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12/13 三話目
「わぁ、大きい所ね」
私とエミイルダは、学園に入学する年になり、学園にやってきている。
お兄様……ノンベルドは学園を卒業し、今は騎士をやっているの。
婚約したからお兄様呼びではなく、呼び捨てにしているの。何だか最初は不思議な気持ちだったけれど、今は大分慣れたわ。
フォリダー公爵家をノンベルドとエミイルダのどちらが継ぐかって特に決まってないのよ。
『精霊姫の恋』の中では確かノンベルドは騎士として各地に行っていて、領主という地位にそこまで関心がない様子で、エミイルダが結婚して領主を継ぐみたいな話もあったと思う。うろ覚えだけど。
ただ現実のノンベルドは卒業後に何をするかとか決めてなかったみたいなの。私が小説でのノンベルドを思い出して騎士のこと呟いたら、騎士になったわ。
でも小説のように色んな所に行く騎士じゃなくて、学園のある都市のすぐ近く勤務を希望したみたいなの。そして現実のお兄様は公爵家を継ぐことに対しても前向きだわ。エミイルダは「私が継ぐとか無理!」って言ってたから何だかんだノンベルドが継ぎそうだわ。そうなると私も公爵夫人……? 出来るかしらって不安だわ。
小説だとノンベルドはエミイルダに関心もなかったり、中々屋敷に帰ってこなかったり、公爵位に興味がなかったりしていたから……やっぱり小説と現実は違うものなんだなと思った。
私とエミイルダはあのパーティー以降、時々だけどパーティーに参加した。でも私はノンベルドがいる時じゃないと駄目って言われたから、エミイルダより参加してないの。
だって大好きな人に「俺がいないときは行かないで。エミーが他の男にエスコートされているの嫌だから」って言われたら頷くしかなかったもん。
「エミー、そんな風にきょろきょろしていたらぶつかるわよ? ほら、こっちよ、教室は」
「エミイルダ。ありがとう」
思わずきょろきょろしていたら、エミイルダに手を引かれた。
それにしてもエミイルダが美人さんだから、とても注目を浴びているわ。エミイルダはノンベルドに似て、とても綺麗だもの。
「エミー、私の顔に何かついている?」
「ううん。エミイルダの顔は綺麗だなって。だからこんなに注目を浴びているのよね」
「エミーも注目を浴びているわよ? エミーは可愛いから」
「私より、エミイルダよ。それにエミイルダはパーティーでも沢山声をかけられてたじゃない」
「いや、それは貴方の隣にいつもいるノン兄様が睨みをきかせているせいよ……」
そんなことを言われたけれどよくわからなかった。
そもそもノンベルドはいつもパーティーの時、にこにこしているのだけど。
「この学園にはああいうノン兄様を知らない方が沢山いるのよね。私がエミーを守らないと……!」
「エミイルダ?」
エミイルダが何を言っているか聞こえなくて聞き返したら、「エミーは私が守るからね!」なんて言われた。
そういえば、『精霊姫の恋』は主人公のエミイルダが学園に入ってからの恋物語なのよね。私は途中までしか読んでないけれど、エミイルダがどういう恋をするのか楽しみだわ。
そう考えて私はにこにこしてしまう。
それにノンベルドが去年まで通っていた学園だから、ノンベルドの話を沢山先生たちからも聞けるかもしれないわ。ってそんな気持ちもいっぱいなの。
クラスは成績で決められているから、私とエミイルダは同じクラス。
ライモードや私が偽物だって知っても仲よくしてくれている友人のユーレもいた。
私とエミイルダが教室に入ると何だか注目を浴びたわ。やっぱりエミイルダが目立っているのね。
エミイルダはそんな視線をもろともせずに会話をしているライモードとユーレの元へ、私の手を引いて向かう。
「ライモード、ユーレ。同じクラスで嬉しいわ」
「俺もエミーとエミイルダと同じクラスで嬉しいよ」
エミイルダの言葉に、ライモードが笑う。
ライモードは、金色の髪に黄色の瞳の美形だからか、周りがきゃーきゃー言っているわ。
それに王太子だものね。『精霊姫の恋』の中でのライモードはエミイルダの恋人候補の一人だった気がするけど、見た限り二人の関係って只の従姉弟なのよ。
「エミー、一緒のクラスで良かったね」
「うん。ユーレ。私も嬉しい」
エミイルダの後ろにいた私にユーレが声をかけてくれたので、私も笑って答えた。
エミイルダ、ライモード、ユーレとばかり会話を交わしていたからか、クラスメイトの他の子たちとはあまり会話を交わせていない。視線を向けたらそらされてしまったけれど、仲良く出来たらいいなぁ。
目が合った一人の令嬢が何故か机に顔を伏せてたけれど、大丈夫かしら。具合が悪いのかな?
なんて思いながら一日過ごした。
放課後になって、学年が上の女子生徒たちが私たちの教室にやってきた。
「ノンベルド様の婚約者のファエミラ様とはどちらかしら?」
数名の女子生徒たちにそう言われて、名乗り出る。
何の用だろう? 連れていかれたりするのかな? と思ったけれどそんなことはなく、ただ私と話したいみたい。
エミイルダやライモードたちもいたからってのもあるだろうけれど、その生徒たちの筆頭である侯爵令嬢のノレッラ様は「ただ申し上げたいことがあるだけですわ」って堂々としていた。
何だかかっこいい方だと思う。
「ノンベルド様は、とても素敵な方です」
「はい。ノンベルドはとても素敵で、かっこいいです」
「そうですわ! 貴方は取り違え子としてフォリダー公爵家で育ち、ノンベルド様と婚約をしたと聞きました。ノンベルド様は公爵夫妻に言われて婚約を結んだのでしょう。あの愛を知らない冷たい方が理由もなしに婚約をするはずがありません! 貴方が貴族の生活を送りたいというのならば我が家にきても構いません。なので、ノンベルド様のことを思うのならば婚約を解消していただきたいのです」
あ、ノレッラ様はノンベルドのことが好きなんだなって思った。
ノンベルドはかっこよくて優しくて……だから好きになるのも分かる。でも私もノンベルドのことが大好きだし、それには頷けない。
それにもっと気になることもある。
「あのノレッラ様、ノンベルドはとっても優しいですよ?」
「はい?」
何でノレッラ様だけではなくて、後ろにいた令嬢たちも、ざわめいているのだろうか。
皆さま、パーティーでも会った事がない人たちなのだけど、学園でのノンベルドしか見た事がないのだろうか。でも学園に居るからってノンベルドが冷たいなんてことはないと思うのだけど……。
「優しい……? ノンベルド様が?」
「はい。とっても優しいです」
「……どういう所が?」
信じられないものを見るような目でノレッラ様が私を見ている。
「ノンベルドは沢山お手紙をくれます。私が寂しくないようにって沢山手紙をくれるんです。ノンベルドが学園に通っていた間も、私が学園のこと、知りたいって言ったら手紙で学園のことを沢山教えてくれました」
「ノレッラ様、ノン兄様はエミーにはびっくりするぐらいマメに手紙を書きますよ。しかも内容ときたらエミーを気遣う言葉ばかりです。正直婚約する前からノン兄様はエミーのことが大好きではって思いました」
私の言葉の後になんか、エミイルダが補足している。そんなことを言われるとはずかしい。
「ノンベルドはいつも私にプレゼントもくれます。私が好きなものを覚えてくれていていつも沢山くれるんです」
「ノレッラ様、ノン兄様はエミーにプレゼントをあげるのが大好きなんですよ。それにノン兄様は自分の色の装飾品とか、よくあげるんです。特に婚約してからは」
……うん、特に婚約してからはノンベルドの髪や瞳の色の装飾品とかをよくくれるのだ。それを身に着けるとノンベルドは嬉しそうに笑ってた。
「それに久しぶりに会うといつも抱きしめてくれて、何か困ったことないかって気にかけてくれます。私、そういう優しくてかっこいいノンベルドが大好きです。だから婚約を解消は……したくないです」
「ノレッラ様、ノン兄様はエミーのこと、大好きですからね! 一度、ノン兄様とエミーが一緒にいる所を見ればわかりますよ」
エミイルダがノンベルドは私のことが大好きって言ってて、何だか嬉しいし、恥ずかしい気持ちになった。
というか、思わずどういう所が優しいかとか、話しちゃったけれど……なかなか恥ずかしいこと言っちゃったのではないかって私は顔を赤くしてしまった。
そしてノレッラ様が私やエミイルダの言葉に何か言おうとした時、「……ノン×エミ、尊い!」と謎の言葉が聞こえたかと思ったら、一人の令嬢がばたりと倒れた。
この方、さっきから顔を伏せていた方よね。それから教室は慌ただしくなり、その子を保健室へと連れて行った。
何だか寝言で『精霊姫の恋』がどうのこうの言っていたのだけど……、私と同じなのだろうか? でもさっきの謎の言葉は一体……。