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第2章 「都市伝説好きな少女は、拷問にも屈さない」

 私が不思議な夢を見たのは、その日の夜だったの。

「う…あっ?」

 夢の中の私は、細引きで後ろ手に縛り上げられていたんだ。

「な…何これ?」

 オマケに着ている服もパジャマじゃなくて、真っ白い着物になっていたんだ。

 まるで死人か幽霊みたいだよ。

「グッ…!」

 困惑する私は次の瞬間、脹脛から伝わって来る鋭い痛みに襲われたの。

「い、痛い…」

 恐る恐る視線を下ろした私は、今の自分がギザギザになった板の上に正座させられている事に気付いたんだ。

「こ…これは、十露盤(そろばん)板…」

 高校生の私が、昔の日本で使われていた拷問器具の名前を知っているなんて、変だと思わないでよ。

 戦国時代や江戸時代の怪談には、拷問や処刑に関係する物が少なくないからね。

 読んでいると、自然と覚えちゃうの。

 すると私が着せられている白い着物は、拷問か死刑に処せられる罪人の白装束って事になるのかな。

「十露盤板は確か、石抱き責めって拷問の時に使っていたはず…と言う事は…ぐあっ!?」

 私は最後まで言う事が出来なかった。

 何しろ二十センチはあろうかという分厚い板が、正座を強いられた膝の上に重ねられたんだもの。

 板の重みで膝は砕けそうだし、十露盤板のギザギザで痛め付けられた脹脛からは、真っ赤な鮮血がジワジワと染み出ている。

 だけど私の中では、奇妙な違和感が痛みを上回っていたんだ。

「つっ、冷たい…えっ?冷たい!?」

 幾ら石板がヒンヤリしていたって限度はあるし、出血による体温低下にしては速すぎるんだよね。

 この奇妙な違和感が、痛みと失血で半ば麻痺していた私の頭をクリアにしてくれたんだ。

「えっ…この板って、氷で出来てるの?」

 縁日の屋台や駄菓子屋さんでお金を払うと、分厚い板状の氷を削ったフワフワのカキ氷を売ってくれるよね。

 ああいう製氷店で扱っているような板氷を更に大きくしたような氷が、正座した膝の上に積み重ねられている。

 このように想像してくれたら、夢の中の私が置かれていた異様な状況をイメージしやすいかな。

「な…何でワザワザ、氷の板を…?ぐあっ!」

 首を傾げた私は次の瞬間、苦悶の呻きを上げながら身を硬直させた。

 寸法も厚みも一枚目と全く変わらない板氷が、二枚三枚と私の膝に積み重なっていったからだ。

「うっ!ぐっ…」

 やがて板氷が鎖骨の辺りまで積み重ねられ、膝の骨が砕け散る嫌な音を聞きながら、私は意識を手放したんだ…


 次に目覚めた時、私はお気に入りのパジャマを着て、自分の部屋のベッドに横たわっていたんだ。

 あの大時代的な拷問の記憶は夢だったけど、脛と太腿の辺りにクッキリと浮かんだ青黒い痣を見ると、単なる夢とは片付けられないね。

「随分とリアルで凄い夢だったなぁ…氷の板で十露盤責めなんて、なかなかマニアックじゃない!」

 このマニアックな内容の悪夢を、冷蔵庫で保存されている「実話都市伝説・怪談百八夜」のディスクと結び付けるのは、至って自然な発想だったよ。

 要するに、青痣が浮かび上がる程にリアルな悪夢は、私の冒涜行為に対するゲームソフトの意趣返しだって事だね。

「私の挑戦状を受けてくれて感謝するよ…どっちが先に音を上げるか、勝負しようじゃない!」

 ついでに取り出したコーヒー牛乳で喉を潤しながら、私は冷蔵庫でよく冷えた「実話都市伝説・怪談百八夜」のディスクに向かって笑い掛けたの。


 こうして呪いのゲームソフトと私の根比べが始まったんだ。

 先手を取った私のファイティングスタイルは、とにかく精神攻撃一択だったね。

 お父さんの靴下と一緒に洗面器へ放り込んで水浸しにしたり、乾かすついでに紐でぶら下げて鳥除けにしたり。

 呪いのゲームソフトに屈辱を与えて尊厳を踏み躙るために、とにかく色んな事をやったよ。

 そんな感じで私が繰り出す挑発行為に、呪いのゲームソフトは悪夢という形で対抗してきたんだ。

 洗面器で水浸しにした日の夜には夢の中で水責めにされて溺死したし、鳥除けとして庭木にぶら下げた日の夜には絞首刑の夢を見たね。

 自動販売機で買ってきたアダルト漫画雑誌のページの間にディスクを挟み込んだら、その夜はアイアン・メイデンでプレスされる悪夢を見る羽目になったよ。

 どうやら悪夢の中で私が受ける拷問や処刑は、昼間の私がゲームソフトに対して働いた嫌がらせに因んでいるみたい。

 こんな具合に因果関係がハッキリしていると記事にまとめ易いから、オカルトブログをやっている私としては本当に有り難いよ。

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