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ユーゾンさんとは、それから仲良くなった。
前世の話を出来るのは楽しかったし、ユーゾンさんが私とノンベルドのことを応援してくれていてそれも嬉しかった。
『精霊姫の恋』の中でのノンベルドのことも沢山知れたし。
とはいっても「知らない方が面白いこともあります」って言われて、話してくれないこともあったけれど。
そういえば「ノン×エミをもっと布教し、尊ぶ会を作らなければ!」とよくわかんないことを言っていた。
学園に入学して少し経ったある日、ノンベルドが遊びに来てくれることになった。この学園のある都市から近いから迎えに来てくれて、一緒にお出かけしてくれるの。
ノンベルドは「俺が案内するからね」って言っていたから。だから街に遊びに行っていないの。ノンベルドが一番最初に案内したいって言ってたから。
エミイルダには「いや、エミーはノン兄様に結構甘いよね。もう少し厳しくしてもいいのよ? 突っぱねても」って言われたけれど、大好きなノンベルドの言うことはなるべく聞きたいから。
ユーゾンさんは「ノン×エミを生で! ああ、覗かせてください!」って言っていた。というか、ノレッラ様たちもノンベルドがくるところ覗こうとしているみたい。
「エミー。ノン兄様が他の人にどういう態度か覗き見しときましょう」
「ノンベルドの他の人への態度……? ノレッラ様が言っていたノンベルドが冷たいっていうやつ?」
「そうよ」
学園に入学して、周りの人たちからノンベルドがどういう風に学園生活を送っていたかとか聞いたのだけど、正直あまりぴんとこない。だって私の前ではノンベルドは、昔からずっとにこにこしていて、優しいもの。
でも私にだけ優しいって言われると、それはそれで嬉しいなとは思うけれど……。
そんなわけで私は、エミイルダとユーゾンさんとノレッラ様と一緒にこっそりと覗き込んでいる。
覗き込んだ先には……ノンベルドがいる。
ノンベルドはこの学園の卒業生だから、門番の人たちとも知り合いみたい。この学園って貴族も多く通う学園だから、そういう警備はちゃんとしているのだ。学園で何か起こったら大問題だしね。
それにしても私の事を迎えにきてくれたノンベルドは、生徒たちに話しかけられている。
私とエミイルダは精霊の力を借りて、ノンベルドにもばれないようにしているのだけど……私がいつも見ているような優しい顔では確かにないなぁ。
精霊たちの力を借りて、ノンベルドたちの声を拾っている。
ノンベルドは女子生徒たちから誘われてたり、男子生徒たちから沢山話しかけられていたり、うん、人気者だよね。
ノンベルドは無視はしていないけれど、あんまり笑っていない。
「ノンベルド、そこまでにこにこしてないね」
「ノン兄様はエミーには、いつもにこにこしているからね。というか、初対面の時もエミーにばっかにこにこしてたし」
「はぁ、これですよねぇ。ノンベルド様はこういう感じですよね。基本的には何だか冷静というか、何事もそつなくこなす感じ。だけれどもノン×エミの一番の尊さはエミちゃんにだけ、優しくて甘いのが、ヤバいです」
「本当にノンベルド様が、ファエミラ様に優しいか確認させていただきますわ」
上から私、エミイルダ、ユーゾンさん、ノレッラ様の言葉である。
ノレッラ様はノンベルドを好いている生徒たちの代表として、本当に私にノンベルドが優しいのか確認しに来たらしい。
それにしてもノンベルド、私の見た事のないような表情をしている。私がいない時のノンベルド、ああいう感じなんだとそういう一面を見られるのは何だか面白い気持ちになった。
「よし、そろそろ行きましょう。エミー。ノン兄様の表情を変えるわよ」
「そんなに期待通り変わるかな?」
「変わるに決まっているわよ」
精霊たちに「もういいよ」って口にして、隠れているのをやめる。
エミイルダに手を引かれながら、ノンベルドの元へと向かう。その後ろから息が荒いユーゾンさんと、神妙な顔をしたノレッラ様がついてくる。
ノンベルドがこちらを見た。
その瞬間、ノンベルドの雰囲気が変わってドキリッとする。
「エミー」
どこまでも優しい声。
その優しい声に私は慣れているけれど、周りは驚いたようにざわめいていた。
やっぱりこういう優しい声をノンベルドがかけるのは珍しいのだろうか。それだけノンベルドが私の事を好きでいてくれているって証なのかなと思うと、恥ずかしさと嬉しさを感じた。
「ノンベルド」
私がエミイルダに連れられて、トコトコとノンベルドの所へ近づけば人前だというのに思いっ切り抱きしめられた。
嬉しいけれど、周りに沢山人がいるのよ?
「エミー、元気にしてた? なにか嫌なことない? 学園生活で何かあったら俺に言うんだよ?」
「ふふ、元気よ。ノンベルド。皆優しくて嫌なこともないの。……ちょっと周りから視線を浴びて恥ずかしいから、離してほしいかも」
抱きしめられるのはとても嬉しい。ノンベルドに抱きしめられるととても安心するの。
だけれどこんなに沢山人がいる所で抱きしめられると恥ずかしかった。私の言葉にノンベルドは身体を離して笑った。
「エミーは本当可愛いね。本当に何かあったら言ってね。あと何かあったらこいつらに言っていいからね?」
何て言いながらノンベルドが、後輩だという二人を紹介してくれた。一人はこの学園の生徒会長なのだけど……そんな人に何かあったら言うようにって、言いにくいわ。
なんか「ノンベルドさんが、凄くにこにこしている……」って目を見開いているのだけど……。
「ノン兄様、そんなことを言ってもエミーも困るわよ。というか、私がエミーのことは守るし、何も起きないようにするから」
エミイルダがそんなことを言えば、「当然だろう」ってノンベルドが頷いていた。
あとユーゾンさんは「はあああああ」って息が滅茶苦茶荒くなってて、大丈夫なのだろうかって心配になった。ノレッラ様は「まぁ……」なんて言いながら私とノンベルドのことを見ているし。
「さて、エミー行こうか」
「うん」
ノンベルドの手に、自分の手を重ねる。ノンベルドがまた笑っている。
そのままエミイルダたちに見送られて、ノンベルドと一緒に街へと向かった。
ノンベルドとのお出かけとても楽しみだわ。