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キャラクターシナリオ[エメラダ]

ある夏の日、部屋で本を読んでいると突然エメラダがノックもなしに入ってきた。

「まったく、冗談じゃないわよっ!」

「びっくりしたぁ~。一体どうしたんだよ?」

エメラダはひどくご機嫌ななめだ。

「それはこっちのセリフよ! 今日はやたらと人間の男が寄ってくるんだけど、どうなってるの?」

あぁ、今日からだもんな。あの地獄のイベントは。

「今日と明日、祭りがあるんだよ。だからみんなエメラダを誘おうとしたんだな」

「祭りって?」

「今日が『降星祭』。今晩たくさんの流れ星が降るんだよ。

そして明日が『星花祭』。落ちた星の欠片を職人さんのところに持っていったら、火薬と混ぜてその日の夜に星の花火を打ち上げてくれるんだ」

「人間の祭りにしては素敵じゃない♪」

そう。素敵でロマンチックなんだ。だから恋人たちのイベントとして定着している。この日に気になる相手を誘って告白する人も非常に多い。

彼女なしボッチは惨めな気分になる一年でもっともイヤな二日間だ。

だから俺はこうして部屋に引きこもっていたのだ。

「見てみたいわね、その祭り。一緒に行きましょう」

「えっ!!」

あまりにも予想外の発言に一瞬硬直した。エメラダはこのイベントに誘う意味を分かっているのだろうか?

「なによ間の抜けた顔をして。アタシとじゃイヤだって言うの?」

「もちろんそんなことはないんだけど…。

このイベントにどういう人たちが集まるか知ってんの?」

「初めてなんだから知るわけないでしょ」

当たり前のことを訊くなと返された。

「その…、こ、恋人たちがたくさん参加する祭りなんだよ。ロマンチックなだけにカップルたちに人気で、毎年多くのカップルが集まる」

周りはカップルだらけ。イチャイチャラブラブな甘~い雰囲気が会場全体を満たす。

想像しただけで頭痛くなってきた………。

「周りを気にするのは人間の愚かなところよ。恋人じゃないと参加できない決まりがあるわけじゃないんでしょ。

ほら、早く準備しなさいよ」

愚かと言われてもそれが人間なんだから仕方がない。

エメラダと行けるのは嬉しいが、やっぱりそういうことを意識してしまう。向こうにその気がないと反って悲しくなる。

あまり気は進まないのだけど、頑なに行くのを拒むのはエメラダに悪い気がして渋々付き合うことにした。

部屋を出るとさっそくエメラダを見かけた男子が声をかけてきた。

「エリィさん、良かったら今日のお祭り僕と一緒に行きませんか?」

エメラダがうんざりしたように呟く。

「この学園ごと滅ぼそうかしら」

おいおい! 冗談に聞こえないから恐ろしい。

「悪いけど、もう俺と行くことになってるんだよ」

「君は…、エリィさんの召喚者だね? 君は普段からエリィさんと一緒にいられるんだから、たまには他の生徒にもエリィさんと過ごすチャンスをくれてもいいんじゃないかい?」

「ならコイツに免じてチャンスを与える。

ここで死ぬか、今すぐこの場を去るか。選ぶチャンスを」

エメラダの目がスッと細く氷のように冷たくなった。

「ひ、ひぃ~~」

男子生徒はあたふたと逃げ帰っていった。

毎度こんな感じなのにエメラダとお近づきになろうとする生徒は後を絶たない。

ウチの生徒ってMばっかりか?

「エメラダって人間キライだよな?」

「ええ。たいした力もない価値のない存在だと思っているわ」

自分に言われてるようで心にグサッとくる。

「初めて会ったときから、俺には普通に接してくれてるよな? 封印のことがあったにしろ、俺も人間なんだけどそのことに抵抗なかったの?」

「アンタそんなことも分からないの!?」

まるでこんなバカはじめて見たって表情だ。

「アタシが封印されるところを助けてもらったことにどれだけ感謝してると思ってるのよ!

それにアンタ以前言ったでしょ。アタシが魔王かどうかなんて関係ないって。

アタシもアンタが人間かどうかなんてどうだっていいのよ。アタシの意思でアンタと一緒にいることを選んでるんだから」

うわっ、なんかすごい感動した。

あのときのエメラダもこんな気持ちだったのかな?

俺にとってはたった1回の偶然の召喚だったけれど、エメラダにとっては永遠に封印されるか否か、人生に関わるとてもおおきな出来事だったんだ。

俺は彼女の気持ちをちっとも考えていなかった。

「ごめんエメラダ、変なことを言って。

俺もエメラダといられて嬉しいしとても楽しいよ♪」

「分かればいいのよ。

ほら、早く祭りに行きましょ♪」

笑顔とともに向けられた手を握り返すときにはさきほどの悲しさはなくなっていた。


日が沈むまでまだ時間はあったが、丘を登るとすでに場所取りをしている人がけっこういた。屋台も出ていて賑わっている。

「どうぞ~」

女性係員からチラシを受け渡された。

毎年この日に降る星の中にたった一つだけ魔力のこもった乙女星と呼ばれる特別な星があり、それを見つけることができた女性に“星乙女”の称号と“星乙女のドレス”が贈られるらしい。

そして星花祭当日は特設会場での観覧に招待される。

乙女星の魔力は極少量のため、花火職人が特別なライトを当てて判別するのだとチラシには書かれていた。

俺達はレジャーシートで場所を取って屋台を見て回る。

「ねぇ、あれは何?」

エメラダが指さしたのは割り箸の先に雲みたいなふわふわがついたお菓子だ。

「あれは綿菓子だよ。砂糖を糸状にして割り箸で巻き取ったお菓子だ。甘くて美味しいよ」

屋台のおっちゃんから1個買ってエメラダに渡す。

「ほんとだ、甘い。口の中で溶けるわ。人間の世界には面白い食べ物があるのね」

美味しそうに食べる様子を見つめているとこちらに綿菓子を向ける。

「アンタも食べれば?」

「えっ」

それって間接キスになるのでは?

「ん?」

戸惑った俺を見て小首を傾げる。

エメラダは気にしていない……というか気づいていない?

まぁ、相手がいいと言うのならせっかくだから一口綿飴を食べる。

「頬に付いてるわよ。みっともない」

俺の頬にちょこんと付いた綿飴の欠片を指で摘まむと、ペロンと自分の口に運んだ。

「お、おい…」

本人は平然としている。まるで自分のしたことの意味することを知らないようだ。

「なによ、どうしたの?」

「あ、いや……、エメラダが今したことって、恋人どうしでやることなんだけど…」

「!!」

エメラダの顔がカァーーッ、と赤くなった。

俯いて胸につけたクリスタルローズのブローチをいじる。

「し、知らないわよ、そんな人間の世界のことなんて!」

自分1人で先にスタスタと行ってしまう。俺はあわてて背中を追いかけた。


暗くなるにつれて見物客が増えてきた。空にはちらほらと流れ星も流れはじめている。

周りには予想通り手を繋いだり肩を抱いたりしているカップルが多い。そんな中で家族連れの父親が小さな子供を肩車している風景は微笑ましくて和む。

だんだんと流れる星の数が増える。

満天の夜空とシャワーのように流れる輝く星々とのコントラストは、どんな絵画よりも美しい。

「素敵……」

エメラダもこの自然の天体ショーに魅入っている。たとえ世界が違っても、美しいと思う心はどの世界でも共通のようだ。

明日はこの流れ落ちた星の欠片を使った花火が打ち上げられる。

年に二日間の夜空を彩る祭典は明日も続く。


星花祭の朝、星の欠片を探しに出発した。欠片の受け付けは正午までということがあって、みんな早くから探している。

前夜あれだけの星が流れたのだから見つけることは別段難しいことではない。朝日のもとでもキラキラと黄色に光る星がそこいらに落ちている。きっと高いところから見たら、大地の星空になっているだろう。

俺は適当に足元の欠片を拾う。

「だめよソレじゃ」

エメラダが俺の手にした欠片を見て反対した。

「どうして? 大きさと形に若干の違いがある程度でどれも同じだろ?」

他の欠片と見比べるが、俺には違いが分からない。

「とにかくダメなの。ここはアタシに任せなさい」

言われるままにエメラダについていく。

エメラダは欠片を手に取って見比べるでもなく、ただただ歩いているだけに見える。

「アレにするわ」

1kmぐらい歩いただろうか。エメラダが1つの欠片を拾った。

見せてもらうが、最初に俺が拾った物となんら変わりなくね?

とりあえず目的は達成したので、受け付けを行っているエリアに移動した。

「ふむ。乙女星に間違いない」

唖然………

この道数十年の花火職人のおっかなそうなおっさんがライトとルーペを使って頷いた。

極微量の魔力で特別な道具を使わないと判別できないのに。

「さすがエメラダ……」

「フフンっ♪」

得意気にたゆんと胸を張る。

「これが景品の“乙女星のドレス”と招待状です。お連れ様は1名様までご参加頂けます。どうぞ素敵な夜を」

ドレスを受け取ったエメラダは笑顔だ。そういえばチラシに載っていたドレスの写真をじっと見ていた。どうやらこのドレスが欲しかったようだ。やっぱり魔族でも女の子だな。

「アタシともう1人行けるって、良かったわね」

「俺もいいのか? 別に誰かを誘わなくても、1人で行ったって問題ないんだろ?」

「アタシに1人で行けと言うの? アンタが来ないとつまらないじゃない」

エメラダって素で人をドキッ、とさせることを平気で言ってくるよな。天然か?

「はいはい。それじゃあお供させていただきますよ、お姫様」


特設会場は昨日の丘とは別のところにあった。

街の有力者などVIPだけが入れる特別会場。イベントやパーティーなどで使用される施設だが、一般人は立ち入り禁止で入れるのは特別に招待された人間だけ。まさか自分がここに入れる日がやってくるなんて。

マナーもろくに知らないから正直不安だ。ドレスコードだけは学生だから制服が許されているのが唯一の救いだ。

会場の前でエメラダを待つ。寮から並んで来るというのもなんだか上品なパーティーに合わない気がして待ち合わせることにした。自分なりに気取りたかったのだ。

「お待たせ」

お姫様がやって来た。いや例えじゃなくて、ドレス姿のエメラダが本当にお姫様に見えたのだ(魔族の王だからあながち間違ってないのかも)

紺を基調とした生地に瞬く星の欠片が散りばめられている。特に左肩の辺りから右下の裾にかけて星の欠片が集まっているさまは、まるで夜空を流れる星の河のようだ。

この“星乙女のドレス”を優雅に着こなしているエメラダは普段とはまるで別人に見えた。

右胸にクリスタルローズのブローチが着いている。

「そのブローチ着けてくれてるんだ」

「えぇ。アタシのお気に入りだもの」

大切そうにブローチを指でなぞる。

「行こっか」

手のひらを上に向けてエメラダに差し出す。その手に軽く自らの手を添える。

会場内は壁沿いに椅子が置かれている立食形式だった。

「いらっしゃいませ」

スタッフからドリンクを受けとる。

やべー、どうしたらいいのかまったく分からん!

「なぁ、どーしたらいいんだコレ? 料理はテキトーに取ってもいいのか?」

小声でエメラダに話しかける。

「いいわけないでしょ。ほら、前菜・魚料理・肉料理・デザートの順で右から左に並んでいるでしょ? その通りに料理を取っていくのよ。念のために言うけど、割り込みなんてするんじゃないわよ」

「ほぇー。王様やってるだけあってマナーに詳しいんだな」

「アンタが無知なだけよ」

ぐぬっ、悔しいが言い返すことができない…。


料理をしばらく楽しんでいると、マイクを持ったスタッフが花火大会の時間を告げ中庭に移動する。

ひゅるるるるるる~~~

ドカーーーン

花火大会が始まった。色とりどりの花が夜空を色彩豊かに照らす。

普通の花火よりも煌めきが強く、花を咲かせたあとの散っていくキラキラが長く残っているのが星の花火の特徴だ。

「綺麗ね~」

「!」

花火の光に照らされたエメラダの横顔にドキッとした。

花火よりも君のほうがずっと綺麗だよ。

なんてキザなセリフは口が裂けても言えやしない。だがそう思ったのが本音だ。

ドレス姿を見たときもそうだが、薄いドレスが華奢な身体のラインをはっきりとさせ、胸の形を強調させていて、大人の女性の印象を与えている。エメラダの一挙一動に美しさを感じてしまっていた。

ドキドキ、ドキドキ

心臓が高鳴る。

ここで一歩を踏み出さなきゃ男じゃない!

俺は決意してエメラダの身体と腕の間に自分の腕をスッと入れた。

「!?」

エメラダの身体が小さくピクッとなったのを感じた。

拒まれるかもしれない……。

不安がよぎるが俺は自分の気持ちに正直にこの小さな一歩…、俺にとっては大きな一歩を踏み出した。

「しょうがないわね。今日だけ特別よ?」

エメラダが応えて腕を絡ませてきてくれた!

身を預けるように俺の肩に頭をちょこんと乗せる。

ぷにゅん、と柔らかい感触が密着した腕に伝わる。

「綺麗だよ」

自然と口を衝いて出た。

絡めるエメラダの腕にわずかに力が入った気がした。

ひゅ~~~~~~~~~

ドカーーーーーーーーーン

花火大会の最後を一際キレイに飾ったのは、エメラダの見つけた乙女星の花火であった。

この大輪の花火のように、今日という日はいつまでも俺の心に光輝く思い出として残るだろう。

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