頼み事
「まず食料班から教えていく」
そう言って桜井はメンバーを教えていく。大きく変わったことは拠点作成班がなくなり、司令班、後方支援班の二つが新たに作られたものだった。
この変更は能力による変更になってくる。桜井達は本人に許可を取ったということで拠点作成班がなくなった理由などの説明をしてくれた。
まず、拠点作成班がなくなった最大の要因は敦賀竜馬の持つ能力『要塞』だ。
要塞はイメージした要塞を建築することが出来る。規模にもよるが僕たちが住む程度の拠点なら一時間程度で建築が可能らしい。これによって僕たちは拠点について困ることはほとんどないと言っても過言ではない。
後方支援班になった人物は七人いる。その七人は野矢優香、敦賀竜馬、遠藤晃司、佐藤美香子、耳巴、下川彩、西岡美紀だ。
その中で能力を明かされたのは五人いる。
優香の聖女、敦賀の要塞、遠藤の武器錬成、佐藤の念動力、巴の料理人になってくる。
遠藤の武器錬成は魔力を消費することで武器を作り出すことが出来る。性能もそこそこのものらしい。武器を持つことが出来るようになったため僕たちは外部からの脅威に対して抵抗するための力を手に入れることが出来た。まあ、武器の所持などについては拠点が出来たら決めるらしいので僕たちが武器を持つことができるかはまだ分からない。
佐藤の念動力はあちらの世界のイメージと同じようで物を動かす等が出来るらしい。ただそれよりも重要視されるのは念話ができるということ。これによって連絡等について無線と同じようにできるのはかなり役に立つ。
巴の料理人は見たものが食べられるものか判断が可能で、その食材の最適の料理方法も分かるらしい。彼女は食料班のリーダーでもある。基本は食料班に所属するとのことで連絡などを兼ねているらしい。
この5人の能力が公開された理由は後方支援という立場上、能力を行使する機会が多く能力を隠しにくいこと。隠していたら満足に能力を発揮できない可能性もあるからだ。それに本人も能力を公開することも承認しているので特に大きな問題は起きなかった。
そして能力が公開されなかった二人はきっと別の目的があると考えられる。後方支援班のリーダーは西岡美紀になっているので多分後方支援を上手く機能させることが出来る能力を持っている可能性を考えることができる。
すると下川は護衛役などの役割が与えられている可能性もある。まあ、現状で大きな問題はないので深く考える必要はない。
大きな変化についてはこれだけだった。最終的な班の構成はこうなった。
司令班は中心メンバーの四人 リーダーは桜井と川根
後方支援班は七人 リーダーは西岡、副リーダーは佐藤
食料班は九人 リーダーは巴、副リーダーは文一
護衛兼探索班は九人 リーダーは桜井、副リーダーは裕太亮
ちなみに文一から聞いた情報だと副リーダーの能力の開示は班ごとで決めてくれとのこと。どういうことかと言うと全体に向けての開示はしないが班には開示して欲しい、というのが桜井達の要望で話し合いの結果、班ごとに任せるとのこと。
文一は開示するとのことで話が決まったおり、これは予想通りだったため食料班は特に揉め事な度はなかった。
護衛兼探索班の副リーダーである裕太亮は僕にとってはゲーム友達であったため仲がいい。頭も切れるし空気を読んで上手く立ち回ることが得意なやつだ。敦や文一の次に信頼している人だといったもいい。
副リーダーになったのもその点を買われたものだろう。
僕と敦も食料班になっているので桜井達がそこら辺を配慮してくれたかもしれない。
班の発表を終えた後にしたことは移動であった。
桜井は僕たちが話し合ったいる間に周囲の魔物の駆除のついでに周辺で拠点に出来そうな場所を探していたとのことで、拠点として使えそうな場所に向けて移動することになった。
移動するときは桜井が一番前で案内をして戦闘に向いている能力を持っていると考えれる人が均等に配置されて移動をした。
移動している途中に桜井に倒されたと思う魔物の姿を見る。文一の鑑定で分かったブラックウルフという魔物の死体もあれば、熊のような姿をした魔物の死体もあった。ただそこで桜井のチートだと思う能力の一つを見せつけられる。
それは魔物の死体を見た巴さんがあの魔物は食べれられると言ったことだ。文一にも鑑定してもらったがどうやら食べられるらしい。ただ、魔物の死体を運ぶにもどうやってなん十キロもありそうな魔物の死体を運ぶことがなどの問題があった。
それで困っていると巴さんの情報を聞いた桜井がこちらに来た。桜井が死んだ魔物を持つと空間の狭間みたいなのが現れてその中に魔物を入れた。
その様子を見ていた僕たちはここでの主人公は彼なのだと誰しも思ったことだろう。勇者という強力な能力に収納ボックスと思われるものまで使用している。それでいて転移すぐに魔物と戦闘して勝利してクラスのみんなを守っている。これを主人公と言わず他に何があるだろうか。
勿論収納されたものは時が止まっているらしく、鮮度がいい状態をいつでもお届けが出来るというわけだ。
この世界がどうなっているか分からないが、少なくとも前の世界なら頑張らなくとも順風満帆な生活をすることが出来る。
ここまでも能力を持っているので嫉妬する人がいてもおかしくはないが、桜井は性格も良く、クラスのみんなから何かしら悪口などを言われている所を見ないほどである。
そんな桜井を見て敵対は出来るだけしないようにうまく立ち回ろうと深く思うのだった。
そんなことがありながら僕たちは三十分程度歩いていると川が見えてきた。川は汚れている訳でもなく割ときれいなので上手く処理することができるなら飲料水として活用できるかもしれない。
そこら辺は巴さんや文一に期待するしかない。見た所魚らしい存在も確認できるので食料の確保も出来るかもしれない。
その後川の上流へと歩いていく。こうして歩いてるといくつか気が付いたことがある。まず初めの時点だと20メートル以上ある木などが邪魔で遠くの所まで見渡す事が出来なかったが、川についたことによって遠くの風景を確認することが出来た。
遠くの方に山らしきものが見えており、それはかなり大きなものであること。そこから周囲の様子などの情報を含めると取り敢えず100キロ圏内には町らしきものがないと予想出来る。
適度に休憩しながら目的地まで歩くこと一時間、ようやく目的地が見えてきた。大体7~8キロぐらい歩いたと思う。そこは高さ15メートルほどの滝があった。
その場所にたどり着くと桜井は足を止めてこちらに振り替える。
「ここを拠点にしたいと思う、竜馬が岩壁を活用して拠点を作成するまで休憩にする」
「え、ちょ、待って! 俺も疲れてるんですけど!」
「拠点ができたら各班で行動してもらう予定なのでしっかり休んでくれ」
竜馬の感情が籠った声は桜井に届くことなく、竜馬は浦谷に連れていかれた。そんな彼をクラスメイトは一切気にせずに休み始める。敦賀には申し訳ないがここは僕たちの犠牲になってもらう。
敦達は別の友達と話していたので僕は気にされないような場所で木に背を預けて座る。
さて、せっかく出来た時間なので僕はあの未来から送られてき手紙の事でも考えようとして時だった。
「あ、名塚君、聞こえているかな? 佐藤だ、少し君と話したいことがあって連絡させてもらってる」
今日はよく話しかけれる。特に自分の事について考えようとしたときにだ。あちらの世界では月に一回喋りかけられてらいい方だったのだがな。これはあれかな利用価値が出てきたから話しかけられてるのかな、そう考え始めると物凄く惨めな気持ちになり始めたので思考をシャッドダウンして会話に意識を向ける。
まあ、今回はその話しかける相手が目の前に入ればすぐにでも何かしらの反応をしていたはずだ。
「あれ、聞こえてない? 念話が無理だと桜井君達に説明するのがめんどくさくなるぞ」
「それは大変そうだね」
「あー、やっぱり聞こえてる! だったら早く反応して欲しいものだよ、こっちだって暇ではないのだから」
「すまないね」
少し自虐をして返答をしないでいると、佐藤さんが話をややこしくなるような方向性に持っていこうとしていたので急いで返事を返す。どうして返答が遅れたのかについて正直に自虐をしていたから遅れたとは言えなかった。それについ一時間前にそのことについて注意したばかりだしな。
「それで話の内容についてだが、優香のことについてだ」
「優香について?」
優香について話があるらしい。何かやらかしてしまったのかと思い、記憶を振り返ってみるが押し倒したり、指示をしたり、注意したりと思い当たる節が多くあった。これは優香が何かしら文句などを言っていてもおかしくない。
その場合どうしようかと考えたがこっちに来てから頭を酷使しているので上手く頭が回らない。しかしその心配は次の佐藤さんの言葉で消える。
「最初に優香の親友として礼を言わせてくれ、優香のことを助けてくれてありがとう」
考えていたことと真逆の内容だった。
「それと不躾なお願いだが優香のことを頼んではくれないか?本来なら親友である私がすればいいのが私自身能力や今回の件について整理しきれていないんだ。それに今後優香とは別行動になる可能性も高い。情けない話だが、私一人だとやっていける自信がないんだ。勿論名塚君も同じように苦労しているはずだろうし、無理にというわけではない」
「佐藤さんは面倒見がいいですね」
「そうゆう性分なだけでそこまで褒められて事ではないさ、それに優香があんな調子になって以降はな」
佐藤さんは優香が困っていたら助けてくれないかと、こちらにお願いをしてきた。このような厳しい状況になっても親友の為にここまで動けるのは凄いと思うのだが、佐藤さんはそういう性分だといい、そこまで高く評価はしていなかった。
お願い自体は別に了承してもいいのだが、いくつか疑問に思うことがあるのでそれを聞いてから答えるようにしよう。
「いくつか質問していいですか?」
「別に構わないよ」
「どうして僕なんですか?」
最大の疑問である。優香との関わりはあちらの世界ではほとんどなく、こちらに来てからたまたま助けて事によって続いていると言っても過言ではない。それに異性の僕よりも同じ同性の人に頼んだ方が精神的なことでいいはずだ。
「理由はいくつかある。一番の理由は優香が名塚君の事をよく話していたからだよ。優香が人の事についてあれほど話すは滅多にないことだからね」
「そうなんですね」
優香との距離が縮まるような事だというと、仁田脇さんと話した後、優香の自虐癖を注意して、細かい打ち合わせして余った時間の時にゲームついて同じものをしていたからそれについて意気投合し喋ったりしていただけだ。かなり夢中になって話していたのできっとそのことだろう。
まあ、ほかの人にそんな話をしていたとは思いもしなかった。
「それに男子の中では一番無害な存在というのもある。常に中立で基本的に一人だけどクラスの迷惑を掛けないように立ち回り、困っていたら助けてくれる所などあっちの世界での行動を見て信頼できるとおもったからだ。」
「褒められているのか、貶されているのか分からんな」
一応理由は分かった。優香が一緒にいて楽しい存在であり、日頃の行いから無害そうであり、信頼におけるから。まあ、この状況下であまり高望みが出来ないのもあるかもしれない。
「それで頼まれると言われても具体的には何をすればいいんですか? 班も一緒ではないので出来ることが少ないと思うけど」
「定期的に話掛けてくれるとうれしい、私は同じ班だが分野が違うから優香を満足に守ることが出来ない、それに優香だけではないからな。名塚君にはその隙間を埋めてくれることを期待している」
佐藤さんが見逃してことに対して対応すればいいのでそこまで負担はない。過保護し過ぎないように注意しながら適切にしていけば大丈夫だろう。それに優香は聖女なので倒れるようなことがあっても困る。
「自分が出来る範囲で頑張ります」
「ありがとう、この礼は必ずしよう」
僕が了承すると佐藤さんは安堵してような声で礼を言う。佐藤さんも色々大変なのだろう、生き残るためには助け合っていく必要があるのでできるだけ負担の分散を心がけて行動しよう。
「最後に一つ聞いていいですか?」
「何を聞きたいんだ?」
「いや、ただ気になっただけなんですが、昔の優香は今と違う人みたいな感じでしたか?」
佐藤さんが言った優香があんな調子になって以降はというのは、昔はもっと明るい人だったが何かあってそうではなくなったようなニュアンスで使われるものだ。それに押し倒した時の姿とその後話しかけた時の姿から受けた印象があまりにも違った。色々な事がありすぎて逆に冷静になったといっても小さな違和感が残るほどに。
最初の方は冷静でやるべきことをすぐ見つけ行動ができて、人のことを奥底まで見通すような印象を受けた。しかし、あの時の優香には真逆の印象だった。冷静ではなく判断も鈍い。何よりすべてを見通すような印象はなかった。
勿論、優香が言ったように開き直っていたからでも別に納得は出来る。ただ、僕にある小さな違和感を解決するために聞いたのだ。
質問をしてからしばらくの間があった。きっと話すべきか考えていたのだろう。そして何かを決めたのかこちらに質問に答える。
「その質問に詳しく答えることは出来ない、ただ言えることは昔の優香は何でもできる完璧人間だったということだけだ」
「すいません、配慮が足りない質問でした」
「謝る必要はないよ、優香についてお願いしたからね。適度にやってくれると信じてる」
そう言って佐藤さんは念話をやめた。
昔の優香は何でもできる完璧人間と聞いても今の優香からは想像が出来ない。ただ分かるのは大きな問題を抱えているということだけ。どうすればいいのか考えるが出てきた言葉は一つだけ。
「疲れた」
深く考えすぎることは自分の悪い所だ。おかげで口癖が疲れたになっている。こういう時は特に深く考えないで単純に考えないといけない。優香についても深く考えても何も変わらない所か逆に悪い方向に向かうかもしれない。
そう思いこのことについて考えるのをやめるのだった。