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迷子

「浅葱が産まれてからです」

と、修次が答える。


「ほぉー」

と、宗一が思案顔になると、


「古い神社や古代史にも、俄に信じられないことが、伝承としてあります。

それは、私にとっては記憶や知識として、残るだけです。

が、この白彦神社は、男子が産まれないのです」

と、修次が答えた。


「調査の時に、神隠しってあるんだ、そんなことが残ってるだ、凄いな位ですよ。

でも、翠が身籠って女の子用しか揃えなくて、頑なに女の子だと信じてて。

でも、実際に産まれたのは、男の子の浅葱でした。何回も駄目に成りそうな危機を乗り越えて、産まれて来てくれた。

浅葱のお○ん○んが消えないか、何回も確かめましたから」

と、修次が笑いながら言う。


「ぶっぅ」


「今もちゃんと付いてるか?子供の頃しか見てないけど」


「あるよ!」

と、浅葱が憮然に答える。


「それに、浅葱の髪の毛ですね。襟足のみ赤髪が生えている。

これが浅葱だけなら宗一先生が専門のように遺伝的な悪戯や、偶然はあるのでいいんです。

でも、藍ちゃんもとなると隔世遺伝しか考えられない」

と、修次が推察を言う。


「うん。そうだね」

と、宗一も頷く。


「で、本格的に調べて見たものの、お義母さんや翠には聞けず今に至りますが、宗一先生はご存知何ですか?」

と、修次が伺いながら問う。




「そうだなぁ……うん。私が墓まで持っていくと決めていること以外は話すよ。

千種ちゃんしか知らないこと、僕しか知らないことも有るだろうけどね」

と、修次と浅葱が頷く。




「44年前の三月に千種ちゃんが、高専を出て後は資格取得の実績年数を獲るだけだった。

僕は医学生で、まだ一年残っていたから大学と実家の医院を行き来していた、春休みのある日

実家に、瀧野家から家に電話があった。

当時の宮司 芙巳おばさんから、急患じゃないけど診て欲しいと。


父の徳蔵に伝言すると言うと、僕でいいと言う。

すべきことは、有ったが態々電話してきたことだしと、瀧野家に行ったんだ。


でも、母屋には誰も居なくて、社務所に顔を出せば、縛られて千種ちゃんにどつかれている碧がいたんだ」


「「はぁ?」」


「境内で倒れていた所を、千種ちゃんが見つけたらしい」


「行き倒れですか?」

と、修次が聞く。


「そうだと思ったから、芙巳おばさんと千種ちゃんで社務所まで運んでウチに連絡をしようとしたら、気が付いて暴れたらしいだ」


「それで、縛られていたと?」

と、浅葱が聞く。


「まぁ、普通の女性なら男相手に、立ち向かったりしないだろうけど、芙巳おばさんと千種ちゃんだからね。

そこいらの男連中じゃ敵うわけないけど、結構手こずったらしいよ」


「それで、どつかれていたと?」

と、修次が聞く。


「あはは。でもそれだけ暴れられるなら大丈夫だと分かるよね。

分かっていたけど言葉が通じないから、僕が呼ばれたんだ」


「えっ!」


「なんで?」


「外国人だからさ」

と、宗一が、


「英語とドイツ語は、何とかなるけど、それ以外となるとね」


「と、いうことは、英語圏でもないと」


「いやぁー。お互い意志疎通出来なくてさ、おまけに真っ赤な髪を、そうだな浅葱君の髪の長さよりもう少し長くて、瞳は青色とも緑色とも云えない色で、日本人のわけないよね」

と、宗一が当時を思い出しながら語る。


「若そうだけど、異国の洋服が綺麗なままで、そうなると白彦神社で迷子になって寝ていた?と、結論付けたわけだが、

さーて、どうするか?」



「どうしたんです?」

と、修次が問う。


「勿論、縛ったままにも出来ないし、野放しも出来ない。さっきまで暴れていたからね。

仕方がないから、地元の警察に連絡して来て貰ったんだけど、当時英語を誰も喋れないのに、英語も通じ無いとわかったら、僕に丸投げなんだ。

警察は外務省や他の地域に迷子の外国人届けが無いかと一様調べてくれたが、該当者が居なかった」


「漂流者?」

と、浅葱が言うが、


「その身なりでは、目立つか?」

と、自分で否定した。


「そうなんだ、スパイや漂流者を疑ったが、それにしたら間抜け過ぎるだろ。目立ち過ぎるし」

と、宗一も賛同した。



「そんなゴタゴタを見ていた千種ちゃんが、まだ名前も分からなかった碧の面倒を見ると言い出した。


どうせここには、誰も来ない、来ても限られた人しか来ないから、自分が面倒見る」

と、千種が言ったと、


「警察もここなら、近くに民家もない強い二人が居る、言葉も通じなく牢屋に入れてた後で、国際問題に成っても困ると、瀧野家と僕に任して帰ってしまった」

と、当時の事情を語る。


「警察も始めこそ様子を見に来ていたが、碧が落ち着いているを確認すると、関わった担当も配置替えや移動で忘れられて、引き継ぎも無かったみたいだし」

と、宗一は言う。


「そのうちに、千種ちゃんが言葉を教えたり、芙巳おばさんが、世話を焼いたりしてた。

そうなれば、僕がたまに顔を出した時には、二人は仲良くなっていたんだ、極自然にね」

と、宗一が経緯を説明した。


「お義母さんが、言葉を教えていたなら話せるようになったんでしょう?」

と、修次が聞くと、


「話せるなら素性は、分かったんじゃ」

と、浅葱も聞く。


「あぁ。話せるからね。でも、話したがらないんだ」

と、宗一が言って。


「まだ、片言の時に聞いても、間違った解釈に成るよりは、話したい時でいいと、当時身元請け合いをしていた芙巳おばさんが、追及しなかったんだ」


「でも声を掛けるにも、名前も分からないから、お互い何とか呼ぶかで、千種ちゃんが’碧’と付けたんだ。


ジェスチャーで「私は、ちぐさ」「ちぐさ」と、して、芙巳おばさんは、お母さんだけど碧のお母さんではないから、宮司様と呼ばそうとしたら、芙巳おばさんが嫌がって「ふみさん」と、なったんだ。


だから、結婚した後も義理の母親でも’ふみさん’呼びのままだった」

と、いきさつを語る。


「私は、宗一でなくてさ、’そういち’が、碧には、始め呼び難くて’そうにー’と、呼ばれていたな」

と、宗一が言う。


「僕も碧とは、色々話すことも多くなって碧が千種ちゃんに好意を持って接することを相談されたりしたけど、結構複雑でさ、幼馴染みだけど、妹みたいに感じていから何とも言えなかったよ」

と、宗一が苦笑いを浮かべた。


「だから、碧が黙って一人で何処かに行くわけがないんだ。

可愛い娘を置いて消えるわけが、ないんだ。

強制的なことが、あったとしか考えられない」

と、宗一が言う。


「宗一先生の話で、お祖父さまが神隠しに有ったかも知れないという展開は、分かりました。

でも、藍がそうだとは、断定できませんよ」

と、浅葱が言う。


「それは、そうだよ。

私も断定してるわけではないよ。可能性の話だ。

ここには、理解しがたい伝承があって、経験者が少なからず居ると、知って貰った話だ」

と、宗一は言う。


「少なからずの内が、お義母さんと翠に朱里ちゃんだと」

と、修次が呟く。


「宗一先生は、お義父さんの素性や本当の名前に興味は、無かったんですか?」

と、修次が聞いたら、浅葱も興味が有るらしい。


「別に隠す積もりはなかった筈だよ。

翠ちゃんが産まれた頃に、聞いたことがあるんだ。

本当の名前があるのに、戻さないのか?と、

そしたら、「このままここで生きていくのに、碧のままでいいと、本当の名前は、ここでは必要がないから」と、言われたよ」

と、宗一が言う。


「じゃぁ 宗一先生は、碧お祖父さまの本当の名前を聞いたんですね」

と、浅葱が突っ込む。


「あぁ、聞いたよ。知りたい誘惑に勝てなくてね。千種ちゃんが知っているかどうかは、聞いたことがないから分からないけど、碧の本当の名前は’シアン’だと、教えてくれたな」

と、宗一がいう。


「「シアン」」

と、修次と浅葱が声が揃った。

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