聖女の前で嘘はつけませんっ!
魔王軍と勇者軍が争う時代。勇者を加護する聖女の祈りの力が戦いの行方を左右していた。
そんな中、聖都では聖女リーシャに近しい女官ミカサに魔王軍のスパイ容疑がかかっていた。
最近、祈りの効果が薄い時を狙って魔王軍は動いている。
これは聖女に近い人間が祈りの時間を漏らしているということだ。
そして今、こっそりと姿を消そうとしていたミカサを捕まえてリーシャは尋問を行っている。
「ミカサ、言い逃れはできないわよ」
ミカサは目をそらす。
「聖女を怒らせると怖いのよ?」
リーシャは不敵に微笑んで、白い手をミカサに向けた。
「くらえ! 『聖なる自白』!」
リーシャが高らかに叫ぶと、指先から白銀の光が放たれた。
「!」
「これでもうあなたは嘘をつくことができなくなったわ。さあ、なんで逃げようとしていたの!?」
「それは! 実家の母が倒れ……! クッ!」
「真実を言いなさい!」
「それ……は……」
ミカサは奥歯にグッと力を入れて舌を噛みきろうとして失敗する。
「それは……! 私がリーシャ様をお慕いしてしまったからです!」
「は?」
「うわうぅっ!」
ミカサは顔を赤らめて両手で顔を隠してイヤイヤする。
「あの……それは……困る……わ……」
リーシャの集中が途切れて術が不安定になり――急に術の出力が高まった。
「ああ私のリーシャ様! あなたはあの薔薇よりも美しく! あなたに比べれば天に輝く星なんて塵も同然! ぐああっ! あなたは私の天使、Oh, my sweet heart! ぎゃあっ!」
間にちょいちょい入る絶叫は、自白への恥ずかしみの悲鳴だ。
「あなたは魔王の手先ではないの!?」
「そうです私は魔王の手先でした! でも今はあなたの恋の奴隷でございますうぅっ! ぎゃああ!」
(これはどうしたものかしら…)
リーシャが困っていると、突如ミカサの目がギン!と座った。
「もうこうなれば隠し立てしても仕方ありません! 私実は男なんです!」
「へっ?」
どろんと煙が立ち上り、ミカサの姿が変化する。
後ろで一本に結い上げた艶やかな黒髪、切れ長の黒い目。忍び装束に包まれた体は鍛え抜かれていた。
「これが……本当のあなた?」
リーシャがガシッとミカサの手を握る。
「結婚しましょう!」
正体を現したミカサはメンクイのリーシャにドストライクの容姿をしていた。
「は…はい!」
「そうと決まれば魔王なんてさっさと倒すわよ!」
真実の愛に目覚めた聖女の聖なる力は一気に天元突破し、三日で世界に平和がもたらされたのだった。