はじめての戦闘
一同は山の北側の麓を目指した。
(森を抜けたらすぐにこんな荒野になってるなんて。これも精霊がいない影響なのかな~。あれ?あの小屋の周りだけ草花が咲いてるし魔力で満ちているような。)
ウィルヘイムは驚いている。
「こんなところに人が住んでいるなんて知りませんでした。」
「ヒュムの街やエルフの里からは山の反対側で見えませんし、山のこちら側はゴーレムや自強い魔獣も出るので用がなければ近づくことはありませんからね。」
コンコンッ。
ガルドがドアをノックした。
「メリル殿おられますか。ガルドです。」
「…留守。みたいですね。」
「もしかすると山へ鉱石を取りに行っているのかもしれません。ここで待っていても仕方ないので山の方へ探しに行ってみましょう。」
「一人で山へ?危険では?」
ラインハルトが質問した。
「ドワーフは魔晶石を加工する技術に長けているので、低位の魔物を寄せ付けない術を持っているんだそうです。あの小屋が無事なのも魔晶石を使って魔除けの術を組んでいるそうですよ。」
「へー。便利なもんだな。」ラインハルトはうなづいた。
(なるほど、小屋の周りにだけ草花が咲いていたのもその魔晶石の力なのかな?ヴィユノークさんの小屋も魔気に満ちていたけど、それであんな場所でも魔物に襲われずに暮らせていたのかな?)
「こちらから山へ登れますよ。みなさん行ってみましょう。」
ガルドの後にみなで続いて山へ向かった。
(見たことない鉱石があちこちに落ちているな。ん、あの青い石、目を凝らすとうっすら光って見える。あれが魔晶石なのかな?そういや洞窟にも光って見える鉱石あったな?)
「うわっ!地震だ!」
「この山は死火山なので地震など起きるはずが…」
「ウィルヘイムさんもこの山のことに詳しそうですね。確かにこの付近で地震なんてまずありません。それに地震なら我ら狼牙族の感覚をもって気づけないはずないのですが…。」
「みなさん!上の方で動く強い魔力を感じます…。」
ヴィユノークがおびえながら山の上を指さした。
(確かに魔力を感じるけど、こんなに遠くからそんなにハッキリ感じられるのか。この子ホントに魔力に乏しいのかな?)
「何も感じないが…」
「ふむラインハルト殿も何も感じませんか。私もです。イザ殿は何か感じますか?」
「はっきりとは感じませんが確かに上に何かいますね。」
「うわー!!!!」
「悲鳴だ!みんないくぞ!(何だこいつは…?ゴーレム?そしてその向こうにいるのは少女…?)」
「こいつ何なんだよ!ゴーレムにしてはでかすぎだろう!」
ラインハルトとエルザは武器を構えた。
ガルドも爪と牙をむき出しにして戦闘態勢になった。
「こいつは自然発生するゴーレムなのか?この大きさは普通じゃないぞ…」
ラインハルトは冷や汗をかいている。
「なんとか俺らで隙を作る!エルザはあの子を!」
ラインハルトがエルザに指示を出した。
「あいよ!無茶しないでね!」
「私が魔法で援護します。ヴィユノークは!エルザさんの援護を!」
「わかりました!」
(ん?いまウィルヘイムさん不敵な笑みを…?気のせいだよな。)
ラインハルトが剣を打ち込むが全く歯が立たず弾かれる。
ガルドの爪と牙も致命傷にはならなそうだ。
イザも魔力を込めた拳で応戦したが殆んどダメージを与えられない。
「これがゴーレムの硬さかよ…金属を切ってるみたいだぜ…まるで倒せる気がしない。」
(竜化した方がよさそうだな…人化の状態だと格段に力が落ちるみたいだ…だけど、前みたく範囲攻撃をすると向こうにいるエルザと少女まで巻き込んでしまう…どうすれば。)
「どこか弱点はないのか!」
3人で攻撃を繰り返していると肩の付け根や足の付け根だけ傷が入っている。
「(あった!こいつそこが弱点か!)みんな!こいつらの弱点はおそらく関節だ!関節を狙え!」
「なるほど、そういうことか…」
そういうとラインハルトは剣に魔力を集め始めた。
「これが聖騎士の力だ!聖剣乱舞!!!!」
一瞬のうちに4連撃とともにゴーレムの右腕が崩れ落ちた。
「やるな!私も負けておれん。」
ガルドは両前足に魔力を集中している。ガルドの両足が風を纏った。
「ウイングブロウ!」
ガルドの攻撃でゴーレムの右足を砕いた。
二人の攻撃を受けてゴーレムは倒れこむ。
(これがスキルか、格上の相手でも少ない魔力で致命傷を与えられる威力を引き出せるのか。俺も自分のスキルを把握しないとな…。って感心してる場合じゃないな。)
「よしいけそうだ!畳みかけるぞ!」
ラインハルトがそういったそばでヴィユノークが叫んだ。
「みなさん気を付けてください!大きな反応があと2つ…!みんな後ろ!」
「おいおい冗談だろう?3体同時かよ…」
ラインハルトは引きつった笑い。
「後ろの一体は私がひきつけます。そのすきに彼女を!ファイアウォール!」
炎の壁を作り出しウィルヘイムがゴーレム1体を足止めしている。
エルザとヴィユノークが倒れている少女の元へ。
「おい!大丈夫か?」
「あ、ありがとうございます。はっ!皆さん気を付けるんじゃ!そのゴーレムは普通のゴーレムじゃない!おそらくエレメントゴーレムじゃ!すぐ再生するぞ!」
ゴーレムの方に目をやると先ほど二人が攻撃したゴーレムがすでに再生を始めている。
「なんだと…?ゴーレムが再生するなんて!それになんだこの再生速度は!はっ!ヴィユノークさんあぶない!」
ヴィユノークの後ろからゴーレムが殴りかかろうとしている。
「こっちを向きやがれ!」
そういうとラインハルトは盾を構え剣を天へ向けた!
「ウォークライ!」
しかしゴーレムはヴィユノークの方を狙っている。
「バカな!俺のウォークライが効かないなんて!危ない!」
ラインハルトがヴィユノークの前に飛び出し吹き飛ばされた。
「ラインハルト殿!ぐうっ!」
ガルドもラインハルトの方を気にした隙にゴーレムの攻撃により飛ばされ倒れてしまった。
「(やばいな…)ヴィユノークさん二人に治癒を!」
「はい!」
ヴィユノークは二人に手を当て魔力を集中している。
背後から先ほどのゴーレムと再生を終えたゴーレムもヴィユノークを狙う。
「あぶない!!」
エルザが叫んだ。
「ふぅ、ギリギリセーフ。」
2体のゴーレムが振り下した腕をイザが両方片手で受け止めた。
「ゴーレムの攻撃を素手で止めるってマジかよ…。」
ラインハルトは笑っている。
「みんなここは任せてくれ、ヴィユノークさん、二人の治療を続けてくれ。」
「は、はい!イザさんも気を付けてください!」
イザは全身に魔力を流した。
(人化の状態でやるとどこまで力を出せるのかわからないけど、頭に浮かんだスキルを使ってみるか。)
「まずは…と。」
そういうと、イザは右手に魔力を集中させて関節を狙いゴーレムを攻撃していく。
しかしすぐにまた再生を始める。
「ふむ…。いっきにかたと付けなきゃ無理か。」
「こんなのどうやって勝てばいいのよ!」
エルザが少女を抱えたまま焦った顔をしている。
「エレメントゴーレムは魔鋼を核にして生成されておるはずじゃ!おそらく体の中心にある核さえ壊せば機能を停止するはずじゃ!」
傷だらけの少女が叫んでいる。
「んなこといったってあの堅い岩の体の中心をいったいどうすれば…」
エルザが悔しい顔をしている。
(この子なんでそんなことを知ってるんだ…?って今はそんなこと考えてる場合じゃないな。核さえ壊せば…か。)
イザは目を凝らし魔力を目に集中させた。
ゴーレムが襲い掛かっている。
「イザさん、あぶない!」
ヴィユノークが叫ぶ。
(あれだけの再生能力を維持してるのはおそらく魔鋼から魔気を供給してるからだよな。
だとしたら魔力感知で探ってみれば核の場所がわかるはず。)
イザは目に魔力を集中させる。
…あった!目に魔力を集中すると魔力の濃い場所が見える。あそこが核か。これならいける!)
「ウィルヘイムさん!もう一体もこちらに!」
「何か手があるのですね。イザさんお任せします!」
ウィルヘイムはイザの方へゴーレムを誘導してすぐに後方へ離脱した。
(普通に戦っていちゃ3体同時に倒すのは厳しい。さっき頭に浮かんだスキルの中からいくつかを…)
「試してみるか。」
そういうとイザは。魔力を今度は両手に集中させる。
「メガヒール!」
ヴィユノークが回復魔法で二人を回復している。
ラインハルトは気が付いたようだ。
「ラインハルトさん!」
「…っつ…助かったよ、ヴィユノークさんありがとう。あのすさまじい魔力は一体…」
イザは左手をゴーレムの方へ向けた。
「…l時の支配者…ストップ…!!」
ゴーレムの周りにいくつもの時計板が浮かび上がる。
そしてゴーレム達の動きが完全に停止した。
全員絶句している。
「うそ…時間を操る魔法…!?こんな見たことがない…いやこれはスキル…なの?」
ヴィユノークが驚いている。
そしてイザは右手をあげた。
「いくぞ。みんな伏せていてくれ。ドラゴンライトニング!」
一瞬で辺りが暗くなり上空には暗雲。
イザが手首を下に返すと、暗雲から竜の形をした赤黒い強力な雷がゴーレム達の体に降り注いだ。
ゴーレムとその周囲は一瞬で消し飛んだ。
(うわっ…何この威力…なんか適当に選んで使ってみたけど…このスキルはもう封印しよう…)
「おいおい…なんて威力だよ…」
ラインハルトは笑っている。
「我々が為すすべもなかったゴーレムを3体も…それも一瞬で…。」
ガルドは驚愕しているようだ。
「イザさんやっるぅ~。」
エルザが飛び跳ねて喜んでいる。
「雷属性に強い耐性があるゴーレムをまさか雷属性のスキルで消し炭にしてしまうとは…恐れ入った。」
少女も笑っていた。
「じゃが…魔鉱…ほしかったのう…」
少女はぼそっとつぶやいた。すこし凹んでいた。
「…」
ウィルヘイムは無表情だった。
「ふぅ…(とんでもない威力…こわい!!!)みなさん大丈夫ですか…?」
イザは引きつった顔をしてみんなの方を向いた。
エルザは少女を抱えながらこちらに向かって歩いてきた。
「こっちは大丈夫。足を少し怪我してるみたいだけど、この子のケガも大したことはなさそうよ。」
「ヴィユノークさんのおかげで体の方は問題ない。でもあんなの見せられたら凹むぜ…」
「あはは…まぐれだよまぐれ!(なんか最初からとんでもない能力を持ってるけど自分でも全然わからないとか言えないー…)」
「あれをまぐれっていうのか…?」
ラインハルトはガルドと顔を見合わせた。
ガルドは苦笑している。
「あんたの技の数百倍の威力あったんじゃない?」
「おいおいエルザ、これ以上俺の傷口を広げないでくれないか?ヴィユノークさん俺の心の傷も癒してくれ~。」
「ヴィユノーク!こんなやつその辺に捨てておいていいわよ。」
みんな笑っていた。
傷の治療が終わると少女が立ち上がり口を開いた。
「助けて頂き感謝する!礼がしたいので一度わしの小屋まで来てくれぬか。この山を北へ下ったところにわしの工房があるのでそちらまで。」
少女は深々とお辞儀をしてた。
(驚いたな、ドワーフっていったら髭もじゃでムキムキなおっさんをイメージしてたけど。こんな少女とは。)
一同は怪我人の治療をしながら麓の小屋へ戻った。