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最後だからわかること  作者: 時雨
魔の森
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方向

「元気そうでよかったよ。倒れたと聞いたから心配したんだぞ」


 壮一はいつも通りの様子の僕を見て安心したのか、ほっとした表情をしている。


「倒れてはいないよ、ただ疲れて休んでるだけだ」

「またまた、そう言って倒れてもらったところを助けてもらったんだろ? 強がらなくていいよ」

「僕は強がってなどいない」


 壮一とはあちらの世界で課題研究と言う授業で内容に追い付けなくて困っている所を助けたことをきっかけに知り合った。


 壮一は見た目通りに足が速く、それは学年でも一位を争うほどだ。


 基本的には大人しく誰に対しても優しい、何処か抜けている所もあって彼を嫌う人はいない。


 ある程度親しい関係になるとこんな感じに会話してくるので友達も多い。


 友達のことを心配してわざわざ見舞いに来るところも壮一らしい。


 僕は壮一に怪しまれないようにいつも通りに対応するが、図星を突いているので顔に出さないのが精一杯だ。


 優香はそんな僕の様子を見てクスクスと笑っている。


 こっちに来てからの僕のポンコツ化が激しくてとても悲しい。


「それにしても真紀君が無事そうでよかったよ」

「心配ありがとうな」


 先程の発言も僕を励ます目的で言ってくれたのだろう。それが僕にとってクリーンヒットしていたのは不運な事故だったが、僕の友達の中で一番の常識人であり、良心ともいえる壮一を大切にしていきたい。


「野矢さんも真紀の面倒を見てくれてありがとう」

「お前は僕の親か?」

「真紀の親かーそれもいいかもね!」

「満面な笑みで答えるな!」

「二人とも楽しそうだね」

「優香まで壮一の味方をするのか……」


 完全におもちゃにされている。真面目な話なら立場は逆転するのだが、それ以外では基本的に弄ばれている。


「そろそろ時間だから行くね。 野矢さん、真紀の事よろしくね」

「はい、任せてください」


 優香は力強く返事をする。それを聞いた壮一は満足そうな表情をし、僕は苦笑いする。


「ああ、あと一つ相談したいことがあったんだ」

「相談したいこと?」

「そう、今回は少し重いから真紀が適役だと思って、いいかな?」

「友達だからな、勿論いいよ」


 それを聞いた壮一は分かりやすく目を輝かせる。こういった分かりやすい所も壮一らしい。


「それじゃ、昼休みに僕の部屋に来てね! あと体調はしっかり治してからじゃないとダメだぞ!」

「分かってるよ」


 そうして壮一はここから去っていった。


「真紀は多くの人に頼られますね」


 優香は二人になったことを確認してから言った。


 ただ、その言葉は僕の事を凄いと思って出たものではなかった。


 優香は、先程のやり取りの中に隠れている信頼という目に見えない重いものを感じ取り、名塚真紀と言う人物がもつ周囲からの信頼はそれなりに重いことを見抜いて出た言葉だった。


 確かに、優香の言葉は今の僕の現状を的確に捉えている。僕は一人一人と深い繋がりを持ってはいない、敦や文一も同様だ。ただ、話が合って気分が悪くないからいるだけだ。


 僕の人間関係は広く浅くだ。壮一のように僕があちらの世界でやっていたのは困ったら助けるだけであり、良く話していたわけでもない、遊んでいたわけでもない。


 あちらの世界では僕が失敗しても特に影響はなかったが、こっちでは些細な事でも大きな影響になりうる、その中でも広い範囲で影響を及ぼす可能性がある僕は大きな失敗は許されない。


 人との繋がりなど目に見えないものまではっきりと感じる取るからこそ、その危険性も人一倍気にしてしまう。特に今の彼女は目的のために才能をフルで活用しているため、その影響もかなりのものだろう。


 日々苦しんでいることは手に取るように分かる。だからといって優香が望むようにしてやる必要もない。そうなると分かって選んだのは彼女だ。


 ただ、アドバイスぐらいはしてもいいだろう。僕は明るい声を意図的に作り出し、僕の考えを話す。


「そんなに重くとらえる必要はないさ、単純に考えればいい、僕たちが出来ることはベストを尽くすこと、その結果が良かったらみんな幸せ、良くなかったら信頼を失い、相手は悲しむ。だけど、それで終わりではない、失ったのならまた築けばいい、大切なのは諦めないこと、そして自分をしっかり認めること」

「自分をしっかりと認めること?」

「ああ、結果がどうあれ、それが僕のしたことだと認め、受け入れる。 どんだけ見えを張っても過去にやったことは変わらない。なら、しっかりと自分を受け止めて前に進んだ方がカッコいいし気持ちが楽だからね」

「カッコいいし、気持ちが楽……真紀らしくない考えだね」


 優香はそう言って笑う。まあ、こちらに来てから一つ一つの責任は重くなった。より合理的に考えることが求められているなかでカッコいいなんて感情的なことを言うとは思えなかったのだろう。


「だがら、僕は失敗を恐れないし、諦めない、今、優香が感じている重さは、僕が掴み取った重さだ。何度も失敗しながらも諦めず進んで得たものだ、一回の失敗で崩れるほど弱いものでもない」

「強いね、真紀は」

「それでも優香は諦めないんだろ?」


 僕は優香も目を見る。優香もこちらを見つめ返す。


「諦めないよ……絶対」


 決して力強く言ったわけでもなく、頼れるような見た目のしていないのにその気持ちが折れることはないとハッキリと分かる。


「なら、前を向け、自分の行動に常に自信を持て、そして大声で言えるようにしろ、私の行動は間違っていないと、私は私の為に行動すると、それぐらいできないと君の欲しいものは手に入らないよ」

「そうだよね!なら私も言うことにするよ!」

「うん???」


 雲行きが急激に怪しくなる。僕の勘が全力で逃げろと叫んでいる。


「あーちょっと自分の部屋に用事できたから、ここから出てきくね」


 僕はベットから起き上がろうとしたが バン!と優香の手がそれを阻む。


「ゆ、ゆ、優香さん?」

「まだ、安静にしないといけないよ?」

「は、はい」


 アドバイスをした瞬間からすでに詰んでいた。


「私ね、真紀に言いたいことがあるんだよ」

「はい」

「確かに私は生きて帰ってほしいと言ったよ、傷も治すと言ったよ、だけどね全身傷だらけで帰ってくるて何? 私の事考えてないよね? 朝、保健室に来た時に血だらけ真紀を見た時の私の気持ち分かる? どれだけ焦ったか分かる? それで今日も外に出るんでしょ? 見るしかできない私の気持ち分かるかな?」


 優香がここ数日で溜まった僕に対する不満が一気に爆発した。寧ろ、ここまで持った方が奇跡だったのだろう。僕は今まで貯めてきたツケを返されることになる。


「その件に対してはとても申し訳ないと思っています……」

「そう思っているなら早く心配がいらないほど強くなってください!」

「はい」

「適当に返事してない?」


 優香の疑いの目がこちらを射抜く。てか、そうとしか答えられないのだから仕方ないだろ。


 その後も優香は一切の容赦なく僕の心を抉るような言葉を言い続けた。どれもこれも正論で僕は心のガードする事すら叶わず、ただひたすらに耐えた。


 そして思うのだった、アドバイスなんてするんじゃなかったと。





  

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