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1/23 二話目
私たちを攫おうとしていたのは、精霊の力を使おうと企んでいた隣国をはさんだ向こう側にある国だった。
その国は元々、武力こそすべてだと思っているような国らしい。
そして周りの国を征服したいとそんな風に思い込んでいるらしい。
ノンベルドたちが尋問した結果、沢山の情報を我が国は得た。そして私やエミイルダに手を出されないために周りの国の協力を得て、圧力をかけてくれているらしい。
そして、私とエミイルダも少しだけ無茶をして――、精霊たちにお願いをした。
精霊視の力を持ち、精霊たちと意志疎通が出来る私たちだけど、こういう風に大きな力を使うことは今までなかった。
人の世のことなど、気にもしていなくて、ただ精霊たちの姿を見える『精霊姫』と呼ばれる私たちのことを精霊たちは大切に思ってくれている。
他でもない精霊視の能力を持つものだけのことを、精霊たちは慈しんでいる。
自由を愛する精霊たちは、自分たちが近づかないようになんて結界のようなものを張って、私たちに近づくことを許さないものを使用していたものたちに怒ってた。
だから私たちのお願いを聞いてくれた。
だけど、ちゃんと精霊たちには無関係な人たちが傷つかないようにというのをお願いした。
「お願いね。無関係な人たちは傷つけないでね」
『うん。分かってるよ。何度も言われているから』
頷いているけれど、本当に大丈夫かな? と少し心配になった。
だけれど、私もエミイルダも精霊たちの事が好きで、彼らのことを信頼している。だから精霊たちは私たちが嫌がるようなことはしない。
――そしてそんな頼みごとをして少し経った後、その国で大きな自然災害が起きたと噂になっていた。
その自然災害では、奇跡的に死者はほとんど出なかったのだと言う。
そして数少ない死者は、王族や貴族の中の一部……ノンベルドに確認したらその亡くなったものたちがおそらく『精霊姫』を狙っていたものたちだろうということだった。精霊たちを阻む結界の魔法具に関しても、自然災害と同時に破壊されたらしい。
「はぁ、疲れたね。エミイルダ」
「うん。しばらく休みましょう」
精霊たちへのお願い。
その中で結構無茶をして、魔力を沢山持っていかれてしまっている。
こういう大きなお願いをしたことは今までなかったから、こんなに疲れるとは思っていなかった。
一旦、私たちはしばらく学園を休んで公爵邸でのんびりすることになった。ノンベルドも『精霊姫』たちの護衛をするっていうのを名目に、一緒に公爵邸にいる。ちなみに他の騎士たちもいるよ。
ノンベルドは私の傍にべったりで、ちょっと無茶をしたけど全然動けるのに、私のことを抱きかかえて移動しようとしていた。……昔から私とノンベルドのことを知っている使用人たちはほほえましい目で見ていたけれど、騎士たちには目を見開かれた。
もう、ちょっと恥ずかしい。
でもノンベルドが私を大切にしてくれていると思うと、じんわりとした気持ちになって何だか嬉しい。
「エミー、エミイルダ。あの国で起きた自然災害が『精霊姫』たちに手を出した報いだと噂されている。だから二人に手を出そうとはしないだろう。もし何かあればあれだけのことを起こせることをしらしめたのだから。国家間で『精霊姫』を利用しないようにという条例も進められている。ただ少しはその力を国の為に使ってほしいとは思っているらしいけど」
「うん。まぁ、そのくらいは仕方ないわよね。私とエミイルダで、精霊達に頼んで力を使っちゃったから」
「人のためになることならやるのは問題ないわ。はぁ、でもエミーにはノン兄様がいるから問題はないけれども、私はフリーだから色々寄ってきそうだわ……」
ノンベルドの言葉に、私とエミイルダがそんな風に答える。
私にはノンベルドがいるけれども、エミイルダにはそういう相手がいないから。エミイルダと結婚して、エミイルダを取り込みたい人は沢山いるみたい。
エミイルダを利用しようとしている人もいれば、エミイルダ自身を好いている人も出てくるだろう。だってエミイルダはとっても素敵な女の子だから。
「エミイルダが公爵家を継ぐ予定なら、結婚相手は考えた方がいいけどそうではないなら好きにするといいよ」
「いや、私に公爵とか無理! ノン兄様にその辺は任せておくから!」
「じゃあ、好きに選べばいい。最悪結婚しなくてもそれはそれでいいし」
そっか。
私は『精霊姫の恋』のことを知っているからこそ、エミイルダが誰かと恋をすることを考えていたけれど、誰とも恋をしたり結婚したりしない可能性も十分あるんだよね。
誰かと出会って、その誰かと恋をして、その誰かとの未来を約束する。うん、それってある意味奇跡なんだろうなと思った。
だからこそ、私がノンベルドと恋をしたこともある意味奇跡だ。
そう思うと、今が本当に幸せなんだなって改めて思った。




