15
「行こうか、俺のエミー」
「うん」
ノンベルドは、いつも俺のエミーとか、俺の『精霊姫』だとかそういう言葉ばかり口にしている。
私の事を愛していて、私の事を大切に思っているからこその言葉が私にとってはどうしようもないぐらい心地よいものだった。
それにノンベルドは私の瞳や髪の色のアクセサリーなどをよく身に着けていて、私にもノンベルドの色を身に着けさせる。互いに自分のものだって言っているみたいでとても心地よいの。
社交界デビューしたら、今までよりパーティーに参加する事にはなると思うけれど……ノンベルドが「なるべく俺が出ないときはパーティーにいかないでね」ってにこにこしているからなるべくそうするつもり。
もちろん、必要な時は私も参加しなければならないパーティーもあるだろうけれど。
ダンスだってノンベルドや、あとはライモードたちとしかしなかった。そもそもあまりお誘いもうけなかった。エミイルダがこそっと「ノン兄様が牽制しているから……」って言ってた。
私が視線を向けるとにこにこしているけれど、私が見ていない時は牽制しているらしい。ノンベルドは私に異性が近づくのが嫌だってそういうのを全身で示しているようだ。
周りから聞いてからこそ分かるノンベルドの一面も沢山あって、長い付き合いだからこそ私はノンベルドのことを知っているつもりだけどまだまだ知らない面もあると実感する。
社交界で以前のパーティーで私がノンベルドにエスコートされた時に色々言っていた令嬢もいた。あの時のことを謝られた。ノンベルドの事を見ていると、本当に私を好きでいることが分かるからって。
周りにもそれがバレバレだって思うと少し恥ずかしいけれど嬉しかった。
「ノンベルドにエスコートされると本当に楽しいわ」
「俺もエミーと踊れるの楽しい」
いつも屋敷での練習でも一緒に踊っているのだけど、やっぱりこうして着飾ってパーティー会場で踊るとまた新鮮な気持ちで楽しいと思えた。
「エミーは本当に素敵なダンスだったわ」
「エミイルダもとても綺麗だったわ。エミイルダ、沢山の人と一緒に踊っていたわね。誰か気になる方はいた?」
「ふふ、いないわよ。でももし好きな方が出来たら真っ先にエミーに伝えるわね」
「うん。教えてね。約束だよ」
「うん。約束」
エミイルダとこそこそと話していたら、ノンベルドに手を引かれる。
「エミー。エミイルダとばかり話してると寂しいな」
「ノンベルド……」
ノンベルドの言葉に思わずくすくすと笑って、ノンベルドと見つめあう。
ノンベルドと見つめあっていると、エミイルダにあきれられる。
「パーティー会場で、二人だけの空間に入るのやめようね。何だか口づけでもしそうな雰囲気だし……。此処、人が沢山いるんだから、二人の時にしようよ」
エミイルダの言葉に、思わず顔を赤くなりそうになった。
でも確かにノンベルドと見つめあっていたら少し注目を浴びてしまっていたわ。ノンベルドには、「二人の時にね」って笑われた。
ノンベルドは私の姿をあまり周りに見せたくないって言ってくれている。自分だけが見ていたいとかそんな風に。そういう独占欲が私は心地よい。
ダンスは数名としかしなかったけれど、挨拶は沢山の人として、沢山の人と知り合いになれた。名前は知っていても挨拶はしたことがなかった人も結構いたから、挨拶が出来て嬉しかった。
ノンベルドが家を継ぐことになったら、公爵夫人として私も社交界を頑張らなければならないもの。社交界デビューでも、周りとの付き合いを深めることも頑張ったの。
ノンベルドやエミイルダたちが周りにいてくれているから、緊張もあまりせずにすんだ。
社交界デビューのパーティーの後は、ノンベルドとのんびりと会話を交わした。
「エミー。本当に綺麗だったよ。俺のエミーは世界で一番可愛い」
「ノンベルドもかっこいいわ」
「ありがとう、エミー」
ノンベルドは可愛いとか、綺麗とかそういう言葉を躊躇わずに口にする。
いつも言われていることだけれども何度言われても嬉しさとか恥ずかしさとか、色んな感情が私の中を巡っていく。
やっぱりノンベルドと一緒に過ごしているのは、本当に幸せな気持ちになる。
私が学園を卒業したら、ノンベルドと結婚する予定だからその時が今から楽しみで仕方がない。
自分が偽物のエミイルダだと気づいた時は、不安ばかりだったのに、すっかり私は将来のことが楽しみで仕方がない。
「ノンベルド。次に参加するパーティーも、私のこと、エスコートしてね。ノンベルドが私の婚約者だって皆に自慢できるのも嬉しいの」
「本当に可愛いね。エミーは。俺も可愛いエミーが俺のだって見せつけたい」
二人してそんなことを言いあって、笑いあった。
次のパーティーも楽しみだなぁ。




