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絶対であるはずだった壁

――セルロス王国・王都ローシカ



 二ツ神の一柱であるモチウォンによって創生された人間族と獣人族。

 セルロス王国は人間族の国家の中でもっとも豊かあり、文化レベル技術レベルともに世界一と言っても過言ではない。

 王国は広大な領地を統治し、一億を超える民をまとめる。

 そして、軍事力もまた人間族の国家の中で最強。


 セルロス王国は魔族に対抗する旗頭(はたがしら)

 その旗が、今日、消え去ろうとしている……。



 (とつ)として空に現れた巨大な転送魔法陣。

 そこから、十万を超える魔族が王都前に広がる大草原に降り注いでいる。


 王都はすぐさま都市全体を魔法による結界で覆った。

 王都を守る壁はこれだけではない。

 都市を囲む白色の城壁は人の瞳を上へ(さら)い顎先を掲げるほど高く、大河の如く分厚い。

 重厚な結界に堅牢な壁。

 

 いかなる存在であろうと爪痕一つすら残すことのできない絶対防御。

 だが、王都の草原前に現れた十万を超える魔族の攻勢は、人間たちが知っていた魔族のものではなかった。

 以前よりも強力で、より獰猛。


 なぜこのようなことが起こっているのかは誰にもわからない。

 ただわかることは、もはや絶対だけでは王都を守り切れないということ。


 故に、王都を守護していた大将軍ウォーグバダンは白馬にまたがり、地上部隊の精鋭三万と空を守護する騎龍部隊二千を引き連れ籠城ではなく打って出る。

 これは勝利のための戦いではない。

 己の命と三万と二千の命を犠牲とする戦い。

 

 ごく僅かな時であっても、王都の絶対を守るために……。



 ウォーグバダンは馬上から、死へ立ち向かう兵士たちを荒々しく鼓舞する。

「我々は王都を、民を、そして王を守り抜く! 敵の数は我らを上回るが恐れる必要はない! 王都もまた我らと(くつわ)を並べ、魔導砲台を用い魔族を蹴散らしている!!」



 王都の城壁、都市内の各部署に備え付けられた、魔法の力を弾丸として打ち出す砲台が砲火を上げていた。

 青色の砲弾が迫りくる魔族たちにぶつかると、赤色の火柱を噴き上げる。

 飛竜にまたがり空から王都へ襲い来る魔族たちを打ち落としていく。


 さながらハリネズミの如く王都は青光りの線によって包まれていた。

 味方の砲火は兵士の心へ勇気を(とも)す。

 彼らは王都を背にして、津波のように襲い掛かる魔族へ突貫する。



 だが、砲火の音が足らない。まったく足らない。

 どれだけ砲火が轟こうとも魔族の数が減らない。


 絶望に彩られた戦場――ウォーグバダンは絶望へ染まる世界に小さな希望の筆を振るう。

 

「各地の駐屯軍から必ず援軍が来る! 巡回中の勇者たちも異変に気づき必ず現れる! 我々はそれまで持ち応えればよいのだ! さぁ、セルロス王国の勇敢なる兵士たちよ! (けが)れに(まみ)れた敵の(やいば)を城壁へ近づけさせるな!!」


「「「おお~っ!!」」」


 小さな希望。本当に小さな希望。

 いや、偽りの希望というべきだろうか?



 ウォーグバダンは空に浮かぶ転送魔法陣を睨みつける。

(王都には転送阻害装置があるため直接王都への攻撃はなく、少し離れた草原となったようだが。それでもこの数の前では……)

 

 転送魔法には膨大な魔力が必要。

 そのため、これほどの大軍が一挙に現れるなど想定していなかった。

 そもそも想定できるわけがなかった。


 シャーレは言っていた。大規模転送には膨大な魔力が必要。それを得るためには、時に生贄が必要になると。

 これほどの規模の転送魔法陣。

 いったいどれだけの命を(にえ)として捧げたのだろうか?


 さらに信じられないことは、魔法陣から感じられるのは魔族の魔力だということ。

 そう、同胞を生贄として捧げて生まれた転送魔法陣。

 ここまでの狂気を想定するなど、常人には不可能……。

 


 彼は魔族の底知れぬ犠牲と覚悟に冷や汗を一筋流し、魔法陣から降り注ぐ粒のような魔族たちを瞳に映す。

(敵の数は現状でも倍以上。さらに、今もまだ降り注いでいる。あの魔法陣を破壊しなければ我々は滅ぶ)


 王都の砲台は魔法陣を破壊すべく、幾度(いくど)幾重(いくえ)の砲火を重ねた。

 しかし、魔法陣には強力な結界が張られ、砲台では打ち破れない。



(クッ、駄目か。いや、たとえ破壊できたとしても、もはや……)


 表情にも声にも出すことはないが、彼にはわかっていた。

 すでに勝敗は決していることを……。


 彼はとても優秀だ。従う兵士もまた優秀。王都は堅牢であり、砲台の火力もまた十分。

 それをもってしても、魔族の勢いは止まらぬ。

 兵士たちがどれだけ歯を食い縛ろうと、生存に残された時間は数時間ほど。


 数時間では、援軍も勇者も現れない。



 ウォーグバダンは軍を指揮しながら、魔族たちの攻勢をじっと見つめる。

「なんという勢いだ。だが、おかしい。いかに魔族であろうとここまで強くは? いったい何が起こっている?」


 彼の知る魔族は人よりも強い存在。

 それでもなんとか人でも戦える存在であった。

 しかし、いま目の前にいる魔族たちは人の力をあざ笑うかのような力と勢いを見せている。

 そうであっても大将軍ウォーグバダンは軍を巧みに操り、人よりも強く、倍以上の敵軍相手に一歩も退かず戦い続けていた。


 もし、ここに大将軍ウォーグバダンがいなければ、いともたやすく城壁と結界は崩壊し、王都は蹂躙されていたであろう。

 だからこそ――敵は彼を狙う!!



「セルロス王国を守護騎士・大将軍ウォーグバダン! 魔王軍が五騎士の一人! ドキュノンがその命を頂くぜ!!」

「なっ!?」


 敵と味方が入り混じる草原に影が走る。

 影は大きく飛び上がり、凶刃を大将軍へ振り下ろした。


 馬上のウォーグバダンは剣を抜こうとしたが間に合わない!


「大将軍ウォーグバダンの首! もらったぁぁあぁあぁ!」

「させてたまるかぁあぁぁぁ!!」



 振り下ろされた凶刃と大将軍ウォーグバダンの間に一人の青年が割って入る。

 彼は魔王軍が五騎士と名乗った者の剣を受け止めるが、力に押し負けて後方へ吹き飛ばされてしまう。

 しかし、ウォーグバダンに剣を抜く時間を与えることができた。

 

 ウォーグバダンは剣を抜き、影を打ち払う。

 影もまた後方へ飛び、将軍をちらりと見ると、次に青年へ顔を向けて怒気を籠め睨みつけた。


「てめえぇ! 何者だ!? 邪魔しやがって!!」


 問われた青年は両手に……可能性を喰らいつくす魔剣・時滅剣(クロールン)ナストハを握り締めて、剣先を敵へ向ける。

 そして、こう名乗った。


「俺の名はフォルス=ヴェル。勇者を目指している男だ!!」

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