日常の変化
香山家が合流して、社務所の中にみんな入ろうとした時に、浅葱の携帯が鳴った。
浅葱が携帯の画面を見ると、知らない登録されていない番号から、掛かってきた。
浅葱が息を飲んで、緊張したことが周りにも伝わった。
どうしたと? と隣にいた修次が、浅葱の携帯を覗き込む。
「知らない番号だ」
と、浅葱は報告して、
「はい」
と、通話に出た。
「すみません。そちら瀧野 浅葱さんの携帯番号で、間違いございませんか?
○○○○警察署の署長をしております、殿間といいます」
と、間違い電話でないらしいが、
「そうですが?」
「そちらのご自宅に、刑事課か地域課若しくは、希望の課を聞くように言付けられました」
「………………」
「あのー、ご希望は?」
「えっとですね。それは、誰からの指示ですか?」
「上からだとしか聞いていません。
お名前と携帯番号のみで、出動させるのがどの課になったかを、後程連絡するよう警察庁の担当が上杉さんという方に連絡するように言われています」
と、携帯から声が漏れ聞こえている。
浅葱は、周りに視線を巡らせて答える。
「申し訳ありませんが、出動依頼は一旦取り下げます。
その上杉さんに、そうお伝えください」
と、浅葱が電話の相手に言う。
「本当にそれで宜しいのですか?」
「はい。上の方には、此方から伝えます」
「分かりました。変更があれば、この番号にご連絡ください。失礼します」
と、携帯の殿間さんが、切った。
「はぁーっ」
一斉に見られるが、
「辰巳家の誰かが、警察を動かしたみたいだ」
と、浅葱が言うと、鼻を噛みながら朱里が、
「ゴメン。多分剛お義兄さんだわ。
要なら自分で乗り込んでくるでしょから」
と、言っていると、ドアが開いて要が立っていた。
「ねっ!」
と、朱里が言うが、
「藍はまだ見つかってないんだな。この様子だと」
と、勤務明けのまま来たのか、いつものラフな格好ではない。
「浅葱のメールがなければ、昼からどうやっても帰って来てたよ」
と、要がいうが、入口で立ったままだ。
「誠さんは、まだ掛かるみたい。年度末だからね。
どうしても、抜けられないみたいだし、進めて」
と、朱里が浅葱に言う。
「ウチの親父もそうだろう。鬼のマークが沢山送られてきた」
と、要も言う。
社務所の中は、瀧野家、千種、翠、修次、浅葱。
辰巳家、朱里、要。
香山家、宗一、順一、湊。
「俺が主導で話して行くでいい?」
と、浅葱が朱里に確認する。周りにも頷く。
「あぁ、元々《ガーディアン》は、浅葱が藍の為に、作った組織だ。こんな使い方をするとは思わなかったが」
と、要が賛同する。
「うん。俺だってこんな使い方するなんて夢にも思わなかった。が、今はトコトン利用するつもりだ」
と、昼間に纏めたカレンダーの裏を見せる。
「時系列にして、写メしたものだか……」
一斉送信してあるから、同じものが携帯に届いている。
「今日、藍の体調を一斉送信しているのが、おばあ様だいうことは、朱里叔母さんも誠叔父さんも要も、朝家で藍に会ってないんだな」
と、辰巳家に聞く。
「そうね、私も誠さんも藍が起きる前に家をでてるわ」
と、答えて要を見ると、
「俺は、準勤明けの日勤だったから、そもそも昨日は、藍と会ってい……」
と、要が考え込む。
「……というより、俺、藍とはメールのやり取りばかりで、会ってない気がする……同じ家に居てても……」
と、要が困惑しだした。
「いつから、顔を見てない?」
と、真剣に考え出した。
「叔母さんは?」
と、朱里に聞く。
「えっ、藍の卒業祝いをしてからは、顔を見ても話せて無いかも、おはようやおやすみの挨拶はしてても……用事がある時は、メールのやり取りばかりだわ」
と、朱里も驚愕している。
「本当にそうなのね。ここ最近の一斉送信は、私か浅葱に母さんね」
と、携帯を見ながら翠が答える。
「学生の時は、昼までに一斉送信が無いと、俺がメールで聞いて送信していたから、違和感無かったけど」
と、浅葱が答える。
「じゃぁこのところ藍と、会えて居たのは、瀧野家と司ぐらいか?」
と、要がカレンダーを見ながら言う。
「明日も司と予定があると言ってたしな」
と、宗一が言う。
職場となった白彦神社も、一週間ほど前だ。2月分のカレンダーは捨ててしまってないが、3月のカレンダーには、司の名前が所々書いてある。携帯のスケジュールと、重複しているが。
「それが、普通なんだと私は思うよ」
と、急に修次が話し出す。
「藍ちゃんが、段々自己管理出来るようになって、付きっきり側にいてた時と違って、家族でも顔を合わすことが少なくなるのは、当たり前だと私は思うよ」
と、修次が言う。
「今までは、密接だった分、メールでやり取りできる分、繋がりが感じられてたけど、今それがないから不安で心配なんだね」
と、修次が言うと、
「俺、《ガーディアン》のみんなと会うの久しぶりだわ」
と、要が言い出した。
「俺も」
と、湊も頷く。
「湊は仕方ないよ。国家試験があったんだし」
と、浅葱が言うが、
「浅葱、どうする? 俺は、事件性を感じ無いんだけど、実際藍は居ないのが、現状だけど」
と、要がカレンダーの裏を睨みながら言う。
「叔母さん、俺も藍が人に拐われたり、自分でいなくなったりとは、思えないんだ。突然いなくなったとしか」
と、浅葱が言うと、
「そんなことってあるのか?」
と、湊が喚いた。
「なんで? みんな落ち着いていられるのか、俺には、わからないよ」
「じゃあ、湊はこの状況を見て、藍が拐われたと思うのか?《スペア隊》も藍が朝神社に行く姿を見ているけど、それからは誰も見かけていないんだ。
母さんが12時25分にした一斉送信は、《ガーディアン》だけでなく《スペア隊》にも行っている。誰一人朝見かけたきり、藍は目撃されてない」
と、浅葱は説明する。
「じゃぁ、この近くいるかも知れない!」
「位置情報がここだから、探すのは当たり前だ。
探したよ。宗一先生も一緒に探したけど、藍は見つからなかった」
みんな黙ってしまった。が、宗一先生が、
「なぁ、順一。藍ちゃんの体調に変化は無かったか?」
と、順一に聞く。
「どういうこと?」
と、順一も聞き返す。
「今回の藍ちゃんが消えたことと、別にして聞くんだけど、問診、診察に変化は?」
「どうしてそんなことを聞くんだい? 父さんだつて定期的に藍ちゃんのカルテに目を通しているじゃないか」
と、順一が答える。
「う~ん、ちょっとな。浅葱君、藍ちゃんのそのトートバッグを取ってくれないか?」
と、宗一が言うと、浅葱は宗一と一緒に確認した、藍のトートバッグを取り宗一に渡した。
中身はそのまま、キャンディ袋未開封と半分になったキャンディ袋、小説、巾着、巾着の中身はハンドクリーム、リップクリーム、生理用品、常備薬を全部机にだした。
「僕が気になるのは、これとこれ」
と、キャンディと痛み止め薬を指で差す。
「アメの量と、藍ちゃんはウチの処方箋の薬以外は服用しないはず。何で市販薬の痛み止めがあるのか聞いてないか?」
と、宗一が問う。
「予備じゃないの? そんなに変かしら?」
と、朱里が聞く。
「このトートバッグだけじゃない。隣の部屋のカバンにも小説以外同じものが入っていたよ」
と、宗一が答えると、順一が
「藍ちゃんが低血糖症を起こしているというのかい?」
「うーん、口が寂しくてキャンディを舐めたりするわよ」
と、翠が言うと、
「今のキャンディは、人工甘味料を使用してて、虫歯に成りにくく、糖分を気にする人ように作ってあるのが、多いんだ」
と、キャンディ袋を裏にして
「ちゃんと砂糖を使っているキャンディを選んでいる」
と、宗一が言うと
「偶々でなくてですか?」
と、要が聞く。
「この前の血液検査の数字は、父さんも見ましたよね。
それに、藍ちゃんは、不調を伝えないリスクを良く知っていますよ」
「そうなんだけどね」
と、宗一も言う。
「叔母さんは、どう思う?」
と、浅葱が朱里に聞くと、
「ウチの藍は、自分から居なくなったりしない。
人為的なのか、人外的なのかは、分からないけど」
と、朱里が言う。
「人外的なことなんてあるのかい?」
と、要が聞いてきた。
「あるわよ。少なくとも私はそうだと思っているわ」
と、朱里が言うと、要と湊が、
「「えっ?」」
と、驚く。
「人為的なことなら、どんな手を使っても探しだしてみせるけど、そうじゃない場合は、手に負えないと思うわ」
と、朱里が呟く。