砂霊(さりょう)(2)
弾んだ声でハシュラムが訊ねたが、祐二に分かるわけがないので、答えを求めてハシュラムを見ると、小さな目をきらきら輝かせながら、
「この辺りの地図なんだよ!」
と言った。
「・・・それって、すごいことなのか?」
拍子抜けして軽い怒りすら覚えている祐二に対し、意外にもハシュラムは真剣で、
「もちろんだよ!」
と断言した。
「この辺りに人が住み始めたのは約二千年前。どんなに古く見積もっても三千年は下らないと言われてる。」
「・・・随分古いな。」
祐二が面食らっていると、ハシュラムは驚くには当たらないという風に首を横に振った。
「二千年なんて新しいほうだよ。上古代から都市が築かれていたというカラジ地方なんて、五百万年前から人が住んでいたとされているんだよ。太古のものも含めれば、あの地域にはたくさんの遺跡があるけど、現存する最古の都市でも十万年前に造られたと言われているんだ。二千年なんて、大したことないよ。」
ハシュラムの言う“人が住む”は、文明の痕を残せるだけの人間がいたという意味だが、詳しい歴史や地理の話はともかく、あまりの感覚の違いに、この世界では時間の単位が違うのかとさえ思う。眩暈がしてきそうだ。
「ところがだよ!」
ハシュラムの話はまだ続く。
「この地図は一万五千年前のものなんだ!」
ハシュラムの興奮が一気に高まり、目の輝きが増していく。
「どうして分かるんだよ。」
思わず突っ込んでしまったことを、祐二はすぐに後悔した。ハシュラムが嬉しそうに、事細かい説明を延々としてくれたからだ。
とにかく、二千年以上前には人は住んでいないと思われていた土地に、それを覆す証拠が存在し、当時の様子を知るのに欠かせない遺跡が、この町のすぐ近くにあることが分かった、ということが、ハシュラムにとってすごい発見なのだった。
ハシュラムは明日にでもそこへ調査に行くのだと言い、それだけならまだしも、
「そうだ。君も行かないか?ぜひ行こう!」
と言いだした。いい加減疲れてきていた祐二は、
「何で俺が・・・」
と言いかけて口をつぐんだ。ハシュラムはもはや人の言うことなど聞いていない。元は大人しそうな小さな目が、期待と興奮で大きく見開かれてキラキラと輝いているものだからたじろいでしまったのだ。祐二は知らず知らずのうちに後退りしようとして本に阻まれ、体を仰け反らせていた。
「分かった!行く!行くからその目はやめろ!」
言ってしまった後で、少しも興奮の収まる様子のないハシュラムを見て、やっぱり後悔したのだった。
翌朝、まだ完全に日も昇らないうちに叩き起こされた祐二は、満面の笑みを浮かべたハシュラムの後ろで大欠伸を繰り返しながら町を出た。アイシャが持たせてくれた食糧とハシュラムの発掘道具を二人で分担して背負い、乗り物を使うと出費が嵩むので徒歩である。
町の大門を出ると、正面に横に広く伸びている台地が見えた。振り返ると、町の背後にも同じような台地がある。町があったのは、谷間のようになっている土地だったのだ。昨日来たばかりの時は、そんな地形も気に止まってはいなかった。
町と町を結ぶ街道は谷の中を長く真っ直ぐに、地平線に至るまで伸びている。ハシュラムの目指す遺跡は台地の上にあるので、二人はすぐに街道を外れ、踏み固められていない柔らかい砂の上に踏み出した。町をぐるりと回って大門と反対側まで歩く間は平たい土地なのでそれほど苦労はなかったのだが、だんだん傾斜がついてくると足元の砂は頼りなく崩れ落ち、一歩ごとに進める距離は確実に減っていった。折角数歩かけて登ったものを、足下が崩れるために呆気なく滑り落ちる。ここを登るのは無理だと言おうとしてハシュラムを見ると、全く諦める様子もなく斜面に取り付いている。きっと、何を言っても無駄だろうと悟って、祐二もまた諦めた表情で砂の斜面に挑戦し始めた。
斜面を登りきって、祐二はその場に引っくり返った。足下がおぼつかなかったのは下の方だけで、上に上がっていくにつれ砂は少なくなり、からからに乾燥した硬い土になって登り易くはなったのだが、疲れることに変わりはない。
「ユージ、何してるんだ。こんな所で寝てる暇はないよ。」
だというのにハシュラムの奴はちっとも堪えてないらしく、へたばって伸びている祐二をせっついてくる。ハシュラムはよく発掘の旅に出ているから、こんなこと日常茶飯事で大した事ではないのかもしれないが、祐二にとってはかなりハードな運動なのだ。文句の一つでも言ってやろうと思って体を起こしてみたが、嬉しそうに輝いているハシュラムの顔を見ると、言っても無駄なような気がして溜息が出た。そして引っ張られるままにのろのろと立ち上がり、また歩き出したのだった。・・・と思ったら数歩でハシュラムは立ち止まった。
「・・・ここだ。」
「・・・へ?」
祐二がいくら見回しても、変化のない一面の大地が続いているだけで、遺跡と呼べるようなものは何もない。
「ほんとにここなのか?」
疑いの目でハシュラムを見たが、ハシュラムは何も答えずにじっと足元の地面を見つめている。かと思ったらいきなり地面に這いつくばり、素手で地面を払ったり、そのまま這いまわったりし始めたのだ。唖然と見ている祐二の前でしばらくそうしていたが、徐に立ち上がり、背負っていた荷物を下ろしながら、
「ここだ。間違いない。ユージ、手伝ってくれ。」
と言った。その顔は生き生きと輝き、頬が紅潮している。一応専門家である彼がそこまで確信を持っているのなら祐二は頷くしかない。荷物から道具を取り出してみたものの、発掘のやり方なんて知らない祐二は、ハシュラムがしていることを見様見真似でなぞってみたのだった。ハシュラムは既に自分の仕事に夢中で、いちいち口で説明してくれなかったのである。
あまり時間の経たないうちに、色も硬さも今までと違う地面が現れた。粗く削った石のようだが、明らかに人工的に敷き詰めてある。石畳のようだ。顔を上げると、ハシュラムの手元にも、同じものが現れていた。祐二は正直、感心していた。一見何も無い地面の下から、良く探し当てたものだ。さすが専門家、と言うべきなのだろうか。以前テレビで見たことのある発掘は、地面の下に埋もれた遺跡を見つけ出す為に、人工衛星を使ったり色々な機械を使ったりと、位置を確定すること自体が大変なことだった。それを、地面を這い回っただけで見つけてしまったのだから、感心せざるを得ない。
(待てよ・・・)
作業に戻ろうとした祐二は、恐ろしいことに気がついた。
「なあ、おい、ハシュラム!ここってどれ位広いんだ?まさか全部二人だけで掘り出そうって言うんじゃないだろうな!?」
ところがハシュラムは事も無げに言い放ったのだ。
「もちろんそうだよ。」
冗談ではない。発掘というものがそんな簡単なものでないことくらい祐二でも知っている。何十人、何百人もの人間が寄って集って掘り進めて、何ヶ月も何年もかかるもののはずだ。
「大丈夫だよ。そんなにかからないから。」
「んなわけねえだろ!」
あっさりと言ってのけるハシュラムに食ってかかった祐二だったが、全く相手にされず、今日だけだ、明日は絶対に来ないぞ、と固く心に誓いながら作業を再開したのだった。
ところが意外にも、ハシュラムの言う通りとなったのである。そんなに仕事をした覚えはないのに、一息ついて見ると、ハシュラムも祐二も、思っていた以上に広い土地を掘り起こしていたのだ。全体を掘り出したわけではなかったが、この町が石とレンガで造られ、眼下に見えるアイシャ達の町よりしっかり造られていたようだということは、何となく推測できた。ハシュラムはもう掘り起こすのを止めて何かを熱心に調べていたが、祐二は黙々と遺跡を掘り出す作業を続けた。
大気の色が薄ぼんやりした黄色に変わり、影が長くなってきた頃、ようやく顔を上げた祐二は、信じられない程の広い土地が姿を現しているのを見て目を疑った。自分では掘り出した覚えのない部分を含めて、土と砂の下に埋もれていた町は、その様子がかなりよく分かるまでになっていたのだ。
比較的狭く仕切られたレンガの部屋が連なり、所々に小路や階段の跡のような段が見られ、不規則に走る石造りの大きな道があり、しかも歩道と車道が分けられていたらしいその道には、水を流す為と思われる溝まである。比較的浅い所に埋まっていたとはいえ、一日でこれだけ進むなど、素人の祐二にだって到底信じられないことだ。途中からはほとんど一人での作業だったというのに。
この世界は本当に時間の進み方がおかしいのではないだろうか。いや、それ以前の問題の気もするが。
首を傾げながらハシュラムを探すと、彼は谷を望む斜面の近くに佇んでいた。谷の底にはアイシャ達のいる町があり、街道が谷底に細い筋を作っている。斜面に面したところは、かなり大きめの石をしっかり敷き詰めた広い道になっていて、所々に、なぜか斜面に向かって下っていく階段があった。ハシュラムは発掘した町に背を向けて、谷を見下ろすでもなく、向かいの台地に目を向けるでもなく、ぼんやりと中空を見つめていた。足下には、何に使うのか祐二にはさっぱり分からない道具が散らばり、手には何かを握っている。
「・・・そうか。・・・そうなんだ。」
祐二が側に来たことを知ってか知らずか、ポツリとそう呟くと、少し目線を下げて、また黙り込んでしまった。ぼんやりしているように見えたが、何かを真剣に考えているようでもあった。彼の目は、今までになく真剣に、見えない何かを見つめていた。
しばらくそうしていたのだが、日はどんどんと傾いて、大気を染める色が黄から朱に変わる頃になってもまだ身じろぎせずにいるので、さすがに祐二は辛抱しきれなくなった。いい加減帰らないと夜になってしまう。
「ハシュラム。おい、ハシュラム!」
軽く肩を揺すって呼び続ける祐二の声に、ようやく自分の世界から帰ってきたハシュラムは、ゆっくりと振り返った。
「何?」
「何?じゃなくてさ、そろそろ戻る頃だろ?」
ハシュラムは周囲の暗さを確かめると、
「もうこんな時間か・・・」
と呟いた。
「荷物まとめろよ。早く帰るぞ。」
そう言って、足下に散らばっている道具類を拾おうと腰を屈めた祐二を、ハシュラムは不思議そうな顔で見た。
「何を言ってるんだい。帰らないよ。」
「・・・あ?」
「今日はここで野宿するんだ。」
祐二は呆気に取られた。
「・・・嘘だろ。」
「嘘なんか言ってどうするのさ。」
祐二は力が抜けていくのを感じた。外で寝るのが嫌なのではないが、これだけ働いて、しかも純粋なる他人の興味の為に働いたのに、まともな食事が出来ないということと、明日も同じ作業から逃れられないのだということで、ガックリきたのだった。
「・・・ユージ。・・・ユージ。」
快いまどろみの中にいた祐二は、体が揺すられている感覚と、誰かの呼ぶ声で目を開けた。しばらくは夢の続きを見ているような気分で、発掘場所の近くで野宿をしていたことを思い出すまでに時間がかかった。
(・・・なんだったかなあ。)
しばらくの間ぼんやりと考えていたのは、つい今まで見ていた夢のことだった。何か面白い、不思議な夢だった気がする。恐いとか不愉快なものではなかったと思うが、内容を忘れてしまったのだ。目が覚めた瞬間に記憶が飛んでしまい、その中で感じたことの余韻だけが残っているというまどろっこしさの中で、夢と現を行きつ戻りつしていたのだが、それもしばらくすると消えてしまった。祐二が完全に目を覚ますまで、ハシュラムが揺らすのを止めなかったというのもある。鈍い動きでそれを跳ね除けてからゆっくり起き上がると、くっつきそうになっている瞼を薄く開けてハシュラムを見る。ハシュラムは、格好は起きたてだったが、さっぱりした顔つきをしていた。
「ユージ。来て。」
促されるままに、寝床を覆っていた幕の外に這い出てみると、まだ夜明け前で、ようやく空が白白と明るくなってきたという頃だった。頭の中がぼんやりしたままの祐二を引っ張って、谷を見下ろす斜面の側まで連れて来たハシュラムは、目の前に広がるものを指して、
「ほら、ユージ。見てよ。」
と言ったが、言われるまでもなく、祐二の目は丸く見開かれていた。
「・・・すっげえ・・・」
靄か霧か、谷を埋め尽くす白い空気の固まり。まるで高い山の上から雲海を眺めているような光景だ。しかもその雲海はゆったりとした流れを見せており、夜明け前の青白い空気に染まって、とうとうと流れる大河のように見えた。
「・・・まるで河みたいだ。」
感心して、独り言のつもりで呟いた祐二の言葉に、ハシュラムは静かに答えた。
「川だよ。・・・昔は、これがいつも見えていたんだ。」
「へえ・・・・・・なんで?」
目の前の風景に飲まれたまま何となく頷いた後で、なぜそんなことが分かるのかと疑問が湧いてきた。軽口でもたたく気楽な気分で振り返ると、ハシュラムは静かに佇んで雲海を見つめていた。曇りの無いすっきりした顔で、追い続けたものをついに摑んだ人間のように、確かな自信を内に秘めた、そんな様子だった。
思いがけなく真剣な様子に、茶化す気を失くした祐二は、ハシュラムが自然に語り出すのを待った。
ハシュラムはその場に腰を下ろし、祐二も隣に腰を下ろした。
「昔、この町があった頃、この谷は川だったんだ。谷に面したこの広い道のように見えているものは港で、町は川のほとりに建てられていた。」
なるほど、と祐二は頷いた。水のない処に住み着く人間はいない。これだけ大きな町を造るなら尚更だ。斜面に面して作られた広い道や、斜面に向かって下っていく階段も、そこに川があったというのなら納得がいく。それにしても、とうとうと流れるこの川がすっかり涸れ、今は谷間にオアシス都市を残すのみとなり、乾いた砂漠に成り果てるとは、俄かには信じ難いことでもあった。
「信じられるかい?一万年も前は、この谷を埋め尽くすほどの水があったなんて。そして両岸には、森と呼ばれる、たくさんの木が生えている光景が広がっていたはずなんだ。・・・誰も信じてはくれないだろうけど。」
祐二は不思議な顔でハシュラムを見た。どうして誰も信じないなどと思うのだろう。十分考えられることではないか。しかし、ハシュラムは祐二の表情を見て、何か誤解したようだった。少しがっかりして、半ば諦めたような笑顔を浮かべた。
「やっぱり、信じられないよね。誰もまともには取り合ってくれないよ。高名な考古学者にも言われたんだ。そんなのは迷信だ。夢ばかり追っていたら、何も成果をあげられないうちに年月ばかり過ぎてしまうぞ、って。仕方がないさ。川も森も、誰も見たことがないんだから。誰もが昔語りか、伝説でしか知らないんだもの。」
祐二は腑に落ちないものを感じて雲の川に目を戻した。緑溢れる水辺の光景など、祐二にとっては珍しいものでもなんでもない。川はどこでもあるし、森も郊外に行けば極普通に見受けられる。これぐらいの幅の川も、世界に目を向ければいくらでも見つかるはずのものだ。祐二にとって寧ろ信じられないのは、ハシュラムの語る、彼らの常識のほうだった。伝説にしか川や森を知らないなどというのは、一体どういう世界なのだろう。
「ほんとに誰も知らないのか?知らないのは砂漠の人間だけじゃないのか?」
思ったことを率直に言ってみただけなのだが、今度はハシュラムが不思議な顔をする番だった。
「砂漠でないところの人間なんているの?」
「いるだろ、そりゃ。まさか世界の端から端まで全部が砂漠だなんて言わないだろ?森や川のある所だってどっかにはあるはずだぜ。・・・というより砂漠のほうが少ないと思うんだけどなあ。」
ハシュラムはぽかんと口を開けて、しばらく驚いたように祐二を見ていた。ようやく口を利いたと思ったら、
「君、正気かい?」
と言ったので、祐二は少々ムッとした。しかしハシュラムはそれに構うことなくゆっくり首を振った。
「僕の上を行く人がいるとは思わなかったな。この世界が昔、水や緑に溢れていたという伝説は信じていたけど、それだって皆に馬鹿にされるのに、今も世界のどこかにそんな場所があるなんて御伽噺は、さすがに僕だって信じないよ。ましてや、砂漠のほうが少ないなんて・・・それこそありえない夢物語だよ。」
祐二は、それ以上は何も言わなかった。世界が変われば常識も変わる。それは当たり前のことなのかもしれない。
羽織っていた服の襟をかき合わせたハシュラムに目をやって、祐二は初めてハシュラムが震えているのに気付いた。さっと赤い光が射し、じわじわと明るさを増してきた大気の中で、いやに色の悪い唇や爪の色が明らかになっていく。
「寒いのか?」
ハシュラムは唇を震わせて祐二を見て、
「ユージは寒くないの?」
と逆に訊いてきた。そういえば、昨日朝早くに町を出るときも、ハシュラムは、顔は輝かせていたものの、体は寒そうに縮こまらせていた。昼間、遮るもののない中で発掘作業をしていたときは、じっとりと滲んでくる汗を盛んに拭ってもいた。しかし祐二は、朝も昼も夜も全く関係なく、温度の差を感じたことは一度もなかった。考えてみれば奇妙なことだ。風王も、砂漠は昼夜の気温差が激しいと言っていたではないか。それともこの世界の人間は、祐二とは比べ物にならないくらい敏感な感覚をしているのだろうか。
二日目の作業は、まだ日の高いうちに終了となった。全体を掘り出すこともなくハシュラムは満足したのだ。固い土の斜面を降りながら、ハシュラムは自説が正しかったと確信して機嫌良くしゃべっていた。しかし、他の人がこれを信じるか、という段になると自信無げに口を閉じた。川沿いにあった埋もれた町を見つけ出したのだから、もっと自信を持てばよいものを、ハシュラムは自分が納得できればそれでいいのだと言う。それが彼らしいと言えば彼らしかった。
「それにしても、何で今まで誰も見つけなかったのかなあ。」
降りるにもきつい土の斜面に息を切らせながら疑問を口にすると、ハシュラムは億劫がることもなく答えてくれた。
「水の道に外れているからね。誰も思いつかなかったんだよ。」
「水の道・・・?」
それは、今は谷間となったところに、所々残されているオアシスを結んだ道のことだ。街道は谷間を縫って走り、大抵の人間はそこからわざわざ外れて歩こうとは思わない。行きに、登っては崩れる砂の斜面に悪戦苦闘したことを思えば、斜面を登って遺跡を見つけにいこうとするのが随分酔狂なことだというのも、納得できる気がする。
「二千年より前には人は住んでいなかったと言われていたのも、今なら分かるよ。」
とハシュラムが言った。
「水の道沿いにある今の町は、昔の川床にあるんだ。川が干上がる前は、町はあの台地の上にあった。川がなくなる前の人の住処の跡が、見つかるはずなかったんだ。」
「なる・・・ほど・・・ね・・・と。」
砂の斜面に辿り着くと苦もなく滑り落ち、あっという間に二人は斜面の下までやってきた。
「あれ・・・?」
町を振り返ると、二人の正面に町の門が開いているのが見える。
「来るときは確か、門を出て町をぐるっと回ってこっちまで来たよな。」
「ああ、大門はいつも開いてるけど、他の門は日のあるうちしか開かないから。」
事も無げに言うハシュラムを祐二はじっと見た。
「お前、それ知っててわざわざ遠回りする道選んだのか?あの門が開いてから来れば、町の外回ってくるより楽だったよな?」
「だって、あの門開くの一番遅いんだよ。早く出発したいじゃないか。」
少しばかり恨めしげな目を向ける祐二に、あっけらかんと笑顔で答えるハシュラム。途端に祐二は文句を言う気を失くしてしまった。




