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第1章 「呪われたゲームソフトへの挑発行為」

 学校から帰宅した私は真っ先に自室のテレビを付け、通学カバンから取り出したディスクをゲーム機にセットした。

 そうしてゲーム機の起動とディスクの読み込みを待ちながら、私はリボンタイを解いてブラウスの襟元を楽にしたの。

「こっちは制服から着替える時間も惜しんでプレイするんだから…面白くなかったら承知しないからね。」

 こんな風にブツブツと毒づく私を意に介さず、愛用のゲーム機は淡々とディスクを読み込んだの。

 やがてロードが無事に完了し、ゲームのタイトル画面が液晶テレビの画面に表示されたんだ。

 シンセサイザーが奏でる不気味なBGMと共に、「実話都市伝説・怪談百八夜」というタイトルが炙り出しのように浮き出てくる。

 ホラーゲームとしては、まずまずの演出だね。

「さあ、御手並み拝見と行こうかな。精々楽しませてよ。」

 おどろおどろしいタイトル画面に向かって語りかける私の口元は、笑いの形に歪んでいた。


 フリーライターとして聞き込み調査をする事で、巷で囁かれている都市伝説を収集し、その収集率や選択肢で結末の変化する、マルチエンディングシステムのサウンドノベル。

 発売から年月が経過しているので、多少の古臭さは否めないけど、手堅いホラーゲームという具合で割と楽しめたかな。

 一般的なゲームユーザーなら、これで満足出来るだろうね。

 だけど普通にプレイするだけじゃ、このゲームの恐怖を味わい尽くした事にはならないんだ。

 何故なら「実話都市伝説・怪談百八夜」は、知る人ぞ知る呪われたゲームなのだから…


 そもそも私が『実話都市伝説・怪談百八夜』をプレイする事になったのも、この呪いの噂がキッカケなの。

 このゲームを中古で買ったクラスメートのお兄さんが、ポルターガイスト現象やラップ音を始めとする霊障に見舞われたんだ。

 怖くなったお兄さんは『実話都市伝説・怪談百八夜』を中古屋に持ち込んだんだけど、「新品時に付いていた御札が欠品しているから」って理由で買い取りを拒否されてしまったの。

 どうやら件の御札は雰囲気を盛り上げる封入特典じゃなくて、霊障を防ぐための実用品だったみたいだね。

 買い取りどころか引き取ってもくれないし、捨てても何故か戻ってくる。

 処理に困ったクラスメートとお兄さんは、この呪われたゲームソフトを誰かに押し付ける事に決めたんだ。

 そこで白羽の矢が立ったのが、私こと鳳飛鳥(おおとりあすか)だったって訳。

 日頃からオカルトマニアとしてのパーソナリティを隠そうともせず、教室内でも怪談本を読み耽っていたから、それも必然かな。

−飛鳥ちゃんなら、こういうのも好きかなって…

 クラスメートの申し訳無さそうな笑顔には、我が身可愛さの打算が見え隠れしていたけど、私は喜んで呪いのゲームソフトを引き受けたの。

 都市伝説や怪談なら何でも来いな私としては、一つでも多くの心霊現象や霊障を体験したいんだよね。

 そうする事で、オカルトマニアとしての箔を付けたいんだ。

 ゲームをプレイしてから体験した霊障は、私が運営している都市伝説系のブログに随時アップする予定なの。

 だから仮に私がゲームの悪霊に呪殺されたとしても、その死は新たな都市伝説となって末永く語り継がれるって寸法なんだ。

 梁時代の武将として名高い王彦章(おうげんしょう)曰く、「豹は死して皮を残し、人は死して名を残す」。

 世間一般の人達は生命を最優先に考えるけど、自分の信じる美学に殉じるのも、自己実現の一種として認められても良いんじゃないかな。


 そんな覚悟を胸に秘めながら、この呪われたホラーゲームを御札無しでプレイし始めた私だけど、大した実害を受ける事もなくクリアしちゃたんだ。

 もっとも、心霊現象は一通り起きてくれたけどね。

 友達のお兄さんが経験したというラップ音は勿論だけど、電源を入れていないはずのラジカセから御経が流れてきたり、部屋に御線香の匂いが立ち込めたりと、とにかく色んな事が起きたんだ。

 だけど、この程度の心霊現象ならネットで検索すれば見つかるから、私としては物足りないんだよね。

 他の人が味わった事のないような、私だけの恐怖体験が欲しい所だよ。


 そこで私が思い付いたのは、より強烈な心霊現象を発生させるために、呪いのゲームソフトを刺激する事だったの。

 手っ取り早く言っちゃうと、ゲームソフトに巣食っている怨念だか呪いだかをワザと怒らせてやるんだ。

 まずは軽いジャブとして、ゲームのディスクを冷蔵庫に入れて一晩放置してみたの。

「カセットテープなら磁気テープの延びが直るみたいだけど、呪いのゲームソフトを冷蔵庫に入れたらどうなるのかな?悔しかったら何か面白い事をやってみせてよ。」

 木綿豆腐の上に鎮座する「実話都市伝説・怪談百八夜」のディスクを煽りながら、私は冷蔵庫の扉を閉めたんだ。

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