表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
最後だからわかること  作者: 時雨
魔の森
18/32

理解者

 準備を終えて、他の人に見つからないように警戒しながら昨日と同じように外へとでる。


「やはり……いるのか……」


 外に出て拠点から少し離れたところまで行った所で、視線の先に一人の人物を発見する。どうやって先回りしたのか分からない。ただ、予想以上の行動力に生半可なやり方ではダメたと悟る。


 僕はその人物へと近づいていく。その人物は夜空を見上げてどの表情は苦しみを感じさせるものだった。


「優香、こんな時間にそこで何をしてるんだい?」

「それは真紀も同じことじゃない?」


 その人物、野矢優香は先程の苦しそうな表情から温まりを感じるような笑みをこちらに向けてきた。最初の方で焦ったいた優香の姿など、どこにもなかった。


 一瞬の沈黙が二人を支配する。


「なあ、何もなかったことにするから、そこを退いてくれないか?」

「それは……無理だよ……」


 優香の言葉からは苦痛を感じる。当然だろう、優香にとってもこれは苦肉の策だ。本当はしたくないはずだ。嫌われたくない人物に嫌われる可能性が高いのだから。


「僕にそこまでする価値はないはずだ」

「分かってるくせに……」


 ここで優香の考えとはっきりさせないといけない。ここで立場が上なのは優香の方だ。僕はこの現場を他人には見られたくない。ただでさえ、問題が山積みなのだからこれ以上の失敗は出来ない。


 それは優香も分かっている。どんな問題があるかまでは分かんないかも知れないが、このことを

他の人に報告、もしくはこの場所に誰かを呼ぶようなことをすればいいのだから。


「僕は優香が望む理解者にはなれない」

「…………」


 優香の表情が歪む。


「いつから……分かっていたの?」

「確信を得たのはここで優香の姿を見た時だ、まあ推測できたのは僕と優香が同じ才能を持っていたことが一番の理由だ」


 優香と僕は同じ才能を持っている。その才能は人の感情などすべてを見抜いてしまうほどの観察眼と洞察力だ。


 美香子から聞いた昔は何でもできる子だった。それがいつの事かは知らないが大切なのは最初からそうであったと言うことだ。


 誰しも最初は自身の与えられた能力に振り回される。それがまだ何も知らない子供の時なら余計にだ。自身の才能がどんな影響を与えるなんて考えもしない。むしろ、それが特別なものだと知らない可能性の方が高い。


 だからこそ、小学校の時に何でもできる人とかは才能が関係してくる。努力などは小学四年ぐらいにならないと目に見えた結果に出てこない。


 そして優香は恐らく前者だったと推測できる。だがこの時点でどんな才能なのかは推測できない。ただ分かるのはその才能がもたらした影響は優香にとっては悪いものだったと言うことだけだ。


 そこまで考えつければ後は簡単だった。僕に執着する理由はその悪影響から来ていると考えられる。才能による悪影響ならば、同じく才能を持っている僕にとってはある程度推測は出来る。


 後は優香の言動など様々の情報から優香の才能を推測して、そこからくる感情の変化を考えればいいだけだ。


 そうして得た結論が優香は自分と同じような才能を持っているという結論だった。なら悪影響に関しても大体の察しはつく。


 僕たちの才能はすべてを知ることが出来る。人の良い所、悪い所全てを知ることが出来る、いや、強制的に知る羽目になるのだ。


 ただ、扱うことが出来れば多くの事を知ることができるので、圧倒的な力になる。


 才能を制御できるようになるまでは感情の嵐の中に生きるのと同意だ。だからこそ、この才能を持っている人は心が長くは持たない。そこからくる圧倒的な孤独。


 すべてを知ることは地獄の他ならない。嘘をついてもアウト、なら真実だけ伝えればいいだけではない。才能からくる聡さがさらに苦しめるものになってくる。


 だから、大抵は自身の能力を封じるために脳の機能をほぼ無気力にするなどの対応をする。狙ってすることは至難だが、防衛機能が働くの出来ている感じだ。


 そして、それは必ず何かしら悪影響を及ぼす。優香の場合なら普段の消極性とかになる。


 だからこそ、理解者の価値は非常に高い。同じ才能を持つ者ならばどちらも真実しかしれなくて、どちらも聡い。自分を制限をすることなく過ごせる。


「優香も分かっているだろ、才能が同じでも環境が違う、致命的にな」

「そうだね……私はこの才能を使わなくてもよかった、だけど真紀は使わないといけなかった」


 なんでも知ることが出来るからこその会話だった。僕の過去について優香に話したことはない。だけど、彼女も僕を見たからわかったのだろう。そう言った才能だ、少しの仕草から相手の経験したことすら我が身のように知ることが出来る。


 一見最強に感じるものだが、それをするときのストレスな尋常ではない。他人の人格を自分にインプットするようなものだ、自分と全く違く価値観など大きく心をすり減らすことになる。


「なら、どうしてここで動く、あまりにも早い。もう少し待っても良かったんじゃないか?」

「…………」


 優香の表情は少しづつだが、辛いものに変わっていく。


 優香もわかっていたはずだ、こう言われることをだから動かないと思っていた。聡明なら時間を掛けるものだと思っていた。


「私は……自分に自信がないんです……だから、私は理由と逃げられない舞台を用意しました。こちらに来るまで分からなかった、完璧に自分の気持ちを偽ることのできる真紀に私は……正面からどうにかできるとは思えなかった……」


 やはりか、優香は僕が精神的に安定になる前に何かしらの楔を僕に打ち付けたかったのだ。だから時間がなかった。僕が精神的に安定してしまえば、上手くあしらわれるから。


 元々、僕の存在が知られたのも異世界転移してその環境に適応しようとしたことにより普段偽っていた自分が崩れたことが原因だ。


「それに怖いんです、今の真紀は身体的にも精神的にも壊れそうな気がして……」


 優香の心配は正しい。今の僕は命懸けの行動をしているのだから。それによって焦った、何もすることなく自分にとっての希望を失うかもしれない。


 それを防ぐために、きっと抑えていた才能を使ったのだろう。最初の時の優香が才能を抑えていた時であり、その後は能力を解放していったため変化が激しかったのだ。


 見聞が広がり幅広く物事を見えるようになるようなものだ。もっと分かりやすく表現するなら学校と親が全てだと思っていたのが成長したらそんなことではないと知るようなものだろうか。


 今の彼女は何一つ偽りなく自身の気持ちを喋っている。そのこと自体は僕的には好きだ。自分を偽る必要がなく、疑う必要もない、余計なことを考える必要もないから。


 ただ中途半端なものはいらない。それは僕の行動を阻害するだけだ。だからこそ、僕は彼女を突き放す。


「優香も分かっているだろう。今、僕は忙しい、他の人にかまっている余裕はない。」

「分かっています! いきなりすべてを手に入れようとは考えていません。ただ、チャンスが欲しいだけです。どれだけ私が語り掛けようともあなたは……止まらない。目的の為なら一切の躊躇なく、プライドを、信頼を、大切なものを、自分自身すら切り捨てることが出来る。それがあなたにとってのデメリット……だから」

「分かっているなら、そこを退いてくれないか? 傷付くだけの未来に投資する必要はない。別に他の人に言っても構わない。分かっているなら黙って見守ってくれないか?」

「嫌です! 私は退きません! 私はあなたに嫌われてもいい、私は自分の望みの為に動きます! その為に今! あなたを失うことは出来ない!」


 冷たい空気が場を支配する。


 優香はこちらが引くこともしないし、そちらの脅しにも屈しないと強めの口調で言ったにもかかわらずその場から退くことはしない。


 やはり生半可なことではダメだ。勿論、彼女を振り切っていくこともできるが、そんなことをしても問題の先延ばしにしかならないし、より複雑な問題になるに違いない。


 しばらく沈黙が続く。永遠に感じるようなその時間が終わるのはどちらかが折れるまで続く。


「…………分かったよ、折れてやる」


 先に折れたのは僕だった。


「優香の言うことを一つだけ吞んでやる。ただし、僕が外に出ることはやめない。僕は早急に力を付ける必要がある。そのためにも出来ることはすべてしておきたい。」

「…………」

「おい、早く条件を……泣いてるのかよ」


 優香の方振り向くと、泣いていた。目を丸めて有り得ないと言った感じの表情をしている。


 なんだよそれ、僕を言い負かすつもりで行動したんじゃないのかよ。


「いや……もっと……辛いことに……なると……思ってたから……」

「僕もそこまで鬼じゃない、それにそこまでデメリットがあるとは思わないからな」

「よかったーー!」


 優香はその場で崩れ落ちる。いや、こんなことにそこまで思いつめなくてもいいだろうに、一体どんな覚悟で来たことやら。


「ほら、早く立ち上がれ。優香の戦いはこれからなんだぞ! そんな調子だと何もできないよ」


 そう言って僕は優香に手を差し出す。


「そう……だね……」


 優香は涙を拭きとり立ち上がる。優香が僕にどんな影響を与えるか分からないが、それがプラスの方になってくれるのを祈るばかりだ。


 その後、優香が出してきた条件は外に出る前に30分程度一緒にいること、毎日、朝に一度会いに来ることだった。


 一つのつもりだったが、どちらも比較的に楽なものだったのでどちらも認めた。後者は朝にケガをしていなか確認するためだし、特に予定に問題がある訳ではない。


 そうして、未来は確実に変わっていく。未来の私が想定したどおりに……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ