疑惑
「ウチの藍は、自分から居なくなったりしない。
人為的なのか、人外的なのかは、分からないけど」
と、朱里が言う。
「人外的なことなんてあるのかい?」
と、要が聞いてきた。
「あるわよ。少なくとも私はそうだと思っているわ」
と、朱里が言うと、要と湊が、
「「えっ?」」
と、驚く。
「人為的なことなら、どんな手を使っても探し出してみせるけど、そうじゃない場合は、手に負えないと思うわ」
と、朱里が呟く。
「じゃぁ、人為的な事を先に調べて貰うでいいんじゃないか?」
と、誠が入って来た。
普段は、藍にヨワヨワの過保護振りしか見せてない誠が、軽くウェーブのある髪を固めていたいる筈の髪の毛が、爆髪している。
妻と娘に目尻を下げているいつもの誠の目が、据わっている。
「人為的な事を調べる組織がこの国には有るんだ。ウチの娘を強制的に連れ去ったものが……いたとしたら…………ただじゃおかない」
と、誠が静に切れている。
「兄からメールが来たよ。所轄の動員を断ったと。 朱里が人為的と人外的というのなら、はっきりさせられる方をすべきだ」
と、誠は言う。
「そうだね。私もその方がいいと思うよ」
と、修次も賛同する。
「それなら朝一番に調べて貰うよ。お義母さん、お義姉さん、浅葱、いいですね」
と、鼻息荒く凄む。
「誠さん、落ち着いて、ドウドウ、ドウドウ」
と、朱里が宥めるが、本当に誠から湯気が出そうだ。
「朱里、僕はね、僕はね、これでも我慢して押さえているんだ。
会議を強制に終わらせたから、明日も会議がある。抜けれそうにない。
が、娘のことを心配する僕を何で、誰も彼も止める。
別に今すぐ隣からロケットが飛んできても!
海から不埒ものが入って来ても!
空港から、野蛮人が入り込んでも!
僕が止めれる訳じゃない!
それはそれで、違う庁の問題だろ!
机の上の会議で、その問題が無くなるのなら幾らでもしてやるが、その時間ウチの顔を揃えていても無くなったりしない! 明日もするというが、僕が居なくても会議位出来るだろ!
頭の中の構造は、一部は優れいるのに、一部は世間知らずだ」
と、誠は、切れている。
「分かったから、誠さんの部下のことも考えてあげて、今ごろ寝ないで考えてくれてるから、落ち着いて」
と、朱里が言うと、
「驚いた! 叔父さんがこんなに怒っているのを初めて見た。
藍のことで、オロオロしてるか、叔母さんにデレデレしてることしか、見たことない」
と、要が言うと、一同頷く。
「要! あんたのお父さん、お義兄さんも同じ状態だと思うから、何とか止めて!」
「イヤイヤ、この状態なら無理でしょ」
と、要が言う。
宗一が浅葱を見るが、浅葱もどう纏めていいか思案顔だ。
「浅葱! さっきの着信履歴見せて、俺が所轄に電話する。
朝イチで、入って貰うでいいか?」
「あぁ、じゃぁ、この部屋はこれ以上使わない方がいいな」
「そうだな、明日ここに来れない人は、使ってない湯飲みでいいから、指紋を残して置いてくれないか。
誰だか分かるようにしといてくれると、助かる」
と、要と浅葱が仕切る。
「わかった。明日の予定を聞いといていいか?
瀧野家は、父さんは?」
と、修次にふる。
「私は、出張明けだから午前中は、報告して昼には、戻るよ。午前中はここにいても邪魔だろうし」
と、修次は答える。
「瀧野家は、わかった。香山家は?」
続きに聞く。
「明日は、この時間なら空くけど、患者さんをほっとくことは出来ないから来れない。
帰ってちょっと調べたいこともあるから」
と、順一が言って宗一を見る。
「僕は、朝から来れるけど、修次君と一緒だ、午前中は邪魔になるようだし、お昼から来るよ。
僕も順一と同じで調べたいことが、あるから」
と、宗一が答える。
「俺は、明日は、大学に手続きが有るんだ」
と、湊が項垂れている。
「わかった。湊はすべき事をちゃんとしてくれ。
時間がある時でいいから、無理をするな」
と、浅葱が言う。
「司は、藍との予定を入れていたから、来るでしよ。宗一先生と一緒で?」
と、宗一を見ると、宗一が頷いた。
「それより、宗一先生と順一先生の調べたいこととは?」
と、誠が二人に聞く。宗一と順一は顔を見合わせて、順一が答える。
「父さんに指摘されたことだよ。藍ちゃんの荷物の中身のことや、今までのカルテに目を通したいと思ってね」
「僕も同じことを、考えていたから手分けすればいい」
と、二人が誠に答える。
「じゃ、その件は、香山家にお願いするしかないので」
と、浅葱は言うが、
「辰巳家はどうします?」
と、修次が聞く。
「俺は、家に帰るよ。家に何かしら連絡がないとも限らないから。
準勤日勤明けで、明日は非番だから、朝から俺も立ち会うし。
叔母さんか、叔父さんは、家で藍の部屋を調べるのを付き合って欲しんだけど。
幾ら一緒に暮らしてても、部屋の中を調べるのは、俺一人じゃないほうがいいでしよ」
と、要が叔父叔母を見て言う。
「それなら私が藍の部屋を見るのを、付き合うわ。
明日は、要と一緒に朝から来るし、誠さんは、仕事を片付けないと、それにお義兄さんを止められるのは、誠さんしか居ないのよ。
お義兄さんをちゃんと、止めてね」
「誠さんと要に話があるから」
と、朱里が言う。
「話って?」
と、誠が聞くと、
「帰ってからね」
と、朱里が二人を促す。
「叔父さん、指紋残しといてな。
俺は、帰ってから家の防犯カメラと周囲のカメラもチェックしたいし、家で出来ることをしときたい」
と、要が言うと、
「わかった。辰巳家は自宅の方を頼む」
と、浅葱は言って千種に向くと、
「おばあ様、朝俺は本堂奥の書物を見たいですが、構いませんか?」
と、聞く。千種は、
「構わないよ。私は付いて廻らないといけないだろうから」
「兎に角、明日は、要が段取りしてくれるでいいんだな」
と、浅葱が言って、要が
「あぁ、ハッキリさせよう」
「わかった。《ガーディアン》連絡網に、一斉送信するが、わかったこと等は、逐一送信するでいいな」
と、その場は、解散となった。
瀧野家は、そのまま母屋に四人で移動して、辰巳家と香山家、三人ずつが母屋下の駐車場に、それぞれ向かう。
「順一先生」
と、誠が呼び止めると、香山家の三人とも足を止めて振り返る。
「藍の身体に何か心配ごとが、あるのですか?」
と、誠が聞くと、順一が
「いえ、この前の検査では何も問題はありません。
念のため今までのカルテを父と見直そうと思ってはいますが」
「では、何に引っ掛かっているんですか?」
と、朱里も聞く。
「藍ちゃんは、自分の身体に詳しくなっているけど、不調を言わないリスクも理解しているから、この前までは異常はないと言える。
でも、直近で変調を感じて、今日報告するつもりだったか、明日報告するつもりだったかは、分からない。
もしかして、経過を自分で確かめてから次の受診で報告するつもりだったかも、ずっと見てきた僕達でも分からないよ」
と、順一は言う。
「そういうことだ。
何か分かったらちゃんと、連絡するから」
と、宗一も同意見だと言う。
「気のせいなら、いいんだか」
と、順一が呟いたが、すっかり日が落ち参道を照らす街灯は、駐車場に向けられ足下には届かない。