18
守られるだけは嫌だと、そう言った私たち。
とはいえ、自分自身の身を危険にさらし、自分を犠牲にしてまでそういうことをしようとはおもっていない。
このまま私たちを攫おうとする勢力を放っておくわけにもいかないから、大元をどうにかして、私たちが平穏に過ごせるようにしなければならないから。
そういうわけで、一種の囮作戦をすることにした。
攫われるといったことはもちろん、しない。私もエミイルダも精霊たちの力を沢山借りて、彼らに私たちに手を出してはいけないと思わせることにしたのだ。
ノンベルドは心配していたけれど、「ノンベルドが私のことを絶対に守ってくれるんでしょう?」ってそうやって笑いかければ、ノンベルドは私の大好きな優しい笑みを浮かべて「その通りだよ。俺の『精霊姫』」って笑ってくれた。
ノンベルドが私のことを守ってくれるって信じている。
――何か予想外のことがあったとしても、どうにでもなるのだとそう知っている。
だから私とエミイルダは危険を承知で、その役を買って出た。
そして私とエミイルダが、囮として無防備な姿をさらけ出した時に予想通りに私たちを攫おうと企んでいるものたちは、私たちの前に現れた。
……私とエミイルダが一人ずつの所ではなく、二人でいる時でも攫おうと現れたことには驚いた。何か私たちを攫うための算段でもあるのだろうか。
「『精霊姫』よ。我が国へ来てもらうぞ」
「行くわけないでしょう!」
わざわざ姿を現わした刺客に、エミイルダが強気で発言をして、精霊たちに頼んで彼らをどうにかしようとして――精霊たちの動きがなかった。
「あれ?」
エミイルダが少しだけ困惑した表情を浮かべている。
私たちが囮になることが決まって、精霊たちにはくれぐれもよろしくと伝えてあった。もし何かあった時に、助けてもらうことになっているからと。
だけれども精霊たちは姿は見えるのにこちらに近づいてくることはなかった。精霊たちもこちらに近づけないことに戸惑っている様子が見えた。
「――はっ、精霊をお前たちが使えることは分かっている。だからこそ、精霊が近寄れないようには当然しているに決まっているだろう」
精霊たちがこの場に近づけないように対策をした上で、私たちを攫おうとしているようだ。私たちを何度も攫おうとして、精霊の力に邪魔されていたからだろう。『精霊姫』としての力を使おうとしておきながら、『精霊姫』から精霊の力を奪おうとするなんて矛盾している気がする。
それにしても私たちを攫ったところで、精霊の力を攫った相手のために使うなんてないと思うのだけど攫ってしまえばどうにでも屈服出来るとでも思っているのだろうか。本当にどうしようもない人たちだと思う。
私が前世の記憶を持っているからというのもあるだろうけれども、そういう風な権力者だからと好き勝手にしようとする人たちにはちょっとびっくりしてしまう。私のいる国の王族、ロキおじ様たちはとてもやさしくて、そういう権力者だからと下のものを蔑ろにしたりはしないから。
――さて、精霊たちは一部の空間に近づけないようにそんな風にされているみたい。
だけど、それだけで精霊のことをどうにかしようというのも、私たちのことをどうにかしようと言うのも甘い。
結界のようなものではじかれている精霊たち。
だけどその目は、私たちを害しようとする男たちへの怒りに燃えている。
――地面が揺れた。
私たちの立っている場所が、割れていく。だけど、私とエミイルダは盛り上がった地面の上で無事で、よろけて倒れてしまっているのは私たちを攫おうとした男たちだけである。
「なっ――」
男たちが、目を見開く。
私のすぐ傍に居るエミイルダも驚いた顔をしている。エミイルダは精霊たちが結界の外からこういう行動を起こせるとは思っていなかったみたい。
私は『精霊姫の恋』で、精霊たちのことを知っていたのもあって驚きはしなかったけれど。
それにしても改めて考えてみると、精霊たちの力って自然の力なのよね。それが強大ではないわけなんて当然なくて、これだけの結果を起こしている。
本当はノンベルドたちがすぐに男たちを捕らえてくれるはずだったのだけど、精霊たちがすぐに動いてしまったのよね。
そして倒れた男たちはノンベルドたちの手によってとらえられていた。
それにしても精霊たちを近づけなくするものも持っているなんてちょっと恐ろしいわね。
ノンベルドたちが捕らえた男たちのことは尋問するとのことだった。あとは精霊たちをどうにかしていた魔法具に関しても調べるとの話だった。
……私は危険な目に遭っていないのだけど、囮をやってからしばらくノンベルドが私の傍にべったりだった。
エミイルダが「ノン兄様! 私も囮やってたんだよ? 本当にエミーのことが大好きなんだから」って呆れたように言っていた。