが言う。
「その商人ですが、オリゾーラル公爵邸に出入りしている商人らしいです」
と、ルカが追加で情報を上げる。
「あっ!」
と、ミカエルが声を上げる。
「どうした? 心当たりがあるのか?」
と、カールが問いただす。
「えぇ。最近メアリーがアニール閣下のご令嬢と仲良くしていたと思い当たりまして」
と、ミカエルが濁す。
「何? アニールのとこの娘が?」
と、シアン陛下が、
「はい、よく別邸にも来ておりました」
と、ミカエルが話す。
「何故? アニール閣下がダーニーズウッド邸を探る必要がある。ロビンは今王都に居るのだぞ」
と、カールが言えば、
「そう言えば、アニールからロビン.ダーニーズウッドの息子ミカエルを知っているかと聞かれたな」
と、シアン陛下が言い出した。
「その話なら、結構前にロビンからアニール.オリゾーラル公爵から婚約の打診が有ったと聞きましたが、ミカエルが断わったと、どうなんだ?」
と、カールがミカエルに問う。
「そんなことも有りましたが、ちゃんとお断り致しましたよ。今回のことと関係ないでしょう」
と、ミカエルの歯切れが悪い。
「確か、アニールの娘はセリーヌ孃だったか?
随分と熱心に聞かれたがな」
と、シアン陛下が言うと、
「では、商人の件はメアリー様からセリーヌ孃に情報が漏れ、探りに商人を向かわせたと?」
ニックが言えば、
「有りうるな、父親のアニールはそんなことせぬぞ」
と、シアン陛下は言う。
「ミカエル様が、早く身を固めにならないから、このようなことがあるのですよ」
と、ニックに言われて、慌ててミカエルが、
「それとこれとは、話が違うのではないですか?シアン陛下の隠し子とか……」
と、ミカエルが言って青くなる。
「…………………………………………………………………」
「でも、アイのことを探っていたことには、間違いないのではございませんか?」
と、ニックが話を変える。
「なぁ~カール。私がアイを引き取っては、いかぬのか?」
と、シアン陛下が爆弾を落とす。
「なりませぬ」
と、カールが強めに答える。
「王都に連れて行くという意味ですか?」
と、アートムが聞く。シアン陛下が頷いて、
「私が連れて帰っても、今さら王位のことで揉めたりはせぬぞ。ダニエルが王位を継承即位することは、国中に公表していることだ」
と、シアン陛下は仰るが、
「今、シアン陛下がアイを側に置くということは、シアン陛下にもダニエル王太子にも、要らぬ噂の元になりかねます。
アイは、ダーニーズウッド家で預かります」
と、カールが言いきる。
「でもな、カール。そのアイがこの館を出ると言っておるでないか」
と、シアン陛下が言えば、ミカエル、ニック、アートムが、
「「「えっ?えぇーーーー」」」
と、驚いて声を揃える。
「僕が原因ですか? アイの話を聞いて笑ったから?」
と、ミカエルが言えば、
「いえ、今日その話をするつもりだったと。でもミカエル様の笑いが止まらず、話す機会がなかったと言ってました」
と、ルカが答える。
「ディービスやグローに街での生活や仕事を相談すると言うので、今日は止めて置いたのだが」
と、カールが説明する。
「アイを外に出すのですか? お館から? 危険です」
と、ニックが強めに言う。
「当たり前だ。この館でもアイと接する者を決めて要るのに」
と、ミカエルが言う。
「ディービスには、釘を刺しておくか」
と、カールが思案しながら言う。
「あのー、アイは私が護衛に付いている意味も分かってないと思うのですが」
と、ルカが言えば、ニックが、
「見張りでなく、護衛なのですか?」
と、聞いてくる。
「あぁ、今は護衛に付くようにルカには、言ってある」
と、カールが言うと、
「すみません、ニック。始めに私がルカをアイの見張りに付けますと言ってから、変更されたことを言ってませんでしたね」
と、アートムが謝る。
「いえ、初めから見張りなど必要に思いませんでしたから、アートムに見張りと言われて不思議に思いました。
何せあの虚弱さですからね」
と、ニックが言い、
「そう言えば、ミリーの時は、アートムが見張りに付いていたんでしたね」
と、言われてアートムが、
「そうです。あの時は私が見張りに付いておりましたが、彼女は刺客でしたから、アイとは違います」
と、ミカエルとルカが、
「「えっ?!」」
と、声を揃えて驚く。
短編 「オレの彼女は幼馴染みを紹介してくる」を投稿いたしました。13話と26話にちょっとだけ出てくる人達のお話です。虚弱体質巫女の思案中に出てきたお話です。




