活動説明
あの後しっかりと休憩したので体力はある程度回復している。朝食で話した通り11時頃に美香子からの連絡があり出口付近へと集まることになった。
僕は、二本あるうちの一本だけを持って外へと向かう。一応護衛班と一緒に行動するので使わないと思うが、それでも自衛出来るように持っていくように言われている。
「今日はよろしくな」
「太亮が守ってくれるなら安心だな」
10メートル上から飛び降りて何事もなかったように着地する太亮をみてそう思った。太亮も何かしらの身体強化している。
「おう! 任せとけ全て氷漬けにしてやるよ」
「そりゃすごいな」
氷漬けか、その言葉から太亮が氷系統の能力を持っていることが予想できる。僕を騙すために言っている可能性は否定できないが、太亮はそう言ったことはしないタイプだ。
太亮の考え方は僕に近い、全体を動きをしっかりと客観的な視点でみて、最悪のパターンを想定して予め対策しておいて、自分のやりたいことをしても破滅しないようにする。
同じ考え方をしているからこそ、あちらの世界では互いに利用しながらゲームの話で盛り上がることが出来る貴重な友達だ。
このことも考慮して考えると、挨拶ついでにもしもの場合に向けて能力を一応教えておくといった所か。
「俺は真紀も頼りにしてるからな!」
「ありがとう。まあ、僕にできるのは友達を裏切らない程度だけどね」
「真紀らしいな」
そう言って僕たちは笑う。
僕たちが話し合うときに最初にゲーム以外の内容なら事務連絡的なことだと暗黙の取り決めがあり、何か相談事ならそのように誘導することにしている。今回はそれがなかったと言うことで情報の共有は終わりであり、この後はあちらの世界ならゲームの話をするのだが、こちらでゲームの話をしても特に意味がない。
そのまま解散か、それとも何か話すのかどうしようか迷っていた時、桜井と文一がみんなの前へとでた。
「これから護衛班と食料班の活動について説明する。まず、食料班と護衛班を二つのグループに分け、一日交代での活動にすることにした。グループについてはもうこちらで決めている、また食料班に関しては担当しない日は川根が仕事を割り振ることになっている」
妥当な判断だと思う。まず、護衛班をすべて動員すれば拠点を守る人がいなくなる。そのことから食料班の護衛の人数は最大戦力である桜井などを拠点防衛にすれば六人、こちらに回すなら五人が限界といった所になる。
ただ、危険度の事やもしもの場合にみんなに指示できる人になると現時点では桜井と川根しかいない。そうなると、拠点には川根がいるので桜井が食料班の護衛に来るのは必然だ。
そうなると護衛対象が9人に対して護衛は5人になる。もし、護衛がプロならこの人数は過保護のレベルになってくるが、こちらは昨日こちらに来たばかりでどんな危険があるかなどを知っている訳でもない素人集団。
その上で集団戦闘や自身の能力を把握している訳でもないので十人以上の行動はかなりの危険が伴う。そうなると、最適解は少人数での活動になってくる。
極論を言えば、桜井レベルの人たちだけで全て行えば安全性は確保できる。それに今朝の話から食料に関しては特に緊急性が高い問題ではなくなっている。つまるところ食料班はなくてもいいのだ。
なら、食料班を無くせばいいのと言うとそういうわけでもない。集団生活で必要なのは士気を保つことにある。特にこういった場合はより大切になってくる。
人間、余裕が生まれ時間があれば不満が湧くものだ。全体の事を考えて行動できる人は少ない、つまり文句を言う人が現れる。マイナスの事を言えば士気は下がり団結力がなくなる。そうならば崩壊するのは目に見えている。
それを防ぐためにもみんなに仕事を与え何かしらの目的を与えることで士気を下げないようにしているのだろう。
また、余った方を雑用などに使いやすくするためもある。もし雑用班を作っても存在感がなければ、仕事がないと同じだが食料班に所属させることでもしやることが無くとも食料班としての仕事があるので想定していた問題が発生する可能性はかなり低い。
それに予想よりも食料問題が何とかなりなので、桜井の頭の中では最悪収穫なしの選択肢もある。適当に魔物でも狩って、ある程度歩けば仕事をしたと思わせるのには十分である。
士気という目に見えないことに関して意識した上でこのような対策をしているなら僕の中の評価をかなり上方修正する必要がある。
桜井が考えたのかな、いや川根の方が可能性が高いな。僕の中のイメージでは桜井は正統派のリーダーであり、川根はしっかり頭を使うタイプのリーダーだ。
二人がペアを組めば、互いに足りない所をカバーできるので隙の無い組み合わせいなる。だからこそ、今の展開は最も理想で敵対しない限り生き残る確率は高い。
まあ、意識した上で対策したのか分からないのでこれも保留にする。
その後チーム構成について説明された。
食料班 第一グループ
名塚真紀、湯本敦 、樫尾健一郎、玄文一
第二グループ
鬼塚美紀、池谷梨乃、仁田脇花林、上島亜里沙、波間真理
護衛班 第一グループ
桜井信也、裕太亮、国沢忠義、鎌谷智康、木脇壮一、甘木康文
第二グループ
桜井信也、裕太亮、賀屋義弥、秋沢典史
食料班はきっぱりと男女に分けられた。まあ、こちらの方が余計な揉め事が起きる可能性は限りなくゼロだしな。それに健一郎とは太亮と同じくゲーム友達なので安定したグループになっている。
護衛班も、友達関係などを考慮されていた。第一グループはいつも絡んでいる甘木達で構成されており、第二グループは太亮のグループで構成されていた。
桜井と太亮が両方に所属するのは安全面の確保を戦闘力が理由だろう。
「グループについて不満等がある人は、休憩時間等に司令班のメンバーに連絡して欲しい。今回は山菜をメインにしていくつもりだ。食べれる山菜について今から教えていく」
桜井はそういってお得意の収納ボックスから次々と食材を取り出して説明してくれる。
「今の所分かるのかこれぐらいだ。採取する際にこれ以外を発見した場合や同じものかどうか分からない場合はそれに触れないで玄君を読んでくれ、彼が鑑定して安全が分かったら採取することにする」
触れたらアウトもしっかり対策しており、効率は悪くなるが安全性を重視したやり方だった。堅実でとてもいいと思った。
「今日は食料班は第一グループ、護衛班は第二グループで活動する。食料班の第二グループは中央広場で川根がいるからそこでどうすればいいか説明がある、護衛班の第一グループは昨日説明した通りに拠点の防衛をよろしく頼む。細かいことは敬之が担当だから困ったら敬之に頼ってくれ」
桜井の指示に従い今日の担当以外の人は移動を始めた。特に反発もないことから桜井達の統治が今の所上手く行っていることがうかがえる。
桜井は別仕事を任せた人がこの場から離れたのを確認して先程まであったリーダーとしての姿をやめた。
「まあ、察してると思うけど食料の方は割と何とかなりそうだから気楽にやっていこう」
先程までの行動を無駄にするよなことを言う桜井、その姿に先程まであった真剣な雰囲気はなくなっている。
「おいおい、リーダーがそんなこと言っていいのかよ!」
「典史君も含めてここにいるメンバーは優秀だと俺は思っているよ」
「お、おう。嬉しいことを言ってくれるじゃんか」
その姿に典史がツッコミを入れ、それに対して桜井は素直な感想を語った。桜井の言う通り、この組み合わせは一番安定したものになっている。
まず、全員が同性ということもあるが元々太亮のグループと僕のグループはそこそこ親しい関係だ。
それに咄嗟の判断については典史と敦が優れており、全体の事について考えて行動できる、文一や僕、太亮で基本的にサボり癖があるがしっかりやる時はしっかりと行動できる義弥と言った感じであり、サボりがちな典史、敦、義弥を僕、文一、太亮がカバーできるので安定感があるチームとなっている。
それにある程度の事情を知ってる文一や太亮がいるからこそ、桜井もある程度楽な気分でいることが出来るのだろう。
「敦は戦闘系だと思ったが、食料班にいると言うことはそうじゃなかったのか?」
「安心しろ、典史。お前より強い自信がある。 食料班にいるのは文一のサポートをするためだ」
「俺より強いだと? それはないね」
「今から勝負して白黒つけてやってもいいぞ」
「敦も典史ふざけるのはそこまでだ、どっちが強いかは護衛として活躍してほうが強いと言うことで決めればいい」
「そうだな」
「ナイスアイディア!」
先程の考えはやっぱりなしだ、会話を初めて五秒で喧嘩を始めようとした二人を見て不安しか抱かない。
「真紀審判よろしく、弱っちいお前をしっかり守ってやるよ」
「敦は文一でも護衛しておけ、弱っちい真紀は俺が守ってやるよ」
「よし、義弥も参加しろ、それなら僕も平等な判断ができそうだ」
「真紀がそういうなら参加しようかな」
ノリのいい義弥は僕の提案にすぐに乗る。よし、このまま負けた奴には罰ゲームをする流れまでもっていく、覚悟しろよ。
「俺も参加するからな」
「真紀も太亮も悪ふざけが過ぎるぞ!」
「まあまあ、元気なのはいいことだと思うよ、文一君」
太亮も自由奔放な性格もあり、すぐに参戦する。それに文一がツッコミをして桜井はその様子を楽しそうに見ていた。
「さて、食料確保に出掛けようか! 」
そんな滅茶苦茶な中で食料班と護衛班の食料確保が始まるのだった。




