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12/11 三話目




「エミイルダ様、おはようございます」

「おはよう!」



 私が本物ではないことを家族に告げてからの生活は……変わらなかった。

 正直私が血の繋がらない娘で、しかも精霊たちの情報により私の実の母親が赤子を取り換えた事を知っても、お父様もお母様もお兄様も変わらなかった。


 今、私に挨拶をした私付きの侍女にも、私の事を知られている。

 公爵邸の一部の使用人たちは知らされたその事実があっても、皆私に優しかった。




 『精霊姫の恋』の中のエミイルダは、きっと怖くて、信じられなかったのだと思う。自分が公爵家の本当の娘ではないと知られたら全てが変わってしまうって。そう思い込んで不安になって、それで隠して。

 そして不安を覆い隠すようにその性格が過激になり、怖さやうしろめたさから家族とも距離を置いた。



 ……だからこそ、エミイルダは本物が現れた時に家を出た。

 でも私は、あの時前世を思い出して倒れたから、お兄様に最初に話せたから良かったんだと思う。

 大好きなお兄様がエミーはエミーだからって受け入れてくれたから。

 それにお父様とお母様に話す時だってお兄様任せにしちゃったし。私はお兄様に甘えてばかりだ。





「エミー」

「おはよう、お兄様!!」



 それに私が公爵家と血がつながらないと知っても、今までの呼び方を許してくれている。



 私が公爵家の血の繋がらない娘だというのは、本物が見つかったら公表するという話になっている。でも公表したとしても、私は公爵家の娘のようなもので、今まで通りで構わないって言ってくれた。



 本当にいいのだろうかって何度も何度も確認したけど、お父様もお母様もお兄様も、それに私の事を知る使用人たちも「大丈夫だ」って笑ってくれた。



 お兄様に私は抱きかかえられる。



「お、お兄様! 私、もう子供じゃないんだよ!」


 自分がこの家と血の繋がりがないからって不安になったから、この前は久しぶりに抱きかかえられたけど……でも私もう十歳なのに。



 お兄様は私の不満の声にも笑っている。

 何だかお兄様は、私が偽物だってことを言ってから今までより私を甘やかすようになっていると思う。

 私があんなに大泣きしたのを見たからだろうか。



「お兄様は、私を甘やかしすぎ! 私は大丈夫だよ」

「俺が甘やかしたくて甘やかしているだけだから気にしなくていいよ」


 お兄様はそう言って笑った。



 綺麗なお兄様の顔が至近距離で、ちょっとドキリとした。

 前世も含めてこんなに綺麗な人と至近距離なことなかったから、近くで見ても綺麗だなって感心する。




「エミー、どうしたの。俺の顔、まじまじと見て」

「お兄様って、綺麗な顔をしているなって思っただけ。お兄様の綺麗な顔、見ていると嬉しくなるの」

「それは良かった。俺もエミーのこと、可愛いって思っているよ」

「ふふ、ありがとう、お兄様!」



 お兄様に褒められて、私は嬉しくなって笑った。

 そして降ろしてもらってから、お兄様と一緒に並んで朝食を食べに向かう。





「お兄様は来年には学園に行っちゃうんだよね。学園ってどんなところなんだろう」



 十四歳のお兄様は、来年には学園に通うことになる。

 丁度私や本物のエミイルダの四歳上だから、お兄様と一緒に学園には通えないのが残念だと思う。だってきっとお兄様の学園生活は素敵だもの。


 私は『精霊姫の恋』を途中までしか読んでないし、物語と現実だと色々違う部分もあるだろうからどんなところなんだろうって気になった。



 そういえば、まだ発見されていないけれど本物もエミイルダって名前なんだよね。そう考えるとエミイルダって名前が二人になっちゃうんだよね。……そのあたりってどうなるんだろう?

 本物に会った事がない私が、急に同じ名前だから名前を変えないとかもって言ってもおかしいし……。でもそのあたりはどうにでもなるのかな。



「学園に入学したら沢山エミーに手紙を書くね。エミーが通うまでにエミーが通いやすい学園にしとくよ」

「ふふ、本当?」

「うん。だからエミーも、返事を頂戴」

「もちろん! お兄様からの手紙に返事を書かないはずがないわ」



 お兄様は優しい目をして笑っている。


 そういえば、『精霊姫の恋』の中だとお兄様は本物のエミイルダとも距離が離れていたんだよね。お兄様は私に沢山手紙を書くっていってくれているけれど、『精霊姫の恋』の中だと家族にも手紙を書いてなかったんだよね。

 はっ、そもそもお兄様が誰かに手紙を書く姿なんてあまりみたことがないから、そもそもお兄様は手紙を書くのが苦手なのではないかしら。

 となると、やっぱり私が本物の娘じゃないってショックを受けているから元気づけようと思って無理しているのかもしれない。



「で、でもお兄様。無理はしないでね」

「無理って?」

「だってお兄様、お手紙を書くのそこまでしないでしょう? 私、お兄様が誰かに手紙を書いているの見た事ないもの。私が心配だからって無理して手紙を沢山書こうとしなくていいからね。お兄様も学園に入ったら沢山お友達が出来て、忙しくなって私に手紙を書く暇なんてなくなるでしょ? だから出来る範囲でいいからね。私のことは後回しでも全然!」


 お兄様から手紙が来なかったら私は寂しいけれど、お兄様に無理をさせたいわけじゃないもの。

 お兄様は学園に入学したらお友達も沢山出来るだろうし、年の離れた妹に手紙を書く暇なんてなくなるのも想像出来ることだもの。



 だけどお兄様は私の言葉にくすくすと笑っていた。



「そういう心配はしなくていいよ。俺はエミーにだから沢山手紙を書くつもりなんだから」



 そんなことを言うお兄様は、やっぱり私にとても甘いと思った。




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