止められた思惑
メリアーナ様との初見は昼食もとなっていたが、ディービス医師の判断で本日の交流は、ここまでとなりメリアーナ様がご自分のお部屋に戻られた。
メリアーナ様に差し上げた花束はこのまま談話室に、設置されることとになり、わたしがお世話にすることになった。
カール様の提案で昼食後も、シアン国王陛下とご一緒にお話しすることとなり、
「アイ、メリアーナの楽しそうな顔を見れたのは、久しぶりだ。ありがとう、本当に塞ぎこんでおったのだ。
ディービスの話では、加齢による体力気力の低下だと言うのだが、アイ、こちらに住処を移さないか?」
と、カール様が仰る。
「どういうことでしょうか?」
と、聞けば、シアン国王陛下が、
「元々、アイが使用している客室は、領主邸の客人用だ。私は、昔からカールとの気安さからカールが居る館に滞在していた。
だから、カールが領主時代にはあの部屋に滞在していたのだが、現領主ロビン夫婦が王都から帰領すれば、客人も来るだろう」
……何で早くに気が付かなかったのか。尤もだと思った、わたしは降ってわいた居候でしかない……でも、丁度良かった、ミカエル様に切り出そうとしていたところだ、諸事情で出来なかったが……
「あの、シアン国王陛下、カール様、私はそろそろ此方をお暇しようと考えているのですが」
と、言ってみた。
「「「はぁー!」」」
と、三人シアン国王陛下、カール様、ルカ。
「実は、朝の執務室でミカエル様にこの話をしようとしたのですが、在る事情で出来なかったのです」
と、藍は言う。
「どのような話をするつもりだったのだ」
と、カール様が聞いてくる。
「わたしに関する衣食住、医療費をどの様にお返しすれば、いいですかとお聞きすれば、一時程笑い続けられてお話しが出来なかったのです」
と、言えば、ルカが、
「あぁー」
と、シアン国王陛下がルカに話せと促す。
「いえ、アイを何時も通り執務室に連れていき、私は父に例の件で呼ばれその場に居なかったのですが、父と一緒にミカエル様にご報告をと執務室に戻ったのですが、
ミカエル様がソファー床下に倒れておられて、どうされたのかお聞きすれば、アイに殺されかけたと仰ったので、館を探したところニックと一緒に部屋に戻るところでした」
と、ルカが有ったこと言っても、カール様は、
「意味が分からん」 「うーむーうぬ?」
と、憤りになり、シアン国王陛下は唸っておられる。
「あっでも、ミカエル様の言葉のあやで、アイとの会話でミカエル様が笑いが止まらなくなり、余りにも笑い苦しくて倒れたと言いましょうか、ニックに凄く叱られていらっしゃいました」
と、ルカが藍を見る。
「わたしは、何も笑わすような面白いこと等言っておりませんのに、出来なかったお話はお館を出て街で働こうと思っておりますと、お伝えしたかっただけです」
と、藍が爆弾を落とす。
「「「何!!」」」
と、三人に驚かれた。
「助けて頂いたことを、時間はかかるでしょうが、お返しするつまりです。
街にはディービス医師もいらっしゃいますし、体力仕事は出来ませんが、何か細々したお仕事を探して賄います」
と、藍が言う。シアン国王陛下とカール様は、
「はぁー」
と、ため息をしてルカを見る。ルカはショックを受けたように見えるが、藍は続けて、
「先ほど、ディービス医師とロッティナさんがいらっしゃる時に、街での生活をご相談しようかと思ったのですが」
と、藍が言えば、
「ならぬ」
と、カール様が喚く。
「えっ!」
と、藍がびっくりして、
「何か。失礼なことをしましたか?」
と、怯えた顔で聞いてきた。
「すまん、アイが悪い訳ではない。悪いわけでないが、ほら、そなたはメリアーナの話し相手をすると、言ったではないか」
と、カール様が仰る。
「はい、それは致します。此方に来れる時にさせて頂きますが?」
「アイ、誰かに何かされたのか? それとも、出ていけと言われたのか?」
と、シアン国王陛下が問う。
「いえ、そのようなことは、、何も有りません?」
と、藍は答える。
「あのー、シアン国王陛下。私は、自己紹介をさせて頂いた時に、申し上げた通り23歳です。皆さんに心配される程子供ではありません。
見かけが頼りなさそうに見えるかもしれませんが、ちゃんと勉強や言葉を覚えてきました。まだ至らないことは有るでしょうが、自立に向け頑張っています」
と、藍が鼻息荒く答える。
「どうしたものかなぁ。アイの言っている志は良いことだ、良いことなんだがなぁ」
と、カール様がシアン国王陛下を見る。
「アイ、今までそなたの家族や親しくしてきたもの達の話は、極力避けてきた。分かるな?」
と、アイを見つめて、
「あ、はい。分かっておりました。それに私も、考えないようにしていました」
と、藍が答える。
「多分今すぐ帰してやれない状況で、遠いもの達への思いが出れば、アイの身体にも障ると思い周りにもそう告げてきた」
「はい」
「グローが言っていた。余りにも虚弱過ぎるアイをここまで無事に至っているのは、守ってきた人が多くいたのであろう。
そうでなければ、その年まで生きて居れなかったのでないかと」
と、シアン国王陛下が言って藍に問う。
「はい。グロー先生のおしゃる通りです。
わたしは、生まれた時から沢山の人の手で、守られて、守られてばかりで、ずっと心も身体も守られて、ずっと心配かけて、心配かけ続けて、この年になるまでずっとです」
と、藍が苦痛ともいえる表情で答える。
「カール様、今日メリアーナ様にお会い出来て私は、凄く楽しかったです。そして凄く寂しかったのです。
私を可愛がっている守り手の一人のおばあさんに似ていらっしゃて、そして私の祖母も、朝話をしてお昼ごはんを一緒に食べるはずだったのに。
この館の方々は優しくて私の守り手の人たちに、どこか似たような雰囲気を持っていらっしゃるのか?私が探してしまうのか?
居心地がいい反面、楽しく過ごす時間、私の守り手達が心配しているだろう、申し訳ない気持ちとで正直辛いのです。
決してここが嫌な訳ではないありません」
と、藍が奥に閉まって気付かないようにしていた感情を吐露した。
「アイが見て悲しくなるほど似ておるのか?」
と、カール様が聞いてくる。
「いえ、姿が似ているのではなくて、仕草や私への接し方など、本当に細かい一部です。
だからでしょうか? 一部似ていると思う嬉しさと似ていない所も見つけた寂しさに、気持ちを心を振り回されたくないと思ったのかも知れませんね」
と、藍が答える。
「でも、私は今回この様に境遇に陥りましたが、私の守り手の方々には、私から解放されて欲しいと思っているのです。
いつか、時間は分かりませんが、私の守り手の人達の前に戻れた時に、ちゃんと生きていたよ! 守り手に頼らず生きれたよ! もう大丈夫だよ! と、安心させてあげたい。
私から解放されて自分達の生活に重点を置いて欲しいと思うのです」
と、藍は悲壮な顔で言う。
「はぁー。なる程な解放とな」
と、ため息混じりのシアン国王陛下が仰れば、
「はい。私の《ガーディアン》解散が目標です」
と、藍が静かに呟いた。
「アイ。そなたは自覚はないのか?」
と、シアン国王陛下に言われたが、
……何の? じかく?
「ルカ。アイをこのまま街に送り出せば、どうなると思う。正直に言って良し」
と、シアン国王陛下がルカに問い、答えを促す。




