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寒いです

……これは……マズイ……


藍は心中、相当焦っている。


恐怖からでなく、体温的に寒くて震えてきた。

さっきまで藍が居た社務所は、ストーブで部屋は温かく。藍自身祖母の千種の忠告通り、肩にはストールを掛け、毛糸で編んだ専用の膝掛けが、正座していた脚に掛けられた状態だったのだ。


今は足袋裏から伝わる石床が、冷たく徐々に足下から脚を冷やしていく。

冷えと拘束紐で段々と、痛みが感じられてきた。


脚だけでなく、この空間が冷えている。


極寒ではないが、藍自身が程々な温かさの中に身を置いて居たのだ。普通の人が少し寒いねの気温でも、わたしにとっては極寒に近い。


オマケに青年は、掃除の途中だったのだろう。


窓が開いている。


程よく入ってくる外気が、わたしの体温を奪っていくのだ!

気持ちのいい風だとか、微かに草木の匂いがするとか、言ってられない。


この空間は、祭壇らしいものが祀られているところ、礼拝堂みたいだ。

神社でいうなら、本堂にあたるのかな?


両壁は、掃除中で窓枠が外されている。

わたしが知っている、引き違いのガラス窓ではなくて、木枠に格子状なガラスが嵌まっている、嵌め殺しの窓枠みたいだ。


片壁に三枚づつ窓枠が立て掛けてある。


青年が立っている出入口の扉は、閉まっているが窓枠の嵌まっていないこの状態では、わたしは凍えてしまう。体温が下がり歯が、カチカチと鳴り出した。


……ヤバイ!ヤバイ!絶対にヤバイ!


朝食から何も口にしていない。

いつもなら昼までに、一回は保護者からの休憩や体調確認が入るのに、今日は無かった。


無かった? わたしがしなかった。


他力本願でわたしが自己管理しなかった。

いい年をして自分の身体のこと、人任せにして……


……後 どれくらいかかる?


作業に集中し過ぎて休んでいない。水分補給も糖分も口にしていない。


せめて窓枠を嵌めて欲しくて、青年を見るが腕を組んで視線が合わない。動く気配もない。


ここで暴れてもわたしの体力が尽きてしまう。

携帯を持ったまま、縛られている両手を見て混迷する。


このままじっとしないといけないなら、他に意識して状況を纏めよう。



青年の発した言葉らしきもの、初めて聞く音の羅列に記憶を探る。23年間で世にある全ての言語を知っているわけではないが、近いものまで記憶を探る。



藍の両親は外務省勤務だ。

極普通の家庭よりは外国語に精通しているし、多種類の言語の音を聞ける環境で育った。

意識して習ったフランス語とドイツ語以外は、挨拶と簡単な日常会話程度だ。


フランス語は空耳的に日本の方言と近くて、音として聞いてて楽しいかった。


ドイツ語は 宗一先生や順一先生の会話に出てくる。それが知りたくて勉強したが、医学語は又 別だった。


母 朱里は、アジア圏が得意で音としては面白いが、細かく分かれいて文字としては覚えきれない。

父 誠は、北欧部が得意だと言うが、あまり興味がなく音的には、記憶にあるけれど。



どの記憶を探ってみても、青年が発した音に当てはまらない。


……全く知らない音だ。


青年は二種類の言語で、話し掛けてきた。身体は虚弱だが、耳の性能には自信ある。


思考の沼に嵌まって、あれこれ時間だけが過ぎていく。


故意に意識を身体から遠ざけていたが、身体のほうが近付いてきた。

歯だけでなく、身体全体で震えだした。足や手の末端は冷たくて痛い、自然と震える。


青年もわたしの変化に気が付いた。近付いて顔を覗き込む。

泣いていると思ったのか、無表情に目線を合わせてきた。


この理解できない状況に、苛立ちと焦りと虚しさを込めて


「“サ„ “ム„ “イ„」と、目を合わせ青年に、声を出して訴えた。視線を青年から両壁の窓に移して、もう一度……青年に目を合わせて。


拘束されているが、出来るだけ身体を丸め、体温が逃げないようにする。



青年は顎に手を当てて、わたしと窓側を何回も見て理解してくれたのか、外してあった窓枠を嵌め込む作業をしてくれた。


……分かってくれたよ! やってみるもんだね!

と、思わずウンウンと頷く仕草をしたけれど、青年は背中を向けていて見ていない。


それに国によってジェスチャーは違う。


頷く仕草が合っているのかが、分からないから見えなくて良かった。

日本は言語表現が多種で、ジェスチャーは少ない。

外国の方は、ボディジェスチャーが多いが、この場所でイエスなのかノーなのか、それすら分からない。


……う~ん、開き直るか……



青年とさっきの男性を見るに、わたしが知ってる形状と殆ど同じようだ。

青年から、何とか情報が欲しい!


周囲を見ると外は明るい。

建物の中より外の方が暖かいかも知れないが、わたしの体力と気力がある内に、安全を確認したい。


このままここに居れば、元の場所に帰れるの?


ここの食べ物を口にして、わたしに合ってるの?


後先考えず青年と争って逃げて、外に出る!


争った時点で、体力が尽きるね。勝てても。


何もしなくても この身体の冷え具合だと数時間


ここに居たいと言っても、半日で発熱予定


……う~ん……詰んでるね……


どうにもならない感情が、沸き上がり考えないようにしていた思いが、胸の奥から溢れてきた。


藍はどうにもならないことに、慣れている。


生れつき身体が弱いのも、誰のせいでもない。

同級生たちと同じ時間、同じ行動が出来ないのも、病気の人と接触しただけで、移ってしまうのも、体力、気力を使いすぎると発熱することも、周りの人に心配かけることも、気にかけてもらわないと生きていけないことも、余りにもどうにもならないことが多すぎて

藍は、慣れている。


藍は、慣れているが、諦めていたいるが……


悲しくないわけではない。


悔しくないわけではない。


申し訳ないと思わないわけではない。


藍は、どうにもならないことに、いつも対峙してきた。いつも気持ちを切り替えてきた。いつも出来ることを考えてきた。いつも感謝してきた。いつも、いつも、わたしを愛し慈しむ家族、過保護を拗らせすぎる《ガーディアン》のみんなの傍に居たい。


このままどうにもならないことを受け入れたら、わたしは帰れない。


何とかしないと、みんなと湊に会えない。


いつも誰より傍にいて、わたしを気に掛けてくれた湊。本当なら明日は司君と、湊のお祝いを選びにいく予定だった。

国家試験で医師免許取れたお祝いを。


樹兄の時は、みんなでお祝いしたけど湊には、わたし個人でお祝いしてあげたかった。


のに……


と、悲嘆始めた時。


バーン!!


出入口の扉が勢いよく、開く音が響いた。

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