自己紹介
翌朝
「…さい、起きてください。イザさん。」
呼び声で目を覚ますと目の前にヴィユノークさんが立っていた。
「おはようございます。こんな美人に起こしてもらえるとか幸せでだな~。」
「もう!からかわないでくださいよ~。みなさん下で打ち合わせをしていますよっ。」
そういうとヴィユノークさんは照れくさそうにその場を速足で去っていった。
下に降りていくと大声が聞こえてきた。何かもめているようだ。
大声の主はエルロッドのようだ
「いくら命令でもこいつと組むのは反対です!」
「すみません…」ヴィユノークは今にも泣きだしそうだ。
「昨日も言ったようにこの子に罪はない。それにこの子の薬の知識は必ず役に立つ。」
「ちっ!ろくに魔力も使えない半妖が…」
そう言い残すとエルロッドは出て行った。
ウィルヘイムは頭を下げた。
「皆さん申し訳ありません。彼も悪い人ではないのですが…。」
「気にすることないわよ。男のヒスなんてほっときゃいいのよ。」
「エルザあんま言うなよ。イザさんも来たことだし改めて自己紹介といこうぜ。俺はラインハルト=ル=シェレドこいつと冒険者をやっている職業は聖騎士だ。レベルは35。よろしくな。」
「あたしはエルザ=アルトリアよ。探知スキルは任せて。シーフとレンジャーの職を取っているわ。レベルは33魔法はあまり得意じゃないわ。」
「昨日はとんだご無礼を。私はガルド。職業はウェアウルフとグラディエーター。レベルは40。以後よろしく頼みます。」
「私はウィルヘイム=ヴィユノーク、ルーンフェンサーレベルは38です。」
「ヘぇ。意外ですね。エルフで剣が得意な方がいるとは、一度手合わせを願いたいものです。」
「私は剣よりも魔法の方が得意なのですが魔力には余り恵まれませんでしたので剣術で補っているだけですよ。剣の腕だけではラインハルトさんにかなうとは思えません。」
謙遜しているが、自信があるといった顔をしている。
(魔力が少ないと言ったけど、本当にそうかな?ここにいる人の中では一番強く魔力を感じる気がするけど、まだ魔力の感知には慣れてないからな~)
「私はベクター=ウル=コーエン職業はマーチャント、見ての通り商人をしております。レベルは17、信仰属性魔法も多少は使えますが戦いの役に立つレベルではございません。領主さまの命で冒険者を雇って森に来た次第です。我がコーエン商会は販売調達から運搬までなんでも請け負います。竜族様なら御贔屓させていただきますのでアルセンテスにお越しの際は是非一言お声かけを。」
(この男…悪い人ではなさそうだけど、何か隠してるような。)
「私は…ヴィユノーク。よろしくおねがいします。」
「それだけ!?家名だけって名前は?特技とかはないの?」
ウィルヘイムがエルザをなだめる。
「まぁまぁ。この子は多少の精霊系魔法を使えます。それと薬の知識と調合の技術においては森の民の中でも右に出るものは居ないほどの腕です。」
「なんだいい特技持ってるじゃん。」
(スキル?ジョブなんだそれ…どうやってわかるんだ??)
(俺の番か、この世界のことも自分の事もなーんも知らないからいつも通り忘れたことにしておこうかな)
「私のことはイザと呼んでください。永い眠りから目覚めたばっかりで職業やスキルのことはわからない、申し訳ない。」
「あたしがサーチスキルで見てあげるよ。」
そういうとエルザは目を凝らしてこちらをじっと見つめる。
「え。うそ、サーチでもイザのステータス見れないんだけど。どういうこと?このあたりで見ること出来ないのはギルマスと例の蛇だけだったのに。」
「(蛇?何かの魔物かな?ギルマスってのは冒険者ギルドのマスターってことだよな。)」
「あのおっさんは強さも異常だし特殊なユニークスキルもいくつか持ってるからな~。あれはずるいぜ。」
とラインハルトがぼやいた。
(職業だけじゃなくてスキルも固有のものがあるのか。そのギルドマスターとやらには一度会っておきたいな。色々学べることがありそうだ。)
アルセンテル ギルドホール 屋上
「へっくしょん!」
「マスターまたそんなところでさぼってる!寝ている暇があったら手伝ってくださいよ~!」
秘書風の女性は頬を膨らませながら言った。
「ふぁ~。すまんすまん。こんな天気だと机に向かう気がしなくてね。雑務は君に任せるよ。」
あくびをしながらそういうと顔にかぶせていた本を取り起き上がる。
「そんなだから冒険者に影でいろいろ言われてるんじゃないんですかね~。」
「んー。いい噂だとうれしいんだがな。」
男は何かを感じ取ったように鋭い目をしていた。
「…」
アルセンテスギルドマスター ライナス=フォン=ルーメス
レベル88 ソードマスター、侍、スワッシュバックラー、ルーンナイト
ユニークスキル:強者の風格【弱者が自身を直接対象で発動するスキルや魔法を無効化】
知覚強化【反応速度を限界を超えて加速させる】
エルフの里 宿屋 1F
「んじゃヴィユノークのステータス見てあげるよ。」
そういうとエルザはヴィユノークに目を凝らした。
「レベル20。ふーん、ソーサレスと薬師ね。イザのは見れないから自分で調べて~。何で見れないんだろう?ギルマス見れないのはユニークスキルのせいだし、イザも防御スキルか何か?」
「(すみません。自分のスキルもなにもわかりません。)」
「どうやって自分のステータスを見るんだ?」
「頭の中で自分自身の戦闘の経験、これまでの戦歴のようなものを思い浮かべてください。そして目をあけてみてください。」
ラインハルトが言うままに目を閉じてイメージ。そして目をあけると。
(うわ、こんなゲームのように情報が視界に流れ込んでくるのか。レベルは、と……342??まてまてまて。なんか俺だけ一桁多くない?まだまともに倒したモンスターなんてスライムしか…いや、あれも食べただけで倒したといっていいか…?)
(職業は…っと。ドラゴンロード、ダークナイト、ホーリーナイト、ソードマスター、アークウィザード、セイントロード、アークビショップ、エンチャンター、サモナー、シャーマン、スライムマスター、サイエンティスト、うわっ!何この数!資格マニアもびっくりだよ!100種くらいあるのかな…)
(スキルの方は…。ヘルファイア、エターナルブリザード、ドラゴンライトニング、デスストーム、アースシェイカー、ホーリージャッジメント、ブラックホール、タイムルーラー、リインカーネイション、ヘブンズドア、…まてまてこれ幾つあるんだ…?400…500?わからん!覚えられないしなにがなんだかさっぱり!)
(魔法は…。ケアラ、ケアレスト、EXケア、メガヒール、EXヒール、フルヒール、リヴァイブ、キュア、デス、EXフレイム、EXフリーズ、EXサンダー、EXウインド、EXストーン、EXホーリー、EXダークネス、インビジブル…こっちも500個以上ありそうだな…多い多いよ…小学生の頃から暗記苦手だったのにこんなの覚えられないよー…色々流れ込んできて頭が痛くなってきた…)
(これは言うと色々まずそうだな。ごまかそう。1/10くらいで言っておけばいいかな?)
「レベルは34。クラスはドラゴンロード、アークウィザード、サイエンティストのようです。」
「ドラゴンロードとサイエンティストという職業は聞いたことがありませんね。どういった職業なのでしょうか。」
ラインハルトが不思議な顔をしている。
(え?ドラゴンとかそれポイし魔法なんかかっこいいし、科学者ならサブ職業的な何かと思って言ったけど珍しい職業だったのかな。うわー。ホントは職業欄に大量に職業書いてあったとか言えない…。どんなちーとだよ!自称神!なんだよこの能力。)
ガルドが尊敬のまなざしでこちらを見て言った。
「ドラゴンロードとは恐れ入りました。」
(ドラゴンロードってそんなにすごい職業なのか?全然わからん。自分の職業を人に聞くって変だよな。だれか教えてくれー。)
「なにそのドラゴンロードって?聞いたことない職業ね。」
(エルザなーいす!)
「ドラゴンロードとは恐らくですが、固有職ドラゴンの最上位クラスで、どんなドラゴンも従え、召喚できるすべを持つものかと思います。我ら狼牙族にもハウンド、ウルフという固有クラスをもつものが居ます。稀にウルフロードという職を取得するものが現れるようですが、数世代に一人程度と聞いています。竜族の方は寿命もはるかに長いですし、高位の竜族でさらにロードとなるととても希少なものと思います。」
「イザさんの名前はお聞きしたことはありませんが、眠りにつく前は高名なドラゴンだったとか?」
ラインハルトが期待のまなざしでこちらを見ている。
「イザって実は伝説の六大龍王とか十英雄の一人とかだったりして…?ってレベル34じゃさすがにないか。まさかね~。」
エルザが笑いながらそういった。
(すみません嘘つきました!)
「最低でも3000年以上も昔の話ですし、いかに竜族でもかの時代の英雄が生きているとは思えませんがね。」
ウィルヘイムが笑った。
「でも十英雄は千の魔法や千のスキルを駆使したり、数千の眷属を召喚して各地の戦乱を一人でおさめる力を発揮したっていうじゃない?不老不死の魔法とか使える人くらい居るんじゃないのかしら?」
「そんな魔法は聞いたことないですが、もしかすると居るかもしれませんね。」
ウィルヘイムの顔が少し曇った気がした。
「イザさんが英雄だったら一度手合わせしてみたいな。」
ラインハルトが目をキラつかせている。
「さぁ。どうでしょう、なんせ記憶がないもんで…ハハハ。起きてからもスライムばかり狩ってましたし。あまり強くみられても困ります。」
一同「え?スライムをおひとりで!?」
あ、またなんか地雷踏んだのかこれ…
ガルドが口を開く
「スライムと言えばあの消化液と打撃斬撃などの物理完全体制を持ち攻撃をするたびに分裂して増えていく、無知性の魔物の中でも最上位のモンスターですし。さすがはイザ殿。」
「スライムとか上位職の魔術師が束になってようやく倒せる魔物なのにそれをたった一人で狩るとか…」エルザが驚いてる。
「我々では全員でかかっても数匹の相手がやっと、といったところでしょうな。流石です。」
「俺らなんて攻撃魔法使えないから逃げるしかないぜ。」
ラインハルトは笑っている。
「何笑ってんのよ。あんたと一緒にしないでよ。魔法は使えないけどあたしはちゃんと魔法のスクロールは持ってるし戦えないことは無いわよ。」
「すばらしい!スライムからは様々な魔法道具の素材になる希少な輝石を入手できるのでなにとぞ次からは私をおともに!」
(べスターはお金が絡むとぐいぐい来るなぁ…。)
(あー、うん、そういや物理効かないし増えてたねー。とてもスライムおやつ感覚で食ってましたとか言えない!輝石ってなに?もしかして食ったらお腹で魔力を感じていたのはそのせい!?大丈夫?俺の腹!?)
(ひたすらスライムを食いまくってたからレベルがすごく上がったってことなのかな。)
「ま、まぁ私の話はそれくらいにして、霊廟にいく打ち合わせをしませんか?」
「そうですね。本題に戻りましょう。内部に入ると道が左右に分かれている話は昨日しましたね?そこを4人ずつの小隊を組んで左右同時に進みたいと思っています。」
「俺も今朝見てきたけど高レベルの魔物も居るし、あの通路だと挟み撃ちされたら厄介だと思います。ウィルヘイムさんの意見に賛成します。」
「あんたいつの間にそんなことしてたのよ。」
「未知のダンジョンの下見なんて冒険者のたしなみだろ?ヴィユノークさんみたいな美人を危険な目に合わせない為さ。痛っ!」エルザがラインハルトを殴った。
「だからなにも殴ることないだろうって!」
「(まったくこの二人は…)二人ともー。ウィルヘイムさんが困ってるよー。」
みんな苦笑いしながら二人を見た。
二人は頭を下げた。
「えーっと…。ここまではいいかな?ではとりあえず左右に分かれるパーティを先に編成したいと思っています。まず左の通路はラインハルトさんエルザさんベクターさんガルドさん、次に右の通路にはこの子とイザさん私、それから先ほど出て行ったエルロッドを連れて行きたいと思っています。」
「さっきの癇癪男を連れて行って役に立つのー?」エルザは不満そうに言った。
「彼すこし短気なところもありますが。ああ見えて戦闘の腕は確かです。ハンターとアサシンの職を修めてレベルも47とエルフの里では一番の使い手です。」
「47レベル。確かにすごい使い手ですね…」ラインハルトは頷いてる。
「まってくれ!私は戦闘系の職業じゃないし…そんな危険な場所になんてとてもいけない!!」
「(そりゃそうだよなー。魔物も出るってなると商人のべスターさんには厳しい。)
エルフの里には他に戦える人は居ないんですか?」
「多少なら戦えるものは居ますが、見てわかるように妹の件を良く思っていないものが多く、協力を仰げる者がいるかどうか…」
一同「…」
(それにしてもなんで商人のべスターさんをわざわざ危険な霊廟に入るメンバーに選定を?何か裏がありそうだな。)
ガルドが手を挙げた
「同じ森にすむ民として、ドワーフの里に協力を仰ぐのはいかがでしょうか?」
「確かにドワーフの方なら精霊魔法や錬金術に長けているものも多く引き込めれば十分な戦力を期待できると思いますが…
精霊の力を失って以来、交流は疎遠になっているので協力してくれるかどうか。」
「(ドワーフ!器用で何でも作れるファンタジーでは欠かせない存在!)たしかに、森を救おうとしているのですからドワーフの方にも協力を仰いだ方が今後の為にもなると思います。ドワーフの里はここから近いのですか?」
「ドワーフ族は皆さん知っての通り高い技術力を持ち魔鉱石や魔晶石の扱いにも長けています。近年ドワーフ族は里を外部から干渉出来ないほど強固な結界で覆ってしまっています。なので通行の許可を持つもの以外は里へ入ることはおろか近づくことも出来ないのです。」
「かつて交流があったと先ほど言っていましたが。」
「ドワーフは自然魔法を得意としています。森の変化に敏感で精霊の力が弱まったことに気づき自分たちの里は自分たちで守るといい、エルフの里ともヒュムの街とも交流を絶ってしまっているのです。」
「たしかにドワーフなんて街では一度も見たことねぇな~。この森に棲んでいるって話も疑っていたくらいだ。」
「この里との交流を絶ってからももう70年ほどになりますし、街に住むヒュムの方が知らないのも無理はないでしょう。」
「一人だけドワーフに関して心当たりがあります。狼牙族も元より他種族と交流をすることはほとんどなかったのですが、我々には自分たちで何かを作ったり手入れをしたりする技術力がないため、一人だけ森の抜けた先の山の麓に住んでいるドワーフと交流があります。里からはぐれて暮らしているので里とのつながりが今でもあるかは疑問ですが。」
ウィルヘイムは難しい顔をしている。
「…ふむ。他にあてもないのでガルド殿の話を当たってみるとしましょうか。」
(ドワーフか~。器用で魔法の武具とか作っちゃうファンタジーでは必須の種族だよな~。楽しみだな~。)