魔物
僕はあの後自室へと帰っていた。道中で見つかることはなく、何事もなく帰ってくることが出来た。
部屋に戻った後の行動は早かった。剣を持ち振るう。本来なもっと後でお世話になる予定だったが、あのメッセージよって予定を変えることになった。どんな感じに変えることになったかと言うとローリスク、ローリターンからハイリスク、ハイリターンに変える。
勿論、リスクとリターンが比例している訳がなかった。リスクは数十倍に上がるくせに、得られるリターンは二倍にもならない可能性が高い。それでもやらなければならない。それが僕にとって命よりも重い希望を守るために。
あのメッセージから分かることはいくつかある。
一つ目は一か月後に何かが起こるということだ。
今回のメッセージの中で時間制限が二つある。一つは勝者であること。もう一つは魔法を使えるようにすることだ。明らかに一か月後に起きることに向けて対策しろと言っている。一か月後は桜井の予定通りなら人里に向けて移動を始める予定だったはずだ。
つまり、移動は上手く行かないことが確定した。そして、僕が死線を潜らないといけないこともついでに確定している。
言外に今の僕では魔法を使えないと言われているがそこは気にしないでおこう。これぐらいの不幸は当たり前だからね。
二つ目は厳しい条件が付けられたことだ。
クラス全員を助けるか殺害するかをしなければならない。先に助けろと書かれているので殺害は最終手段だと考えていい。ただでさえ、能力的にはきついのに全員助けろとか無理にもほどがある。
また、殺害しろと書かれていいることから、一か月以内にクラスメイトの誰かが誘拐されるような出来事が起きるということ。
僕はそれを防ぐか、無理だと判断したら殺害をしなければならない。助けること以外はどっちに転んでもほぼ詰んでいる。
三つ目はもしうまくやれば、未来の僕が直接会いに来てくれると言うことだ。
これが今の所一番どうでもいい。目の前の大問題をクリアしないとその話にも進むことが出来ないのだから。
もし会うことができるならこのメッセージについて色々文句を言ってやるつもりだ。もっと具体的な情報を教えろとか、未来に手紙を送る力があるなら僕に無双する力ぐらい与えろなど不満点は多い。
しかし、逆に言うと未来に手紙を送るなどのことが出来るほどの力を身に着けることが出来ると言うことが分かる。ただ、僕の経験や先程まで考えていた計画から十中八九異常な量の修羅場を潜り抜けている可能性が高い。
まあ、それ程の可能性が秘めているということが分かるだけでも良かったとポジティブに考えよう。
そのことから僕のやるべき事は異世界攻略RTA期間一か月、敗北は許されずチートはなし、場所は魔物が徘徊する危険地帯。
いい人生だったな、来世は運を持って生まれ変わりたいなと思うようなことをしないといけない。あんなメッセージがなければ確実にやることはなかった。
だが、それしか僕に未来への希望はないらしい。そうでなければ未来から過去へと干渉なんてしてくるそのこともあり
そして、魔法を使えるようにするためにするためには、自分が一番分かっている。
全く嫌な言い方だ。得ることが難しいものを得ようとするならば、何かを賭けるつまりリスクを負うのは当然であり、この条件で魔法を取得するのに何を賭けるのか聞いているのだ。
はっきりと言ってやれば気が楽なんだけどな、そこら辺の配慮をしてほしいものだ。
勿論賭けるものは命だ。今あるもので僕が賭けれるものなんて命ぐらいしかない。そのためにも僕は死地に身を置く必要がある。
都合がいいことに今いる場所は魔物が徘徊する危険地域。危険な目にあることは簡単である。
拠点の周辺は桜井が魔物を討伐しており、拠点事態も魔物に対する対策がなされており、他にも対策をしているから安全だと話していたので少し遠くまで行く必要がある。
それに他の人に気が付かれないようにしないといけない。見つかれば面倒事が増えるのは当然だし、何より迷惑を掛けることになる。
それだけは絶対に避けないといけない。特に関係がない第三者はダメだ。それは僕にとって最もしてはいけないものだ。もし、ほかの誰かを助けるなどの言い訳があればいいが、今回は自分の為に行うもの。
「兄として正しい姿を振舞わなといけない」
そう考えた瞬間、昔の記憶が蘇る。分かっています、迷惑はかけません自分の実力で全てどうにかします。だから怒らないでください。
自身の精神が不安定になっていくのが分かる。それによって人間にあると言われているリミッターが少し解除される感覚を覚える。
急いでそのことを忘れ、あの人の言葉を思い出し精神を安定させる。自分にとっての弱点、いや最大の切り札となりうるものは非常に扱いが難しい。
それは僕が今一番心配していることが自身の命が失われることよりも、命の危機に瀕したことによる最大の切り札の暴発することだというほどに。
僕の予想では一時的なものになるはず、あくまで身体的なダメージによる強制覚醒に近い形になるので暴走はしないと思うが、最悪の場合も想定しないといけない。桜井が僕を殺してくれるといいのだが、あの状態なら今の桜井程度なら簡単に倒してしまう可能性もある。
まあ、そうなると決まった訳でもないし、余程の事がなければ切り札が使われることはないだろう。そう思い考えることをやめた。
ある程度剣を振るい感覚を掴む。僕は基本的に機動力と手数を生かした戦い方が得意としている。まあ、ナイフみたいなものがあればよかったがなかったため、一番軽そうで本来のスタイルに近い剣を選んだ。
それではかなり重いので現在の筋力では双剣のような扱いはできない。一応片手剣になっているので出来ないこともないが、それは慣れた後にした方がいい。
それに今回は機動力が欲しい。そのこともありしばらくは剣一本で戦うことになる。夜になるまで服装や周辺地理、桜井達が監視しそうな場所などを予測するなど夜に向けて準備を進めた。
肌寒さを感じながら僕は拠点の外を歩いていた。相変わらず木や雑草しかなく変わりのない光景が広がっている。ここら周辺は夜だと気温が低いらしい。まあ、命に関係あるほどのものかと言うとそうではないので特に問題はなかった。
拠点から抜け出すこと自体はばったり誰かに会うなどの問題はなかった、もし魔法で監視されていた場合はお手上げだが、その場合は何かしら接触してくるはずなのでそれがないと言うことは見つかっていないか、もしくは泳がされているのか、まあどちらにしろ魔法に対して無知な僕にはどうこうすることが出来ないので何か考える必要はない。
夜ということもあって、最初は視界は良好ではないが時間が経つにつれ目が慣れてきて今では昼間とさほど変わらない程度には見える。
普通の人はそこまで見えないが、幼い頃に暗い所で動くことがよくあった僕はいつからか暗闇の中でもかなり見えるようになっていた。ここ数年はそういったこともあまりなかったので視界が悪いことも覚悟していたが、全盛期ほどではないが見えているので後は感覚を取り戻していけば大丈夫だろう。
帰りに道に迷わないように気に目印を付けながら移動する。ちなみに活動を始めて二時間程度経っている。小細工などをしていため、魔物とは会っていない。
現在はある魔物を探して歩き回っている。しばらく歩くと目的の魔物に遭遇する。時間帯もあってその魔物は寝ていた。そこにはちょうどいい段差もあったのでその段差を利用することにした。
その魔物に気が付かれないように段差を登り魔物の上に移動する。高さは大体四メートルぐらいだろうか。これぐらいなら特に問題はなさそうだな。
今からやる事の確認をした後、僕はそこから飛び降りた。
鈍い音が聞こえる。それと同時に足の裏に多少の痛みを感じる。しかし、行動不能までのケガではないので問題はない。
僕が踏みつけたのはブラックウルフの首だった。魔物であっても上から70キロの重りが落ちてくると無事では済まないらしい。
首の骨を砕かれがブラックウルフはピクピクしながらも何とか立ち上がりこちらを見てくる。流石は魔物といったところか、即死はしないのは分かっていたが立ち上がる余力があるとは思っていなかった。
ただ、ブラックウルフはそこから動く余力はない。放置してもそのうち死ぬことだろう。ただ、他にも試したい事があるのでそれを試すことにした。
動かないブラックウルフに対して装備してきた剣を抜き、素早く間合いを詰める。瀕死だと言っても油断はしてはいけない。最後の足掻きほど恐ろしいものはない。
ブラックウルフに何もさせることなくそのまま首元に剣を振るう。
骨を断ち首を切り飛ばすことは出来なかったが、殺傷するのに十分な傷を与えることが出来た。ブラックウルフはそのまま崩れ落ちる。
剣の切れ味はブラックウルフに通用することを確かめることができた。切った時の感覚は何とも言えないものだが、数回繰り返せば慣れるはずだ。
他にも悲しいといった感情は湧かない。やはり、そこら辺の感情は壊れたままだったか。まあ、今回はその方が都合がいい。それにないからと言って特に思うこともないのでどうでもいい。
モンスターを倒したからと言いて特別な変化も特になかった。もし、モンスターを倒すほど強化されるなら楽だったがそう甘くないか。まだ一匹しか倒していないので完全にそうだとは言えないが、そこら辺に期待するのはやめよう。
倒したブラックウルフの死体を道中で見つけた蔓に似た植物を加工して紐にそれを死体に結び、引きづるように運ぶ。
引きづること十分ほど洞窟の前にたどり着く。探索することで見つけたものであり、魔物が住み着いていないようで使えると思った場所だ。
戻った時に何か住み着いていると困るのでいくつか罠を設置している。罠と言っても簡易的なものばかりであり、警戒しているものがこればほとんどが機能しない可能性がある。
まあ、魔獣の知性がどのぐらいか分からないがないよりマシ程度でやっている。所々に置いておいていて小枝が折れていないことを確認して中に入っていく。
中に入ってしたことは、解体だった。相手の弱点を知ると知っていないだと大きな違いだ。どこを攻撃されたら死ぬのか、何処の部位が危険なのか、何隠し持っている能力はないのか。
今回ブラックウルフを最初の獲物にしたのも、一番情報があるからが理由である。あの時桜井が倒したブラックウルフを能力の検証といくことで文一から多くの情報を知ることが出来た。
基本的に単独で行動しており、今僕たちがいる大陸、魔大陸で多くいる。群れを作るときはパートナーを探すときか、王種と言われる個体がいる時など多くの情報を得ることが出来た。
ついでに今いるところについて鑑定から知ることが出来たのも良かった。本当はその大陸について鑑定すればより情報が手に入れることが出来ると考えたが、情報は時に自分たちを蝕む猛毒になる。
そこら辺の事も考えてゆっくりとやっていく予定だ。
魔物を解体して分かったことは基本的な構造はあちらの世界と変わらないこと。もう一つは魔力に関すると思われる器官があること。そして、一定の条件を達成するとその器官が魔石になると言うこと。
条件についてはある程度は考察出来るが試行回数が少ないのでまだ断言はできない。
ちなみに今回倒してブラックウルフは魔石を手に入れることが出来た。大きさは直径1㎝もないぐらいであり、色は黒く、硬い。
何に使えるかは、今後調べていく必要があるだろう。今回解体して新たに見つけた器官は心臓ほどの大きさであり位置は心臓の反対にあった。これが急所になるかは分からないが、調べてみる必要はある。
もし魔力を感じ取れるならば、もっと具体的な事が分かったかもしれないがそのことを考えても仕方ない。未来の僕が言うからには頑張れば、一か月以内に使えるようになるかもしれない。
その時に調べればいい。そう思った瞬間、紐に括りつけた石が置かれている場所から落ちた。
これが、僕の不手際などではないのなら、仕掛けた罠にかかったやつがいるらしい。僕は急いで剣を持ち現場に向かった。




