お花の色
庭師ルッツに分けてもらったお花を、自分なりに生けた花束を持って嬉しくなり、クルリと回ってみる。
「色んな花を集めて、どうするのかと思ったが、アイが持っていると綺麗に見えるものだな」
と、ルカは言って赤くなっている。
「それは私が、引き立て役で良かった。お花が綺麗に見えるなら」
と、言ったらルカがビックリした顔をする。
「えっ? どうかしたのルカ」
「あっ、いや、庭に咲いている花を部屋に持ち込んでも、対して変わると思わなかったから、ちょっと驚いただけだ」
と、ルカが慌てる。
「ねぇ、ルカ。私のこの格好のまま、メリアーナ様にお会いしても、失礼に当たらない?」
と、聞けば、
「うん。そのままで大丈夫だよ。なんならノアに確かめてもらうかい?」
と、返事がくる。
……ルカが大丈夫だというなら、大丈夫なんだろう。ノアさんは挨拶した時に何も言わなかった。可笑しいなら言ってくれるはずだ……
持った花束を抱えたままルカに聞く。
「ルカが付き添ってくれるの? アートムさんの用事は?」
「その用事なら、もう終わったよ。父が動いているから気にしなくていいよ」
と、言うが、アートムさんだけ動いていて、ルカがわたしに付いているのは、可笑しくないか?
「ねぇ、ルカ。アートムさんのお手伝いをしに行ってくれていいよ。私ならこの花束をルッツさんに、見せたら別館に行くだけだよ」
と、大丈夫だとアピールすれば、
「ぐぅぬぬぅあぁ~っ。分かったよ説明する。昨日あれから、ルッツが庭先に見知らぬ商人が覗いていると報告が有ったんだ。朝から父が形跡を辿っていくと街の方に留まって居るようだから素性を調べていた。
シアン陛下が逗留されているのに、警戒するのは当たり前だろ」
と、渋々説明してくれたが、わたしとは関係無いと思うのだが。
「ルッツさんにこれを見せに行きたいのだけど、庭には見当たらないね」
と、窓から下に覗いてみる
「それじゃ、作業場だろう」
と、ルカがドアを開けてくれた。
廊下を歩きなからルカに聞く。
「お花は部屋に飾らないものなの?」
「花は庭に咲いてるものだ。絵師が描いた花の絵は飾ることあるけど、季節もあるし切れば直ぐに枯れるだろ」
……成る程、切り花の文化が無いんだ……どうしょう、わたしが華道の心得を持っていても広げていいものではないね。個人の楽しみに留めよう……
「何か気にさわることを言ったか?」
と、ルカが気にして聞いてくるが、これはわたしが秘しておくことだ。
「うんんうんん、今回だけにしとくわ。態々お花を切る必要なかったね。
外に出られないメリアーナ様に今のお花を見ていただこうかと、思ってしたけど」
と、ニッコリ笑って見せた。
庭からルッツさんの作業場に行けば、道具の手入れをしているルッツさんがいた。ルカが先に声を掛ける。
「今朝は報告ありがとう。父が助かったと言っていた」
「あぁ、気のせいでなくて良かったよ。今はシアン様がいらっしゃるしな」
と、ルッツが答え、わたしに目線を向ける。
「うあぁー、凄いな! アイ。小さな庭園になっているじゃないか! 僕が渡した花だよね?」
と、作業していた手を止めて小走に近付く。
「頂いたお花よ。可笑しくない?」
と、聞けば
「最近のメリアーナ様は、庭を散策されないから、喜ばれるよ」
と、言ってもらえた。
そのまま別館に向かって歩いていると、表にノーマン家の馬車が在ることがら、ディービス医師とロッティナさんが、往診に来られているのとが分かった。
ルカに案内されながら、中に入りサンルームと一緒になった談話室に、招待されるようだ。
広いその談話室は、室内に8人がけのソファーセットに、サンルームには、4脚の椅子が配置されている。
室内のソファーには、シアン国王陛下とカール様が、並んで座っておられたので挨拶をする。
「シアン国王陛下、カール様、お招き頂きありがとうございます」
と、挨拶をすれば、お二人が不服そうに、
「えらく固い挨拶だな。アイ」
と、カール様が仰る。
「体調はどうなんだ?」
と、シアン国王陛下が聞いてくる。
……折角キチンと挨拶したいのに、孫相手みたいなグダグダ感は、なんだろうか?……諦めて
「はい。休憩を多めに取って貰えると助かります!」
と、やけくそに答えておいた。
「アイ、別に畏まる事はない。今日はメリアーナが、アイと会うのを楽しみにしていたんだ。今、ディービスが診察しているが、そろそろこちらの部屋に来るだろう」
と、カール様が仰る。
「そういえば、シアン国王陛下は、ずっとこちらに?」
と、お聞きすれば、
「そうなんだ、散歩も行かして貰えずだ。アートムが良いというまで、館に居るのだが、メリアーナやアイと話せるから我慢しておる」
と、カール様を睨む。
……朝の散歩が日課だけど、今朝の事でアートムさんに止められたんだ……
ドアが開きロッティナさんが付き添い、夫人が入ってきた。
小柄な可愛らしいおばあ様だ。茶髪で瞳は金だ。
ロッティナさんは、わたしと変わらない身長だが、大きく見える。本当にこの小柄な方が、あの大柄のカール様の奥様?
「まぁまぁ、お待たせ致しました。シアン様、今年もお会い出来て嬉しゅうございます」
と、メリアーナ様が挨拶される。
……シアン陛下もお会いされてなかったんだ……
「久しいなメリアーナ。臥せっていたようだが、もう大丈夫なのか?」
「はい。本当に気が晴れず落ち込んでおりましたが、カール様やディービスに、ロッティナが色々面白い話をしてくれるので、今日は楽しみでしたのよ」
と、わたしを見る。慌ててメリアーナ様に向かって、
「はじめましてメリアーナ様、私はアイと申します。カール様、ミカエル様の許可の元こちらでお世話になっております。宜しくお願いします」
と、挨拶をした。
「メリアーナよ。アイに会うのが楽しみで、最近は少し気が晴れる様になりました」
と、ニッコリ笑って、こちらに歩いていらっしゃるのを、ロッティナが介助する。
「こんにちは、ディービス先生、ロッティナさん」
と、二人にも挨拶をする。
カール様の指示で、わたしはメリアーナ様の隣に座ることになったが、ディービス医師が反対側に腰掛けて、ロッティナさんは、メリアーナ様の後ろに控えられた。
ルカがわたしに声を掛ける。
「アイ。これを」
と、わたしが作った花束は、ルカが抱えてくれたままなのだ。
「アイ。それは?」
と、カール様が聞く。
「はい。庭師のルッツさんにお願いをして、お花を分けて貰いました。メリアーナ様が外にお出になれないとお聞きしたので、今見頃のお花をもって参りましたが、お部屋に飾っていただくのは、失礼でしたか?」
と、周りを見回す。隣にいらっしゃるメリアーナ様が、
「どうやってお花を持ってきてくれたの?」
と、はしゃぎみに仰る。ルカがメリアーナの前に、そっと置いてくれる。
カール様、ディービス医師にロッティナさんまでも、まじまじとその花束を見に、前のめりになっている。
……が、そんなに珍しいのだろうか? お庭に咲いている花ばかりで纏めて生けただけだが?……
「メリアーナ様は、どのお花がお好きですか?」
と、お聞きすれば、
「そうね、どのお花も見ていて楽しいわ。アイはどのお花が好きなの?」
と、聞き返された。
「私も、お花はどれもとっても好きなのですが、今の季節でいうなら、これでしょうか」
と、チューリップの赤色を手に添えて、意思表示をしてみた。
ロッティナさんも、うんうんと頷いているのが視界に入っている。ディービス医師が、
「アイは、こちらの言葉に慣れるのが早いね。もう普通に話せるじゃないか」
と、褒めてくれる。
「あっ、はい。シアン国王陛下をはじめ、皆さんのお陰です」
と、言ったら、メリアーナ様が首を傾げて、
「アイは、普通ですよ。反対に丁寧に話します」
と、言って下さる。カール様が、
「メリアーナ、アイは本当に言葉が通じなくて、大変だった」
と、苦笑しながら仰る。わたしとメリアーナ様以外が、うんうんと首を縦に頷いておられるが、本当に申し訳ございません。
ロッティナさんが、クスクスと笑い、
「アイ、本当に綺麗なお花ですね。色も鮮やかでお庭を小さく纏めたみたいね」
と、言ってくれた。
「そうなのか? うむーん、所々味気ない花があるでないか?」
と、カール様が、
「「えつ?」」
短編 「オレの彼女は《スペア隊》所属」を投稿いたしました。13話と26話にちょっとだけ出てくる人達のお話です。虚弱体質巫女の思案中に出てきたお話です。




