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最後だからわかること  作者: 時雨
魔の森
25/32

警告

 あの後、優香の気が済むまでに一時間程度かかった。


 それは優香がどれぐらい我慢していたかを表していた。やはり、彼女も相当な負担を抱えていた。そのほとんどが僕が原因なのも理解している。


 その事実がさらに僕を追い詰める。利用すると決めていても使い捨てるつもりはない。そこを間違えてはいけない。それに利用するといってもあくまで問題の解決の為である。


 彼女が勝手にしていることだから、相手もそうなることを分かってやっている、利用される方が悪い、などこの苦しみから逃げる言い訳はいくらでも思いつく。


 それを全て否定する。こうなっているのは自分の実力不足が原因なのだ。それでも心のどこかでこれは問題解決のために仕方ないのだと思って行動している自分がいるのではないかと、考えれば考えるほどこれが間違っていると思うのだ。


 しかし、未来の僕はそれを否定している。つまり、最高の結果を得るためには逃げるなと言うことだ、結局は同じ答えにたどり着く。


 今の僕にできるのは未来の自分を信じて僕のやれることをしながらただ耐えるだけだ。すべては自分にどうにかする実力がないことが悪い。


 そんなこんな気付けば昼になっており、僕は壮一の部屋へと向かった。


「真紀だ」


 壮一の部屋の前にたどり着き、ドア越しに声を掛けるとドアが開いた。


「来てくれてありがとう」

「友達だしな」


 そう言って、壮一はベッドに座り、僕は椅子に座った。


「それで相談とはなんだい?」

康文(やすふみ)たちのことなんだ」


 甘木康文(あまぎやすふみ)、自由奔放であちらの世界ではそれなりの問題児で壮一が良く仲良くしている友達の一人だ。


「なにがあったんだ?」

「康文が最近機嫌が悪いんだ。 智康(ともやす)忠義(ただよし)がどうにかしているんだけど智康も今の体制に不満を持っているらしくて、それで……」


 壮一は苦しそうにしながら話す。


 鎌谷智康(かまたにともやす)、純粋で正しいと思ったならそれを全力で果たそうとするある意味手が付けにくい人物だ。


 国沢忠義(くにざわただよし)、大人しい性格で面倒見がよく鎌谷と甘木の世話役にされている。


 自由奔放な甘木、暴走しがちな鎌谷、苦労人の国沢の三馬鹿ともあちらの世界では言われていた。


 先程の状況を聞く限り、壮一が不安視しているのは甘木の暴走を止める事が出来なくなり僕たちの中で決定的な亀裂が出来てしまうこと。


 だが、僕は鎌谷や国沢とは関わりがあるが、甘木とは喋ったことがない。それは壮一も分かっているはずだ。


 聞く限りでは甘木をどうにかする必要がある。甘木と関わりがない僕が適役とは思えない。


「僕はどうすればいいんだ? 甘木の性格上、下手にアドバイスしてもマイナスになると思うが」

「真紀には甘木が暴走したときにどうにかして欲しいんだ」


 壮一の相談、いいや、お願いは甘木を暴走しないようにするのではなく、暴走したときに何とかして欲しいと言うことだった。


 ただ、僕では甘木を確実に止めれるほどの力がない、それは壮一も分かっているはずだ。もし確実性を優先させるなら桜井達に相談することが最適なはずだ。


 そっちの方がよっぽど合理的だ。普通ならそっちにするはずだ。いくら、助けたことがあったとしても僕を選ぶことはない。


 つまり、僕だから出来ることがあると言うことだ。


 甘木の性格上、自分のしたいことを赤の他人に邪魔されることは相当なストレスになる。桜井が動けば高い確率で止める事ができるかもしれないが、ひと悶着あるのも確実だ。


 そうなれば、今クラスを率いてる中心メンバーとの因縁が残る可能性が高い。そうなれば僕たちの団結にも亀裂が入ることになり、最悪の展開になる可能性が高くなる。


 それは誰も望んでいない、そうならないためにもどうにかする必要がある。ただ、今の甘木を止め続けることは非常に難しい。桜井も葵も多忙であり、それがきっかけで因縁が残っても困る。


 予防することは難しい、それならどうするべきか。暴走したときに内密に済ませばいい。ただ、内密に済ませるためには被害者を出してはいけない。甘木が越えてはならない線を超える前に立ちはだかる人物が必要だ。


 そこまで考えれば、僕が選ばれた理由が見えてくる。


 甘木に立ちはだかるのだ、嫌われることは確定だし、どうなるか分からない。内密に済ませる必要もあるのである程度甘木を抑え込むことができる人物で、その負担をかけても大丈夫そうな人。


 文一では抑え込むことができない。敦なら間違いなく殴り合いが発生する。それにどちらも中心メンバーとの関わりが深い。対して僕は中心メンバーとの関わりがあまりなく、甘木からの妨害等にもある程度耐えることができ、武力ではなく言葉で抑え込むことができ、何より全体の事を考えて行動するので内密に済ませてくれる可能性が高いと言うことだ。


 ただ、それはみんなのために犠牲になれと言っているようなもので、壮一もそれが分かっているからこそ、先程から表情が暗い。


 これを断る権利は一応あるが、それは問題の放置に等しい。そして、爆弾が爆発したときに一番被害を被ることになるか。


 つまりは、断れないということだ。後々問題が起きると分かった上で放置することは致命的だ。


「わかった、暴走したときはいち早く僕に連絡してくれ。 国沢にギリギリまで止める必要はない、国沢の言葉を聞き入れることができる状態にしておくこと、と伝えてくれ。」

「ごめん……」

「謝る必要はないよ、誰かが対処しないといけない問題だ。 今回はそれが僕だったということだ。それに壮一が行動してくれたから事前に対応することができるんだ。 その判断は間違えていない、誇っていいよ」

「ありがとう、ありがとう」


 そうして僕は壮一の部屋を去った。


 今回の事は僕的にもどうにかしないといけない問題だ。未来からの手紙でクラスメイトは全員を救うことになっている、その上で仲間同士での仲間割れが起きてしまってはどうすることも出来ない。


 それに今の僕では優香を守れるほどの実力はない。そのことを考えても現状の状態を維持することは大切だ。


 ただ、僕一人ではもしもの場合に対応が出来ない。敦と文一にも協力をお願いする必要がある。僕は未来の対策をすると同時に、内側での問題も対処するために行動を始める。


 


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