第3章 「勝負の行方と真の恐怖」
私と「実話都市伝説・怪談百八夜」の根比べが終わりを迎えたのは、ディスクを貰ってから二週間後の事だったの。
その日は土曜日で学校が休みだったから、少し手間のかかる嫌がらせを試したかったんだ。
何しろこの嫌がらせには、国営放送の教育番組で紹介されているような工作が必要だったからね。
纏まった時間が欲しかったんだよ、
まずはディスクに空いている回転軸の穴に、両面テープで厚紙を貼り付けて塞いじゃうの。
そうして貼り付けた厚紙の中央に錐で穴を二つ穿ち、丈夫なタコ糸を通してあげるんだ。
要するに、光学ディスクを使った松風ゴマだね。
時代や地域によっては、「ぶんぶんゴマ」とか「びゅんびゅんゴマ」という具合に呼び方も変わるみたいだけど。
「フフン…『実話都市伝説・怪談百八夜』も、こうなっちゃうと形無しだね。悔しかったら今宵の私に、駿河問いの悪夢でも見せてみなよ。」
庭先でブンブンと鳴り響く風切り音に気をよくしながら、呪いのゲームソフトを煽りまくる私。
だけど、こんなのは序ノ口だよ。
回転する虹色の盤面が目にも鮮やかな光学ディスク製の松風ゴマを弄びながら、私はガーデンテーブルの卓上に置いたキュウリに目をやったんだ。
光学ディスクはプラスチックで出来ているから、高速回転させたらキュウリくらいは切れるんじゃないかな。
松風ゴマにされた上、キュウリを切らされる。
呪いのゲームディスクにとって、ここまでの屈辱は無いと思うよ。
「マヨネーズと金山寺味噌…『実話都市伝説・怪談百八夜』は、どっちがお好みかな?」
そんな風に笑いながら、私は回転する光学ディスクを、皿の上のキュウリに近づけたの。
ところが次の瞬間、松風ゴマのタコ糸はアッサリと千切れてしまったんだ。
文房具屋さんで買ったばかりの新品で、強度も充分にあるはずだったのに…
そうして自由になった呪いのゲームソフトは、物凄い勢いで吹っ飛んで行ってしまったの。
「ああっ!しまった!」
慌てて追いかけたけど、もう後の祭りだったね。
文字通りの空飛ぶ円盤となった「実話都市伝説・怪談百八夜」のディスクは、私の家の壁面に勢い良く激突し、バラバラに砕け散ってしまったんだ。
まるで自分の意志でも持っているかのような、不自然な軌道と角度だったよ。
「あーあ、もう直せないや…片付けるのが面倒だなぁ…」
私は文句を言いながら、竹箒と塵取りで砕け散った残骸を回収したんだ。
−私が執拗に繰り返した嫌がらせで心が折れてしまい、呪いのゲームソフトは自らの意志で死を選んだ。
そうとしか考えられない出来事だったよ。
「チェッ…私としては、まだまだ試したい事はあったんだけどなぁ…」
物足りなさはあったけれど、呪いのゲームソフトを自殺に追い込めたのは戦果として誇れそうだね。
そう考えると、今こうして丸齧りしている生のキュウリも、普段より美味しく感じられるよ。
「今度は自腹で買い足して、続きをやってみようかな…だけど古いゲームでメーカーも倒産しているから、状態の良いのを買い直すのは難しいかも…」
こんな具合に、呪いのゲームソフトへの今後の対応を考えていた私だけど、玄関へ上がった次の瞬間には凍り付いてしまったんだ。
「飛鳥、貴女の部屋からこんな雑誌が出てきたわよ!『ライムピープル』って、ロリコン漫画じゃないの?」
「ウゲッ!?」
玄関先で母に突き付けられたのは、呪いのゲームへの挑発のために自販機で買った、アダルト漫画雑誌だったんだ。
「そもそも貴女、今年で高一でしょ!女子高生なのに、こんな本読んじゃって…一体何を考えてんのよ?」
「ああ…それは違うんだよ、お母さん…」
白い眼で睨んでくる母を相手に何とか弁明しようとする私だけど、しどろもどろになっちゃって上手く言葉が出てこないよ。
あの呪いのゲームソフトも、とんでもない意趣返しを最後に仕掛けてきたね。
この直後に家族で囲んだ朝食は、本当に気まずかったなぁ…