辰巳家
要は、辰巳家に着くと自分の部屋に行き、バソコンを立ち上げてパスワードコードを、’JOKER’と入力し家の周りに設置した、防犯カメラの記録を選ぶ。
今日今からの時間を遡って、見ることにするが顔認証で、辰巳家と、瀧野家、香山家を除く。
歩行者、自転車の速度設定。バイク、車の速度設定とナンバー認識設定と、最新式のカメラの鮮度で抜粋していく。
玄関、勝手口、通りの道にガレージと、6台の記録で弾かれていく分だけ、リストアップされる。日にち曜日別に重なる人、移動車にチェックを入れ、特定し住所や会社名を上げる。科捜研形無し画像分析であるが、お構いなしに作業をし、2ヶ月分なら直ぐにみれる。
要がその気に成れば、国家機密であろうと世界機密であろうと、覗き見位出来るが立場上しないだけだ。
俺ぐらいの奴なんて、探せばいくらでも居るが、皆自制の元しないだけだ。
もうひとつのパソコンでは、違う回線アドレスにしてあり先ほど浅葱に掛けてきた所轄の署長殿間の素性検索と、警察庁の上杉という人物検索をしていく。
やはり父 剛と所縁がある人物である。であれば問題はないが、剛は自分の権力をフルに使うつもりでいたのだ。
要の携帯がメールの受信音を出す。父剛からだ。
明日朝から所轄の立ち会いをする事、人為的な物証を探すこと等を、瀧野家から出て直ぐに送っておいた。多分浅葱からも詳細は送られているだろうが、浅葱も剛の姪 藍への溺愛を知っている。
要は、瀧野家で気付いた事柄に少なからずショックを受けていた。
藍の卒業祝いを皆とした時に、藍の顔をちゃんと見ていなかった。見ていたけど意識して見ていなかった事に、自分でも驚いている。一緒に暮らしている家の中で、顔を見て話していない事に気付き、衝撃を受けたのだ。
国家公務員じゃなくても、世間一般であっても、3月4月は、兎に角忙しい。暇な部所もあるかも知れないが、一年を通して目まぐるしいのだ。
いつからそんな生活に慣れてしまったのだろう。
藍の顔を見なくて平気に、成っていた自分に。
浅葱に劣らず兄を自負している。用事がなくても藍本人から、連絡は届く。
でも、藍が意図して隠すことに対して、一番敏感に察知するのは、香山家の司だ。湊みたいに表立って守っているのでなく、湊の足らない所気付かない所と、さりげなくフォローする。独特の感性の持ち主だ。
香山 司は、自分のせいで母親加奈が死んだと責任を感じているし、全く関係が無いよと言ってあげれないのが残念だ。
それは、俺と樹が小学校六年生だった。樹と一緒に下校していたら、反対側の歩道を加奈おばさんと手を繋いだ司が歩いているのを見かけた。
小学校六年生でも、小さい子に声を掛ける危なさを分かっていたから、信号がある横断歩道まで黙っていたのだ。
しかし、司が反対側に居る兄樹といつも一緒に居る俺を見つけ、横断歩道を飛び出したんだ。
「司!! 今は赤だ! 飛び出すな!!」
と、俺なのか樹なのかの声で、加奈おばさんは司を庇って車に跳ねられた。
樹は直ぐに加奈おばさんの所に駆けつけ、俺は横断歩道角のコンビニに駆け込んで救急車をお願いして表にでたが、事故に気付いた人集りに、どうすることも出来なかった。
後で色々なことが分かった。
普段手を繋いで離すことがない加奈おばさんが、横断歩道手前で声を掛けられた。香山医院にくる患者さんだ。挨拶に一瞬司の手を離した。
その時、司は兄樹と俺を見つけ、うれしくて飛び出した。
飛び出した訳も後でわかったことだが、4歳にしては、落ち着いて利発な司だが、色覚異常に誰も気付いてはいなかった。
利口な司は、加奈おばさんから信号を教わっていたが、周りを見てそれに合わせていたんだ。赤と青と呼ぶ緑ランプの違いをしらないまま。
車のドライバーも普段なら、気を付けていた脇の子供の位置に、信号は青でコンビニに寄るか寄らないかと思考の隙間で、司が飛び出してブレーキが間に合わなかった。
教習所では、子供がとびだすかも、ドアが開くかも、人が転ぶかも、かもしれない事に気を付けて運転をしましょう。
普段は気を付けている優良ドライバーなのだから。
それでも事故は、起きる。
司は、車の免許も持っているが、色覚異常矯正眼鏡使用のみの運転だ。
要が、バソコンの画面とにらめっこしながら、思考の沼に落ちていたら、朱里が顔を出す。
「藍の部屋を見るのを先にする? 話を先にする?」
「藍の部屋は、叔母さんがいれば後でもいいから、今話を聞くよ。カメラも見終わったし、そっちにいくわ」
と、要は、腰を上げる。
「朱里叔母さん。その話を信じろと?」
と、要が聞く。
「宗一先生が、浅葱と修次義兄さんには話したそうよ。元々修次義兄さんは、白彦神社に調査入ってた人よ。密かに自分で調べていたらしいわ、今日始めて聞いたけど。
だから、人為的物証を見つけて欲しいのよ、そして藍を探して」
と、朱里は父 碧の行方不明の話を二人にした。
「朱里、僕は、君の父親の話を聞いていない。てっきり結婚するときに、辰巳の両親がいないことで、朱里は親の話をしないんだと思っていたが」
と、誠は不服げに言うと
「誠さん、私は神社の神隠しの話しは、付き合っていた時からしていたわ、何回もね」
「それは、そうなんだが」
と、誠は言葉を濁す。
……叔父さんには、悪いが俺でもその話しは、聞いたことある。あるが……身近に感じたことはない。
朱里叔母さんの父親だと聞いていれば、違うかも知れないが、今は叔父さんは、要らぬことは言わないで欲しいぞ…………
「通りで、浅葱が落ち着いて居ると思った。
率先して権力使い放題しているかと思ったのに、所轄の動員も一旦断るし、何か思うことが有るんだろうと、思っていたけど」
と、要は腑に落ちた。
「要は、朝から探してくれるんでしょ。カメラのデーターは、どうだったの?」
と、聞いてくる。叔父は、まだ魂が飛んだまま白くなっているが、そのまま答える。
「雑と2ヶ月分6台全部見たよ。何も問題は無かった。一人だけ俺の知らない顔の男が藍に、会いに来ていたが、藍が全く警戒していない表情だった。
知人だろうけど、後でコピーして皆に見て貰うようにするよ」
と、要が報告すると、魂が戻ってきた誠が、
「どんな男だ! それは?」
と、誠が聞いてくるが、今は無視でいい。
「ここ1月で、一番藍に会っているのは、やっぱり司だ。《ガーディアン》の中でも群を抜いている。
湊が会えない分を補っている節はあるけど、明日は無理にでも司と藍のやり取りを聞こうと思う」
「要。明日は、頼むな」
と、誠がトコトン項垂れている。
「叔父さん仕方ないよ、オヤジでも動けないだ。叔父さんも一緒だろ」
と、要も誠が気の毒になって慰めているが、朱里が追い討ちを掛ける。
「私は、定年までの有休を使ってもいいわ。仕事も辞めてもいいし」
と、鼻息も荒く言うので、
「ハイハイ。明日は、徹底的に探しますよ。どちらにしても。
最近は元気に成りつつあるが、藍だ。金銭目的ならもう一報入っているだろうし、藍個人目的でも、体調崩した藍を他人が手に負えないことは分かっている」
と、二人に言う。
「叔母さん、藍の部屋今から見る? 朝見る?」
と、聞けば、
「今から見ましょ、このままじっとしていても、私は考え込んでしまうから」
と、返事をする。
「そうだね。じゃ藍の部屋に行こうか」
と、要と朱里が立ち上がる。
「誠さんは?」
どうする? のだと言いたげに、朱里が聞くと、
「どうせ僕は、省に行かないといけないのなら、とっとと終わらせる段取りを考える。
ウダウダ周りに言われたく無いし、任すとこはお願いして、藍が帰ってきてもいつも通りの僕を見せたい」
と、誠は決意を口にする。
「二人とも、順応が早いわね。私は、時間がかかったわよ」
「当たり前だよ。叔母さんは子供だったんだ。40年も時間を掛けているんだ。
俺は、凄いと思うけど」
と、要が言うと、
「要! それは僕が言いたかった!」
と、誠が割り込む。そんな二人に朱里は、
「そうかしら、諦めが悪かっただけでしょ」
短編 「オレの彼女は《スペア隊》所属」を投稿いたしました。13話と26話にちょっとだけ出てくる人達のお話です。虚弱体質巫女の思案中に出てきたお話です。




