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05話 ターコイズファイト

01話のサブタイトルをこちらに変更しました。




 瑠々(るる)小学校に通うカケルはある日の放課後、この辺りの小学生を従える『鬼頭(おにがしら) ダイゴロウ』にターコイズファイトの勝負を挑まれた。

 明日が新たなターコの初陣となるかもしれない。そう思うとカケルの気分は自然と高揚し、クラスメートの『喜多野(きたの) レン』とフタバをやや置き去りしながら彼女の家へと走るのだった。


 そして、昨日と同じく勝手知ったるとフタバより先に玄関を開け、研究室まで一直線に駆けて行き、大きな扉を力強く開いた。


「博士っ、勝負だっ」

「えっ、うえっ、なにがだい?」


 突然の乱入に驚くハジメ博士と興奮で話す内容が整理できてないカケル。

 そんな2人を呆れながら見ているのは、後からやって来たフタバと部屋の中をキョロキョロ見回していたレンだ。


「ちょっと興奮しすぎ。パパ、それよりこっちはクラスメートの……」

「はじめまして、喜多野レンです。カケル君に誘われて来ました、おじゃまします」

「あ、どうもフタバの父、ハジメです」


 簡単な挨拶を終え、子供たちが手洗いうがいをしている間に、ハジメ博士が飲み物とお菓子を用意する。子供たちはジュース、自分はコーヒーだ。

 そして、機材が置かれてないテーブルに移動しお茶菓子を囲む。


 こうして間が開くとカケルの興奮も収まったようで、フタバがときどき訂正しながらもスムーズに話が進む。まとめると明日のターコイズファイトで、コルトーXXが使えないかということだ。


 すべてを聞いたハジメ博士は考え込むように腕を組む。


「……なるほど」

「博士、間に合わねぇかな?」

「本当なら全部の操作をしてもらって調整したいんだけど……基本的な動きだけなら、明日までに終わらせるよ」

「おおっ、ありがとう博士っ」


 お菓子を頬張りながら喜び示すカケルとは対照的に、フタバは心配そうに眉をひそめた。


「でもパパ寝てないんじゃないの?」

「はっははは、仮眠はちゃんととってるし、もう1日ぐらい大丈夫大丈夫」


 今日までが締め切りの仕事を終わらせているのだ。

 心配しているフタバは父の顔をじっと見つめる。目に隈、というほどでもないしハイテンションなのはいつも通り。それを確認したフタバは「よし」と頷く。

 現在の藤代家で最高権力を持っている少女の許可が出た。カケルとハジメ博士は喜々としてテンション高く最終調整に入るのだった。






 翌日の放課後。調整があるからというよりも学校に持ち込めないので、先ずはフタバの家にターコを取りに行ってから、ロボカーで決戦の場『エリージュフィールド』へと向かう。


「はい、着いたよ」


 エリージュフィールドは多目的室内グラウンドである。サッカーグラウンド2面分の大きさを6つに分け、貸し切り以外は初対面の人とも割り勘で貸りることもでき、比較的安く利用できる施設だ。


 車から降りたカケルはターコの入ったリュックを背負い直し、気合を入れるように両手を強く握りしめた。


「よっしゃー、ダイゴ待ってろよ」

「ちょっと落ち着きなさいって」

「間近でターコイズファイト見るの初めてだよ」


 この戦いの切っ掛けとなったレンも一緒だ。

 先頭からカケル、フタバ、レン、最後尾にいろいろと機材を両肩から下げて抱えて背負ったハジメ博士が入店する。


 中にはすでにダイゴロウがいた。いや彼だけでなく、彼らと言った方が正しいだろう。

 10人以上の集団が待合いのソファーを占拠していたのだ。


「頭ぁ、来っましたぜー」


 出入り口近くで見張っていたグレー髪の少年が、ぴょんぴょん跳ねるようにしながらダイゴロウへと駆け寄った。

 彼は『湯島(ゆしま) アオイ』、瑠々小学校の4年生。グレーの後ろ髪を尻尾のように一部伸ばし、目尻の上がった大きな紫色の目。八重歯もあってか、カケルの第一印象は「ネコみたいなやつ」だった。


 そんな少年を押し退けるようにダイゴロウは立ち上がり、カケルの前にまでやってくる。


「よう、逃げなかったみたいだな」

「誰が逃げるかっ」


 ファイトが始まる前から既にバチバチと火花が散る2人。

 そこにこの場で唯一の大人であるハジメ博士が遅れて到着した。が、それを見て子分たちが騒ぎ立てる。


「ずるいぞー、大人を呼ぶなんてー」

「そうだ、そうだー」

「い、いや、僕は記録係りみたいなもので――」

「いいじゃねぇか。相手が何人だろうと大人がいようと関係ねぇ。どうせ勝つのは俺なんだからよ」


 その騒ぎを治めたのは、彼らの大将ダイゴロウ。

 毅然と言い張る彼に子分たちは別の意味でまた騒ぎ始める。


「さっすが頭、カッコい――」

「んなことより、さっさとやるぞ」


 そして受け付けを済ませると第3グラウンドへと向かう。支払いは割り勘の予定だったが、ここは大人のハジメ博士が持つことになった。


 グラウンド1面はおおよそ縦が60m横が30m。緑色の人工芝があり、フットサルなんかも遊べるようになっている。隣とは可動する壁で仕切られ、それを取り外すことで広く遊ぶこともできた。もちろんその分お金はかかるが。


「ルールは?」

「横槍なし、30分1本勝負」

「分かった」


 カケルの許諾を得てダイゴロウは子分たちと右端の方へと移動し、カケルはフタバたちと一緒に左側へ向かう。


「よっしゃー、コルトーXXのデビュー戦だ」


 これからの勝負が楽しみでしかたないといった満面の笑みである。


 カケルはリュックから取り出したターコ本体とコントローラーを糸で結ぶ。

 ここの天井は15mくらいの高さなのだが、明らかにそれよりも長い。真上に飛ばすのではなく、見やすいよう斜め上に飛ばすから長くするのだ。

 この糸はターコイズファイト用で摩擦が強く発生し、糸を切りやすくなっていた。


 それが終わればテスト飛行。上下左右と糸の動きを確認、繋いでいる根本をテープで補強などして調整を行う。


「『横槍なし』ならリョウマともやってるし、ふふふ勝ったなっ」


 その言葉に疑問に感じたのは、ターコイズファイトに詳しくないレン。

 カケルやハジメ博士は準備中で迷惑かと思い、隣にいるフタバに小声で尋ねてみた。


「横槍なしって他の人は参加しないって意味じゃなかったの?」

「たしか非公式なルール名だったと思う。『横槍なし』は1対1で横並び、『横槍あり』は複数人で横並びって感じだったかな」


 そうこうしている間に準備は進む。ハジメ博士は録画用のカメラを三脚にセットし、パソコンやモニターを地面に並べる。


 そしてカケルとダイゴロウ両者の視線がぶつかり合い、互いに準備が終わったことをが分かると中央に歩み寄る。


「それがお前のターコか……。はっ、新しく買ってもらって調子乗ってたってわけか」

「へんっ、調子にのってるかどうか直ぐに分かるさ。それよりお前のターコは……」


 カケルの持っていた真新しいターコを見て鼻で笑うダイゴロウ。そんな彼のターコは側にいるアオイが持っていた。


「こいつが俺のターコ、『アーバン』だ」


 より深みのある深紅色。形はまるでコブラを思い起こさせるように縦長で、上の方には左右に突き出た部分がある凧形。所々傷跡も見て取れて、使い込まれているのが分かる。


 そして両者がターコを交換し、違反がないか手早く調べる。するとアーバンの左右に突き出た部分に魚のヒレのようなものがあり、水をかく部分に刃物が煌めいてるのが見つかった。


「はいオッケー」

「こっちも問題ねぇな」

「えっ、いいの?」


 驚いたのはレン1人。

 そもそも糸を切る用に刃物を装備することは認められていること。もちろん本体の大きさや刃物の長さという決まりはあるが、その範囲内なら何本でもつけて構わないのだ。


 そして2メートルほど間隔を取ってターコを浮かせる。糸がピンと張るよう天井近くにまでだ。


「アーバンの餌食にしてやるぜ」

「へんっ、俺のコルトーXXをなめるなよ」


 合図役にはアオイが買って出た。少し離れたところから2人に向かい合うよう立ち、左右の腕を下に突き出し交差させる。


「準備はいいッスねー。それじゃあターコイズファイトーー、レディー、ゴォォォーーーー」


 そして、空へと誘うように両腕を広げながら掲げて試合は始まった。

 スタート直後の展開は相手の出方を待つか、一気に詰め寄るかに分かれる。今回は互いが相手の出方を窺うように距離を縮めたり、広げたりを繰り返す。


 カケルはコルトーXXが初陣だから慎重に、そしてダイゴロウは余裕からか。


「なんだ来ねぇのか、ならこっちから行くぜ」


 だからこそ最初に動いたのはダイゴロウ。体当たりをするような勢いで一気にコルトーXXとの距離を縮めると、斜め下に切れ込んで横についてる刃物で糸を切ろうしたのだ。

 しかし、刃物やプロペラの位置で戦い方を予想していたカケルは、それを読んで距離を離しながら糸を切られないよう高度を下げる。


 だが、ダイゴロウの追撃は止まない。


「くっ」

「ふんっ、いつまで逃げ切れるっ」


 勝利条件は糸を切ること。しかし敗北条件もいくつかあり、その1つが地面や室内なら壁や天井などに接触することである。墜落扱いになるのだ。

 だからこそダイゴロウは糸を切るためだけでなく、床や壁に接触させるために追い続ける。


 ただ、ずっと追われているカケルが押されているのかというとそうではない。カケルも反撃の機会を窺っていた。

 そして相手が何度目かの切り返してきたタイミングで、下から円を描いて糸を絡めとるように動く。


 しかし、完全に囲われる前にダイゴロウは隙間から逃げてしまう。彼もカケルの動きを読んでいたのだ。


「まあまあだな」

「そっちこそ」


 攻守逆転し、今度はカケルが糸を狙う。

 下から糸を擦り付けるような突き上げだ。下がっていた高度が徐々に上がっていく。


 しかしダイゴロウは慌てず騒がず、ターコだけでなくそこから繋がる糸も操作しているような華麗なテクニックで掴まさせない。


「なかなかやるじゃん」

「そうかい」

「そこは『そっちこそ』って俺をホメる番だろっ」


 軽口を叩きあいながら間合いを計る。

 カケルは開始時よりかは低い高度で糸を弛ませ、下左右手前にと動けるようホバーさせていた。そして、ダイゴロウは挑発するようにアーバンを近づけたり遠のけたり、左右に揺らす。


「15分すっぎやしたー。あと半分ッス」


 既に試合が始まって半分が過ぎた。

 そう聞いて先に動いたのはカケル。ジリジリと距離を縮めて、左右に動くダイゴロウの弛む糸が、少しでもコルトーXXに近付くタイミングを見計らって仕掛けたのだ。

 身体ごと指をアーバンの方へと傾け加速、一気に距離を詰める。


「うおおおぉぉぉーーーー」

「かかったなっ」


 だが、それはダイゴロウの狙い通り。目を見開いて笑みを浮かべるというよりも、獲物を食らうように口を大きく開ける。

 粗暴そうな見た目に反して、彼は喋りや操縦技術によって相手をコントロールするテクニックタイプだったのだ。


 フェイントや挑発と思わせて、左右に揺らしていたターコによって生まれた糸の弛みの波。糸が近寄ったときが狙い目だとカケルが突っ込んだ瞬間、ダイゴロウは左右から前後と上下を加えた動きにシフトする。


「『偉大なる大蛇の行進(スネークミアンダー)』」


 それはまるでブランコを漕いで勢いをつけて角度を上げるように、糸のあった場所を素早く移動させたのだ。

 突撃をかわされた後は好きに狙われてしまう。そう思ったカケルは勝利条件を達するべく、離れる糸を追いかけ、弧を描くようにターコを操縦する。


「そう動くしかねぇんだよなァ」

「うぇっ」


 だが、それもダイゴロウの読み通り。

 弧を描いたコルトーXXを追うように無防備に膨らむ糸。そこを狙ってアーバンが襲い掛かったのだ。


「わわぁーーっ、逃げろコルトーXX」


 絶体絶命。それはカケルにも分かっている。

 だからこそ思わず身体を捩って腕も捻りながらと、変な格好になりながらもターコを逃がそうと懸命に操作したのだ。


 使い慣れてない真新しいコントローラー。初心者用にはなかった突起とダイヤル。

 変な動きをしていたからこそ、カケルの指はそれらに触ってしまったのだった。


「な、なんだっ」


 突然、コルトーXXの四方についているプロペラの角度が変わり、回転する速度を上げたのである。そんなことになれば安定しての飛行など不可能、もはや滅茶苦茶に飛び回る。


 とりあえず危機は脱した。

 しかし、このまともに操作できない状態をどうやったら元に戻せるのか、カケル本人にも分からない。

 なので早めに決着をつけるため、とにかくアーバンの方へと向わせる。接近して糸をこすり切ってしまえば勝ちだ。


「こぉーれーでぇぇーーっ」

「このっ野郎ッ」


 不規則な動きに翻弄される2人。

 勝負の行方は――




「勝ったーーーー」

「やったやった」


 歓喜の声はグラウンドの左側、フタバとレンから上がった。

 カケルの勝ちである。


 レンにとっては初めて目の前で見た試合。それがいい試合で、しかも応援していたカケルが勝ったのだ。フタバと喜びを分かち合っていた。

 しかし、その歓喜の声を掻き消すような声が上がる。


「これで勝ちだと思うなよっ」


 それは誰であろうカケル本人だった。

 コントローラーはハジメ博士に渡し、無事ターコを着陸させている。


「もう1回、もう1回勝負っ。ダイゴもこんなんじゃ納得できないだろっ」

「勝手に名前を略すな。つーか、先輩になんて口利いてんだテメェ」


 ダイゴロウに詰め寄るカケルは、偶然起こった自分の意図しない操作で勝ったことが気に入らない様子。勝負の最中は勝つことに必死だったが、落ち着いたら納得がいかなかったのだろう。


 そして、カケルが言うまでもなくそう思っていた子分たちも賛同する。


「そッスよ頭。あんなん負けじゃねーッス」

「そうだ、そうだー」

「うっせー、時間がねぇんだよ。延長したら金かかるだろが」


 まとわりつく子分たちを散らしつつ、ダイゴロウは試合後のターコを手入れを行う。確かに今から後片付けをすれば退出するのにいい時間だろう。

 それにしても非常にサバサバとした印象を受ける彼の周りに、再び集まって考え直すよう言う子分たち。その中にしれっとカケルも交じっている。


 しかし、彼らの言葉に耳を貸すことなくターコをしまったリュックを背負うダイゴロウは、目の前のカケルではなく、子分たちの頭越しにある人物へと語りかけた。


「おい、悪かったな。ぶつかって」


 レンだった。

 ただ、謝られるどころか話しかけられるとも思っていなかったレンは驚き、きょとんとしながら簡素な言葉を返す。


「えっ、あ、はい。大丈夫です」

「ええぇぇっ、なんで謝ってんだよっ。俺が勝ったら謝る約束だろーっ」


 謝らせようとしていた人物が、謝ったことに対して文句を言う。これにはフタバたちも呆れ顔である。


「なんで俺がお前の言うこと聞かなきゃならねぇんだ」


 喚くカケルを無視して出て行こうとしたダイゴロウだったが、その前にカケルが立ち塞がる。そして何か言おうと口を開く前にダイゴロウと目が合い、思わず口を閉ざした。

 そこには悔しさと怒りに燃える瞳。勝敗が決まって初めて真正面から受けた、ダイゴロウの強い感情に気圧されたのだ。


「次の大会、飛天の野郎もだが、お前にも勝って俺が優勝する。テメェの言い分はその時に聞いてやる。行くぞお前ら」


 そして子分たちを引き連れて去っていく。

 怒鳴るでもなくカケルを押し黙らせ、言い訳もせず当たり散らさないダイゴロウを子分たちは

囃し立てる。


「頭ぁ、カッコいいッス」

「一生ついていきます頭ぁ」

「かしら、かしらー」

「お前らっ、頭って呼ぶなって何度も言ってんだろが」


 こうしてコルトーXXの初陣は、カケルの納得がいかない形で終わった。

 騒々しく出て行った敗者のダイゴロウと対照的に、勝者であるはずのカケルは納得いかないまま表情をしかめながら彼らを見送るのだった。







・非公式なルール名

横槍なし……1対1。横並びで浮かせた状態からスタート。フィールド移動不可↓

横槍(あり)……複数人で横並びスタート

一騎打ち……1対1。正面から向き合うようにスタート。フィールド移動可↓

合戦……チーム戦で正面からぶつかる

乱戦……スタート合図まで猶予があり、それぞれが好きな場所からスタート。チーム戦でも使われる


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