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謎の言葉を吐いて倒れ、恐らく私と同じく前世の記憶があるらしい彼女の名は、ユーゾンという伯爵令嬢だった。
翌日、普通に登校してきて周りの生徒たちに大変心配されていた。ユーゾンさんが倒れてしまったのもあり、ノレッラ様もかえっていったんだよね。何だかエミイルダとお話をしたみたいだけど、大丈夫かな。ノンベルドと婚約者なのをノレッラ様にも認めてもらえるといいなぁと思っている。
ユーゾンさんは私が話しかけると結構挙動不審だった。あの謎の言葉が関連しているのだろうか。それとも私が偽物のエミイルダにも関わらず、フォリダー公爵家に留まり、ノンベルドと婚約していることに何か複雑な思いでも抱えているのだろうか。
それに『精霊姫の恋』を知っているのならば、エミイルダが最終的に誰と結ばれたかとかも知っているのかな。あと私と同じ存在なら話したいなと思って、ユーゾンさんと話をする機会を私は伺っていた。
目が合う度に顔を伏せていたりしたけれど身体が弱いのだろうか。
そんな風に思っていた時に、ユーゾンさんと話す機会が出来たので、「『精霊姫の恋』について知っていますか」と聞いてみた。
ユーゾンさんは私がその単語を知っていたことに驚いていたみたい。
「ファエミラ様も、同じなんですか!? となると、ノン×エミはそのため!?」
「ええと、ノン×エミって何かしら」
やっぱり同じく前世の記憶を持っているらしいので、気になっていたその謎の単語は何なのか聞いてみた。ユーゾンさんは驚いた顔をしていた。
ちなみに私とユーゾンさんは、中庭のベンチでお話しているの。
精霊たちの力を借りて周りに声が漏れないようにしているわ。
「あれ? ファエミラ様って、あんまり『精霊姫の恋』、読んでなかった感じですか?」
「うん。途中までしか読んでなかったし、読んだところもすべて覚えているわけでもないの。此処が『精霊姫の恋』の中だってのは分かったのだけど……」
「なるほど。ということは天然もののノン×エミ? 最高じゃないですか!」
「……ええっと?」
「ぐはっ、可愛い! これだけ可愛いからノン×エミが成立するんですよね。わかります!」
「あ、ありがとう」
何を言っているんだろうと思って見つめたら、可愛いって褒められた。急に褒められたのでお礼を言えば、ユーゾンさんは「ぐはっ」ってなんかダメージを受けていた。大丈夫なのだろうか。
「大丈夫です。ええと、ですね。ノン×エミというのは、ノンベルド様と偽物のエミイルダ様のカップリングです。『精霊姫の恋』の中での私の最も最推しのカップリングです!!」
「カップリング? カップルってこと??」
「そうです! 私が最も尊い! ってなっていたカップリングです! 先日はノンベルド様がいないにしても生でノン×エミの溺愛を実感できて、思わずキャパオーバーで倒れてしまいました。ありがとうございます!」
「え、ええと、私とノンベルド、『精霊姫の恋』の中でカップルなの? 偽物のエミイルダって小説の最初でいなくなって出てこなくなっていたんじゃなかったっけ」
『精霊姫の恋』の中でノンベルドと私がカップル。などと言われてもぴんと来なかった。
偽物のエミイルダは、小説の最初の方でいなくなって、それ以降私が読んでたところまでは出てこなかったはずなのだけど……。
何だか私の事に目をキラキラさせながらユーゾンさんがいう。
「ファエミラ様はそこまで読んでないのですね! それでも成立しているノン×エミは奇跡! えっとですね。後半でノンベルド様が偽物のエミイルダを探し出して一緒に生活していることが発覚します」
「え、そうなの?」
「そうです。そして番外編でノン×エミの尊い追いかけっこ模様が描かれているのです。私はそれがとっても好きだったのです!」
「追いかけっこ?」
「偽物のエミイルダが自分の妹ではないと知って偽物のエミイルダを探し出すため動いていたノンベルド様と、ノンベルド様と距離が開いていて嫌われていると思い込んでいる偽物のエミイルダの追いかけっこです。偽物のエミイルダ、エミちゃんは精霊と仲良しですから、ノンベルド様が追いつけば隠れるってことをしてましたから。そして最終的に捕まって、愛の告白ですよ!!」
鼻息がとても荒い。
ユーゾンさんは興奮している様子だ。
それにしても後半にそういう話があったんだと私は驚いた。
それに私とノンベルドの番外編があるなんて。
……でも確かに私が偽物のエミイルダと同じように偽物だと発覚して家を出たら、その時にノンベルドと距離が出来ていたら探されているって知っても怖くて逃げちゃうかもしれない。
ノンベルドに何を言われるんだろうか。ってそういうのを恐れて小説の偽物のエミイルダは逃亡していたのかもしれない。
というか……
「えっと、小説でもノンベルドは私のこと、好きでいてくれたの?」
ユーゾンさんの言い方だとそんな風に聞こえたので、思わずそう問いかけた。
それにユーゾンさんは力強く頷いていた。
「そうですよ! 小説版のノンベルド様もエミちゃんのこと、大好きです」
「そ、そうなんだ。あとエミちゃんっていうのは?」
「偽物のエミイルダは、家を出た後エミって名乗ってました。なので、エミちゃんです。小説版のノンベルド様は妹のはずのエミちゃんに恋心を抱いてしまった自分に戸惑い、葛藤し距離を置いていたんですよねぇ。そんな中で学園に居る間にエミちゃんが妹じゃないことや家を出たことを知って、エミちゃんのことを探していたんですよ。そもそもわざわざ遠征が多い部隊の騎士になったのも、本編で中々帰ってこないのも時間がある限りエミちゃんを探しているからでしたし。その理由を知った時の尊さといったら、やばいですから。はぁ、そして転生した先で生のノン×エミの幸せな光景を見れるとか、私、幸せ者すぎるぅ」
早口過ぎて所々聞き取れない部分もあったが、ノンベルドは小説版でも私のことを好きでいてくれたらしい。
何だかそれが嬉しかった。