実力
「絶景だな」
こちらに押し寄せてくる黒い波のごとく量のブラックウルフを見て僕はそう漏らす。作戦が早々に決まって2分ぐらいあったので敦にそこら辺の木を切り倒せるか聞いてみると素手で見事切り倒して見せたので切り倒した木を手間に置いてバリケードを設置する。
まあ、ただ木を置いただけなのでないよりマシ程度だが。
「これから全くの別光景にしてやるよ」
「それは楽しみだな」
「お前らよくこんな状況でそんなこと言えるな!」
自信満々の太亮の発言に僕は気楽なノリで返し、文一がツッコミを入れた。
亮が一歩前に出る。スリービリという空飛ぶ魔物が先に接敵してたら、危険だが先に襲い掛かってきたはブラックウルフだった。
「さてやるか」
太亮がそう言うと一呼吸入れる。その瞬間太亮の周りの気温が急激に下がる。
「凍れ」
低い声で言葉が発せられると同時にあたり一面が銀色の世界に早変わりする。
「言っただろ、何とかなるって」
太亮はこちらを見てドヤ顔で言ってくる。ここでツッコミの一つでもすることが出来れば強者みたいな感じを出せるかも知れないが、僕には一瞬でこちらに向かってくるブラックウルフをすべて凍らせたことに驚きを隠せない。
規模も威力も常識外れだ。桜井も大概だが太亮も次元が違う。あちらの世界なら町一つ滅ぼすことぐらい簡単にできる。
もう少し思考停止していても良かったのだが、蜂の姿をした魔物がこちらに向かってくるのを見つけたのですぐさま指示を出す。
「スリービリが来たぞ! 義弥は左端からやっていけ、典史と敦はこちらに攻撃してきそうなやつから攻撃してくれ敦の能力を使えば石を投げるだけでも強力な攻撃になるはずだ!」
「分かった!」
そしてスリービリへの戦闘を開始されようとした時だった。
「覇光線」
スリービリの集団に向けて極大のレーザービームらしきものが襲った。アニメとかで見る感じの奴を目にするとは思わなかった。その威力は直撃したスリービリが全て消し炭になるほどだった。
「すまない、遅くなった!」
颯爽に現れたのは桜井だった。まあ、あんな攻撃をすることが出来るのは桜井ぐらいだろう。当然のように対空手段を持っていても不思議ではない。
「桜井! 遅れるとはどういうことだ!」
「典史君、すまない。途中でこちらに向かってくる魔物の群れをいくつか見つけてね、それの対応をしていて遅れてしまった」
それを聞いて先程まで攻めるように桜井に詰め寄った典史が苦笑いする。
桜井は今さらっと魔物と戦ってきたと言ったのだ。しかも、魔物を群れを複数対応していた。桜井を見るに特に怪我を負っている訳でも何ので一方的な戦いをしていたのは明らかである。
「そうだとしても連絡ぐらいはするべきだ」
「それは太亮を信じていたから」
「それが通用するのは典史や義弥ぐらいだと思っておけよ」
「……すまなかったよ」
太亮がしっかりと桜井のダメな点について指摘する。確かに桜井一人でどうなったかも知れないが、こちらは桜井がどうなっているか分からない状況であった。今回は上手く対応出来たがこれが逃げないといけない場合ならどこかに言った桜井を見捨てるという決断を委ねることになる。
他にも様々なリスクが考えれる。リーダーと言うのはそう言った責任をしっかりと守っていかないと行かない。そういうのが面倒くさいから僕は出来るだけリーダーとかになりたくない。
太亮はしっかりそこら辺の事についてしっかりと注意することが出来ているので太亮が副リーダーである限りは安泰だろう。
それにこんな状況なんか滅多に体験するものではない、一つや二つ判断ミスすることは仕方がない。それをカバーしつつ注意していくのが桜井を成長していくのが太亮の目的なのかな。
なら僕はそれを適度に見守りながら太亮がピンチなら手助けする感じが太亮からのメッセージなのかな。
「それにしても……太亮……寒い」
そう言うと桜井と太亮以外の全員が頷く。まるで極寒の冬にいる感じだ。震えが止まらない、桜井はどうせ転移特典か、先程まで魔物を倒すために激しい運動をしていたので平然の様子だ。
太亮はあちらの世界でもどんなに寒くても薄着でいるような奴なのでこの程度の寒さは全く平気らしい、なんともまあ太亮らしい能力である。
「真紀君達が困っているじゃないか太亮君!」
「ここぞとばかりに言ってくるな桜井!」
「そんなことどうでもいいから早く何とかしてくれ!」
余裕がある二人の雑談に付き合っている暇はこちらにはないのだ。文一なんて瞼が閉じて動かない。このままでは味方の魔法で死者が出てしまうではないか。
「もう少し耐えてくれ、取り敢えず元凶を無くすか」
太亮はそう言うと凍らせた方面へ向く。
「砕けろ」
その瞬間凍っていてたものが一斉に砕け散る。ただすべてが砕けた訳ではない、砕けたのはほとんどブラックウルフだ、それ以外だといくつか巨木が砕け散った程度だ。凍らせた規模からみても全体の0.1パーセント程度なので操作ミスの類か。
「溶けろ」
次に言ったのは溶けろだった。言葉通りに凍っていたものは綺麗に溶ける。そして凍っていた地帯は水浸しの状態になった。
「当分ここは使えないな」
「仕方ないだろ、あの時はああするしかなかった」
ブラックウルフの残骸だらけになった惨状が広がっていた。なんともまあグロテスクな状況である。義弥は顔を逸らす、文一も気分の悪そうな表情をする。
他の人物はある程度の耐性があるのか特に大きな問題はなかった。
「太亮、砕く必要性はあったか?」
「……ごめん、ミスった」
太亮はバツの悪い表情をする。あのまま解凍させれば、凍死したブラックウルフの死体を回収するだけで済んだ。死体をこのまま放置することによって発生するデメリットはよく分からない以上、死体を放置するようなことはしたくない。
「これぐらいなら何とかなるよ」
途方に暮れていた太亮と僕に桜井が言う。何を言っているのだろうか、あれだけ強くて便利な能力を持っている上に、この惨状をどうにかする能力を持っているなんて言わないよな。
「浄化」
桜井から光の波動らしきものが発生する。光の波動がブラックウルフの死体を消滅させていく。一瞬で先程まで凄惨な所が水浸しの場所に変わった。
もはやなんでもありである。桜井と一緒になった幸運を感謝した方がいいかもしれない。
「桜井、どうやってブラックウルフだけ消し去ることが出来たんだ?」
「詳しいことは分からないけど、多分魔物系統だけに反応する何かがあってそれに化学反応みたいのを起こしている感じだね、俺も感覚で使っているから原理とかは分からないんだ」
「そうか……教えてくれてありがとう」
桜井は出来るだけこちらのリクエストを答えるように頑張って伝えてくれた。まあ、異世界来てまだ二日目だ。ここまで適応できていることすら凄いことなのだ、それ以上を求めるのは酷と言うものだ。
それにしても謎が多すぎる。今の状況は知らない所に放り出された状態をほぼ等しい、与えられたのは能力と使い方だけだ。
今の所運がいいだけで生き残っている。少なくとも僕の力は何の役にも立っていない。
なぜこんなことになっているのか、少なくとも合理的な理由がすぐに見つけられない時点で決していいことではないことだけは分かる。
それに憶測だが、僕だけ能力の熟練度がゼロになっている。
「さっさと帰ろうぜ、やることはやったんだし」
「そうだね、拠点も心配だ。帰るとしよう」
そうして僕たちは拠点に戻ることにした。
能力についての疑問や、先程の魔物の群れなど問題は増えていく一方である。
キツイ状況に飽き飽きする一方で、見え隠れする理不尽に安心する自分がいることを感じながら桜井達の後についていくのであった。




