メンバー
「さて、どうするかも決まったのでより具体的なことを説明していこうと思う」
話し合いによって桜井の提案が通ったため、具体的なことについて決めていくことになった。
「まず、中心メンバーについてだが、僕含めて四人にするつもりだ。メンバーは川根さん、石上さん、敬之にしようと思う」
中心メンバーに選ばれたのは女子の方でリーダー的な存在である川根菜月、川根さんの親友でもある石上千春、桜井の親友である浦谷敬之だった。
リーダーと信頼がおけるサポーターという構成になっている。このグループのリーダーは桜井と川根さんになりそれを支える浦谷と石上さんという形になっていくだろう。
人選自体は悪くないと思う。桜井と川根さんは互いに人望があり、石上さんと浦谷は二人を支えているイメージある人物だ、それを知っているので他の人から不満などを生む可能性は少ない。
勿論自己中心的な行動をすればすぐに崩れる可能性があるが、それさえしなければある程度はみん名を引っ張っていけるはずだ。
周囲を見ても選ばれた中心人物について否定的な感じはしない。
「中心メンバーはこの四人にするが賛成の人は手を挙げてくれ」
桜井がそう言うと全員が手を挙げた。完全に納得というわけではないがそれが最適解なので賛成すると考えている人もちらほらいるだろう。これをどのように対応していくかは中心メンバーに期待するしかない。
「それじゃあ、これからはこの四人を中心にしてやっていく。では最初にするのはみんなの能力について教えてほしい、知るのは中心メンバーだけにしたいから少し離れたところで聞くことにする教えれる人から来てほしい」
桜井達はそう言ってこの場から少し離れた場所に向かった。場所についてらこちらに手を振ってくる。それを合図に彼らと親しい人から向かっていった。
「真紀どうする?」
近くにいた文一がこちらに質問してくる。どうするとは能力についていつ教えに行くのか、僕の能力などもついでに教えるかを言っている。
「伝えるのは自由なタイミングでいい、僕の能力についてもよろしく頼む」
「分かった」
文一の雰囲気が少し険しいものになっていた。きっと流れを感じたのだろう。先程まで非現実的な感じで進んできたが事が確実に進み始めることでこれが現実であり、今自分たちが命の危機にさらされている現状であると自覚したのだ。
まだ転移が発生して数時間しか経っていないのだがそれを自覚することが出来るのは文一はやはり優秀な人物だ。ただ、それを外部に出している所などは年相応な反応に思える。
「今からその調子だと持たないぞ」
「そう言われてもな」
今から張り詰めた状態では長くは持たない。一旦リラックスさせるつもりで言ったのだが文一はそれでもこの先の事について気になるらしい。
「まあそういうなって、ある程度は何とかさせてみせるさ」
「僕の下位互換である能力の癖にか?」
どうやら気休めもだめらしい。文一は完全に僕のことを守られる存在として見ている可能性が高い。それは別に大した問題はないのだが、表面上の情報を見て判断するのはいけない傾向だ。
「それがどうした?お前も僕と長い付き合いだろう、それなら一回ぐらいその考えが間違っていることぐらい分かる機会があったはずだ」
「それもそうだったな、すまない。冷静じゃなかった」
文一は思い当たる事があったのか頭を冷やし先程の事で謝罪をした。先程まであった険しい雰囲気も柔らかくなっている。
「仕方ないさ、いきなりこんな状況に置かれては誰でもそうなる。まあ、壊れない程度にやっていこうぜ」
「そうだな」
そう言って僕も文一も互いに笑う。そんな話をしていると敦がこちらに駆け寄ってくる。
「そろそろ伝えに行った方がいいんじゃないか?」
敦の言葉を聞いて桜井たちの方を見ると先程まであった行列が大分なくなっていた。敦の言う通りそろそろ伝えに行った方がいいかもしれない。
「それじゃあ文一、敦よろしくな」
「真紀は来ないのかよ」
「僕の能力もあるし、こうして周囲を観察していて分かることがあるかもしれないよ?」
そう言うと敦は何となく察したのかそれ以上の事を聞かないで文一と共に桜井たちの方へと向かう。
相変わらず優しい奴だ。弱い能力について誰かに教えるこちらの立場を気にしてくれたのだろう。
そんなことを思いながらどうしていくべきか、僕は思考を回転させようとした時だった。こちらに向かってくる存在を感じ取る。
「仁田脇さん、僕に何か聞きたいことでもあるんですか?」
「うん、少しね」
何を考えているのか読み取りにくい表情をしながら仁田脇さん肯定する。
「僕に答えられるかわかりませんが、何を聞きたいんですか?」
「そんなに謙遜しなくてもいいよ、この中で一番冷静な癖に」
仁田脇さんはクスクス笑いながらこちらの言葉を否定する。同じようなことを野矢さんも言っていた。あの時みたいに適当に誤魔化してもあまり意味がないだろう。
その返事に僕は微かに苦笑する。それに対して不満そうな表情を見せる仁田脇さんだったが、これ以上の追及はしてこなかった。
「真紀君はこの状況ではどうした方がいいと思う?」
仁田脇さんの質問は大分抽象的なものだった。取り敢えず何についてかをはっきりさせてから答えよう。
「それはクラスとしてですか?それとも個人としてですか?」
「どちらでもいいよ、真紀君にとって最適だと思うものを言ってほしいな」
少し考える必要がある返答をしてきた。適当に答えることも可能だが相手は仁田脇さんだ。ここで距離を取るようなことをこちらからするのはあまりよくない。他の人ならそれでもいいのだが、仁田脇さんは謎の多い人物だが、有能な人物でもある。
このような状況ではいつ危機的状況に陥ってもおかしくない。その時に使える手札を増やしておくべきだ。その一つの手札としての価値が仁田脇さんにはある。
それは相手にとっても同じことだ。僕が使えると思い接触してきているのだから。こうした場面は実は二回目でもある。あっちの時では今のような状況ではなかったため、ある程度の対応をするだけだった。
少しの間をあけた後僕は答える。
「生き残るためには協力し合うことが重要だと思う、」
「それは当然だね」
僕の言ってことに少し落胆の表情を見せる仁田脇さんだが次に放つ僕の言葉によってその表情は変わる。
「それと仲間に目を配ることも大切だと考えてる、協力してやっていくからね」
その言葉を聞き仁田脇さんは僕の言って意味を考えるような仕草をした。それから数秒後意味が分かったのかこちらを見てくる。
「僕が言えることはこれぐらいかな」
「答えてくれてありがとう、参考にするね」
仁田脇さんは納得したような表情で言った。どうやら望まれたラインの返答は出来たようだ。これで仁田脇さんが異常を感じた時に何かしらこちらに情報をくれるなど何かしらの形で助けてもらう、もしくは助けを求めることが出来る。
勿論絶対ではないので信用はし過ぎないように注意をしていく必要はある。
そんな風に考えていると後ろから視線を感じたので振り向くと野矢さんがこちらを少し遠めから見ていた。その様子を見て仁田脇さんは悪戯っぽく言う。
「意外と手が早いんだね」
「いい意味で言ってくれてると僕は解釈するよ」
「さあ、どうでしょう?」
仁田脇さんに余計な誤解を生むようなことは出来るだけ避けたい、会話のペースを持ってかれる可能性もあるから。
「私はここらで退散するかな、二人の仲を邪魔したくないしあちらのこともあるし」
仁田脇さんが言ったあちらとは所属しているグループのことだろう。確か最初の方で質問などしていた上島さんのグループに所属していたはず。上島さんのグループは自由にやりたい人達が上手い感じに集まったようなグループだ。
簡単に言えば趣味が合う人が集まり話などをするがそれ以外の事についてはぼちぼち協力しながらやっていくよみたいなもの。つまり、グループとしての団結力はあまりないのだ。
そんな状態で取れる行動は三つだ。
一つ目はグループの解散をして友達として話し合う程度の関係にして桜井達の中心グループに入る。
二つ目はグループという形をある程度維持しながら桜井達グループに入りある程度の発言力を得る事。
三つ目は完全に独立した存在として桜井達グループと協力関係として対応し、独自路線を歩んでいくのか。
仁田脇さんの様子とさっきの話し合いの流れから三つ目は今のところは採用されていない可能性が高い。上島さんも協力しないといけないと分かっているからこその判断だろう。
すると仁田脇さんが気にしていることから多分二つ目に近い案が採用された可能性が高い。上島グループは団結力が弱いのでこの期間で何かしらの行動を起こすはずだ。団結力を強めるのか、全く別の方向に進むのかは分からない。
まあ、今気にしても特に意味がないので考えるのをやめる。
「それじゃ、今後もよろしくー!」
仁田脇さんはそう言って手を振ってこちらを去っていく。
仁田脇さんが離れた後、木の後ろに隠れている野矢さんの所に行く。
「野矢さん、そんなところで何してるんですか?」
「いえ……別にただ能力のことについて確認しに来ただけで、仁田脇さんと名塚君が仲睦まじく会話しているのを目撃してそんな関係だったんだと驚きで反射的に木に隠れてしまい、話しかけるタイミングを逃してここから離れようとしても仁田脇さんに見られてる気がして動けなかっただけなので決してやましい気持ちで二人の会話をしている所を見ていたわけではありません」
「あ……そうなんだ」
早口で木の後ろに隠れるまでに至った事情を話した野矢さんは完全に混乱していた。
確かに木の後ろに隠れて見ていたことを本人に知られ動揺するのは分かる。ただ、野矢さんを助けるために押し倒した時はそう言ったテンパった様子はなかったのでここまでの反応をされるとは予想外で少し驚いた。
「あと、あの時は助けてもらったのに何でそんなに冷静なのとか名塚君をよく知らない分際で質問してすみませんでした。身の程を弁えろてやつですよね、助けたもらったのにあんな質問してすみません。一応言い訳をするなら、いきなり違う所にきて何やら能力を与えられどうすればいいのか頭がパンクしている時に隣から突き飛ばされたと思ったらなんかこわい動物が私を襲っていたりなど色々ありすぎて逆に冷静になってしまっただけで本来の私はこのように急な状況に対応出来ないでテンパって今思っていることを早口で言うことしかできない人です。なので私はそこら辺の雑草とでも思ってくれると嬉しいです」
「……」
嵐のようにすべて教えてくれるので大体の事は分かった。ただ、そこまで気にしていないことを言ったので気にしてたんだと少し呆然としていた。
「一旦落ち着こう野矢さん」
混乱させないように優しく声を掛ける。
「すいません、急にこんなこと言われると困りますよね。いつもそうなんですよ、急の事に対処できなくてそれでいつも迷惑を掛けてしまって、私って生きている意味ないですよね」
「はい、それストップ!」
「ひゃい」
野矢さんがまた自分の事を自虐し始めたので強引に止めるために野矢さんの額にコツンと触れる。急に触られたことに小さな悲鳴を上げるがそのおかげで野矢さんは自虐をやめた。
「優香は自虐をし過ぎだよ、もっと自信を持ってもいいと思うよ。それにしっかり相談できるところや振り返りが出来るのもすごいことだよ。それに誰しも失敗はあるからね、失敗したから終わりだったら僕はとっくに終わってるよ」
「名塚君……ありがとうございます。そう言ってもらうと嬉しいです」
混乱している時などはすべてが敵のように感じる。だから安心させるためにこちらは一歩踏み込んで大丈夫だと示す必要がある。そのために名前呼びなどをしたが効果はあったらしくの優香はとても落ち着いている。
優香はそれ程ダメな人ではない。急に名前呼びすれば優香みたいなタイプなら気にするはずだが、こちらの意図を読み取り普通に対応してくれている。相手の立場の事を考えられるのはいいことだ。それに優香は必要な時はしっかり行動できる人間だと思う。ただの勘なのだが。
落ち着いたようなので僕は本題を聞くことにする。
内容は特に大きな問題はなく、優香は僕の言うとおりにしてくれた。後はどのような場合に本当の能力を使えばいいのかなど細かいことについて話し合った。話が終わるころには敦と文一がこちらに向かってくる。
「真紀君の友達も帰ってきたから、私も友達の所に向かうね。色々教えてくれたありがとう」
「優香も僕に協力してくれてありがとう。互いに頑張ろう」
「そうだね」
そう言って優香は友達の所に向かった。文一と敦が報告してから帰ってくるのが遅かったのはきっと文一の能力について色々あったのだろう。汎用性が高いのでそこら辺の話をしっかりしていたと考えられる。
「遅くなってごめんな、一人は寂しかっただろ」
相変わらず人を煽るのはお得意のようだ。まあ今回は仁田脇さんや優香が話に来たので一人ではなかったがそれを言うとそこで弄られるのは眼に見えている。なので適当に受け流す。
「文一も上手く行ったか?」
「ああ、桜井達が話が分かる人で助かったよ」
特に問題なく上手く行ったようなので安心する。それから10分程他愛のない話をしていると桜井達がみんなの前にたつ。
「いまから班のメンバーを教える!」
さて、みんなの能力を聞いた桜井達はどのような判断をするのだろうか?