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「は、はじめまして。エミイルダです」

「初めまして。本物のエミイルダ様。私もエミイルダっていうの」



 やっぱり二人で挨拶をしあったけれど、二人ともエミイルダというのは不便だと思う。

 『精霊姫の恋』の中の偽物のエミイルダは公爵邸を去っていったから問題はなかったけれど……。


 でも本物のエミイルダがこの場にいても、お父様とお母様とお兄様の態度が変わらないことにほっとする。本物が現れたから、変わるものも当然あるだろうけれども、それでも私に此処にいていいってそういう態度で示してくれているから。



「お父様、お母様、お兄様、エミイルダ様。二人ともエミイルダって名前だと不便だと思うの。だから私が、名前を変えたいって思うの! どんな名前がいいと思う?」


 こういうことは先に話し合った方がいいと思うから、私はそう言った。

 


「い、いえいえ、それなら私の方が変えます!」

「駄目だよ。だってエミイルダ様が本物のエミイルダ・フォリダーなんだから。貴族名鑑にも載ってるし、偽物の私が名前を変えた方がいいって思うの。……それに私の実のお母さんのせいでエミイルダ様は平民として暮らしていて、エミイルダ様が暮らすはずの暮らしを私が奪っちゃってたんだもん。エミイルダ様から名前まで奪いたくないもん」



 お母様もお父様も、お兄様も――私のことを責めないけれど。

 でも私の実の母親が、本物のエミイルダと私を入れ替えたのだもの。私の実のお母さんはもう亡くなっているんだって。

 『精霊姫の恋』の中でも、確か母親が亡くなり暮らしていたところで自分の出自が分かり――って感じだったと思う。



 私は本物のエミイルダ様が受け取るはずだった家族の愛情も、公爵令嬢としての暮らしもすべて奪ってしまっている。……なのに、名前まで本物のエミイルダから奪えない。

 それに憎まれたっておかしくないもの。名前も、居場所も、返さないと。



 でもそう考えるとやっぱり少しだけ怖さとか、不安もある。前世の記憶を思い出していなかったら大泣きしていたかもしれない。それにやっぱり前世の記憶を思い出さなかったらこういう怖さに負けて私は自分が偽物だってお兄様たちに言うことも出来なかっただろう。




「やっぱりエミーは優しい子だね。エミーにぴったりの名前にしようね」


 隣に座るお兄様が私の頭を撫でてそんなことを言ってくれる。



「俺はエミーをエミーって呼び続けたいから、そう呼べる名前にしようか。エミフェルナ、エーミカ、ユーエミナ、ラエミルア、んー、どれがいいかな?」

「お兄様……私、適当でいいのよ!」

「駄目だよ。エミーにぴったりの名前を選ばないと。俺からの新しいエミーへの贈り物として名前をプレゼントしたいんだ。エミーはいや?」

「嫌なんかじゃないわ。お兄様がくれるものなら何でも嬉しいもの! ……って、ごめんなさい。エミイルダ様、勝手に話を進めてしまってたわ!」



 お兄様に話しかけられて思わず話が弾んでしまったけれど、本物のエミイルダの事を放ってしまっていた。

 慌てて謝れば、首を振られる。



「いえ、大丈夫です。私のことはエミイルダと呼んでもらって大丈夫です。様付けなんていらないです」

「えっと、じゃあエミイルダ。私のことは、エミーって呼んでね。それに敬語なんていらないわ」

「はい……いえ、うん。エミー」



 小さく笑ったエミイルダは、とっても可愛かった。

 やっぱり小説の主人公だけあって可愛い。嫌われてないみたいで、ちょっとほっとする。




「エミイルダとエミーが仲良くなってくれてよかったわ。エミイルダ、エミーは血が繋がってなくても私たちにとって大切な家族だから、是非仲よくしてね。エミイルダも突然私たちの娘と言われて戸惑ったと思うけれど、私とも仲よくしてね?」

「は、はい。公爵夫……いえ、お母様」

「エミイルダ、私のこともお父様と呼んでくれ」

「はい。お父様」



 お母様とお父様の言葉にエミイルダが笑っている。

 その様子を見て私はちらりと隣に座るお兄様を見上げる。お兄様は本物のエミイルダのことが気になって、そうして学園から帰ってきたんだよね? でもエミイルダに全然話しかけてないの。どうしてなんだろう?


 私の新しい名前をどうするか考えていたお兄様は、私の視線に気づいてか私を見る。目が合えばお兄様はにっこりと笑ってくれた。



「どうしたの、エミー」

「お兄様は、エミイルダに話しかけないの? お兄様の本当の妹なんだよ? そのために学園を休んでまで帰ってきたのよね?」

「それが理由で帰ってきたわけじゃないけれど……まぁ、そうだね。仮にも妹だから交流は結んでおかないとね」



 お兄様の言い方がよくわかんなかった。

 本物のエミイルダに会うためじゃなかったら、どうして学園を休んでまで屋敷に帰ってきたのだろうか。他に理由でもあるのかな?


 お兄様はエミイルダに向かって告げる。



「エミイルダ。俺はノンベルド・フォリダー。君の兄だ。よろしく」

「は、はい。よろしくお願いします。おにい……」



 エミイルダは何故だか、お父様とお母様に呼びかけたようにお兄様と呼ぼうとして一瞬固まる。どうしたのだろうか。



「エミイルダ、どうしたの??」

「な、なんでもないわ。えーと、ノンベルド様。私はノン兄様と呼ばせていただこうと思いますが、いいですか?」

「うん」



 エミイルダはどうしたのだろう?

 お父様やお母様がやれやれって顔をしているのも何でだろう。

 不思議そうにしていたら、お兄様が私の方を見た。もうエミイルダとのお話はいいのかな?



「エミー、君の新しい名前、ファエミラでどう? 昔、実在した王妃様の名前なんだけど、国を明るく照らした太陽のような方だったんだって。エミーにぴったりだと思うのだけど」



 そういうわけで、お兄様からお名前のプレゼントをもらった。





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