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最後だからわかること  作者: 時雨
魔の森
13/32

朝ごはん

 帰りも見つかるなどの問題が発生することもなく。無事自室に帰ることが出来た。ベットに寝転ぶとそのまま僕は眠りにつく。


「真紀君、起きて」

「真紀!いつまで寝ているつもりだ」


 自分の名前を呼ばれている声を聞こえて、僕は目が覚める。周囲を見るとそこには心配そうにこちらを見ている優香と面倒くさそうにこちらを見る敦の姿があった。


「起こしてくれてありがとう」

「別にお礼を言うほどではないよ」

「真紀って意外と朝弱かったんだな」


 取り敢えず起こしてくれたことに対してお礼を言う。優香は当たり前のことだと反応し、敦は僕の意外な一面に反応していた。


「僕だって苦手なものがあるさ」

「それは知ってる、むしろ何故真紀の事を完璧だと思うんだ?」

「……敦はもう少し人の心を学んだ方がいい」


 敦だけならまだしも優香のいる前でやるとは、かなりの精神的ダメージがある。それに優香さんその苦笑いもダメですよ、気遣われているという事実が最も人を傷つけるんですよ。


「それで自称完璧の真紀はその傷の事はどう説明するのかな」


 さりげなく追撃をしてくる敦を後で絶対にしばくのは確定として、まさか部屋まで入ってこられるとは思っておらず、昨夜の戦闘の傷を隠すことを忘れていた。


 さて、どう言い訳しようか。優香は静かな怒りの炎を目に宿しており、敦はいつもの事と言わんばかりの表情をしている。


 敦だけなら適当なことを言えば引いてくれるだろう。ここ二年近く一緒にいるので僕が敦達にとって不利になるようなことをしないと分かっているからだ。


 ただ、優香はそうではない。バレないように注意しないといけないと考えた次の日にバレかけている事実に呆れてしまう。


 昨日の移動中にケガをしてと言っても、けがをしている場所は横腹なので少しキツイ所がある。どう言い訳するべきか考えていると、先に口を開いたのは優香だった。


「どうして怪我をしているかについては気にしません、ただどうして頼ってくれなかったのですか?」

「それは……」


 優香の圧に言葉を詰まらせる。その姿は昨日のおどおどした面影は見えなかった。なんでもできる完璧人間か、どうやらそこら辺も関係あるかもしれない。


「そういうことで、次からはしっかり頼ってくださいよ」


 優香は最高の笑顔をこちらに見せながら、肩に手をのせて傷を回復してくれた。


「こわ」

「湯本君?」

「いえ、何でもありません野矢様」


 この場の支配者は優香だった。これが尻に敷かれる男の気分なんだろうな。そんなことを思いながら話を変える。


「それで起こしに来たと言うことは何かあったのか?」

「みかちゃんが念話で食事が出来たから食べに来て欲しいって、連絡したの」

「それで食堂に集まったが、いつも時間に煩い真紀が来ないから何かあったんじゃないかと来たわけだ」


 優香が言うみかちゃんとは佐藤美香子のことだろう。魔物を料理出来て食べれるなら、食料問題もある程度はマシになるだろう。昨日解体したところから予測になるが、ブラックウルフが三匹分でもあれば29人分の食料を一日賄いうことができる。


 ブラックウルフ以外にも熊やカエルなど様々な種類がいる。昨日桜井が一時間周辺で大虐殺した分だけで軽く二週間程度は持つ。勿論、鮮度などの観点から数日しか持たないがそこら辺を考えて狩りをすれば当分は大丈夫なはずだ。


 そう考えたが桜井の収納ボックスがあるので保存関係は特に問題ないか。ただ、桜井に依存する形になるのは問題だがな。


「そうだったのか、それで結構遅れた感じか?」

「いや、同じように起きれてないやつもそこそこいる。連絡があってから一時間半後に班ごとに活動を始めるらしい、桜井の腕時計で三十分ごとに佐藤さんの念話を使って連絡することになっている」


 どうやら寝すぎたことについては大きな問題ではなかった。まあ、みんな慣れない生活なので疲れが溜まりやすい、当分は寝すぎても特に問題はないかもしれない。


「それで今は何分ぐらい経っているんだ?」

「まだ一回目の連絡がされていないから、多分20分くらいかな? 私の体感だけどね」

「まあ、野矢の言う通り大体それぐらい経っているんじゃないか」


 敦も優香も腕時計を持っていないのか。まあ、高校生で腕時計を常備しているやるの方が少ないか。取り敢えず今何時か腕時計を取り出してみてみる。


 現在時刻は九時だった。確か昨日帰って寝たのは確か四時だったため大体五時間程度寝たということか。


思っているよりも寝ている訳ではなかった。これで十時間以上寝ているなら流石に夜の行動について色々と考え直さないといけない。


「話も終わったし、とっとと食堂に向かおうぜ! 一人で待っている文一がかわいそうだ」

「そうだな」

「そうだね」


 そう言って僕たちは食堂へと向かった。


「なるほど、念動力に条件を設定出来れば強いかもね」

「考えもしなかった」

「まあ、鑑定の能力の特徴からできるかもだから期待してもらうと困る」


 僕たちが食堂に戻って見た光景は文一が、佐藤さんと下川さんの女子二人と楽しそうに話しているものだった。


「敦、文一が一人可哀そうに待っているはずではなかったのか?」

「どうやら文一には一度身の丈と言う奴を思い知らせる必要があるな」

「いつの間にそんなに仲良くなったんだろ?」


 敦が手首をポキポキしながら文一に向かっていく。客観的に見れば文一に嫉妬している悪役ポジションだが、文一が主人公のなわけがないのでやられはしないだろう。


「死ねや!!!!」


 敦は文一に全力のパンチをしようとするがその拳は途中で停止する。


「あはは、私たちの方から話しかけたんだ、だから許してやってくれ。それに私も湯本君のパンチを止めるのはそう長くはできそうではない」


 敦の拳を止めたのは佐藤さんの念動力だった。敦の能力がどれくらいのものか確認はしていないが能力ありのパンチを止めれるのはかなり強い。


「敦もやめてやれ、それに文一もどうせ避けてる机が壊れるだけだぞ」

「真紀の言うとおりだ、それに能力を無意識に使うな。敦の方がモテるだろ」


 敦が悪戯感覚で後ろから殴ってくることはいつもの事で僕は文一は無意識の避けることが出来るようになっている。


「避けれるんだ」


 優香は苦笑いしながらその光景を見ている。そして僕たちは椅子に座る。


「まあ、予想していたが肉料理しかないな」

「しかたないよ、肉しか取れなかったんだし」


 並べられた料理は肉の丸焼きと、肉のスープだった。とても健康に悪そうだが、昨日から何も食べていないことからみんな美味しそうに食べていた。


「でも美味しい」

「ああ、どうやったら肉特有のしつこさとかを無くしたか気になるな」


 下川さんと佐藤さんが言う通りとてもおいしかった。これは料理人の能力も関係しているのだろうか。そう言えば、副リーダーの文一が何か関わっている可能性があるな、聞いてみようか。


「なあ、文一この料理は巴の料理人の能力で美味しくなっているのか?」

「正しいことは分からないが、昨日桜井が食べれる野菜等を集めて鑑定して欲しいと頼まれたからそれが使われているんじゃないか?」

「そうなのか、ありがとう」


 てか、桜井一人でいいんじゃないかと思うぐらい働いているな。食料班も探索班も桜井一人いればいらないだろう。


「巴は料理で疲れて寝てるから食料班は僕が率いることになる、と言っても山菜集めがメインになるがな」


 文一は今日の予定を伝えてくる。こんな環境でも僕たちに料理を提供するために夜中まで色々やってくれたと予想できる巴さんが休んでも誰も文句は言えない。


「何時から活動を始めるんだ? 昨日は特になにもなかったから俺的には早く運動したい」

「確か11時から連絡するように言われてるから後二時間程度で運動できるよ湯本君」


 敦の質問に佐藤が答える。全体の連絡役を担っている佐藤さんには何時に行動するのか知っているらしい。


「佐藤さんは下川さんとも友達関係なのかな?」

「美香子でいいよ」

「私も彩でいい」

「なら、僕も真紀で呼んでくれ」

「俺も敦で呼んでくれ」

「流れを読んで文一でいい」

「私も優香で呼んでね」


 なんか、流れで呼び方一新されたが気にしないでおこう。それに美香子からは優香の事を頼まれているなどの関係があるので都合がいい。


「真紀が言った通りの関係だよ。まあ桜井君も私と彩、優香の関係を考慮してくれたからの班を構成してくれたんだと思うよ」

「桜井いい奴」

「とても助かるよね」


 やはり、班構成は能力もあるが人間関係もかなり考慮されている。


「む、もうこんな時間か。私たちこの後桜井達に呼ばれてるからここで」

「綾ちゃん行こ」

「うん」


 美香子たちは立ち上がる。


「それじゃ、また」

「そうだね」


 そう言って美香子たちは食堂を後にした。


「さて、文一も班の事で色々やることがあるんじゃないか?」

「真紀にいちいち連絡する必要はなさそうだな」

「それだけは勘弁だね」


 食料班が単独で行動するはずがなく、必ず護衛班の連携が必須だ。そのための打ち合わせがあるはず、だからこそ活動が11時からになっているのだろう。


「敦、そろそろ打ち合わせだ」

「真紀また後でな」


 文一と敦もそのまま食堂を後にする。当初の予定通りに一人になる時間が多くなっている。だが、さっそく迷惑を掛けたのは反省点だな。友達に掛けている程度なのでギリセーフだが、このまま頼りっぱなしだといけない。


 早めに成果を出さないとな考えながら、活動までの残り時間を休憩に使うのだった。

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