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最後だからわかること  作者: 時雨
魔の森
30/32

問われたもの

 強烈な痛みと共に僕は吹き飛ばされる。

 それと同時に僕の目に入る二本立ちする狼の魔物、色んな情報が僕に一気に押し寄せる。


 だが、このような出来事はこの異世界に来てすでに何度も体験している。


 僕は狼の魔物から視線を外すことなく、受け身を取る。

 受け身を取ってすぐ、僕は左横に飛び、地を裂きながらこちらに向かってくる不可視の刃を避ける。

だが、そのことも折り込み済みだったのか、木々を切り刻みながら、無数の刃が回避をした僕へと襲ってくる。


 刃によってできた傷から不可視の刃を予測し、僕は距離を取るために後ろに飛びながら回避行動を取るが、その瞬間右目に強烈な痛みを感じると共に視界の半分がブラックアウトした。


 少し遅れて、小さな刃が全身を切り裂き、声にならないほどの激痛が襲う。


 それでも僕は狼の魔物から15メートルほど距離を取ることに成功し、右手に持っている剣を狼の魔物に向ける。狼の魔物は追撃をすることはなく、こちらを見ながら動こうとはしない。


 それによって僕に情報を整理する時間が出来る。


 右目がやられた……と言うかあの魔物はなんだ!明らかに今までの魔物よりも数段強い!このままだと死ぬ……どうする、どうする、どうする!


 考える時間が与えられたことによって極限状態まで高められた思考に余計な考えが生じる。


 それによって一瞬だけ魔物への警戒が緩む。狼の魔物はそれを待っていました言わんばかりに一気に距離を詰め、僕の首めがけて鋭い爪を突き出してくる、僕は咄嗟に剣を盾にするが、狼の魔物は突如突きの攻撃をやめ、勢いそのまま僕めがけてタックルをかます。


 そのまま、僕はまた数メートル後方へと地面をバウンドしながら吹き飛ばされる。


 全身が悲鳴を上げる。意識が朦朧になる。今追撃されれば確実に僕は死ぬだろう。しかしながら、狼の魔物は先程よりもさらに10メートル距離を取り、こちらを見ながら動こうとはしなかった。


 弄ばれいる、あの魔物は不意打ちでこちらに大けがを負わせた後、敢えて攻撃をしないでこちらに考える時間を与えることで焦りや絶望を誘い、それによって思考が鈍ったその瞬間に追撃をすることでさらに混乱させ、こちらがハチャメチャになるように誘導している。


 あの魔物はこちらが絶望する姿を見たいようだ。何ともまあ、趣味が悪い。しかしながら、その分かりやすい態度によってあの魔物の思考を読むことができ、冷静を取り戻すことができた。


 もし、こちらが追い込まれていく姿を見たいのなら、次にすることはこちらに深く考えさせて出来た希望を摘み取ろうとしてくるはず。それが人の心を壊すのに一番有効な手段だ。


 事実、あの狼の魔物はこちらが何かリアクションを取るまで動かんとばかりに仁王立ちしている。


 そのことから、あの狼の魔物はこちらが何かしらのリアクションをとるか、完全に壊れない限りはこちらを攻撃してこない。


 その為、僕は必死に体を起こそうとする演技をする。こうすれば、こちらが諦めていないと思い込みある程度の時間はくれるはずだ。


 そうして出来た時間で僕はこの状況を切り抜けるための方法を必死に考える。


 今残されている手段は三つ、一つ目は相手の油断を突いて倒す。二つ目は全力で逃げる。三つ目は出来るだけ時間稼いで桜井達の救援を待つ。


 選択肢は三つあるが、一つ目の相手の油断を突いて倒す方法以外は現実性がかなり低い。もし全力で逃げようとしても、余裕で追い付かれ殺されるだけ。桜井達の救援を待つにしてもあの魔物から救援が来るまでの時間逃げ切れると思えない、それに桜井達はこちらの事態を知らない可能性が高い上、魔法等の手段でこちらを監視をしていても見捨てられる可能性が高い。桜井がこちらの現状を見れば助けに来るかもしれないが、監視をしているとしたら桜井の裏で暗躍しているであろう川根の可能性が高い。


 川根なら不安要素である僕をここで切り捨てるか、僕が死んだ後に桜井を向かわせ、死に対する耐性を付けるために有効活用するぐらいのことは考えるはずだ。いや、寧ろそれぐらいして貰わないと助かっても、クラス全員を救うなど無理だろう。


 つまり、僕は相手の油断を突いて倒すしか選択肢が残されていないことになる。


 幸い、僕の剣はあの魔物にダメージを与えることができる可能性が非常に高い。二回、あの魔物に接触型の攻撃を喰らったがその時の感触として、とても硬いものに殴られてという訳ではなく、単純にパワーが強かったように思える。見た目もとてもふさふさしているので多分こちらの刃は届く、というか、届かないとこちらにあいつをやる手段はない。


 なら、後はどのように油断を突くかだが、あの魔物の油断を突くといってもかなり難しい。そもそも、あの魔物はこちらが考えに考え抜いた作戦を潰す気でいる。一つ、二つ程度では簡単に見抜かれて殺される。


 少なくとも、あの魔物を一度は完全に騙す必要がある。


 だが、どうやって騙す。僕はあの魔物がやってきたことを振り返る。


 あの魔物は不可視の刃を不意打ちで使用、その後は全てこちらをすぐに死なないように打撃系で攻撃してきている。


 こちらの絶望した顔が見たいのならば、しっかりと自分たちが考えた作戦が潰されたことを認識させるために即死するような殺傷能力の高い攻撃はしてこない可能性が非常に高い。そうなれば、こちらへの攻撃は打撃系統がメインになってくるはず。


 そう考えると、距離を取られてこちらが剣を当てることができないと言うことはないはずだ。後はどのように騙すか。


 あの魔物は知能が高く、突きと思わせてタックルをするフェイントもできることからこういうことに関してはかなりの経験がある可能性が非常に高い。それと同時にあの魔物はこちらと同等の体格、知性を持った相手と戦闘をしたことがあると推測できる。


 ならば、その経験を利用するしかない。想定しろ、あの魔物に同じ手段で殺されて言ったものたちはどのような抵抗をしようとしたのか、それからあの魔物は僕がどのような行動を取ればどんな感じに考え行動するのか。


 そして、僕は一つの作戦へ実行する。


 ゆっくりと立ち上がった僕を狼の魔物は見つめる。

 互いに睨み合い、静かな雰囲気が周囲を覆う。

 一瞬の睨み合い、先に動いたのは僕。


 僕は狼の魔物に対して、背を向けて逃げた。


 それに対して狼の魔物は先程僕に見せた動きと全く同じように物凄いスピードでこちらの首をめがけて爪の突きの攻撃をしてくる。


 第一段階はクリア、狼の魔物が突きの攻撃をしてくることを予想していた僕はその伸びた右腕を切り落とすために振り向く。


 そして、僕がこうすることを予想していた、狼の魔物はあの時と同じようにタックルの姿勢に変えてこちらに突っ込んでくる。


 第二段階もクリア、これで先程と同じ状況を完成することに成功する。あの狼の魔物は右肩を前に出す、つまり左に避ければがら空きの所を攻撃することができる。


 僕はタイミングよく、タックルを左に避けながら、がら空きの側面へと攻撃をする。だが、ここまではあの狼の魔物も読んでいる。


 狼の魔物はこちらに反撃するためにほぼ完ぺきなタイミングでブレーキをかけて、左腕でこちらの攻撃を弾いてカウンターをする姿勢に入る。


 だが、それも読んでいる。おまえなら、敢えてこちらが望んでいる展開に乗って騙されたふりをしてより希望という光と見せた後に潰そうとするよな。


 そして、僕が右手に剣を持っているからどの形で攻撃が来るか予測しているはずだ。だからこそ、僕はどちらの手に剣を持っているのか分からないように立ち回った。


 お前は右手から繰り出される大ぶりの攻撃を予測しているはず。それが一撃でお前を倒せる手段なのだから。


 だけど、一撃でお前を倒す必要なない。立場を逆転させる攻撃が出来ればいい、その後の攻撃で倒せばいい、だからこそ、僕は左手に持った剣で胴体を薙ぎ払うように振るう。


 だが、しかし狼の魔物はそのさらに上をいった。


 狼の魔物の突きが剣を持っている左手を貫通しそのまま腹部を貫通する。


 狼の魔物は気が付いた、あの人間が剣を意図的に隠していたことに、だからこそ分かっていた。攻撃は右手の大ぶりではなく、左手での胴体を薙ぎ払う攻撃なのだと。


 その予想は当たり、左手からこちらの胴体を狙って剣が振りぬかれる前に手ごと貫通して攻撃を阻止する。


 確かな感触と共に勝ちを確信して力が少しだけ抜ける。そう、そこまでしないとお前は力を抜かないよな。


 僕は右手に持っていた剣を狼の魔物の首めがけて振るう。


 僕は狼の魔物を動きだけで騙すことは不可能だと思っていた。元々、一度フェイントで完敗しているのだ、騙せるとは思えない。それに例えそれで騙せたとしても、その持ち前の動きの速さで対応される可能性がある。


 それでは完全に騙せない。ならば、どうするか。左手と腹部を貫通させ勝ちを確信させてやればいい。狼の魔物は古傷がなどが特に見えなかった。そのことから歴戦の個体ではなく、比較的に若い個体の可能性があった。だからこそ、騙せると思った。


 腹部を貫通させられたが、攻撃は事前に予測できていたため、致命傷にならないようにコントロールしている。応急処置をして急いで帰ることができれば優香に治療してもらいギリギリ死ぬことはない。


 僕の考えに気が付いた狼の魔物は急いで左手を抜こうとするが僕は力を入れてそれを妨害する。勿論、その抵抗は数秒しか持たないだろう。しかし、それで十分だ。お前の首を切断するにはな!


「死ねーーーー!!!!」


 そうして、僕は全身全霊で剣を振るった。


 そして、剣は砕け散った。


「は……………」


 とてもゆっくりと僕は砕け散る銀色の破片を見る。そして、右手から伝わってくる異常に硬い感触、それは喰らった打撃の時と比にならないほどのだった。筋肉が強張ってある程度硬くなることは想定はしていた、だからこそ左手と腹部を貫通させてまで一度完全い騙して、力が抜けた所を狙う予定だった。もし、早めに対応出来たとしても剣が砕け散るのはおかしい。つまり別の要因。


 僕は狼の魔物の首の所を見ると先程までふさふさしていた銀色の毛は今は鋼鉄のように固まっていた。


 硬化能力…………


 剣が砕け散ると同時に腹部を貫通していた狼の魔物の左手は鋭利な刃物のように硬化をして、そのまま僕の左腕を切り飛ばした。


 間髪入れずに怒りの形相をこちらに向けて右腕のストレートが顔面を直撃する。その威力は不意打ちの時に食らったもの数倍はあった。


 そのまま、僕は狼の魔物の怒りのまま全身を殴られ、切り刻まれた。


 そのまま僕は木を背にして倒れ込む。


 死ぬのか…………


 何も感じない、僕がそろそろ死ぬことが分かる。


 結局、何もできないまま、何も得られないまま、死ぬのか。


 それどころか、優香たちを危険な状態にして、他人に迷惑をかけて死ぬのか。


 あの謎の真実も知ることなく、死ぬのか。


 そんな、そんな、そんなことが「「「「許されと思うのか?」」」」


「兄として常に誇れるようにいないといけない」「苦手だからが許されると思うのか」「分からないからいい訳ないだろ!」「お前は他人に迷惑を掛けてばかりだ」「兄としてそれが許されると思うのか」「近づかないでください、この出来損ない」「ほら、障害者は障害者の面倒でも見ておけ」「きらいが通じると思うな、最後まで食え」「どうして!どうして!なんでそんなことができないの!」

「文句をいうなら自分で解決しろ、お前が一番年上だろ!」「誰かが助けてくれると思うなよ」「お前は悲劇のヒロインじゃない」「あっちの子はお前と違って優秀だぞ」「もう死んで、もう無理なの!」「お前は他人に迷惑をかけないよにないもするな」


「そう、何もできないから、何もしないほうがいいだ、ダメだから、誰も助けてはくれない」


「それは違うよ、真紀はダメな子ではないよ。ただ、他よりも能力が劣っていて、人より努力しないといけないから、真紀はその為の努力をしたんだ。それのどこが悪いんだい?誰だって失敗をする、その失敗から学びさらに成長するんだ、真紀は確実に成長している。ただそれが今は少ないだけ、今の真紀は0から1へと成長しようとしている。それは99から100へ上げる事よりも大変でとても難しい、だけど、真紀はそれを成し遂げようとしている。だからこそ、諦めずに努力するんだ、その0から1の成長は誰にもできる訳ではない、真紀にはそれを可能にする才能がある。だから前を見て進め!そしていつかきっとその努力が恵まれる時が来るよ。」

「僕は分かりませんでした、僕の思い描いていた世界はもっと輝いていた。もっと素敵なものだと思っていた。だけど、苦労して上がって見た光景はあまりにも酷かった。僕はまだ努力をしないといけないんですか、僕はまだ暗闇しか見えていません、ほんとに前に進む必要なんてありますか?」

「「それでも!前に進むのが真紀(あなた)だろ!!」」


 そうだったね……僕は前に進むことしかできないんだった。


 だからこそ、そこで死ぬわけにはいかない、まだ、まだ、何も得ていないのだから。まだ、光をみていないのだから。


 動くことなんで不可能なはずだった。感覚なんて残ってないそれでも彼は立ち上がろうとしていた。



 全く、僕にはいつも驚かされる。その異常なメンタルだけには勝てないよ。


 よく頑張った、後は私が何とかしよう、だからお休み。



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