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煌魔降臨! 決戦アシスター![後編]

「あ……あ……」

俺ですら分かるくらい魔力が爆発的に増大していて、その場にいた全員が声にならない声を上げる。

「あなたたち……、もう助からないわよ」

ゾクッ!

背筋が凍った。言葉にも攻撃力があるかのように心臓を鷲掴みにされた気分だ。

「………!」

身体中がガタガタ震えて一歩も動くことができない。

「ふふ♪」

その様子を(さげす)んだ目で見ると、エメラダに向かって右手をかざす。

「ああぁっ!」

封印魔法に流れ込む魔力が上がったことにより足首まで後退させていたクリスタルが、命を吸い取ろうと這い上がってくる亡者のようにエメラダの身体を蝕んでいく。

「くっ、新たな力を得ようとアタシは必ず打ち勝って、アタシに戦いを挑んだことを後悔させてやるわっ!」

全神経を集中してクリスタルに魔力をぶつけて押し返そうとする。

「魔王の足掻く姿というのは滑稽ね。その減らず口すぐに利けなくしてあげる!」

もう片方の手もエメラダに向けて魔力を放つ。

「きゃーーっ!」

魔力が倍増したことでクリスタル化が急速に上がった。エメラダが必死に抵抗しても突き上げるように進んでくるクリスタルを止めることができない!

「い、いや………」

再びエメラダの表情に恐怖が広がりはじめた。

「あはははは! 封印された魔王が見られるなんて、ここはいい観光スポットになるわよぉっ♪」

「兄さんっ、このままじゃエリィさんが!」

限界突破したエメラダさえも凌駕する魔力のせいでミスリが身体の何十倍も大きく見える。

ジョセフの言葉は聞こえているが、震える身体に力が入らない。ミスリの殺気に貫かれて地面に繋ぎ止められてしまった。

「や……やだ……やめて……」

エメラダも完全に恐怖に飲まれてしまい、もはや抵抗する気迫を失なって腰のあたりまでクリスタルに侵蝕される。

「やだ……やめて……、助けてフォックスッ!」

「っ!」

初めて弱音を吐いたエメラダの言葉にようやく我に返った。

「クソッたれがっ!」

自分の頬に拳を叩きつけて震えを殴り飛ばす。

「今助けるぞっ!

食らえっ!」

魔剣の柄を握りなおしてミスリに向かって思いっきり振り下ろす!

「あはははは!」

渾身の残撃波はまったく通じなかった。ミスリに届く前に身体から溢れ出る魔力に掻き消されてしまった。

「こうなったら!」

「これ以上邪魔はさせないわよ。水虎!」

俺の次の行動を読んだミスリは水虎を呼び寄せる。

「ガァオォーッ!」

爆龍と熾烈な戦いを続けていた水虎だが、術者のパワーアップに呼応して巨大化し、龍の喉元に牙を突き立ていともたやすく消滅させた。そして次の標的として俺達に襲いかかってきた。

「ぐぅぅ…………っ!」

もの凄いパワーでシールドに食らいつく! あまりの衝撃で手から剣が弾き飛ばされそうになった。

「そこで魔王さまが封印される様子を大人しく見ていなさい」

邪魔者を水虎に任せて封印魔法に集中する。

「あぁ………あ……か、身体が………」

「ぐぎぎぎ………! これじゃあ身動きできねぇ……。ジョセフ、何かいい方法はないかっ?」

ちょっとでも気を抜けばシールドが破られる…。後ろを向く余裕もなく、声だけを後方へ投げる。

対象を自分に代える『自集向転術(ターンプロヴォーク)』では、すでにエメラダに対して発動してしまっている封印魔法には効果がない。

「一体どうしたら……。」

リリルはもちろん、回復魔法に魔力の大半を消耗しているジョセフも戦える状態じゃない。もしシールドが破られれば、俺達はなすすべもなく食い殺されるだろう。

ピシリッ

「ヤバいッ!」

シールドにひびが入った! ひびはガラスが割れるように広がっていく。

「な…、長くは持たないぞ。早くなんとかしないと!」

「1つだけ方法があります………」

「まだ動いたらだめですよっ」

ダメージが回復していないリリルがふらつきながらゆっくりと立ち上がる。

「あなたの魔剣での直接攻撃ならダメージを与えられるはずです。

私が残った魔力の全てを使って水虎を抑え込みます。その間に攻撃を…。そうすれば敵も封印を中断せざるをえないでしょう」

「そんなことをしたら神様がっ!」

「そ、そうだぞ…! 魔力を使いきったら、リリルが死んじまうだろ!」

「良いのですよ。私も使命ではなく、仲間のために行動したいのです。そのためなら命など惜しくはありません」

「バッカ言ってんじゃねぇぞ! んな案認められるかっ!

ジョセフ、リリルが変なことしないよう見張っとけよ」

「分かってる!」

リリルを犠牲にして助かる案など却下だ、頭の中でシュレッダーだ!

そうこうしてる間にもエメラダの封印は進行し、身体の半分が水晶に覆われてしまっている。

バキィッ!

こっちはこっちでついに水虎の牙が1本シールドを貫通した。

「やだっ、助けてーー、フォックスーッ!」

「ちくしょーーーっ!」

まさに絶体絶命のピンチ。どうしようもない状況で都合良く助っ人が現れることもなく、俺とエメラダの叫びだけが無意味に(くう)に響きわたった。

ピカーーーッ

「な、なに!?」

封印の水晶がエメラダの胸の辺りまで届いたとき、胸元につけてあったクリスタルローズのブローチが突然輝きだした。

「な、なんだ? 何が起こってるんだ?」

ブローチを起点に、水晶が伝染するように薔薇色に変わって行き

パキィーーーーーンッ!

水晶全てが薔薇色に染まると粉々に砕け散った。

不思議なことに、砕けた欠片がバラの花びらとなって宙を舞う。

「グガァァーーーーッ!」

ひらひらと舞う花びらに触れた水虎が断末魔の叫びを上げて蒸発するように消えていった。

「い、一体なにが起きたんだ………?」

その疑問に答えられる者は誰もいなかった。ミスリでさえ状況が把握できずに困惑した様子で黙りこんでいる。

奇妙な沈黙が辺りの空間を支配する。

「許さない………」

ただ1人、エメラダが小さく呟いたその一言だけがやたらに大きく辺りに響いた。

エメラダは粉々に砕け散ったブローチの欠片を1つずつ丁寧に拾いあげていた。

「よくもアタシの大切な宝物を……」

「可笑しい♪ 魔王ともあろう者がそんな安物が大事なの?」

「あんたは許さないっ。あんただけは絶対に許さないっ!!」

「ふん、ならそのゴミと一緒に燃やしてあげるわ!

浄化の聖炎ライニグング・フェニックス』」

雄々しく燃えさかる巨大な火の鳥が甲高い鳴き声を上げて、エメラダに向かって優雅に羽ばたく。

バシュッ!

「なんですってぇっ!」

振り向きざまに腕で横に振り払っただけで、フェニックスは散り散りになって霧散した。

エメラダの感情を表すように、周囲の魔力がバチバチッ、と音を立てて激しくスパークしている。

「あれは…、エメラダなのか………?」

怒りを露わに立ち上がったエメラダは、まるで彼女だけ数年時が経ったかのようにさらにスタイルが良くなり、髪は腰まで伸びて大人っぽい女性になっていた。

その身に宿す魔力にも変化が顕れている。輝きが強くなり、揺らめく魔力は濃淡が分かれ、エメラダ自身が燃えているようだ。

そして、魔力が凝縮して出来た翼と尻尾に加えて、天女を想わせる羽衣がふわりと柔らかくたなびいて女性らしいたおやかさを際立たせている。

「あの姿は一体? エメラダに何が起きたんだ………?」

「さっきまでとはまるで別人みたいに魔力が高まっている…。こんなにすごい魔力は初めてだよ」

「私ですらこれほどの魔力は感じたことがありません……。魔王の中の強い想いが怒りによって刺激され、更なる覚醒に結びついたようです」

ざっ、ざっ、と静かに歩みを進めていく。怒りの炎を揺らめかせた瞳でまっすぐにミスリだけを見つめて。

「い、今さらパワーアップしたところで、この私には敵わないのよ!」

強気な態度を保ちつつも、エメラダの気迫に気圧されて一歩後ずさる。

「………」

嵐のなか大海原に投げ出されたような荒れ狂った気配にごくりと唾を飲む。

無言で近づくエメラダの魔力が集束していき黒く変化する。

「あなたはアシスター様にとって脅威となりうる存在ね。邪魔者はここで確実に仕留めて、アシスター様のご命令どおり魔剣を頂いていくわっ。

これで最後よ、『未来へ導く希望の光ギデ・アヴニール・ホープシャイン』!!」

「『黒竜殲滅波バハムートエクスターミネーション』」

2つの巨大な力が激突し、衝撃で大地が剥がれ粉塵となる。

「みんな大丈夫? なんて力のぶつかり合いなんだ! 世界が壊れてしまいそう………」

「すごすぎてこれ以上近づくことができない……。これが覚醒したエメラダの力なのか?」

「これはまるでヴェンディダードの………。

神の力を得たといえど、もはやあの力の前では……」

2人の魔法は暗黒が光を粉砕して勢いを落とすことなくミスリを襲う。

「まだよっ……、こっ、これぐらいの攻撃…!」

ミスリはシールドを張って堪えている。

「あんたはアタシを怒らせた、もう未来は与えない」

「こ、こんなはず………。魔王の力がこの私を超えているなんて、そんなのあるはずが………」

シールドを張ったままズザザザと黒竜に押されて、地面に踏ん張った跡が続く。

「アタシはもう魔王には戻らない。あんたたちの目的は知らないけどこの世界を乱そうというなら、アタシがこの世界を守る。 あんたたちの計画はこのアタシが潰すわ!」

「ま、魔王が世界を守るですって!?」

この発言に一番驚いたのはリリルだった。

……味方に責められ敵に同情されたり、味方に驚かれたりとバラバラなパーティーだな。

まぁ、他の人間なんてどうなろうと興味ないとか言ってたエメラダの言葉とは思えないのは俺も同じだけど。一体どういう心境の変化だ?

「なんとなく理由が分かるよ」

ジョセフが意味深にこちらに視線を向けた。

「そんなこと……させる…わけ…に…は……

こんな……こんなはずじゃ………! アシスターさまぁーーーーーーー!!」

「うわあぁーー!」

ミスリのシールドを破って大爆発が起きた。もの凄い轟音と光で目と耳を塞ぐ。

……………………

「こっ、これは!?」

しばらくして先に感覚が戻ったのはジョセフだった。

少しの間を置いて俺の感覚も戻ってきた。

「な、なんだこりゃ!?」

まだ頭がくらくらするが、ゆっくりと目を開けると視界の先の大地が失くなっていた。正確に表現するなら、爆発によって大穴が空いていたのだが、それが城がまるまるすっぽり収まるほどの大きさだったのだ。

「エメラダは?」

穴のかたわらにぽつんと佇んでいた。翼と尻尾はもう無く、魔王化を解いて元の姿に戻っていた。

ジョセフとリリルを残して側に駆け寄る。

「エメラダ、大丈夫か?」

勝利したはずなのにどこか様子がおかしい。ぽつねんと立っている姿に心配になる。

「ごめん。フォックスから貰ったブローチ壊れちゃった………」

俺の胸にコツンと頭を乗せてきた。

よほど気に入っていたのかショックを受けているようだ。

「そっか。そんなに大事にしてくれてたんだな、ありがとう」

弱々しく見える彼女の頭にポンッと手を乗せた。

「エメラダが無事で良かったよ。俺にとってはエメラダが何より大切だからな。

ブローチならまたプレゼントすっから。だからそんなに悲しそうにしないでくれよ」

エメラダの頭を撫でる。さらさらしていて撫で心地が気持ちいい。

「うん……」


「………負けちゃったわね」

穴の中心部に倒れていたミスリをジョセフと協力して穴の外へ引き上げた。

「ミスリ……」

「あのブローチは君からのプレゼントだったのね。

そっか……、だから封印魔法が効かなかったんだ。魔王さまとフォックス君がお互いを想う絆が起こした奇跡なのね……」

ミスリの瞳の灯火は弱まっているが灰汁が抜けたように喋る。

「フォックス君、ちょっと耳を貸してもらえる?」

横になったままのミスリの口許に耳を近づける。

「魔族はね、人間ほど恋愛感情が豊かじゃないの。

魔王さまも君のことを気に入ってはいるけれど、好きだという感情を自覚できていないわ。だから、男の子の君がしっかりリードしてあげてね♪」

「ッ!!」

かぁーっ、と顔が赤くなるのが自分でも分かった。

「どうして俺にそんなことを……?」

「………私も普通の家に生まれて普通に恋がしたかっ……た………」

その言葉を最期にミスリは眠りについた。

「………」

彼女が何を思いアシスターに協力し、どういう気持ちで俺達と戦っていたのか、今となってはもう分からない………。だけど、無性に悲しくなって涙が止まらなかった。



「ここがアシスターのアジトか」

ハイダウト火山の麓に人工的に作られた洞窟の入口があった。おそらくここがアジトで間違いないだろう。

ミスリとの戦いのあと、消耗の激しかったリリルとジョセフは近くの町で休ませている。

一旦態勢を整えるという意見もあったが、時間を与えれば敵も戦力を整え直してしまう。ミスリ以上の部下を用意されてはこちらの勝ち目が低くなる一方だ。結果、俺とエメラダの2人でアジトに乗り込むことになった。

「早く倒して街に帰りましょ。約束、忘れないでね」

「あ、あぁ…」

こんなに期待されたら、次はもう少し値の張る物にした方がいいのだろうか? お財布大丈夫かしら………?

「それにしてもエメラダが世界を守るなんて言うなんてな。正義に目覚めたのか?」

「はぁ? なに言ってんの?」

これまでにないくらい怪訝な顔で勢いよく振り返ってきた。

「えっ? だって世界を守るためにアシスターの計画を潰すって………」

「アタシが生きていくと決めた世界だから守るってだけ、邪魔者を消してね。

なに、この世界の人間を守るために戦うとでも思ったの? そんなことあるわけないじゃない。他の人間なんてどうでもいいわ。アタシは自分のやりたいことのために戦うだけよ」

「あー…………」

唖然として開いた口が塞がらない。

こうも堂々と人類軽視で世界の命運を懸けた決戦に挑むヒロインもそうはいないだろう。もしここにリリルがいたら、また一悶着あったかもしれないな。

「ぷっ、あはははは!」

思わず笑いが吹き出た。

「ちょっと、なにが可笑しいのよ!」

エメラダが不満そうに頬を膨らます。

「いや、エメラダらしいなって思ってさ。そりゃそうだな、平和のために戦うわ!なんて違和感ありまくりだわ。くはははっ。

…うん、やっぱエメラダといると楽しいわ。

俺は世界なんて広い視野を持つことなんてできない。それに人間1人の手が届く範囲なんてたかが知れてる。それが集まって世界を構成してるのなら、ちっちゃくたって自分なりの理由で戦ったって構わないよな。

よし、俺も勇気を出して理想を叶えるために頑張るか!」

俺は決戦への一歩を踏み出す前にある決断をした。

「行こう、これが最後の戦いだ。

俺、この戦いが終わったらエメラダに伝えたいことがあるんだ」

あっ、今のって死亡フラグだったかも?

いや、俺とエメラダなら大丈夫だ。これまで何度かピンチはあったけれど、乗り越えてその度に強くなってきた。

絆と呼べる信頼関係も築けていると思う。お決まりのセリフでこの先が決められてたまるか。フラグは折るためにあるんだ!

「えぇ!」

並んで洞窟の中へ歩き出す。


一本道がひたすら続く。罠を警戒していたけど、洞窟内は驚くほどスムーズに進んだ。進むにつれて温度がだんだんと高くなってきて汗が流れる。

「そろそろ結界を張っておいたほうがいいわね」

エメラダの魔法で身体がすっと涼しくなった。

「これで有毒ガスも安全よ」

「あっ、そーか。やっべ、そこまで考えてなかった」

あっぶね、ボス戦の前にフラグ回収するとこだったわ……。

「…アンタねぇ~、もうちょっと気を引き締めなさいよ? この先から邪悪な魔力を感じるの、アタシでも感じたことがないほどの邪悪な気配よ。

アシスターって人間はさっきの女以上に恐ろしい力を持っているようね。能天気に構えていたら、一瞬で殺されるわよ?」

「すいません………」

あれ? 信頼関係は? ボス戦前にお説教されてしまった……。

なんてアホなこと考えていられる相手じゃないらしい。エメラダさえ感じたことのない気配って、アシスターは一体何者なんだ?

ミスリのように多重召喚で力を得ているのかもしれない。だとしたら半端じゃない強敵になる。俺もこの魔剣の力をフルに使って戦わないと。

これからエメラダと平穏な学園生活を送っていろんなところに遊びに行って。やりたいことは山ほどある。必ず2人揃って帰るんだ!

「近いわ。この先、広い空間になっているようね。気配の人間はそこにいる」

いよいよ決戦のとき。張り詰めた空気に動悸が激しくなって息苦しい……。

エメラダの言うように一本道の先は広い空間になっていた。地面には巨大な魔方陣が描かれている。学園のと似ているがどこか違う。

そしてその魔方陣の中心に、俺達を待ち受けるようにして学園長室を襲った男・アシスターはいた。

「ミスリを倒したか。パワーアップを果たした力はオレでも多少は手を焼く程度にはあったんだがな」

部下を全て倒されたというのにさして焦る様子もなく腕を組んで静かに立っている。それどころか、あれだけのパワーを持っていたミスリを“多少”手を焼く程度と言い捨てた。

「ここで部下に召喚の力を与えていたのね」

なるほどこれが改良型の召喚魔法陣というとこか。

「アシスターッ、お前の目的は何なんだ! 魔剣を狙っているようだけど、この剣を使って何をしようとしてるんだ!」

アシスターはこちらの問いに答える代わりに背中に手を伸ばしクロスに帯剣している内、アーミングソードを引き抜く。

「死ね」

学園のときと同じように一方的に攻撃を仕掛けてきた。

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