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虚弱体質巫女ですが 異世界を生き抜いてみせます  作者: 緖篠 みよ


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ミカエルの苦行

廊下をルカと一緒に歩き、館の皆さんに朝の挨拶をしながら、執務室に行く。

執務室の前に行くと、ルカがドアをノックして、声を掛ける。

入室許可の返事で、中に入るといつもは、ミカエル様とシアン国王陛下が、いらっしゃるのだが、ミカエル様だけだ。


……珍しい、シアン国王陛下どうなされたの?


「ミカエル様、おはようございます」

と、藍が言うと、


「おはようアイ。体調はどうだい?」

と、聞いてくる。


「はい。夜は寝付けなかったので、朝起きた時は良いとは言えませんでした。

でも、今は無理をせず休憩を多めにとれば、大事なく過ごせると思います」

と、何故か、事務的に報告してしまう。


……何故だろう? ミカエル様には、少し他の人と違う距離感がある。


いや、ミカエル様が普通なのだろう。

いくらシアン国王陛下が大丈夫だ庇護しろと言っても、此方の人からしたら、外国人で言葉も通じない、虚弱な娘なんて、厄介、迷惑でしかないだろうに。

周りが親身に関わってくれるのが、おかしいのだ。


ドアがノックされ、アートムさんが顔を出す。

「あっ、アートムさん、おはようございます」

と、藍が言えば、


「アイ、おはよう。ルカを少し借りるがいいかい?」

と、仰るが、元々ルカは、わたしのではない。


「はい。私より、そちらの用事を優先にして下さい」

と、答える。


「ルカ、頼みたいことがある来てくれ」

と、ルカを促す。ルカは、私に向かって


「アイ、私が迎えに来るまでミカエル様といるんだよ」

と、言ってミカエル様に、頭を下げ出ていった。


……うっわー、過保護だな。あぁいうとこ本当に、司と似てるわ。釘を差すとこ……


わたしとルカの、やり取りを見ていたミカエル様が、ソファーに座るよう指示してくる。

向かいに座るミカエル様が、


「思いの外早く、此方の言葉に慣れたものだね」

と、ミカエル様が言うが、


「シアン国王陛下を始め、みなさんのおかけです。ありがとうございます」

と、謝意を述べた。


こんな風にミカエル様と、二人っきりになるなんて、始めてのことだ。


「ルカとは仲良く過ごせて居るみたいだね」

と、言われたが、ルカとだけ仲良くしている訳ではない。

が、司と雰囲気が似ていることで、ルカに対しては弟のような兄のような、親しみ感が出ていてもおかしくない。


「そうでしょうか? 心配ばかり掛けて、申し訳ないですが」

と、答えた。


「それだけじゃないように見えるけど。僕には」

と、含みを持たせた返しだ。


ミカエル様は、次期領主様だ。現領主ロビン様不在の今は、領地統括されているが、ロビン様と奥様カリーナ様が帰領されれば、普段は王都の別邸で異母妹弟三人と暮らしているそうだ。

異母妹弟とはいえ、仲が良く一番年が離れている弟さんとは、19歳も離れていて親子並だね。


「アイ、何か困ったことなどは、ないかい?」

と、事務的に聞かれるが、


……この際、聞いておいた方がいいだろうと、決意しミカエル様に聞く。


「私は、この館に何もしないでお世話になっています。衣食住、医療にかかった費用などは、どの様にお返しすればいいですか?」

と、真面目に、背筋を伸ばして、姿勢正しく聞いているのに、


「ぷっぷっつ〰️あはっはっはっー」

と、笑い出した。


腕を組んでお腹を抱えて、ソファーの上を転げ回っている。


「うっうっうっ、ごめん、うっっアイは、うっぷ真面目だね」

と、口元に手をやって必死に、笑いを止めようとしているが、相当な笑い上戸だ。わたしは、本心で、


「いいですね。ミカエル様、私がそこまで笑うと翌日には、発熱するのでよく皆に止められました」

と、言えば、


「ぶっはっはっあっはっあっはっはっひぃー」

と、益々笑いが止まらない。


……何に、ツボに入ったのかミカエル様の笑いが止まらないよ……面白いこと言った覚えないけどな……


ミカエル様も、これは不味いと思ったのか、深呼吸して座り直しわたしの顔を見ては、吹き出して笑うのだ。

完全にツボに嵌まった状態だ。これがわたしであったら筋肉痛と発熱を伴ってベットで苦しんでいるだろう。


ミカエル様を見て、筋肉痛はありそうだと、落ち着くまで待つことにした。

ソファーでぐったりしている姿を見れば、気の毒にもなるが、わたしの質問を聞いてあそこまで笑った、ミカエル様に同情の気持ちはない。


「本当に、羨ましいです。ミカエル様」

と、ため息混じりで呟くと、


「ごめんよ、アイ。僕もこんなに笑ったの初めてで、うっ……どうしても……止まらないんだ。笑うより……苦しんだけど、アイなら死んでるね」

と、言って笑っている。涙を流しながら。


これでは、話どころではないが、ルカが迎えに来るまで、ここにいるしかない。

ドアがノックされ、ミカエル様は返事が出来ない。代わりに藍が返事をすれば、ニックがドアを開けて固まっている。


それもそうだろう。ミカエル様は、さっきまで綺麗にセットされたこげ茶髪をぐちゃぐちゃにして、ソファーに顔を埋めさせて、肩で息をしながら笑っているのだ。固まっているニックに、


「おはようございます、ニックさん。何故かミカエル様の笑いが止まらなくて、お話しできないのです」

と、藍が報告すれば、


「えっ、笑うだけでこのようになるのですか?」

と、聞いてくる。


「私の顔が可笑しいのか、見る度に笑って苦しんでおられるのですが、どうしましょう。ルカが迎えに来るまで、ここにいるよう言われていますのに」

と、藍も困惑顔で答える。


「今日は、別館で過ごす予定でしたね」

と、聞いてくるので、


「はい。メリアーナ様に会わせて頂くのです」


「カール様から伝言で、ミカエル様も手が空けば同行するようにと……」

ミカエル様に目を向けて、


「ミカエル様、アイを部屋に届けてきますから、ルカが戻って来たら伝えて頂けますか?」

と、ニックが言うと、ソファーに顔を埋めながら片手を上げて、


「わかったよ…うっ」

と、チラッと目が合った藍を見て、泣いている。

もう、笑うより苦しんでいる。ニックも呆れ顔で、


「部屋で待ちましょう。これでは、話も出来ないでしょうし」

と、わたしを促す。立ち上がってミカエル様に、


「では、ミカエル様。部屋で待機しておりますね」

と、言ってニックと執務室を出た。ドアを閉めたとたん、


「あはっあはっあはっはっはっ……くるしい……う」

と、ドア越しに聞こえてくる。


「さっきからあの調子なんです」

と、藍が言えば、ニックはビックリしている。


「ミカエル様の母君 クリネ様がいらっしゃった時は、よく笑っておられましたが、お亡くなりになってからは、あのように笑われたことなど無いと思います」

と、ニックが言うが、


「ニックさんの前で、機会がなかっただけでは?」


「いえ、心から笑っておられるお姿は、本当に大昔のことですよ」

と、ニックは言う。


「では、ディービス医師にお薬をお願いしたいと」

と、藍が言うと、


「お薬ですか?」

と、ニックが横でわたしを見る。


「わっ、私ではありません。ミカエル様にです。きっと筋肉痛といっても……えっと……お腹の辺りがビックリしすぎて、お昼から痛いと思いますよ。多分痛み止めを欲しがります」

と、藍が言う。


「まさか、笑っただけでお薬を、お求めなどなさいませんよ」

と、ニックは笑顔で反論したが、藍は、確信していた。

あれだけ、長時間笑い続けていれば、腹筋だけでなく、全身痛いだろうと。

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