気付きの先
瀧野家を出て、車の運転を順一が助手席に湊、後部席に宗一が座り、香山家に向かって走らせる。
「父さん。帰ってからカルテを見直そうと思っていたんですが、僕は湊と少し話をします。父さんはどうします?」
と、順一が聞き、
「僕は、峯ちゃんに報告してから休むよ。流石に疲れた」
と、宗一が答えた。
「そうでしょうね。お昼から気を持っていかれて、僕もヘトヘトなんですが、父さんは休んでください」
と、順一が労う。
「あぁ、カルテは、朝から見せてもらうよ」
と、宗一も返す。
「父さん。俺に話って」
と、湊が聞くが、
「帰ってからにしょう。もうすぐ着く。
先に司にも報告してからだ。樹はラボに入ったまま連絡取れないし、反対に連絡取れない方が周りの迷惑に成らないだろう。
この状態を知れば樹の精神崩壊が始まる。惨状を増やす事はない」
と、順一は言って、帰路を急いだ。
香山家に着くと、峯子と司が待っていたが、宗一と峯子は奥の部屋に行き、司は湊と順一についてリビングに行く。
「お帰り。父さん兄ちゃん、浅葱さんからメールが届いたよ。僕はお昼からおじいちゃんと一緒に行ってくるよ」
と、司が報告する。
「そうだな。後で湊と二人で話をするつもりなんだが、司にはちょっと付き合って欲しい事がある。座って」
と、二人を促す。
「湊は、残念ながら明日は、別行動だ。分かっているだろうが」
と、確認をする。
「うん、それはわかっている」
と、湊が答えた。
「今の段階で、藍ちゃんと一番接点が有ったのは、司だと思うのだが、間違いないか?」
と、司に問うと、
「えっ、そうなるの?」
と、司がびっくりしている。
「俺は藍と会えて無いんだ。メールや電話のやり取りはあるけど、俺は藍の顔を見て話せてないんだ」
と、湊は言った。
「あぁ、それもそうだね、兄ちゃんの代わりに僕が藍ちゃんの側に居たようなものだし」
と、司はあっさり認めた。
「どう言うことだい?」
と、順一も聞いてくる。
「二人とも本当に分かってないの?
藍ちゃん物凄くモテるんだよ、狙われているんだよ。あれだけ可愛いんだ、本人だけが自覚無いけど。
この周りの人たちは、皆知ってるからいいけど、僕がついて回るだけでも、盗撮されかかるし、名刺渡されるし、声か掛けられるし。
今までは、浅葱さんや要さんが、藍ちゃんの見えないとこでガン飛ばしてたから、近寄らなかったけど。
僕になったとたん、結構威圧的に来るんだ相手も、それも、藍ちゃん『私が司を守るからね』って、見当違いに相手になるし、このところ目が離せないんだから」
と、ぶちまけている司。
「それで、司の頻度が高かったのか」
と、順一が言うと、
「ほら、兄ちゃんも忙しかったし、他の人も各々忙しいでしょ、身分や環境で。
学生の僕ぐらいしか時間取れないし、せめて僕だけでも付いとかないと、藍ちゃんどこの誰だか知らない人にも親切にして、誤解されるんだから」
と、司は言う。
「「はぁー。そういうこたかぁー」」
と、順一と湊が言うと、
「何! 声揃えちゃって、親子みたいだよ」
と、司がからかう。
「「親子だよ」」
と、また声が揃う。
「兎に角、司は明日おじいちゃんと、浅葱君や要君たちと行動や協力を頼むな。後で連絡が来るのは分かっているが、司の目でしっかり見といて欲しい」
と、順一が頼む。
「うん、分かった」
と、言って部屋に戻っていった。
「さて、湊。話しと言っても特別なことを言いたいわけじゃない。
24歳にもなった息子のことを子供扱いするつもりもない。
今日、瀧野家と、周りのことを見てどう思ったのか教えてくれるか?」
「俺は、藍が自分から消えるとは無いと、自信を持って言える。
でも、さっき司が言ってた通り、本人が知らないだけで好意を寄せられたり、思ってもいない人達に狙われている可能性はあると思う。
でも、朱里おばさんが言っていた、人外、人外的なことなんて全く思いつかない」
と、湊は言った。
「そうだろうね、僕も藍ちゃんじゃなければ、そう思うだろうね。
ところで、湊は、藍ちゃんをどうするつもりだ」
と、順一が聞く。
「えっ!今さらそれ聞く?」
「今さらも何も、僕は何も湊から聞いてないよ。
想像は出来るけど」
「俺は、藍を一生守っていきたい。ずっと、そう思って生きてきた」
「そうだろうね、でも、このまま藍ちゃんが見つからなかったら?」
「父さん! 聞きたくない!」
「湊、僕は最愛の人加奈を亡くしている。君の母親だが、僕の大切な人だ。病気なら医師の僕も覚悟は出来たと思うよ。でも、事故死は人の死に場に多くいることが有っても違うんだ。
大好きな人を亡くすのは、湊が母親を亡くすのと違うんだ。
親である人と、愛する人は違うんだ。色んな死別はある。親が子を子が親を、僕は死別を経験している。失う怖さも悲しみも知っている。湊と違う悲しみだ。
僕の場合は、永遠だ。君の場合は、永久だ。違いは分かるかい?」
と、順一が問う。
「……絶対に無いか、先に続くか?」
と、湊は答えてみた。
「僕もその答えだと思う」
「何となく、……父さんが謂わんとしていること、分かる気がする」
「湊は、藍ちゃんに気持ちを伝えたのかい?」
「えっ? 分かってると……思……う」
「湊、司が心配するはずだ。悪いが、藍ちゃん気付いてないと思うぞ」
と、ため息で答える順一と、怪訝そうな湊。
「いいかい、湊。僕は依怙贔屓なしで言うけど聞く気ある?」
と、言えば、頷く湊。
「じゃぁ、僕が親として、樹、湊、司を分析したことを伝えるが、最後まで聞けそれが出来ないなら聞くな。どうする?」
「最後まで聞くよ」
「分かった。僕は藍ちゃんが可愛いんだ。誠さんには悪いけど男三人のうち、一人ぐらい女の子が欲しかった」
「……うぬ~むぬ」
「でも、僕には藍ちゃんがいる。うちの三兄弟誰かが嫁に貰ってくれたら、正しく僕の娘だ。三兄弟誰で有っても僕の娘だ。樹でも、湊でも、司でも、正直誰で有っても僕の娘になってくれたら嬉しい」
「何?!」
「樹はおっとりとした、長男だ。弟二人に突っ込まれたり頼り無さげにしているが、一番藍ちゃんの希望を叶えようと今もしている。藍ちゃんがここに行きたい、これがしたい、こうなって欲しいと、兎に角叶えてやりたいと思っていたのは樹だ。
だから、止めないでさせてしまう。でも、そうするとどうなるか分かるよね。止める弟二人、湊は初めから藍ちゃんを守ることだけに集中していた。
病気からも人からも、周りになんと謂われようと、藍ちゃんの安心安全を一番に考えて行動する。
端から見れば、湊が一人で守っているように見えるかも知れないが、樹は心を湊は身体を司は場所を、三人が三様に藍ちゃんを守ってきた。
だから、周りの大人は湊を三兄弟を受け入れて、藍ちゃんの側に居ることを許したんだ。
樹だけでは身体を守れない、湊だけでは心は守れない、司だけでは藍ちゃんの場所を守れない。
本当に良く出来た兄弟だと思うよ。
では、医師として藍ちゃんを20年診てきた主治医として言うなれば、藍ちゃんは五年前が頂点だったはずだ。それからは下がる一方で、この先それ程長くないと思う。
湊、その事を一番分かっているのは、藍ちゃんだ。
それなのに、湊の思いを受けると思うかい。
樹も司も、多分薄々気付いているよ。
湊、覚悟を持って藍ちゃんを見ているのかい?」
「それなら、前から気付いてるよ」
短編 「オレの彼女は《スペア隊》所属」を投稿いたしました。13話と26話にちょっとだけ出てくる人達のお話です。虚弱体質巫女の思案中に出てきたお話です。




