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「……これ、どうしよう?」
「エミー。あっちが喧嘩を売ってきたのだから、気にしなくていいわ」
ある日のことである。私とエミイルダが街を歩いていると、襲い掛かってくる人たちがいた。
私たちは護衛が何かする前に精霊たちに頼んで、すぐに無力化させた。
それにしてもどうして私たちのことを狙ってきたのだろうか。
私たちに襲い掛かった人たちは、そのまま街の騎士たちに連れていかれた。
あとから聞いた話だが、『精霊姫』と呼ばれ、精霊視の能力を持つ私たちを自分の国に攫ってしまおうなどと思っている他国の人はいるらしい。
何とも物騒な話で、思わず身体が震えてしまう。
誰かにそういう風に狙われるなんてあまり経験したことがないから。
私もエミイルダも基本的に周りに守られていて、だからこそ、そういう危険な目にあったことがあまりなかったのだと思う。
ノンベルドも、お母様も、お父様も私たちのことを守ってくれていたのだと実感した。
「それにしても……私たちを攫おうとするなんて……」
「精霊視の能力を持つというのは珍しいみたいだから。こうして私とエミーっていう二人の『精霊姫』が同じ場所にそろっているのがきっと珍しいのよね。だからこそ、二人いるなら一人ぐらいって考えている馬鹿がいるのかも」
私とエミイルダが揃っているからこそ――余計にそういう考えを持つ人が出て来ているのだろう。
『精霊姫の恋』の中では、偽物のエミイルダは公爵家からいなくなっていて、公爵家にいたのは本物のエミイルダだけだった。だけど今、フォリダー公爵家には二人も『精霊姫』がいるのだ。
だから、余計に一人ぐらい……と思っているような人がいる。そう考えると少し不安になってしまう。精霊たちがいるから、恐ろしいことは起こらないだろう。だけれども本当に大丈夫だろうか……と少しだけ怖かった。
「エミー。そんなに不安そうな顔をしなくて大丈夫よ。エミーのことは私もノン兄様も絶対に守るから」
「でも……私、エミイルダが危険な目にあったら嫌だもの」
「私だってエミーに何かあるのは嫌だわ」
エミイルダにぎゅっと抱きしめられる。
エミイルダと会話を交わしていると、少しだけ気持ちが落ち着いていた。
寮に戻ってしばらくした時に、ノンベルドがやってきたことを知らされた。
ノンベルドは今日来る予定はなかったのだけど……。
「エミー! 襲われたって聞いた。大丈夫?」
「ノンベルド、心配してきてくれたの? 大丈夫よ。精霊たちが助けてくれたもの」
そう言っても、ノンベルドはぎゅって私のことを抱きしめて中々離してくれなかった。ノンベルドも私が精霊たちと仲良しで、ちょっとのことでは危険な目に合わないことは分かっているだろうに。
「分かっているけど、俺はエミーに何かあったら嫌だから」
「ふふ、本当にノンベルドは心配性ね」
私が精霊たちと仲よくしていたとしても、ならず者たちをどうにかするだけの力を持っていたとしても――それでも、ノンベルドは私の事を心配してくれているのだ。そのことが嬉しかった。
ノンベルドは私が心配だから仕事を休んでこっちにいるなんて言ってたけれど、それは断った。
なるべく学園の外に出ないようにして、学園内でも人の傍にいることにするということでノンベルドには一旦仕事に向かってもらった。
それにしても、私とエミイルダを狙っている人たちってどういう人たちなのだろうか。私とエミイルダの力が目当てだとすると、私たちを攫ってその力を自由に使おうと考えているってことなのかな?
それだと、周りの人たちを人質に取って――とかもあるのかもしれない。
そうなったら、私はどうしたらいいだろうか。
大切な人たちが、人質になってしまったら……と考えるだけでも少しぞっとする。
そういう時に誰かを助けられるのならば、自分の身なんてどうでもいいという選択をする人もいるかもしれないけれど、私はそういうのは嫌だ。
全員無事でハッピーエンドの方が素敵だと思うもの。
ユーゾンさんにも聞いたけれど、エミイルダが危険な目に合う話はあったらしい。ただそれもすぐに助けられるような話で、直接的に誰かに狙われて危険なことがあったりはなかったみたい。
でも此処は現実だから、もっと危険な目に私もエミイルダもあうかもしれない。精霊たちがいるから、問題はないはず……でも私たちが精霊たちと仲良しなのを知っているからこそ、それに対する対策もしてくるのかもしれない。
私は詳しくは知らないけれど、精霊たちをどうにかするための道具とかも世の中にはあるかもしれないし……。そう考えるとやっぱり色々気を付けないと。
――と、そんな風に意気込んでいたのだけど、安全だと思っていた学園内でちょっとした騒ぎが起きた。
エミイルダが怪我をしてしまった。
エミイルダを無理やり連れて行こうとした人がいて、それで一悶着あったらしい。
それも学園内の生徒が内通していたと言う話で、私はおどろいた。