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最後だからわかること  作者: 時雨
魔の森
17/32

推測と準備

「ああ! また失敗した! どうしていつもこうなるんだ! あんなこと起きるなんて有り得ない!」


 僕は再び失敗して、親に怒られる。今度こそ完璧だったのだ、前回の失敗からもしっかりと学び対策した、なのにいつも上手く行かない。


 もうあの人はいない、自分一人で戦わないといけないのだ。


 際限のない恐怖と不安に押しつぶされそうになる。


 だが、僕が押しつぶされることはなかった。


 だって戻るだけだ、あの人がいなかった頃に、それにこの程度で潰れるのならばとっくの昔に押しつぶされている。


 地獄のような環境でも決して倒れることはなかった。一つだけ知りたい事があったから、その為にボロボロな自分を動かす。


 もっとだ、もっと深く考え行動しなければ、どんな状況でも対応できるようにしておかなければ、それが無駄なものになろうとも僕は必ず…………


 目を覚ます。


 久しぶりに夢を見た気がする。


 そんなことを思いながら起き上がる。


 見た夢はいい夢ではなかったが、元々見る夢の全てが悪夢のようなものなので慣れてしまった。朦朧とする意識をクリアにしつつ何をしていたか思い出す。


 帰り道は特に問題になるようなことはなく拠点に帰ることが出来た。


「さて、これで今回の活動は終わりにする。 今日は解散してもらって構わない」


 桜井の言葉を聞いてみんなが解散する。その中で文一だけが動かない。僕も気になったのでその場に残る。


「桜井、最後にもう一度今回取った食材や倒した魔物について鑑定したい」

「そうだね、そうした方が安全だ」

「僕もそれに付き合っていいかな?」


 情報は出来るだけ集めていきたいのでこういう機会逃さないようにしていきたい。


「別に構わないよ、よかったら巴の手伝いもしてくれると嬉しいよ」

「あちらがいいならそうさせてもらうね」


 桜井は快く僕の提案を受け入れた。その笑みからは何か嫌な予感がしていたがまさかあんなことになるとはあの時は思わなかった。


 その後巴がいるところで一緒に鑑定すると思ってのだが、文一は断固にそれを断り別の所で素材の鑑定をしたらすぐにいなくなった。


 その時に色々察して僕もついでに逃げようとしたが、桜井が笑顔で肩を掴んで逃がしてくれなかった。


「巴、食材を取ってきたよ」

「桜井! 人員の補充はどうした! まさか一人で三十人分の料理を作らせ続けるつもりはないどろうな!」


 そこには大量の食材を凄い速度で捌きながらドスの効いた声で不満をぶちまける巴がいた。


「いや……巴の条件に当て嵌まる人が中々いなくてね……」

「それをどうにかするのがリーダーの仕事だろ!」

「ご……ごめん」


 巴の圧に桜井は震えたような声で返答をする。


 戦闘ではあそこまで強い者もこういったことでは頭が上がらないやつの典型的なものを見ている感じだ。


「文一はどうした! あいつの姿が見えないぞ!」

「文一は今日の探索で疲れたから休むと言っていたよ……」

「鑑定しかしてないやつがそんなに疲れないだろ! 今すぐ連れてこい!」


 どうやら文一は一度犠牲になっていたようだ。だからあんなに会うことを嫌がったのか、文一ではこうなったら逃げれないからな。


 桜井ですら、巴の雰囲気に完全に弱腰になっている。


 桜井が助かるには新たな生贄をささげるほかにない。そして前回の生贄である文一は逃げている。


 ここまで分かれば、どうなるかなんて火を見るより明らかだ。幸い、まだ巴は僕の存在に気が付いていない。逃げるなら今しかない。普通の学校生活をしていたら自然と極めることができた自身の存在感を完全に消して逃げる。


 しかし、僕の意思と反して僕の体は動かなかった。


 よく見ると自分の体に光の糸らしきものが絡まっていた。その糸は桜井の指先に集中している。


「桜井……」


 裏切り者の名前を告げると、桜井はこちらにゆっくりと振り向く。その眼は狂気に染まっていた。


「これは必要な犠牲だよ、名塚。巴は命令を忠実に聞いてくれる人でないと足手纏いだからいらないと言うんだ。そんな人物、このクラスにほとんどいないのにね」


 桜井は完全に目が逝っている。確かにこの戦場を生き残ることが出来る者はほんの少ししかいない。


「なら、桜井がすればいいじゃないか! 能力も良くて頭脳明晰、運動神経抜群だろ!これ以上の適役はいないと思うが? 」


 桜井がすればいいのだ、どうせご都合のいい能力を持っているんだろ。チート主人公ならしっかりチート主人公しろよな、鍋の中に素材を放り込んで三分待ったら素晴らしい料理ができるとかの能力を持ってるんだろ。


「僕はみんなのリーダーなんだ、こんなところで死んでいい存在ではない。大丈夫だ、上手くやれば五時間後ぐらいには解放してくれるはずだよ」

「ご……五時間……」

「桜井! 文一がいないなら手伝え!」


 僕たちが押し問答をしている中、戦場の主は桜井に銃口を突き付ける。


 桜井は一切の迷いなく僕を突き出した。


「文一の代わりに名塚を連れて来た! みんなを支えるために手伝いをしたいと言ってくれたよ!」

「桜井ーーー!」

「名塚君ならセーフだね」


 押し出された自身の体は桜井と同等の力があるんじゃないかと思う細い腕に捕まる。


「それじゃ、これを一口サイズに切ってね、その後はこの野菜もよろしく。他にも仕事を任せていくからね」

「あ……はい」


 目の前に置かれた大量の食材、いつの間にか消えた桜井、希望が無くなった僕はこの後七時間の死闘をした後、死ぬように寝たんだった。


 酷い目にあったがまあ仕方ないことだと割り切る。


 今の時間を確認すると午前0時つまり真夜中だ。拠点に帰ってきたのが午後三時、その後部屋に帰ったのが10時だ。つまり大体2時間程度しか寝ていいない。


 普通なら体力回復のために今日は休憩すべきだが、そんな時間は僕にはなかった。


 この二日目で分かったことは多くあった。主に分かったのは僕が乗り越えるべき問題が途方もないほど厳しいことだ。


 未来からの手紙で僕にはタイムリミットがある。


 具体的な数字としては一か月、ただこれそのままの猶予時間として考えることはできない。


 なぜなら、この一か月、()()()()に対して勝者である事しか許されない。と書かれている。


 一か月後とは書かれていない、一か月、全ての事に対してと書かれている。つまり、僕が乗り越えるべき問題は複数であり、いつ来るか分からないということだ。


 その上で、僕は全てにおいて勝者でいなければならない。


 そして、今日分かったことは自分が能力という点では圧倒的に負けていることだ。


 笑ってしまう、勝者である必要があるのにこれなら勝てると自信を持っていえるものは一つもない。それどころか逆立ちしても勝てないようなものがいくつかあるなどもはや詰みだ。


 それでも勝たないといけない、その為に時間は無駄にできない。少しでも可能性を生み出さないといけない。


 だが、冷静になって現状を考えるほど自分の心を苦しめる。


 いつどのように戦うことになるのか分からない、そして勝てる要素もない、だけど勝たないと僕に未来はない。


 それでも抗うためにやった探索は怪我をしたのと自分の力の差をよく知ることになっただけ、挙句の果てに寝坊をして優香たちに探索していることをバレて迷惑までかけている。


 いや、元々探索をしていると言うこと自体が愚策なのだ。もし、昨日の探索で死んだらどうなる。せっかく桜井達が頑張って作り出している協力体制に致命的な傷を与えることになるし、僕の為に色々対応しないといけない。


 これは重傷を負った場合でも同じ。どちらにしろ僕の行動はミスをするだけでここにいる全員に現実を突き付けることになる。受け入れる準備が出来ていないことでのそれは混乱を生むことに他ならない。


 そうなれば、多くが死ぬことになる。それは僕の呪いのように絡まる他人に迷惑かけないに大きく反する。普段なら絶対にしない。それはただの自己中心的な行動だからだ。


 それをするのは、そうしなければ未来がないから。ただそれだけである。


 しかし、それも根拠があまりにも薄い。未来の自分からの忠告だからというだけ。ほぼ確実に僕自身だと言うことは確定しているが、それが今の僕の為になるとは分からない。


 未来の僕が変わっている可能性の方が全然ある。


 それにやり方を間違えている可能性も全然あるし、その行動自体が最善ではない可能性もある。というか、将来詰みになるようなことが起きない限りこの行為自体が愚行になる。


 今の行動が正しいものではないと言えることなら山のようにある。


 この行動が無意味である可能性が非常に高く、他人に迷惑を掛けていると自覚することからくる苦痛、愚行であると分かった上でやるこの行動は僕の精神を物凄い勢いで削り取ろうとしてくる。


 それでも僕は止まらない。自分の積み上げてきたものを信じて行動する。早く、自身の行動が意味があったものだと思いたいが、それまでは自分との戦いだ。


 そうして僕は一度深呼吸をする。臆病で弱い自分を強い自分に変えるため、少なくともあの人が最後に残した疑問を堂々と解き明かすまでは僕は死ねない。


 気持ちを切り替えた僕は二日間で得た情報から今後に起きる展開を推測する。


 今後、どんな苦難が降りかかるかはある程度推測できるはずだ。少しでも可能性を増やすために僕は様々の事に思考を巡らす。


 考えるべきことは筋が通っていないこと、つまりは不自然だと感じるところだ。不自然に感じると言うことは必ず表面からでは見えない理由が隠れている。


 出来事は必ず何かしらの原因が存在する。些細な引っ掛かりがあるならば、必ずそこに理由はある。それがどんなものであってもだ。それを読み取れるかが僕の今後に関わってくる。


 強引に納得しようするな、少しでも引っ掛かることがあるならそれは考える価値がある。そうして僕は考えを巡らす。

 

 しばらく考えて予測できる事は大きく分けて二つある。


 一つは外敵での危険性だ。


 これは当然のことで、この世界で僕たちより上の存在など山ほどいる。ただ、どんな形で来るのかがまだ分からない。


 強力な個体が襲いにかかってくるのか、探索の時みたいに膨大な量の魔物が襲いに来るのか、それとも極寒な極地みたいな過酷な環境になるのか、それとも未知の病か、さらに詳しく予測するためには情報が足りない。


 もう一つは仲間同士での戦いだ。


 これはただの憶測だが、今の所上手く行きすぎている。確かに優秀な人が多いのは分かるが、それでも全体の三分の一程度だ。完璧にカバーすることが出来るとは思えない。


 なのに、この二日間で不満を感じさせるようなことはなかった。まだ二日目だからというのもあるが、もしそうではなかったら考えれる可能性はかなり面倒な事になってくる。


 こちらは外敵よりも対策はしやすい。早いうちに色々準備していく必要がある。


 後は優香についてだ。僕的にはあそこまで好感度が高いことに違和感しかない。少なくとも今日、敦達と一緒に来るほど仲がよいわけでもないはずだ。


 一日でそこまで距離が縮まることなど現実的ではない。余程危機的な状況で助け合うような関係とかいう早々体験しない状況にならない限り。


 美香子の言っていたこともある。今のところはこちらに都合のいいので特に問題はないのだが、聖女という能力上、今後関わることは多くなるだろう。


 そう言った点でも優香の判断基準、行動基準を知る必要がある。


 表面上での理由は見つけることができない。なら考えれるのは僕みたいな特異な環境からくる価値観の違いがあるかもしれない。


 普通に人にとって一円の価値がないものであっても人によっては値段に出来ないほどの価値になることがある。なら、優香にとってその価値はなんだ。


 あちらの世界で優香と関わることはあったがここまで積極的ではなかった。つまりあちらの世界にいる時点では僕にその価値を見いだせていなかった可能性が高い。


 優香との関係が大きく変化したのはこちらに来てからだ。こちらに来て何かが変わった、つまりこちらに来てからの変化が優香にとって積極的に行動する価値を見出すことになった。


 僕は急いでこちらにきてから起きた変化を一つ一つ探しながら、美香子の言葉と今までの優香の言動から優香の思考を予測してどう考えていたのか推測する。


 よく人の事を見ていて、昔は何でもできる、能力、環境の変化、それに対する適応…………そして僕は一つの答えを導き出す。


「まさか……いや有り得るのか。」


 導き出した答えに僕は驚きを隠せない。まあ、間違っている可能性もある。だけど、もしあっているのならば僕は優香に残酷な現実を突き付けるしかなくなる。


 取り敢えず僕は剣を持って外へと出る準備をする。昨日ブラックウルフの死体を放置して所を見に行くなどするべきことがある。


 準備をしながら優香の行動について予測する。もし、考えがあっていたのなら動き出すなら早くて今日かもしれない。


 今後起きることを考えながら僕は準備を進める。


 僕は人の感情を知ることは出来る。だけど、感情について完璧に理解することは出来ない。

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