提案
「この中だと俺が一番強いわけか!」
「そうなるね、真紀は解析で僕は鑑定だし」
互いの能力を知った敦はこの中では戦えるのは自分だけだと気が付き少し嬉しそうに言う。それに対して文一も同意をする。
「もしもの時はよろしく頼むよ」
「任せろ真紀!自分の命が危なくなかったら助けてやるよ」
「そこはどんな時でもと言ってほしかったな」
敦は元気よく答える。この状況下でこれほど明るくいられるのも敦のいい所だろう。そう思いつつ僕は次にすべきことする。
「それじゃあ、能力についてどうするか決めていこうか」
「そういっても、真紀や僕のはそのままの方がいいんだけどね」
文一は僕の能力はそのままでいいのではないかと提案してくる。
「なんでそのままがいいんだよ?」
「真紀の解析はほぼ何もできない、もし偽装するなら出来ないものを出来るというしかない。それだと隠し通すことも難しいし、バレた時に言い逃れることは出来ないからだ」
敦の質問に文一は分かりやすく答える。僕の能力ではほとんど何もできない。だからこそ偽るとしたら出来ないことを出来るというほかない。これが今から敵対する相手なら有効かもしれないが、現状で必要なのは協力することであり騙すことではない。
出来ることを隠すのは簡単だが、出来ないことを隠すのは難しい。普通に能力を使ってくれというだけなのだから。勿論隠し通せなくはないが問題はそれを当てにされた場合に困ることだ。
それでバレれば僕は言い逃れができないし、仲間を騙したということで余裕で追放されるだろう。なので実力相応の立場にいた方がいい。
別の能力を名乗るという策もあるが、結局は出来ないことを出来ると言っていると同じことなのであまり意味がない。
「真紀の方は分かったが文一の方はなんでそのままなんだ?鑑定何て言う能力なんだし秘密にしておけば有利になるんじゃないか?」
「それはメリットが少ないんだ。僕と違って文一の能力は色々なことを知ることが出来る、情報不足である僕たちにとっては喉から手が出るほど欲しい能力であり、隠すよりもしっかり活用する方がいいんだ。それに他人の能力について知ることができないからそう言うことに気にする人に警戒されることもない。鑑定の能力は細かく指定しないといけないなどもあるから誤魔化しにくいということもある。」
「真紀の言うとおりだ」
敦の質問に次は僕が答えた。文一の鑑定は今の僕たちに大きな利益をもたらすことになる。この後能力について知った桜井たちも重宝するだろう。それに自身の価値を示しておけば生き残れる可能性が上がるというメリットもある。
ただメリットばかりでない。
「さっき当分はなにもしなくていいと言ったが、敦は文一の護衛をしてくれ」
「それはどうしてだ?」
「文一の能力は価値が高い、それを簡単に失うわけにもいかないというのが一つ目、もう一つはその能力を独占しようとしたときの対策のため」
「確かにそうだな」
文一の能力を知れば独占しようと考えるやつもいるはずだ。食べることが出来るかどうかの情報などを独占などをされた場合、それをめぐって争いが起きる可能性がある。
文一は鑑定以外の能力を持たないので戦闘系の能力者で脅すことは簡単だ。少しでも抵抗出来るように文一に敦を送っておいた方がいいだろう。
「それで俺はどうすればいいんだ?」
「基本的には文一の指示に従ってくれ、文一、それでいいよな」
「真紀の方は大丈夫なのか?」
文一はこちらの心配をしてきた。敦もこちらを見てくる。文一と敦が二人で行動することになると言うことは僕は一人になる。今の所最弱候補の一人である僕がだ。
「僕は大丈夫だ、弱いからこそ狙われることはない、危険な所に行かない限り危険はないよ」
敦はその言葉を聞いて異論がないのか僕から目をそらす。文一は不満げな視線を送りながらため息をする。
「真紀がそういうなら従うよ」
「俺も文一と同じだ」
「ありがとう」
無事に説得できたということで細かい打ち合わせをしていく。
基本的には僕と文一、敦グループは別々の行動をすること。困ったときや頼み事は相談しに来ること。近況報告は僕が会いに来た時にすることなどを決めた。
そして大体一時間過ぎたころ桜井がみんなの前に立つ。
「あれから一時間が経ったので話し合いを再開したいと思う!」
桜井は話し合いにの雰囲気を作るために力強く言う。桜井自身もこの一時間で頭の中の整理が出来たのか一時間前よりは冷静にいるように見える。
「まず最初にみんなで協力していきたいと思っているが反対の人は手を挙げてほしい」
周囲を見渡すが手を挙げる人はいなかった。桜井もそれを確認して次に進める。
「その判断に感謝する!それではみんなで協力してやっていく上でどうするかについて俺から一つ提案したいことがある」
桜井はこの後どうするかについてしっかりと決めていたらしくスムーズに物事を進めていくようだ。
「質問がある人は最後に聞くからまずは話を聞いてほしい!」
桜井はそう言って全体を見渡す。そして一呼吸おいて話始める。
「みんなの能力によって変わるかもしれないが、俺はこの場に留まり自分の力などを整理してから人里を目指す方針でしたいと思っている。そのために三つの班を作りたい。一つ目は拠点作成班、二つ目は警戒及び探索班、三つ目は食料班だ。やる内容は想像している通りだと考えてもらっていい、どの班に所属するかは最初の方はこちらで決めたいと考えている」
桜井はすぐのところにあるかも知れない人里を目指すのではなく、自分たちの力を把握して堅実にいくことにするらしい。この選択にはいいと思っている。今の僕たちには自分が何が出来て何が出来ないのか、この世界がどんなところなのか、今の自分たちがいる場所はどこなのかを分からない。つまり圧倒的な情報不足である。
その状態で人里に向かって移動しても何も出来ないで死ぬ運命が待っている可能性が高い。勿論留まること自体が死ぬ可能性を下げる訳ではない。今の場所がどんなところなのか分からないのだ安全だと言い切れない。
それでも僕たちには切り札になりえるものがある、それは与えらえた能力だ。能力次第ではこの状況を打開することが可能だからだ。
だからこそ能力について知る期間は必要だ。それに体力がある今が一番大切な時でもあるので方針をはっきりと決めて無駄な体力を使わないようにしたい。
「班を決めたら、次に七日ごとにやることを決めたいと考えている。最終的な目標は一か月後に人里に向かうことだ。まず最初の七日間を拠点作成や周囲の安全確保、食料確保などの生き残るための土台作りをする、そこが安定するば八日目から十四日目までは自身の能力について知る期間や強化の期間にしたい、ただ生活の基盤が完成していないなどの場合はこれをしない予定だ。十五日目から二十一日目は探索班が探索して得た情報から向かうルートの作成や移動の準備に充てるつもりだ。その準備が出来次第人里に向けて移動を開始したいと考えている」
七日間ごとに予定を決めるのはみんなにやる気を出させる為だろうか、現実的に考えて七日間である程度安定した生活を得ることは難しい、この予定は間違いないくずれていくことになるはずだ。
桜井の事だそれぐらいは分かっているはずだ、きっと危機感を出すために設けたのだろう。そこら辺の事は上手くやってくれると信じよう。それに食料なら食べれるものは文一の鑑定で分かるので、あれば時間を稼げることが確定している。
「僕の提案は以上だ。細かい内容はこの案が通った時に話そうと思う。提案ついて質問等がある人は言ってくれ、勿論情報を整理する時間も必要だと思うから今すぐでなくていい」
そう言って桜井はみんなを見渡す。みんなの様子は様々だ。桜井の提案に納得するもの、何か不備がないか考えるもの、興味がないものなど個人の性格がよく分かるところだった。
僕も特に質問はない。困ったところがあれば臨機応変に対応するだけであり、桜井も言ったがこの提案が通った訳でもないので細かい所を聞いてもみんなを困らせるだけでメリットがない。
「ねえ、提案を聞いてる限りだと能力を教えないといけないらしいけど、どんな形で教えることになるの?それと教えなかった時に不利益とかが発生したら困るよね?だって教えないと立場が危ういぞと脅しているようなものになっちゃうし、そこらへんはどう対応するつもりなのかな、桜井君」
質問したのは仁田脇花林だった。彼女は普段あまりやる気がなく自由奔放は人で謎の多い人物というイメージがある。女子からは肌とか容姿とかよく保てているよねと言われるぐらいには美人な方だ。それに興味があることに行動力があり、才能もあるので割と何でもできる人だ。
また、頭のいい人が好きらしくそう思った人には話しかけるのだとか。判定基準はよくわからず、僕も一回話しかけられたことがあるぐらいだ。
そんな彼女が指摘したのは能力についての部分だ。桜井の説明では能力によって班を決めていくなどぐらいしか言っておらず、能力について報告などの点については何も語っていなかった。
能力関連については、僕は解析という今の所欠陥能力を報告すればいいし、文一や敦それに野矢さんにもこのことに対してどう対応するべきか伝えてあるため問題がないと判断して無視をしていた。
確かに仁田脇さんが言っていることは懸念すべきことだ。能力については自由という方針の雰囲気を出しながらそこについて一切触れていないので提案が通った後に色々言われても困るというものだ。
特に教えなかったからきつい仕事を与えるなど不利益があるようなことになれば、実質的に脅しているようなものになってしまう。
仁田脇さんの質問に桜井は一切動揺することなくそちらへと振り向く。その様子から桜井もこの質問は想定済みだったことが分かる。桜井的には質問がなければ能力の開示についてある程度の手段が取ることが出来るし、あるなら強引な手段が使えなくなった程度になるのでどちらでもいいといった所だろうか。
「能力関連については僕とグループのリーダー的な人が中心として活動したいと考えているからその人たちが能力について知ることになると考えてくれ。能力についてさっき言った中心メンバーに教えるようにする予定だ。勿論能力について教えれない場合があるかもしれない。その場合は教えなくていい、理由も聞くことはしないように徹底させるつもりだ。班については能力が知らない場合は本人の得意そうな分野に入れるつもりだ。他の人から見て明らかにそうではないと感じるようなことだったら俺はリーダーという立場から降りてなんでも言うことを聞くことを誓おう」
「桜井君を信じてもいいんだね?」
「ああ、今は生き残ることが先決だ。無駄な争いはしたくない」
桜井の説明を聞いた仁田脇さんは桜井の目を見ながら信じていいのかを聞いた。さっきの説明では桜井がそうさせると言っただけで絶対ではない。しかし、必ず守ると桜井の立場では断言はできない。不測の事態など能力について明かさないといけない事態があるかもしれない。
そう言った場合に迅速に対応するためにはある程度の権限が必要だ。個人の保護を注力しすぎて緊急の事態に対して対応出来ないのであれば意味がない。
つまり桜井は言っているのだ、ある程度の自由は許すが緊急の状況になった場合などはそうではないと。回りくどく言うのもその他の人が悪いイメージを抱き協力体制が取りにくくなることを防ぐためだろう。
仁田脇さんもそのことには気が付いているらしく了承している感じだった。それでも一応反撃出来るように桜井に信用できるのか聞いているのだ。
あまりにも強引なことをすると道連れにすると桜井に伝えるために、桜井もそのリスクは背負うしかないので仁田脇さんの発言にそうしても構わないと答えたのだろう。
「それじゃあリーダーよろしくね!」
「ああ、みんなの期待に応えるように努力するつもりだ」
仁田脇さんは納得したように言った。この発言によりなんとなくリーダーになっていた桜井が明確にリーダーになった瞬間であった。その後もいくつか質問があったがあまり大したことはなく。桜井の提案にすることが決まった。