フリーズマーク
ガウンは着たままベットに入り、掛布を腰までにして携帯を枕の脇に置いた。
「さてと」
独り言を言ってみる。今はなるべく思ったことを日本語から変換して話すようにしている。
そうしないとどうしても、シアン国王陛下に頼ってしまって、スムーズ話せる方に行ってしまうから。
……夜の独り言ぐらいは、日本語でも……いいじゃないか……
それに、シアン国王陛下と話せるようになって、言葉を教えて貰いながら聞いてみた。
わたしが、初めに気になったことを、聞いてみた。
この世界に魔法の類いは、あるのか?と、
「何だそれは?」
と、聞き返されたよ。
……あれ、無いのかな?
「手から、火や水、風とか出せるとか?」
と、聞いたら、シアン国王陛下が、
「アイの世界では、出せるのか?」
と、逆に聞き返されたよ。
「いえ、わたしの世界の人々は、そんなこと出来ませんが、道具を使って火を出したりは出来ますね」
……タネがある、マジッシャンだが。
「ここでも、道具を使えば出来るだろうが、何もないところからは出ぬぞ」
と、言われた。もっともです。
この世界は、小説やアニメみたいな魔法や特殊能力は、備わっていないようです。
極々 中世紀の時代位だろうか?
わたしも、その時代を生きたわけでないから、歴史の知識的に感じるだけだが。
現代人である、わたしにとっては不便さが先に出る。
が、ここで生活している人にとっては、極普通であるのだから、わたしがそれに慣れるしかない。
物語の主人公になったのなら、不便さを強調して自分の知識や経験を発展させていくのが、冒険や成長ストーリーの醍醐味なんだろうけど、わたしは、ただの一般家庭に生まれた、平民でおまけに虚弱体質巫女だ。
なんのストーリー性もない。
下剋上的要素もなければ、恋愛体質でもない。なんの目的でここに、呼ばれたのだろうか?
運良くターニーズウッド邸の人たちが、いい人で良かった。
シアン国王陛下が、日本語を話せて良かった。
そもそも、わたしのこの状態を元の世界にでいうなら、神隠しの分類に入るのではいか?
神隠しや人身御供の話は、昔話。お伽噺。
昔の人も考えたものだ。
小さい子ども時分に昔話として、教育、しつけ、道徳と自然に教えれる、最高の教育口伝だ。
残酷な話にも背景や情緒を入れた、考える物語りになっている。
めでたし、めでたし、の話の中に、暴力、権力、卑猥な話が沢山あるのは、大人になって知る引く知識だったりするけど、このわたしの物語は、何だろうね。
そろそろ、現実逃避は止めて作業に取りかかろう。
この携帯を使えるまま維持しときたい。
今までの日常的なやり取りが、残ったメールとフォトが消えてしまうには、寂しい。
向こうの世界ではクラウドに保管されているが、復元なんでこっちでは無理ゲーでしかない。
脇に置いた携帯を持ち、どう聞き出す。このウネウネキャラに、ずーとウネウネ。うねっうねっウネウネ
「ぷっっつ」
見てるだけで可笑しくなってきた。
「あなたを、何て呼べばいい?」
『なはないが、すこしまえにセイとよぶ、きょかをだした』
「私も、セイと呼んでいい?」
『そうよびたいのなら』
「私が、違う名前を付けて呼ぶことが出きるの?」
『だく、きょかすればな』
……だく? しょうだく? のだく?
「セイが気に入っているなら、変える必要はないね」
『そなたで、ふたりめだからな』
と、セイが答える。
「セイに名前を付けた人は、どんな人だったの?」
『われをうやまっていた、みこだな』
「みこ? みこさん? 敬って?巫女?…………携帯のアプリクリエイターでなくて!」
『そちは、なにをいっているのだ?』
「……セイは、どなた様でしょう……」
と、藍は馬鹿げていると思いながら、聞いてみる。
『われは、そんざいなどないが、そちらははくりゅうや、しらへびなどと、よんでいるではないか?』
「…………白彦神社で?……」
『そうじや、ながいことあそこにおるが、そちはしらぬのか?
セイとわれを、よぶみこはやしろのみこであろう』
「それは? 叔母の翠ですか?」
『いな』
「それは? 祖母の千種ですか?」
『いな』
「えーと、ひおばあちゃま……ひおばあちゃまは、芙巳さん、芙巳ですか?」
『いな』
「私が、知っている歴代の巫女は、母の朱里ですか?」
『いな、われをセイとよぶきょかをだした、みこはしずといった』
「静さん?………少し前と仰いませんでしたか?」
『すこしまえであろう?』
「私も勉強不足で、申し訳ないないのですが、静という宮司は何人かいらっしゃるのですが、最近でも200年前かと、それ以上前の方なら少し前というのは、可笑しくないですか?」
『そうなのか?ひとのこよみはしらぬが、へいあんというころあいときいたが』
「ヘイアン? へいあん? 平成でなくて、平安!」
『そちらには、わるいがみんないっしょにみえるぞ。きがつけばなが、ころころかわってはおるが』
……それもそうか、純粋な日本人黒髪で、長い髪を後で纏めた髪型のみ、一族なら顔や形は似てて当然、
平安時代の静様は、私でも知っている宮司の中でも有名な方だ。
今ままでも、その名を受け継いだ方がいたが、家系図をちゃんと見たことない。浅葱兄なら知ってるだろうけど。
「たぶんですが、1000年前の静様ですね。
セイ様は、白彦神社の白竜様? 白蛇様? 御神体ですか?」
『はくりゅうでも、しらへびでもないが、そうよばれてきたな』
「どうして?」
『どちらでもよい、ひとのこが、かってにつけた、かたちとなだ』
「うちのご先祖が勝手に、お姿に近い名前で祀っていたということですね」
『あぁ~そうなるな』
「それはそれは、うちのご先祖が申し訳ないことをいたしました! って!…………私は、今まで霊的なものが見えたことないのですが!」
『われが、みせているから、みえているだけだ』
「普段は見せていないと、見えない?」
『まれに、みえてはなしかけて、きたのもいたがな』
「その、セイ様はなぜ私の携帯の中にいらっしゃるのですが?」
『よりしろとして、はいっただけだが』
「初めから、中に入ってました?」
『いな、みこがこっちにくるときにな』
「あの、クルクルしてたのセイ様でした?」
……フリーズしていたクルクルマークでなくて、クルクルの次が、ウネウネになって……うねうねって!
『まだ、なじめぬので、クルクルしてたな』
……馴染めなくてクルクルって、ワンちゃんみたいですね……
「セイ様が、私をこの世界に連れて来たのですか?」
『つれてきたのでない、もどしただけだが』
……戻す? 間違いで連れて来られた?
「戻すも何も、私は、見たことも来たこともない世界ですよ」
……きっと何かの間違いだ、違う巫女さんと間違われた。わたしには、連れてこられる謂れはない。
『われも、りもなくせぬぞ』
「えっ、理由があって、私はこちらに連れて来られたというのですか?」
『だく、そなたきづいておらぬのか?』
「何をですか?」
『そなた、あのままでは、すぐにはかなくなっているよな』
「はかなく? 儚く?……死ぬという意味ですか?」
……えっ?、今ままでも、倒れたことは数知れずあるが、命の危険性までは、言われたことない。
危険性が全く無いわけではないが、今の医療技術で生命維持は出来ると思う。生命維持は……
『きづいておらなんだか?』




